司会者「ライターとかアーティスト活動のサポートとか、ミュージシャンではない形で音楽業界に関わりながら一方では会社員としても働いている方々の「二足のわらじ」生活について紹介する企画です。前口上が佐々木俊尚さんにRTされました」
音楽で生計を立てるのではなく、どのようにして自分の人生の一部として音楽と関わっていくか。これから重要なテーマだと思う。連載に期待。/レジーのブログ 新企画「音楽で食わずに、音楽と生きる」前口上 http://t.co/KXdS4uhduj
— 佐々木俊尚 (@sasakitoshinao) March 12, 2014
レジー「予想外でした。で、拡散されると例によって??な反応があったりするんですけど、改めてお伝えしておくと今回の企画って「音楽以外の仕事を持つミュージシャン」についての話じゃないですからね。そういうのに興味ある人はたびたび紹介している「OTONARI」を読んでください」
司会者「「俺の周りのミュージシャンは前から大体そうだよ、自分も含め」的なコメントをいくらか見ましたね」
レジー「読まずに拡散してるのかね。まあいいや。早速始めましょう」
司会者「一回目にご登場いただくのは、Qeticなどでライターとして活動している定金啓吾さんです」
レジー「彼とは数年間同じ会社で文字通り机を並べて働いていたことがあって、しかも同じ中高の出身だったりと何かと縁があります。「会社員しながらでもライターとかやって世の中に発信できるんだ」って知ったのも定金さんの動きを見てからだったし、そういう意味では僕がブログを始める遠因を作った男ですね」
司会者「ヴァンパイア・ウィークエンドにインタビューするなど大物とも絡んでます」
レジー「今回の記事では、ライター活動を始めるに至った経緯や会社の仕事とのバランスのとりかた、2つの世界を持つことによって生まれる視点などについて話してもらいました。それではどうぞ」
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---まずは簡単にライターとしての自己紹介からお願いします。
「媒体としては主にQeticに書いています。昔はたまにOTOTOYにも書いていましたが、今はQeticが中心です。あと最近は自分でブログも始めました」
---Qeticとはどういう形で関わってますか?
「特に専属契約をしているわけではなく、単発で頼まれたものの中からスケジュール的に可能なものを選別して書いてます。それに加えて、頼まれるものだけではなくて取り上げたいライブや作品を自分から提案して書かせてもらっているので、結構好きにやらせてもらっていますね」
---ラナ・デル・レイとかそのパターンだよね。
「ラナ・デル・レイについては、Qeticの人とユニバーサルの人それぞれに頼みました。あとはバンクスについてもまだレーベルとかが決まっていない状態でQeticで書かせてもらいました。結果的にユニバーサル系列のレーベルと海外で契約したので日本でもユニバーサルで扱うことになって、前から知っていた担当者の方がバンクス担当になったんで、今後なんかやるときに一緒にやりましょうみたいな話はしやすくなったっていうのがあります」
---外の媒体でも書いているのにあえて個人ブログを始めたのは?
「前からやろうやろうとは思ってたんですが、ブログの設定がめんどくさいとかそういうレベルでやっていなくてようやく始めました(笑)。“自分なりの音楽を楽しむプロセスを可視化したい”というのが始めたきっかけです。あくまでもカジュアルにですが。あとは、書きたいことは思いついているのにアウトプットの場がないということがあったので」
---持ち込んだら全部やらせてもらえるわけでもないんですもんね。
「アウトプットを続けることで何かしら自分なりの音楽に対する視点とかが可視化されて、それをヒントに音楽を楽しむ人が少しでもいてくれたら良いなという感じですね」
---かたや会社員としても働いているわけですが。
「そうですね。2007年から会社員やっているので7年目です。メーカーからコンサルティングファームに転職して、今度ウェブビジネスの会社に移ります」
---ライターとしての活動は学生のころからしていたんですか?
「いや、やってないです。仕事として始めたのは2010年から」
---会社員になってからなんだ。
「そうですね。学生の頃からスヌーザーに投稿してちょこちょこ掲載されたり、イベントに足を運んだりもしていましたが、具体的に仕事にはなっていなかったです」
---学生当時はライターとか音楽業界で働く人になろうとは思わなかった?
