東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

沖縄の教科書 話し合いより力ずくか

 文部科学省の強硬な振る舞いは目に余る。沖縄県竹富町に中学の公民教科書を変更するよう迫った。問題解決は力ずくで、と子どもに教えるようなものだ。国の教育現場への過剰介入は禍根を残す。

 昨年十月の沖縄県教育委員会への指示に続き、今度は竹富町教委への直接の是正要求である。国が都道府県を飛び越え、市町村に発動した例は過去にないという。

 竹富町は有志の寄付により検定に合格した教科書を無償で配っている。子どもの教育を受ける権利は守られている。

 強権を振るうべき緊急性は見当たらない。なぜ地元の話し合いによる解決に委ねないのか。中央統制的な動きは地方の主権を損ないかねないし、問答無用の頑迷な態度は教育の場にそぐわない。

 問題の経緯を振り返ろう。

 八重山諸島の石垣、与那国、竹富の三市町でつくる教科書採択地区の協議会は三年前、育鵬社版を答申した。しかし、竹富町は協議会の運営に疑義を唱え、東京書籍版を独自に選んだ。その代わり国の無償配布の対象から外された。

 採択地区で教科書を一本化するよう定めた教科書無償措置法を違(たが)えているというのが、文科省の立場だ。竹富町は、市町村に採択権を認めている地方教育行政法を根拠に合法性を訴える。こちらの言い分に理があるように見える。

 二つの法律の食い違いを棚に上げ、竹富町のみに責めを負わせるのは筋が通らないではないか。

 そもそも無償措置法では採択地区の教委が協議して同一教科書を選ぶ決まりだ。石垣、与那国の二市町も責任を免れないはずで、是正要求を出さないのはおかしい。

 文科省は今国会に、いまは「市郡」単位とされている採択地区を「市町村」単位に緩める法改正案を出した。小さな自治体への目配りのつもりなら、なおさら竹富町の意思を尊重してしかるべきだ。

 憲法は義務教育の無償をうたう。教科書代は国が賄い、家庭に負担させない。その具体の手段を定めたのが無償措置法と言える。

 だから、かつての民主党政権は法律の意図を踏まえ、自治体が異なる教科書を買って無償で配ることを黙認した。子どもの教育の機会均等が担保されている限り、国は余計な目くじらを立てる必要はないのだ。

 領土に手厚い育鵬社版と米軍基地に詳しい東京書籍版。文科省が育鵬社版に肩入れしているとすれば、教育行政の政治的中立性を脅かす非常事態と言うほかない。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo