- この記事は前回の EPUB編集ツール「Sigil」が苦境!? いったいどうなるの? の続きです
反省してみた
電書ちゃん はぁい、ろすちゃん。最近元気ないわね。
ろす うーん、なんだか胸のあたりがモヤモヤするんだよなあ。
電書ちゃん あんた前回の記事で「Sigil使う人は素人さん」みたいな発言したのが気になってるんでしょ。一応フォローしてあげたけどあんたらしくないな、とは思ったわ。
ろす うん。別に炎上したわけじゃないんだけどね。僕だってこれまで何度か毒を吐いたりしてるんだよ。でも前回の発言は普段と違って後味悪かった。どうしてなんだろう?
電書ちゃん 毒舌は向ける相手を間違えるとただの暴力にしかならないの。Sigilを使ってる人はあんたにとって立ち向かうべき相手なのかしら? 本の作り方がわからなくて困ってる人じゃないの?
ろす だけどさあ、僕は悔しいんだよ。せっかくのみんなで使える標準フォーマットができたのに、間違ったノウハウが広まって定着してしまうのが。そういう時には強い言葉を使って警告しないと届かないんじゃないか、と思った。
電書ちゃん でもそれは二次的な問題にすぎないわ。根本的な問題は正確なEPUB 3を出力できる使いやすいツールが少ないこと。そこさえ解決できれば、今みたいな問題は生まれないはずよ。
いい? ろすちゃん。あんたが入れ込んでるEPUB 3は、横書き前提で進化してきた仕組みにいきなり縦書きを突っ込んで、実装やテストも経ずに急いで作り上げられたフォーマットなの。そんなの使ったら困難があって当たり前よね。でも仕方ないじゃない。あのタイミングで日本には他に現実的な選択肢がなかったんだから。みんなで手探りで使いながらノウハウを蓄積したり改良したりしてゆくしかないじゃない。誰かを非難して解決できる問題じゃないわ。避けられない困難。つまり運命みたいなものなのよ。
ろす 本当に相手にすべき問題はそれなんだね。それから僕たちは標準に準拠していないEPUBを作る人たちに向けて、どんなスタンスを取るべきなんだろう。
電書ちゃん そうねえ。あたしに言わせるなら、オープンな標準フォーマットっていうのは、それを大切にしたい、と考える人たちの思いで成り立ってるのよ。みんなで定めたルールをみんなで尊重しましょう、という思い。でもそれに強制力はないの。標準に準拠しなかったからといってW3C警察やEPUB警察が乗り込んできて逮捕されるなんてことにはならないでしょ。尊重するかどうかは、それを使う人がそれぞれ自分で判断すること。それが自由ということ。自由を大切にしない出版人なんてあたしは絶対に信じないからね。
でも、最終的には使う人の判断に委ねられるとしても、その判断をお手伝いすることくらいはあたしたちにだってできるわ。標準を守ることのメリットとデメリットを提示して考えてもらうの。というか、あたしたちにはそれしかできないわよね。
ろす うん。なんだか胸のモヤモヤがだんだん晴れてきた気がするよ。罵倒されて気を悪くした方、ごめんなさい。これからも僕たちといっしょに電子書籍について考えてもらえたら嬉しいです。
頑張れSigil
電書ちゃん ところであんたの記事は、別の反応も引き出してしまったみたいよ。
朝から世の中はクローズドなエディタ(念のため書いておくとAtomのことです)で盛り上がってるのを微妙な気持ちで横目にしつつ、それなりに知名度の高いFLOSSなEPUBエディタが活発じゃないからということでフェードアウトしていくニュースを読むのはとても悲しいわけです。いやまあEPUB3はまともに作れないので日本語環境では難があるので素人にも玄人にもお勧めできないというのは分かりますが(とはいえ日本語でも技術書とかは横書き一択なので別にEPUB2でも困らないという話もありますが)、だからといってそこで直接の代替アプリがあるわけでもないのに「使わない」という選択肢しか選べないのなら、いったいぜんたい何のために私たちはオープンソースソフトウェアを使っているのかという話になるわけですよ。なんていうか、私たちがこんなんだから自由じゃないエディタに一喜一憂しないといけないわけですよ。だめじゃん。だめだめじゃん。
というわけで、せめてビルドくらいはしてみようということで試してみた結果がこの記事です。別にビルドしたくらいで何かが変わるわけでもないのですが、一歩一歩の積み重ねによってしか大きな成果が生まれないというのも、特にFLOSS界隈ではごく日常的に見かける風景です。ただでさえ電子出版界隈はごく一部しかオープンにならない気がして仕方ないので、そんな息苦しい風土をちょっとずつでも変えていければ、という願いを込めて、この記事を書きました。
ろす オープンソースエンジニアの誇りと優しさを兼ね備えた高橋征義さんマジでいい人。僕が人生に悩んでいるとアドバイスしてくれたりもするし。しかもそのアドバイスが全く押し付けがましくなくて、ほんと尊敬してます。
プログラミング初心者の僕にとって、Sigilの改修はお手上げでした。代わりにでんでんコンバーターを作ることくらいしかできなかった。でも高橋さんの言うような積み重ねによってSigilを救える可能性もあるかもしれない。自分にもなにかできそう、と思った方はノウハウを共有してみてください。早速sakuraSoftwareさんも投稿しています。
次回予告と「おめでとうございます」
電書ちゃん とはいえ、Sigil以外の選択肢も考えてゆかないといけないわよね。今回は他のツールについて考える記事にする予定だったのに、ろすちゃんが悩んでたせいで反省会になっちゃった。
ろす 残念だけど次回ってことで。ところで電書ちゃん、実はもう一つ心配事があるんだけど。
電書ちゃん 何よ。ついでだから聞いてあげるわよ。人生経験豊富なあたしにドーンと相談しなさい。
ろす 実は最近『数学ガール』の結城浩先生とソーシャルで絡んだりするようになって、とても光栄で嬉しいんだけど……
電書ちゃん あー、あんた重度の数学恐怖症だったわよね。
ろす うう……高校1年の1学期で早くも数学に挫折してテストは毎回赤点。2年になって数学のない私立文系クラスに逃げ込んでからは、極力数学に近づくのを避けて生きながらえてきたんだよ。おかげて今では二桁の足し算にも手間取る始末。それがどういうわけか技術寄りのクラスタに属することになり、必死でエンジニアのふりして振る舞ってるなんて、とても表沙汰にできない。もしバレたらと思うと不安で不安で。
電書ちゃん おしまいね。きっとあんたは逆上した結城センセに素因数分解されて斃れるのだわ。「ふぃぼなっちッ!!」なんて小者臭い断末魔上げて、口からおびただしい量の数列をぶちまけながらね。
ろす なにそれ怖い。
電書ちゃん それで死ぬ間際に血文字で数学っぽい暗号のダイイングメッセージ残そうするの。でも哀しいことに数学的素養がなくってね、何も思いつけなかったから仕方なく「祝・日本数学会賞出版賞受賞! 数学ガールの秘密ノートも好評発売中!」って書いて静かに息を引き取るの。ホントかわいそう。
ろす 泣きそうだ。
電書ちゃん ふん、せいぜい素数でも数えて命乞いすることね。
ろす ううぅ……1……
電書ちゃん はい、アウトーッ!
結城先生おめでとうございます
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