「そもそも就職活動をちゃんとやってなくて、大学卒業後のこととか考えてなかった(笑)。秋採用やってた会社にかろうじて滑り込んで働き始めたみたいな感じです。そんな形で入った会社だったこともあって仕事に全く魅力を感じず、1年目ですぐ辞めようと思ってスヌーザーの編集部を受けたんです。そうしたらそこで「安定した会社で働いてるんだから絶対辞めないほうが良いよ。雑誌編集のことを知りたいというのならまだしも、文章を書きたいということであれば今後書く手段はいくらでもあるだろうから」とかなり強く説得されまして。それでそんなもんかなあと思いつつ他の出版関連の会社からも内定もらったんですけど、やっぱり生活面考えるとかなり厳しい条件が出てきて」
---生活のこと考えるとなかなか踏み切れない部分もあるよね。
「先方からも「この条件なら悩むのも当然ですよね」みたいなこと言われて、結局ヒヨって行きませんでした(笑)。ただその頃は「とにかく会社を辞めたい」というのが強くて。何か音楽に関与できないかな〜とは思っていたので、今後のためにも音楽方面の知り合いを作っといた方がいいだろうという思いでプロのライターさんがやっていた音楽ライター講座に参加するようになりました。それが2008年ごろかな」
---会社辞めようと思って何か書く仕事でいろいろ見たけどそっち行くと相対的に生活はきつそうだみたいなのがわかってきて、もうちょっと人脈を構築するためにライター講座に通うようになったと。
「そこで知り合った同期は今でもライター仕事をしている人が結構いて、そのうちの1人でOTOTOYに参画している人がいるんですけど。で、その彼からOTOTOYでのオウテカのインタビュアーとして声をかけてもらったのが最初のライターとしての活動ですね。ちょうど『Oversteps』っていうアルバムをリリースした2010年ごろ。で、実際にやってみたら、ビートインクの人にあれは聞いちゃダメとうるさく言われることもないし、オウテカと話すのも面白かったし、これは楽しいなと。お金は全然出ないですけどね(笑)。そこからレビューとかはちょこちょこ書くようになって、次にインタビューやったのが同じく2010年に『High Violet』をリリースしたときのザ・ナショナル。これはQeticで既に仕事をしてたライター講座の同期からの紹介です。自分の音楽の趣味的にはOTOTOYよりもQeticの方が親和性があったので、その後はQeticでの仕事が定着していきました」
---ライターとしての活動が増えていく中で、働いていた会社への気持ちの折り合いはどうつけましたか?そもそもが「会社を辞めたい」から始まってライター講座に参加したわけですが、やっぱり音楽関連一本でやっていきたいと思ったことは・・・
「それはスヌーザーを受けて以降は一度もないですね。会社員と比べると生活が厳しくなるってのをリアルに感じたというのもあるし、あとは上司が変わって仕事が面白くなったということもあって「辞めたい」という気持ちが薄れていったんですよ。そうやって働いていく中で、仕事の楽しみ方とかキャリアの作り方とかをイメージできるようになってしまったのもあり、音楽側に完全に軸足を置こうという気持ちが前面に出てくることはなくなりました」
---そうやって会社員とライターとしての活動を両立させてるわけですが、時間はどうやって捻出してますか?
「僕は結構真面目なライフスタイルですよ(笑)。平日は会社があるから、朝5時に起きて8時半くらいまでは音楽関連のインプットだったり何か書いたりっていう時間を取っていますね。夜は疲れてやれないので。あとは土日ですね。週末は奥さんと出かけたりとかもしますけど、大体途中でカフェ寄って音楽関連の本読んだり集中してアルバム何枚か聴いたりとかしてますね。家ではそういう時間を「勉強の時間」って言ってますけど」
---外出先でってのもすごいな。奥さんはそのとき何されてるんですか?
