日本ボクシングコミッション事件命令書交付について

平成25年11月28日
労働委員会事務局

 当委員会は、本日、標記の不当労働行為救済申立事件について、命令書を交付しましたのでお知らせします。
 命令書の概要は、以下のとおりです(詳細は別紙)。

1 当事者
 申立人 全労協全国一般東京労働組合
 被申立人 一般財団法人日本ボクシングコミッション

2 事件の概要
 法人に勤務するX1及びX2が組合に加入したところ、法人は、同人らに対し、同人らの就業規則違反について調査するとして、自宅待機を命じた上、X1を懲戒解雇処分、X2を普通解雇処分とした。
 組合は、X1及びX2の解雇に係る団体交渉を申し入れたが、法人は、弁護士同士で解決を図るべきである等として、応じなかった。
 その後法人は、X1を別の処分事由で改めて懲戒解雇処分とした。
 本件は、1) X1に対する24年4月12日付懲戒解雇処分及び9月18日付懲戒解雇処分並びにX2に対する6月16日付解雇処分は、組合員であることや組合活動、本件申立て等を理由とした不利益取扱いに当たるか否か、2) 組合の申し入れたX1の懲戒解雇処分及びX2の解雇処分に関する団体交渉に法人が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か、3) 組合が主張するように法人側の言動に組合の活動や運営に対する不当な誹謗中傷があったか否か、あったとすれば、それが組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、4) X1及びX2に対する自宅待機命令等の法人の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、がそれぞれ争われた事案である。

3 命令の概要 (一部救済)
<主文(要旨)>
(1) 文書の交付
 要旨:組合の申し入れたX1の懲戒解雇処分及びX2の解雇処分に関する団体交渉に応じなかったことが不当労働行為と認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。
(2) 前項の履行報告、その余の申立ての棄却

4 判断のポイント
X1及びX2の代理人弁護士が、法人に対し、X1らと直接交渉せず代理人を通すよう求めたことや、X1らの解雇について裁判所等に係属中であることは、団体交渉の実施を妨げるものではなく、団体交渉を拒否する正当な理由とはいえない。
X1の懲戒解雇処分及びX2の解雇処分には、同人らの組合加入以前からの、法人における激しい内部対立の影響が強く推認されることから、組合員であるが故の不利益取扱い、又は組合の運営に対する支配介入であるとはいえない。
組合嫌悪の言動である等と組合が主張する法人側の各言動や自宅待機命令等の対応は、いずれも、組合弱体化を企図したものである等とはいえず、支配介入には当たらない。
※別紙 命令書の概要
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/11/20nbs401.htm


問い合わせ先
労働委員会事務局審査調整課
 電話 03-5320-6990








〔別紙〕

1 当事者の概要
(1) 申立人組合は、東京都内をはじめ、首都圏の労働組合及び労働者が組織する、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は、約4,000名である。
(2) 被申立人日本ボクシングコミッション(以下「法人」又は「JBC」という。)は、昭和27年4月21日に設立された、日本におけるプロボクシング競技を統括する機関であり、本件申立時は、プロボクシングに係るライセンスの発行、プロボクサーの健康管理、プロボクシングの試合の管理、認定、日本ランキングの認定等を主たる業とする財団法人であったが、平成25年7月1日、一般財団法人となった。本件申立時の職員数は、十数名である。

2 事件の概要
 法人に勤務するX1及びX2は、24年2月ないし3月に組合に加入し、分会を結成して、X1が分会長に就任した。
 2月28日、法人のY1本部事務局長は、「X1が組合に入って争ってきている。」と発言した。また、3月22日、Y1事務局長は、第1回団体交渉において、X1に対し、「うるせえな。」と発言し、交渉終了後、「ああ、残念だ。」とつぶやいた。
 翌23日、法人は、X1に対し、就業規則違反の調査のためとして、自宅待機を命じ、4月12日、同人を懲戒解雇処分とした。同日の第2回団体交渉において、法人は、「もう職員ではないから。」と述べ、X1の出席を拒もうとした。
 6月1日、法人は、X2に対し、就業規則違反の調査のためとして、自宅待機を命じ、同月16日、同人を普通解雇処分とした。
 X1及びX2の代理人弁護士は、法人に対し、「懲戒解雇異議通知」、「解雇異議通知」を送付し、今後、X1及びX2の解雇の件に関する連絡は代理人宛に行うよう通知した。その後、X1及びX2は、それぞれ、法人を被告として、地位確認等請求訴訟を提起した。
 組合は、法人に対し、X1及びX2の解雇に係る団体交渉を申し入れたが、法人は、代理人がつき、訴訟が提起されたこと等から、弁護士同士で解決を図る必要があり、団体交渉にはなじまない等として、申入れに応じなかった。
 9月18日、法人は、X1に対し、4月12日付懲戒解雇処分とは別の処分事由により、改めて9月18日付懲戒解雇処分を行った。
 本件は、1) X1に対する24年4月12日付懲戒解雇処分及び9月18日付懲戒解雇処分並びにX2に対する6月16日付解雇処分は、組合員であることや組合活動、本件申立て等を理由とした不利益取扱いに当たるか否か、2) 組合の申し入れたX1の懲戒解雇処分及びX2の解雇処分に関する団体交渉に法人が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か、3) 組合の活動や運営に対する不当な誹謗中傷であると組合が主張する法人側の言動があったか否か、あったとすれば、それが組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、4) X1及びX2に対する自宅待機命令等の法人の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、がそれぞれ争われた事案である。

