ナノばんそうこうは武岡研究室が得意とする、「分子集合」の技術を応用したものです。市販ばんそうこう(厚さ約1mm)の約1/10万(数十nm)で、「世界最薄」のばんそうこう(シート)なのです。丈夫で柔らかく、なおかつ密着しやすいのが、このナノばんそうこうの特徴です。
ナノばんそうこうは、キトサン(カニ由来)、アルギン酸ナトリウム(昆布由来)、ポリビニールアルコール(PVA)の3種類からできています。キトサン、アルギン酸は天然由来で体に優しい成分です。また、PVAも各種実験から、人体への安全性が確認されています。そのため、これらの素材からできているナノばんそうこうは、肺気腫、気胸や消化管穿孔など臓器の損傷部に直接貼付できます。
このナノばんそうこうは、薄ければ薄いほど柔軟性と密着性が増大する性質を持っています。この特性は、シートの厚みを変えるだけで、簡単にコントロールすることも可能です。したがって、臓器や組織表面の細胞レベルの微細な起伏に対しても、膜厚を変えるだけで柔軟に覆えて密着することができるのです。さらに、従来の縫合糸などと比べて、このナノばんそうこうを使うと、傷跡が目立たなく、癒着や感染などを極力抑えて、患部を治癒することが可能になります。将来的には、シートを折り畳む、または、細胞サイズまで小さく加工して薬をはさみ込むことで、血液中に投与して直接患部や病床部まで薬を運ぶことも考えています。
ところで、このナノばんそうこうは日常生活にも応用可能で、例えば化粧品や皮膚外用材としての開発も進んでいます。現在は、フィルムメーカーとともに数百mのロール状ナノばんそうこうを開発することにも成功しています。さらに、最近では国際共同研究の一つとしてイタリアの聖アンナ大学院大学とは、ナノばんそうこうをロボット内視鏡手術へ応用させる研究やシートのコンセプトを派生させて新しいアクチュエータを開発することについても検討しており、ナノばんそうこうの手術時における適応拡大や高性能化を狙っています。
ナノテクを単なる「小さいものの開発」に終わらせるのではなく、ナノサイズである意義を材料に見出し、医療分野での確実な応用を見据えた研究開発を続ける。武岡研究室の理念とともに、今後も医療技術の進歩に貢献したいと思います。
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