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いま発売中の本誌2014年冬号から、メディア史の佐藤卓己さんによる新連載が始まりました。うわさ、流言、デマなど従来、情報として取り扱われることのなかった、信頼できる典拠によらない「あいまい情報」が、どのように歴史に関与してきたか。デジタルツールによりどのような変化があるかを、さまざまな実例をとりあげながらメディア学的に検証していこうというものです。

この企画は3年前、小特集「花森安治と戦争」(2011年夏号)で、馬場マコトさんとの対談で佐藤さんにお目にかかった折に生まれました。当時、連載中の「天下無敵」はそろそろ終局が見えてきて、今後はどんなことを? というお話をしたときに「〈流言〉というテーマを考えています」とうかがったのでした。ほんの数か月前に東日本大震災が起きたばかりで、ツイッターでの曖昧情報の流布や拡散を危惧する報道などもあった頃です。デマゴーグによるパニックを防ぐには緊急に必要ですねと応じたところ、佐藤さんは首を横に振りました。「デマや流言でパニックが起きるとは思いません」
デマによって社会が誤った方向へ導かれる、メディアには強大な影響力がある、というのは根強い「神話」だと佐藤さんは言います。そして「神話」を言い立てるのはメディアの送り手自身であり、それがいかに形成されたかを検証したい、と。



満を持してスタートした第1回は、「『火星人襲来』から始まった?」と題し、有名なオーソン・ウェルズのラジオドラマ「火星人襲来」が引き起こしたパニックといわれる事件を取り上げます。ここでの白眉は、当時の新聞や雑誌の報道、そこに掲載された写真などの精緻な検証によって、「天才オーソン・ウェルズの迫真に満ちた演技で予期せぬパニックが起きた」という定説そのものが鮮やかにひっくり返される瞬間です。一杯食ったのは76年前のアメリカ国民ではなく、私たちだったのか、と小気味よい驚きを覚えることでしょう。



メディアに登場した流言の、ことの真偽でなく影響に焦点をあてて論じるこの連載、次回は関東大震災にまつわる事件をめぐる「流言飛語」を取り上げます。「デマ」、「怪文書」、「偽史論争」、「風評被害」、「ゴシップ」、「情報伝染」、「政治謀略」etc.――その「流言の性質」とその時代の「メディア」の関係に踏み込んでいく予定です。インターネットやソーシャルネットワークなど、あらたな性質をもったメディアがどんどん生まれる時代に求められるリテラシーとは何か? を考えるのにも絶好の連載です。