世紀の大発見と思われた新万能細胞「STAP(スタップ)細胞」は本当に存在するのか。

 それを証明したはずの論文は「常道を逸している」ずさんなものであることがわかった。

 筆頭著者の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーらが属する理化学研究所は、論文の撤回を勧めている。事実上、白紙に戻そうという苦渋の選択である。

 主要著者4人のうち、全体の責任を負う小保方さんを含む3人が撤回に同意した。ここは潔くいったん取り下げ、出直しを考えるべきだろう。

 理研は日本を代表する研究機関である。この混乱を招いた事態について、誠実かつ早急に問題を解明する責任がある。

 その第一は、この万能細胞は実在するかどうかをはっきりさせる必要があることだ。それは世界の生命科学研究の流れに大きな影響を与えるからだ。

 理研には、存在を確かめるための第三者機関による実験に全面的に協力する義務がある。そのためにも、実験手法を詳しく開示せねばならない。

 理研自身も実験を重ねるべきなのは当然だ。論文の著者の1人は「ゼロから実験し直す」という。その際は外部研究者も検証できるようにし、「ここまで再現できた」「この点が再現できない」など進行状況を随時公表することが望ましい。

 もし客観性のある実験で細胞作りが再現されれば、当初の論文の傷を差し引いても科学に貢献したことにはなるだろう。

 もう一つは、理研自身が認めたように、「通常の科学者はしない」手法で「論文の体をなさない」ものが発表されたのはなぜなのかを探ることだ。

 理研の理事長を務めるノーベル化学賞受賞者の野依良治氏は「科学社会の信頼性を揺るがしかねない」と謝罪した。

 理研は、幹部には研究倫理の研修を施してきたとしているが、今回の論文にはベテラン研究者も名を連ねている。倫理教育のあり方そのものを抜本的に見直すしかあるまい。

 今回の論文は4チーム14人の研究者による共著である。共同作業の死角はなかったのか。業績重視の競争が研究現場をゆがめていないか。

 こうした点は理研にとどまらず、学界全体で洗い出すべき検討課題だ。文部科学省も加わって、倫理と信頼性を底上げする方策を練る必要があろう。

 朝日新聞を含む報道機関にとっても重い事態である。検証の難しい最先端科学の報じ方はどうあるべきか。不断に見つめ直す努力を肝に銘じたい。