多発外傷や外科手術での偶発的な合併症で、大血管に大きな傷が発生すると死に至るような大出血が起こることがあります。とくに血流が豊富であるにもかかわらず壁が薄い大静脈では小さな裂傷の裂け目がすぐに広がってしまい修復が困難で専門的な血管外科の技術が必要となります。防衛医科大学校免疫微生物学講座の木下学准教授と、早稲田大学理工学術院・武岡真司教授(先進理工学研究科)らのグループは、裂けた血管壁に接着剤なしで簡単に貼れるナノ厚の絆創膏を開発し、ウサギを用いた下大静脈からの大量出血の止血に成功しました。
共同研究について発表する早大・武岡教授(左)と防衛医大・木下准教
防衛医科大学校と早稲田大学は共同研究で、細胞膜と同じ位の薄いナノ厚(1mmの10万分の1)のシートを開発しました。この薄膜シートは接着剤なしにあらゆる臓器や組織の表面に間隙なくぴったりと貼付できる、いわば「ナノ絆創膏」です。このナノ絆創膏を貼ることで大静脈のような壁の薄い大血管からの大量出血が止血できることを世界で初めて報告しました。本研究成果は、国際血管外科学会誌 Journal of Vascular Surgery (5月17日電子版、6月第1巻3号誌上掲載)に掲載されます。
ナノ絆創膏はあらゆる臓器や皮膚の表面に接着剤なしで強固に接着し、かつ癒着を全く起こしません。透明なため止血の具合を明瞭に把握でき、しかも止血が不十分な時は重ね貼りが可能です。ウサギの下大静脈を7 mm切開すると死に至る大出血となりますが、ナノ絆創膏を出血部位に貼ることですべてのウサギの止血救命に成功しました(肺や消化管、脳のクモ膜などの損傷もナノ絆創膏を貼るだけで簡単に被覆することができます)。血管縫合などの複雑な手技を用いなくても簡単に大血管の止血ができるナノ絆創膏は、大きな手術だけでなく大怪我で大量出血を来たした患者さんの止血治療にも大いに役立つと期待しています。
どんな物質でも厚さをナノレベルにまで薄くシート化すると、これを貼った対象物との間に間隙が全くなくなり一体化することで強固に接着する力が働きます。これを van den Waals 効果と言いますが、私達の開発したナノ絆創膏はこれを利用しています。ナノ絆創膏は、抗菌効果のあるキトサンとアルギン酸の多層構造になっており、肺表面の胸膜損傷や消化管の穿孔、脳のクモ膜欠損部などに貼ることで、効果的な組織被覆作用があり、しかも治療部位を癒着なしに元の状態に治癒させることを、これまでに動物実験などで実証してきました。今回は、治療に難渋する大血管の損傷部にナノ絆創膏を貼ることで癒着を残さず止血治療することに成功しました。
私たちは細胞膜と同じ位の薄いナノ厚(1mmの10万分の1)のシートを防衛医科大学校と早稲田大学理工学術院との共同研究で開発してきました。この薄膜シートは接着剤なしにあらゆる臓器や組織の表面に間隙なくぴったりと貼付できる、いわば「ナノ絆創膏」です。従来は血管外科の縫合技術が必要であった大静脈などの大血管の、しかも脆弱な壁の大きな損傷にナノ絆創膏を貼るだけで癒着も残らない止血治療に成功し、これを世界で初めて報告しました。本研究成果は、国際血管外科学会誌 Journal of Vascular Surgery(5月17日電子版、6月第1巻3号誌上掲載)に発表されます。
多発外傷や外科手術での偶発的な合併症で、大血管に大きな傷が発生すると死に至るような大出血が起こることがあります。とくに血流が豊富であるにもかかわらず壁が薄い大静脈では小さな裂傷の裂け目がすぐに広がってしまい修復が困難で専門的な血管外科の技術が必要です。私たちは家兎の下大静脈に7mmの切開を加えて大量出血モデルを作製し、この切開創をナノ絆創膏を貼って閉鎖止血することに成功しました。ナノ絆創膏を貼ることで全例止血救命に成功し治療部位に狭窄や瘤などの変形や癒着も認めませんでした。ナノ絆創膏を貼った後に僅かに出血が残っていても重ね貼りをすることで完全に止血できました。貼るだけの操作で簡単に大血管の大きな損傷を止血閉鎖出来るナノ絆創膏は多発外傷などの突発的な血管損傷に有用であると期待されます。今後は改良を重ね動脈止血にも有効なナノ絆創膏の開発を目指す予定です。