浦和横断幕問題 処罰内容だけが重要か?

吉崎エイジーニョ | ライター

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"無観客試合"の報道が大部分

3月13日、都内のJFAハウスにて浦和レッズ淵田敬三社長が記者会見を行った。一連の「差別横断幕事件」についてだ。

翌日のメディアでは、やはり「処罰の内容」に大きなスペースが割かれた。浦和レッズにとってのホーム次戦、3月23日の清水エスパルス戦がJリーグ初の無観客試合となる、という点だ。チケットの払い戻しや売店収入が無くなることなどから経済的損失が1億円を超える水準になる。清水サポーターもこの日の試合をスタジアムで観戦できなくなるといった点だ。

ならばこの場では、違う観点から事を切り取り考えてみたい。

「JAPANESE ONLY」のメッセージの意味が何だったのか。

会見の結果として、この点がもっと明確に伝わっていくべきではないか。

そもそも問題の根源はここにある。誰に対して、何を言いたかったのか。

直訳すれば「日本人のみ」。このメッセージだけだと、さまざまな解釈が可能だった。インターネットを観る限り、「文字通り外国人は来るな」と言っているのだという意見があり、「現在レッズは外国人選手が負傷中のため日本人選手だけで戦っていると捉えた」という向きもあった。

13日の会見前までは、この内容の解釈についてほとんど報じられる事がなかった。クラブ側から当事者へのヒアリングの結果が伝わったのみ。「差別や政治問題化させる意図はなかったが、結果的にそのように受け止められる行為だったと反省している」とうもの。

会見では、記者団からの「どんな意図で掲げたと話しているのか?」という問いに対し、淵田社長がこう答えている。

「ゴール裏は彼らにとって聖地みたいなところで、自分たちでやっていきたい、他の人は入って来てほしくないという意図があったようだ。最近、浦和の試合には海外の観光客の方もいらっしゃる。そういう方が来て、統制が取れなくなるのは嫌だという言い方はしていた」

14日付の主要紙では、「朝日新聞」の朝刊で潮智史編集委員のコラムとしてこの内容を強調した程度だった。当然各媒体ともに時間とスペースの限りがあるなかで事を報じているため、致し方ない面もあるが。

誰に向けたメッセージ?

筆者は8日にこの報を聞いた際、自身の取材歴から直感的に「李忠成に向けた揶揄」と受け取った。

浦和の一部サポーターが李の獲得に反感を感じている話は聞いていた。浦和レッズがJリーグ20年の歴史のなかで韓国から獲得した韓国人選手は1名。そういった歴史を持つクラブにあって、在日コリアン4世として育ち、21歳で日本国籍を取得した李の獲得を快く思っていないという話だ。

試合直後にチームメイトの槙野智章が「いっしょに戦う選手にそれはない」という主旨のツイートを行ったが、これも李のことを擁護する内容と理解した。そういった温床は確かに存在する。また一部メディアも「途中出場した李にブーイングがあった」という点から関連付けた報道をしている。筆者自身も韓国メディアにこの主旨で記事を書いた。クラブがライバル国の選手を獲得してこなかった歴史は尊重すべきもの。しかしレイシズムは絶対的な悪だと。

ところが事の推移を見ていく過程で、先に挙げたような違ったポイントが見えてきた。事の根幹があいまいなまま「人種差別はよくない」という意見が強く出てくる状況になった。

横断幕を掲げた当事者たちが「差別の意図がなかった」と言う以上、これ以上追及のしようがないのだろうか。だとしたら、社長が公の場で発言した「聖地たるゴール裏に外国人は来るべきではない」という主旨がそもそもの「処罰の対象」ということになる。

あいまいさがJリーグの首を絞める

23日の「無観客試合」が報じられることにより、事の重大性がより広く伝わっていくことだろう。この際に「人種差別」のキーワードばかり目立ち、「何が問題だったのか」がより明確に伝わっていかなればJリーグは自らの首を絞めることになる。

近年のJリーグのスタジアムでは、コアサポーターの「過激さ」が問題視されるケースが多々ある。

この問題の背景には、「何がアウトで何がセーフなのか」の基準があいまいな点がある。今回のケースは明らかに後者だが、他のケースではコアサポーターの考える「対戦チームへのライバル意識の表現」が周囲に対して浮いた形になるのだ。

そのためにどんどん「言葉狩り」のような状況が出来てしまっている。本来ならお笑いで済ませられる話も、シリアスに捉えられてしまう。古い話になるが、2001年5月に「金町ダービー(柏レイソル-FC東京)」を取材したのだが試合前に柏レイソルサポーターが東京をこうおちょくった。「農協! 農協!」。記者席で爆笑した。FC東京サポーター側からも拍手が起きた。そういうことがどんどんやりにくくなる。「過激さ」「お笑い」といった要素は、サッカー場がつくりだせる貴重な非日常的要素のはずなのに。

今回のような影響力の大きい事態でこそ「何が問題だったのか」を明確に示さなければ、より締め付けは厳しくなっていくのではないか。あいまいさを残したまま、ただ厳しくなっていくだけ。尖った雰囲気のない全くサッカー場なんて、コアなファンからすれば面白くもなんともない。過激さは上手く取り扱えば、よりスタジアムを魅力的に出来るものなのだ。絶対的に封鎖すべきではない。

加えて、サッカー界の外に対してはっきりと「何が問題なのか」を示すべきだ。今回の件の究極的な問題解決とは、レイシズムをサッカー場から追い出すのではなく、社会全体から無くしていくことなのだから。

そういった意味では、現状の浦和レッズ側の発表は少しクラブを不利にしているのではないか。ややあいまいで、問題を徹底追求した、という印象が受けにくい。重要な内容なので再度強調する。

「ゴール裏は彼らにとって聖地みたいなところで、自分たちでやっていきたい、他の人は入って来てほしくないという意図があったようだ。最近、浦和の試合には海外の観光客の方もいらっしゃる。そういう方が来て、統制が取れなくなるのは嫌だという言い方はしていた」

重ねて言うと、現状では今回の人種差別の意味は「聖地たるゴール裏に外国人は来てほしくないというメッセージ」と解釈できる。それでよいだろうか? いずれにせよ、真意をもう少しはっきりと知りたいところだが。

日韓欧。洋の東西との比較で見える「日本って何だ?」を描く。舞台は幅広くサッカーから政治経済・エンタメ・北朝鮮事情まで。元々は大阪外大(現阪大外国語学部)朝鮮語科卒の韓国語スピーカー。それだけじゃつまらないと05年にロナウジ―ニョから拝借したペンネームを採用した。「Number」で7年、「サッカーマガジン」で12年の連載歴あり。現在は「スポーツソウル.com」に連載。韓国語で韓国に情報発信する数少ない書き手でもある。06年にはドイツ在住歴もあり、関連サッカー書籍を14年5月に刊行予定。「洋の東西との比較」で攻めまくります。本名英治。74年生まれの北九州市出身。著書・翻訳書刊行は過去に8度ほど。

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