米軍基地行事の銃体験:多様な賛否、「教育的に問題」、「男の子の憧れ」/神奈川
2013年11月12日
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横須賀市の在日米海軍横須賀基地で8月に開催された基地開放イベントで、米兵が見学に訪れた子どもたちに銃を触らせていた問題が波紋を広げている。インターネット上では「米軍の無神経さに腹が立つ」「兵器への憧れは男の子なら誰でもある。それと反戦意識は全く別物」など、賛否多様なコメントが渦巻く。普段は立ち入れない「非日常空間」で起きた行為は何を問いかけるのか。
4万人以上が訪れた今夏の「ヨコスカ・ネイビー・フレンドシップデー」。例年、基地開放日になると周辺が親子連れなどでごった返す。同基地では春の「日米親善よこすかスプリングフェスタ」、秋の「よこすかみこしパレード」を含め年3回、日米親善を目的に基地開放日を設けている。イベントではステージショーが催されたり、ファストフードの屋台が並んだりし、米艦船も見学できる。米国本土では国防費の削減などを理由にこうした企画は中止されており、横須賀市と同基地の良好な関係が垣間見える。
問題は、8月3日のイベントに訪れた見学者が、子どもたちが銃に触れているシーンを目撃、様子を撮影した写真を市民団体に提供したことで明るみに出た。複数の写真には基地側が用意したモデルガン(模擬銃)を構える男児らが笑顔で写るほか、ライフルのスコープ(照準器)をのぞく少女や、地面に置かれた機関銃を触る少年の姿もあった。この様子は海外メディアでも報じられた。
■
県平和委員会など5市民団体は同月末、同基地に抗議文を送り、横須賀市の吉田雄人市長と永妻和子教育長に質問状を出した。「一般開放という多くの日本人見学者が参加する中での一連の行為は、銃器の所持、使用を著しく規制しているわが国の法律への配慮なくなされたものであり、とりわけ未成年者に向けられたという点で教育的に重大な問題がある」。在日米軍基地にあっても、銃器の使用は国内法の銃刀法違反に当たると強調した。
これを受け、基地司令官のデイビッド・グレニスタ大佐はすぐさま市役所を訪れ、「弾丸が装填(そうてん)されていない銃器の展示や戦術のデモンストレーションをした」と説明。37回を数えるフレンドシップデーでこれまで同様のケースは発覚していないが、大佐は「文化的な背景の違いから一部の方々に対し、意図せず大変不快な思いをさせてしまった。今後は同様のことが起こらぬよう最大限配慮していく」と釈明した。
吉田市長は9月5日、市議会の本会議で「日本と米国では銃に対する意識が異なるため、行き過ぎがあったのではないかと感じている」と答弁。「司令官から、こういうことがないようにしたいと言葉をいただいた。しっかり注視していきたい」と話した。
■
銃体験コーナーは親子が列をなす盛況ぶりだったという。同基地関係者の日本人男性は「反発」に違和感を覚える。現在に比べ、基地内に親戚や知人がいれば入場が厳しくなかった約40年前。少年だった男性は基地関係者の父親と一緒に入り、米兵に小銃を触らせてもらった。「まずこちら(日本人)が求めるから、向こうも勧めてきて成立する。何も無理やり銃を持たせているわけではなく、よかれと思ってやっている。艦船に乗って見学するのはよくて、銃を触ってはいけないという線引きがよく分からない。そもそも銃に対する受け止め方が違う」と指摘する。
一方、基地開放の中止を求める新日本婦人の会県本部の担当者は「子どもや未成年者に銃を持たせて、遊び感覚で殺すことを想像させるのは大変なことだ」と問題視する。こうした賛否さまざまな見解がネット上でも多数繰り広げられた。
◇自衛隊では中止
市民に開放された銃体験は自衛隊でも問題になっている。陸上自衛隊練馬駐屯地(東京都練馬区)の記念行事で、市民に小銃などを手に取らせていた行為が銃刀法違反にあたるとして、地元住民を中心につくる市民グループ「自衛隊をウオッチする市民の会」がことし4月10日、田中直紀元防衛相や陸上幕僚長らを東京地検に刑事告発した。
弁護士で同会事務局長の種田和敏さんによると、2012年4月に同駐屯地で開かれた記念行事で武器が展示され、市民が小銃や機関銃を操作する体験をした、としている。告発から6カ月が経過するが、地検はどの市民が銃を手に取ったかについての特定が不十分として受理していない。
