文容疑者は、役所で変更した新しい通称を使い、東京都内や、さいたま市内の携帯電話販売店や家電量販店で端末を購入。前後して、本来は通称変更に伴って返却しなければならない過去の通称が記された保険証や外国人登録証を使って、都内の古物商に端末を転売。現金を手にしていた。
購入の際には、端末代金を月々の通信料などに上乗せする分割払いのシステムを利用。だが代金は一切支払わず、督促なども無視。最終的には強制解約となった。当初から端末の転売のみを狙ったとみられ、人気機種を中心に契約していた。
県警は文容疑者の背後に何らかの組織がある可能性も視野に調べたが、明らかになった同容疑者の動機は、競馬などの「ギャンブル代」だった。
不正売買が裏付けられた端末は平成22年10月以降で約160台、630万円相当。この間、文容疑者は最短約1カ月のペースで計5回、通称を変更した。通称は、自ら姓名判断をして決めていたという。
「通称を変更する要件が整っていれば、手続きを進めざるを得ない」。県警は文容疑者が変更を繰り返すことができた背景を、こう指摘する。
■ギャンブル代目当ての動機にはらむ「危険性」
通称は、外国人が本名のほか、日常生活で便宜的に名乗る「通り名」だ。
かつては通称に法的根拠はなく、外国人登録事務の運用の中で本人の申請に基づき、身元証明のための外国人登録証に本名と併せて記載していた。
だが、住民基本台帳法などが改正され、平成24年には、短期滞在などを除く外国人も日本人と同じように住民登録することになり、住民票に通称も併記されることに。法令上も「通称」が明記され、通称の変更は住民票の記載事項を変更する手続きとなっている。
要件を満たせば、一定の法的な力を持つ通称は、健康保険証を取得したり、金融機関の口座を開設したりすることもできる。
「10年ぐらい無職だった」と供述しているという文容疑者。「インターネットで見て手口を思いついた」とも話している。端末の転売による利益が狙いだったとみられるが「電話料金を踏み倒すつもりはなかった」と犯意を否認している。
一方で、端末を転売せずに、強制的に解約されるまでの間、違った形で使うこともできた。捜査関係者は「この手口がより組織的で、重大な犯罪につながりかねない可能性もある」と指摘する。