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 生物学の常識を覆す発見として、世界に衝撃を与えた「STAP細胞」の論文は、白紙に戻る可能性が濃厚になった。問題点が次々に指摘され、研究の根幹は揺るがないとしていた理化学研究所も従来の姿勢を改めた。調査委員会の中間報告でも、問題が見過ごされた理由は未解明のまま。STAP細胞が存在するのかもますます分からなくなった。

 「正しいデータを載せていない。論文として存在しないほうがいい」

 14日、東京都内であった記者会見。理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の竹市雅俊センター長は問題点を認め、著者の小保方晴子ユニットリーダーらに撤回を勧めたことを明らかにした。

 この日公表された調査委員会の中間報告書では、不適切な画像や記述などが複数あったことが認定された。駆けつけた報道陣は200人以上。科学論文としては、あまりにずさんなデータの使われ方に厳しい質問が相次ぎ、会見は4時間あまりに及んだ。

 焦点の一つが、小保方さんが3年前に書いた別テーマの博士論文のものと酷似した画像が使われていた点だった。STAP細胞が様々な細胞に変化できる「万能性」を示す根拠になった画像。論文の根幹が揺らぎ、共著者の若山照彦・山梨大教授が論文撤回を考えるきっかけになった。

 報告書は、データの比較から二つの画像は同じものと判断せざるをえない、と指摘。事実と異なる画像を示したことになるため、会見の出席者らも特に厳しく問題視した。

 さらに調査委は、実験の画像を不自然に加工していたことも認定。STAP細胞が血液細胞のリンパ球からできたことを示す証拠だったが、別々の実験の画像の長さをそろえて切り張りするなど手を加え、一つの画像にしていた。結果をみやすくするためとの言い分だが、会見で石井俊輔調査委員長(理研上席研究員)は「プロならやらない」と強く批判した。

 このほか、実験手法について説明した記述も、ほかの論文からコピーしたものと認められる、とした。

 いずれも、不正にあたるかどうかは「調査中」として判断を保留した。実験ノート、書類、画像などを取り寄せ、事実関係を確認するのに時間がかかるためという。

 ただ、理研の研究担当として会見に出席した川合真紀理事は、不正かどうかにかかわらず「科学者としての倫理に反する振る舞いがあった」「間違ったものを載せて気付かないのは科学者の良識からすると常道を逸している」と科学研究として問題があると認めた。

 調査委が結論を出したのは6項目のうち2項目。STAP細胞の画像にある不自然なゆがみはネイチャー編集部側の作業が影響した可能性、マウスの胎盤の2枚の画像の酷似は単純ミスとみられることを理由に不正はないと判断した。

 論文の中で最も重要な画像の一つが、博士論文の画像と同じだったのは、故意なのか過失なのか。今後の調査の焦点となる。

 この問題では、小保方さんがSTAP細胞での実験成果を装うために過去の画像を流用したのではないかとの疑念が浮上していた。

 調査委員会によると、小保方さんは2月20日、間違った画像を掲載したとして修正を調査委に申し出て、正しいとする画像を提出。保存していた画像の名前を同じにしていたために取り違えたと話したという。

 この説明について調査委は「客観的に見てレアなケース」とみる。また、小保方さんは申し出の際、誤った画像が博士論文で使っていたものだと説明しておらず、経緯などを引き続き調べるとしている。

 STAP細胞の存在も疑問のままだ。調査委は「調査の範囲を大きく超えている」とし、他の研究者による検証に基づいて決着すべきことだと繰り返した。本当に作製できるのかについても、小保方さんに聞いていないという。

 ただ会見で、小保方さんを含む複数の著者が論文発表後、完全な再現には成功していないことが明らかになった。細胞の万能性を示す指標は得られているものの、科学的な証明には至っていないという。