3 主文の要旨
(1) 文書の交付
 要旨:組合の申し入れたX1の懲戒解雇処分及びX2の解雇処分に関する団体交渉に応じなかったことが不当労働行為と認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。
(2) 前項の履行報告
(3) その余の申立ての棄却

4 判断の要旨
(1) X1の懲戒解雇処分及びX2の解雇処分について

1) X1に対する24年4月12日付懲戒解雇処分について
 X1の組合加入前の法人の状況をみると、23年5月に法人職員4名がA1及びA2を内部告発したこと、6月に、Y1が、JBCとは別の新団体を設立すると一旦発表したが、JBCがA1を追放する等の処分をすればJBCの分裂を回避することも示唆し、最終的には、A1が降格となり、Y1が本部事務局長に就任したこと、7月に法人がY1事務局長名でA3に解雇を通知したのに対し、A2及びA3が不当な解雇予告がなされたと公益通報し、法人がA3の解雇を撤回したこと、7月以降、X1は、X2やA2とともに、Y2専務、Y1事務局長及び上記法人職員4名等を告発する公益通報を行っていたことが認められる。これらの事実からすると、法人において、X1は、X2とともに、A1やA3に近い立場にあり、Y2専務やY1事務局長らとは、互いに相手方を排除しようとするような激しい内部対立の関係にあったということができる。
 さらに、A1が降格され、Y2専務やY1事務局長が就任して以降、X1が試合担当業務から外されたり、A1、X1及びX2の3名だけが、法人職員間のメーリングリストから外されたり、24年1月25日の年間優秀選手表彰式の担当を外されたりしたことからすれば、X1は、組合に加入する以前より、A1及びX2とともに、法人の現体制から疎外されていたということができる。また、4月12日付「処分決定書」の処分理由には、23年12月29日付報告に「X1職員の問題点」として記載されていたことが含まれていることからすると、法人は、X1の組合加入前の23年12月以前からX1の懲戒事由を探しており、法人における内部対立の中で、X1を排除する動きがあったということができる。
 以上からすれば、団体交渉と懲戒解雇処分との時期的な符合等は認められるものの、法人における諸事情を総合的に勘案すれば、X1に対する懲戒解雇処分には、同人が組合に加入する以前からの法人における激しい内部対立の影響が強く推認されることから、本処分は、同人が組合員であることや法人の組合嫌悪の情等からなされたものとは認め難い。したがって、本処分が組合員であるが故の不利益取扱い、又は組合の運営に対する支配介入であるとまでいうことはできない。

2) X2に対する解雇処分について
 上記1) で判断したとおり、法人において、X2は、X1とともに、A1やA3に近い立場にあるとともに、Y2専務やY1事務局長らとは激しい内部対立の関係にあり、組合に加入する以前より、法人の現体制から疎まれていたということができる。さらに、X2の解雇理由は、A1、X1及びA3らと共謀し、JBCとは別の団体や会社を設立しようとしたこと等であり、A1及びA3も、X2と同じ6月1日に自宅待機とされ、X2の解雇と同時期に懲戒解雇されていること等も考え合わせれば、X2に対する解雇処分には、X2が組合に加入する以前からの法人における激しい内部対立の影響が強く推認されることから、本処分が、X2の組合加入や本件申立て等を理由とする不利益取扱い、又は組合の運営に対する支配介入であるとまでいうことはできない。

3) X1に対する24年9月18日付懲戒解雇処分について
 上記1) 及び2) のとおり、法人において、X1は、Y2専務やY1事務局長らとは激しい内部対立の関係にあり、また、X1に対する9月18日付処分の懲戒解雇事由は、A1やA3、X2らと共謀し、JBCとは別の団体や会社を設立しようとしたことであること等からすると、本処分には、X1が組合に加入する以前からの法人における激しい内部対立の影響が強く推認されることから、本処分が、本件申立てを理由とする報復的不利益取扱いであるとまでいうことはできない。