種田事務局長は「何も大臣を刑務所に入れたいわけではない。今までこうした問題をわれわれ国民が見過ごしてきた。もう一度、銃について考えてみようというのが狙いだ」と話す。告発以後、全国的に自衛隊の公開行事で銃体験などは中止されているという。
◇七里ケ丘こども若者支援研究所・滝田衛さん、親が価値判断示して
賛否両論の基地開放イベントでの銃体験について、横須賀市立中学校の元教頭で、現在は不登校やひきこもりなどの子どもの支援を続ける「七里ケ丘こども若者支援研究所」(鎌倉市七里ガ浜東)の滝田衛さん(62)に、教育的立場から意見を聞いた。滝田さんは「もちろん戦争には反対だ」と前置きした上で、「あえて誤解を恐れず言えば、銃を触るべきだと思う。触らせてはいけないということが果たして教育なのか。銃の重さを知り、これで人が死んでいくというリアルな実態が分からないといけない」と話した。
横須賀市内の高校を卒業。当時、ギターを手に基地前のどぶ板通りに足を運び、米兵から弾き方を教わった。「その米兵があした、あさってにも戦地のベトナムに行くわけですよ。それはリアリティーがありました」。大学生になると、仲間を連れて反戦の学生運動デモに参加した。
滝田さんは、実体験を踏まえた価値判断の形成が教育には必要という。「もちろん今回は米軍にも責任はある。しかし、目隠しをして温室で育てた子たちが世界平和を語っても説得力はない。米国のように銃により守られているという実感を持つ人もいるし、銃で損害を受けている人もいる。情報をオープンにして現実世界を見せ、今の世界の情勢や日本の状態を知るべきだ」
銃に触れることは暴力性につながるか-。「銃を持ったら人を殺す人間になるなんてあり得ない。子どもを信頼していない証拠だ」と一蹴する。
「古今東西、子どもには怖い物見たさがある。おばけやエッチなこと、武器や兵器もそう。現実の世界を見ながら価値観を決めていく」。だからこそ、“臭い物にふた”をせず、親の責任の自覚を問う。大人が憲法や法律も学び実態を把握しながら想像力を巡らせ、銃体験に賛成なのか反対なのか伝えることが大切だと。「親の価値判断をちゃんと提示し討論しながら、ある程度、子どもたちと合意を付けていくことが大事。それが親のやることだし、社会がやるべきことでしょう」
4万人以上が訪れた今夏の「ヨコスカ・ネイビー・フレンドシップデー」。例年、基地開放日になると周辺が親子連れなどでごった返す。同基地では春の「日米親善よこすかスプリングフェスタ」、秋の「よこすかみこしパレード」を含め年3回、日米親善を目的に基地開放日を設けている。イベントではステージショーが催されたり、ファストフードの屋台が並んだりし、米艦船も見学できる。米国本土では国防費の削減などを理由にこうした企画は中止されており、横須賀市と同基地の良好な関係が垣間見える。
問題は、8月3日のイベントに訪れた見学者が、子どもたちが銃に触れているシーンを目撃、様子を撮影した写真を市民団体に提供したことで明るみに出た。複数の写真には基地側が用意したモデルガン(模擬銃)を構える男児らが笑顔で写るほか、ライフルのスコープ(照準器)をのぞく少女や、地面に置かれた機関銃を触る少年の姿もあった。この様子は海外メディアでも報じられた。
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県平和委員会など5市民団体は同月末、同基地に抗議文を送り、横須賀市の吉田雄人市長と永妻和子教育長に質問状を出した。「一般開放という多くの日本人見学者が参加する中での一連の行為は、銃器の所持、使用を著しく規制しているわが国の法律への配慮なくなされたものであり、とりわけ未成年者に向けられたという点で教育的に重大な問題がある」。在日米軍基地にあっても、銃器の使用は国内法の銃刀法違反に当たると強調した。
これを受け、基地司令官のデイビッド・グレニスタ大佐はすぐさま市役所を訪れ、「弾丸が装填(そうてん)されていない銃器の展示や戦術のデモンストレーションをした」と説明。37回を数えるフレンドシップデーでこれまで同様のケースは発覚していないが、大佐は「文化的な背景の違いから一部の方々に対し、意図せず大変不快な思いをさせてしまった。今後は同様のことが起こらぬよう最大限配慮していく」と釈明した。