「んー、どっかほっつき歩いたり本読んでたり」
---理解のある奥さんですね(笑)。
「知り合った時から「音楽の人」って認識を持たれているからですかね。そういう認識があるせいか、ダブル・ジョブであることも奥さんとか親とかから違和感は持たれていないと思います」
---なるほど。ライター活動を「本業」ではなく「副業」としてやっていくと、今説明してもらった「時間の捻出には多少負荷がかかる」って話だったりとか、メリット・デメリットがいろいろあると思うんですけど。
「メリットというか会社で働いていて良かったなと思うことですけど、まとまったお金が動くときの意思決定とか大人の思惑とか、そういうものに対する肌感覚を得られたってのが大きいですね。ビジネスに対する感覚というか。音楽業界も「ビジネス」である以上は資本の投下とそれに対するリターンっていう側面がありますよね。そういった背景を踏まえたときに、アーティストだけでなくメディアやレーベル、そしてオーディエンスがどういう動きをするのかとか、そんな中で自分の発信したいことがどう位置づけられるのかとか、そういう俯瞰的な視点を持つことができたのは会社員としてガッツリ働いていたからだと思います。あとは、やっぱり「音楽好きな人たち」と接しているだけでは得られないフィードバックが沢山ある。社会に出ると、全く価値観の違う人と働かざるを得なくなったりほんとにとてつもなく優秀な人を見てインスパイアされたりってことが予想できないレベルで次々に起こるわけで、そこから得られる知的刺激がたくさんあります。音楽の話が全く通じない人たちと日常を共にする中で見えてくることもあるし。やはり自分くらい音楽を聴く人って世の中全体で見たらかなりレアで、大半の人はそんなに聴いてもないし、真剣でもないですから。業界内ではなく外側に居たことで、そういう当たり前のことを改めてリアルに感じられたかなと」
---逆にデメリットとしては何かありますか。
「これは善し悪しだとは思うんですけど、専業のライターに比べると業界の中の人たちとの距離が遠いってところですかね。距離があることで業界内にいると得られる1次情報が僕には入ってこないということもやはりありますので、それは相対的に見るとデメリットかもしれないです。あと、そこまで知られてないから気を遣わず好きなことを書ける反面、たとえばライターの方や既存メディアの方の間で日々やり取りされている「今後音楽メディアどうなる?」みたいな話についての空気感を共有できないですよね。そういうところについては切り離されていると感じる部分はあります。ただ、業界のアウトサイダーこそが何か新しいものを作っていく場合もあるので、内部の人たちと話しているからアイデアが出るかというと別かもしれませんが」
---それこそ会社員としての仕事から得られたアイデアが、業界の常識を覆す可能性もあると。
「そうですね、普段の仕事を通じて音楽メディアとか音楽の言論空間とかの今後のあり方としてどんなものがありえるのかみたいな示唆が得られるんじゃないかとは常々思ってます」
---ありがとうございました。最後に、このブログは「将来音楽ライターになりたい」って学生さんとか、「いつかは音楽に関わる仕事をしたい」と思ってる我々と同じ会社員の方とかにも読んでいただいているようなので、そういう方たち向けに何かあれば。
「キャリア構築でもプランA/B/Zみたいな考え方がありますけど、「生業として食べるための仕事を着実にやりつつ、片方では好きなことをやっていく」「そのうち好きなことで金銭的に独立できそうになればシフトチェンジする」「そうでなければ生業をベースにしながら好きなことを続けていく」みたいな形で、生活のための仕事と本当にやりたいことは戦略的に並走させられると思います。僕とかレジーさんが社会に出たゼロ年代の半ばと比べて、アウトプットする手段とか自分を知らしめる手段は確実に増えてますよね?だから「ライターやりたい」「何か表現したい」ってのは大いに結構だと思いますが、食い扶持は確実に稼いで生きていく方がもともとやりたいことや夢みたいなことを実現させていくには実は近道だったりするんじゃないかと。普通の仕事をしているから時間がなくてアウトプットができないとか、何かにアクセスできないってのは言い訳でしかない世の中になっていますから」
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司会者「何か感想などあれば」
レジー「ライター講座への参加をきっかけにして活躍の幅を広げていった今回のケースは、似たような境遇の方々にとって参考になるのではないかと。彼は会社員になってからライターとしての活動を始めてるんだよね。もちろん「それまでの蓄積があった」「文章を書けるセンスがあった」からこそだから誰でもできますなんて無責任なことは絶対に言えないけど、この手のことを始めるのに遅すぎるってことはないんだと思います」
司会者「社会に出たら急にそういう「仕事以外のこと」に反応示さなくなる人いますけど、それとは真逆ですね」
レジー「ほんとそうね。会社入って途端につまらなくなる奴たくさんいるから。この「どこに所属していても、音楽に関わろうと思えば何かしら手はある」って話はこの企画に通底するメッセージになってるかなと。音楽を「ビジネス」として捉えるっていう視点を養えたのは会社勤めしたからこそ、って話はなるほどなあと思いました。外にいるからこそ気がつく部分というか。2つの立ち位置があるから、それぞれでの出来事にインスパイアされつつ思考が深まっていっているというのがよくわかりました」
司会者「5時起きってのもハードですね」
レジー「物理的な部分での大変さはやっぱりあるんだよね。僕も会社行く前に作業すること多いし。そういう負荷をかけた分の面白さはありますよ。こんなトーンで、あと2人の方のインタビューをお届けしたいと思います。次回までしばしお待ちください」
司会者「できるだけ早めの更新を期待しています」