4) 以上のとおり、X1に対する24年4月12日付懲戒解雇処分及び9月18日付懲戒解雇処分並びにX2に対する6月16日付解雇処分は、いずれも不当労働行為であるということはできない。

(2) X1の懲戒解雇処分及びX2の解雇処分に関する団体交渉について

 X1の代理人弁護士による「懲戒解雇異議通知」及びX2の代理人弁護士による「解雇異議通知」は、法人に対し、X1又はX2個人との直接交渉をしないで今後の交渉は代理人弁護士を通すよう求める趣旨と解すべきであり、法人と組合との団体交渉を禁止する趣旨に解することはできない。また、仮に、X1又はX2が交渉員として団体交渉に出席したとしても、団体交渉における法人との交渉主体は、あくまでも組合であるから、法人がX1又はX2個人と直接交渉したことにはならない。したがって、X1及びX2の代理人弁護士が「解雇異議通知」等により、当事者間での直接交渉をしないよう求めたことは、法人が団体交渉を拒否する正当な理由とはいえない。
 また、裁判所や労働委員会に係属中の事項であっても、それらの手続とは別に、当事者間の団体交渉により自主解決を図ることは可能であるから、裁判所や労働委員会に係属中であることは、団体交渉の実施を妨げるものではなく、法人が団体交渉を拒否する正当な理由とはいえない。
 以上のとおり、法人は、X1の懲戒解雇処分やX2の解雇処分について、組合の申し入れた団体交渉に応じておらず、法人が応じない理由として主張しているものは、いずれも団体交渉を拒否する正当な理由とはいえないのであるから、法人の行為は、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

(3) 法人側の言動及び自宅待機命令等について

1) X1の組合加入に係るY1事務局長の発言について
 「X1が組合に入って争ってきている。」との発言は、組合嫌悪のニュアンスが感じられなくはないが、単に事実を述べているだけとみることもでき、直ちに組合を嫌悪し敵視する発言であるということはできない。また、法人の理事会・評議員会終了後の仲間内での会話であり、一般の法人職員等に対してなされた発言ではないこと等も考慮すれば、組合の運営に対する支配介入であるとまではいえない。

2) 第1回団体交渉におけるY1事務局長の発言について
 Y1事務局長が、X1に対し、交渉中、「うるせえな。」と発言し、また、交渉終了後、「ああ、残念だ。」とつぶやいた事実が認められるが、これらの発言がなされた具体的な状況が明らかではないのであるから、これらの発言のみをもって、組合の運営に対する支配介入であるとまでいうことはできない。

3) 第2回団体交渉の際の法人の発言について
 解雇処分を受けても、X1は組合員であり、団体交渉の組合側出席者を決めるのは組合であるから、法人が、同人の団体交渉への出席を拒否する発言をしたことは、極めて問題のある対応である。しかし、その後、法人が直ちに組合の抗議を受け入れ、X1が団体交渉に出席したことを考慮すれば、法人は、団体交渉や労働組合への対応に不慣れなことから不用意な発言をしたものとみられ、上記発言をもって、支配介入として問責するのは相当でない。

4) 3月13日のX1の配置転換等について
 3月13日の配置転換は、組織改正に伴い多くの職員に対して実施されたものであるから、X1の担当業務に変更があったとしても、それが、組合員への嫌がらせや組合員の排除を企図したものであるとまでいうことはできない。

5) X1及びX2に対する自宅待機命令等について
 前記(1) のとおり、X1及びX2に対する解雇を不当労働行為ということはできないこと、法人において、X1及びX2は、A1やA3に近い立場にあって、Y2専務やY1事務局長らとは内部対立の関係にあり、組合に加入する以前より、法人の現体制から疎まれていたこと、A1及びA3も自宅待機を経て懲戒解雇処分を受けていること等を考慮すると、自宅待機命令等の、X1及びX2の解雇に至るまでの法人の対応は、法人における激しい内部対立の影響によるものであることが推認され、組合弱体化を企図したものであるとまでいうことはできない。

6) 以上のとおり、組合嫌悪の言動である等と組合が主張する法人側の各言動や自宅待機命令等の対応は、いずれも支配介入には当たらない。

5 命令交付の経過
(1) 申立年月日 平成24年6月5日
(2) 公益委員会議の合議 平成25年11月5日
(3) 命令書交付日 平成25年11月28日