吉田市長は9月5日、市議会の本会議で「日本と米国では銃に対する意識が異なるため、行き過ぎがあったのではないかと感じている」と答弁。「司令官から、こういうことがないようにしたいと言葉をいただいた。しっかり注視していきたい」と話した。
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銃体験コーナーは親子が列をなす盛況ぶりだったという。同基地関係者の日本人男性は「反発」に違和感を覚える。現在に比べ、基地内に親戚や知人がいれば入場が厳しくなかった約40年前。少年だった男性は基地関係者の父親と一緒に入り、米兵に小銃を触らせてもらった。「まずこちら(日本人)が求めるから、向こうも勧めてきて成立する。何も無理やり銃を持たせているわけではなく、よかれと思ってやっている。艦船に乗って見学するのはよくて、銃を触ってはいけないという線引きがよく分からない。そもそも銃に対する受け止め方が違う」と指摘する。
一方、基地開放の中止を求める新日本婦人の会県本部の担当者は「子どもや未成年者に銃を持たせて、遊び感覚で殺すことを想像させるのは大変なことだ」と問題視する。こうした賛否さまざまな見解がネット上でも多数繰り広げられた。
◇自衛隊では中止
市民に開放された銃体験は自衛隊でも問題になっている。陸上自衛隊練馬駐屯地(東京都練馬区)の記念行事で、市民に小銃などを手に取らせていた行為が銃刀法違反にあたるとして、地元住民を中心につくる市民グループ「自衛隊をウオッチする市民の会」がことし4月10日、田中直紀元防衛相や陸上幕僚長らを東京地検に刑事告発した。
弁護士で同会事務局長の種田和敏さんによると、2012年4月に同駐屯地で開かれた記念行事で武器が展示され、市民が小銃や機関銃を操作する体験をした、としている。告発から6カ月が経過するが、地検はどの市民が銃を手に取ったかについての特定が不十分として受理していない。
種田事務局長は「何も大臣を刑務所に入れたいわけではない。今までこうした問題をわれわれ国民が見過ごしてきた。もう一度、銃について考えてみようというのが狙いだ」と話す。告発以後、全国的に自衛隊の公開行事で銃体験などは中止されているという。
◇七里ケ丘こども若者支援研究所・滝田衛さん、親が価値判断示して
賛否両論の基地開放イベントでの銃体験について、横須賀市立中学校の元教頭で、現在は不登校やひきこもりなどの子どもの支援を続ける「七里ケ丘こども若者支援研究所」(鎌倉市七里ガ浜東)の滝田衛さん(62)に、教育的立場から意見を聞いた。滝田さんは「もちろん戦争には反対だ」と前置きした上で、「あえて誤解を恐れず言えば、銃を触るべきだと思う。触らせてはいけないということが果たして教育なのか。銃の重さを知り、これで人が死んでいくというリアルな実態が分からないといけない」と話した。
横須賀市内の高校を卒業。当時、ギターを手に基地前のどぶ板通りに足を運び、米兵から弾き方を教わった。「その米兵があした、あさってにも戦地のベトナムに行くわけですよ。それはリアリティーがありました」。大学生になると、仲間を連れて反戦の学生運動デモに参加した。
滝田さんは、実体験を踏まえた価値判断の形成が教育には必要という。「もちろん今回は米軍にも責任はある。しかし、目隠しをして温室で育てた子たちが世界平和を語っても説得力はない。米国のように銃により守られているという実感を持つ人もいるし、銃で損害を受けている人もいる。情報をオープンにして現実世界を見せ、今の世界の情勢や日本の状態を知るべきだ」
銃に触れることは暴力性につながるか-。「銃を持ったら人を殺す人間になるなんてあり得ない。子どもを信頼していない証拠だ」と一蹴する。
「古今東西、子どもには怖い物見たさがある。おばけやエッチなこと、武器や兵器もそう。現実の世界を見ながら価値観を決めていく」。だからこそ、“臭い物にふた”をせず、親の責任の自覚を問う。大人が憲法や法律も学び実態を把握しながら想像力を巡らせ、銃体験に賛成なのか反対なのか伝えることが大切だと。「親の価値判断をちゃんと提示し討論しながら、ある程度、子どもたちと合意を付けていくことが大事。それが親のやることだし、社会がやるべきことでしょう」
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- (taquiner9)
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