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第六話 出落ち、それは最初の魔法w

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えー、本当に週刊になっているわけですが、まぁ、来週もあるとは限りませんw




 

 横島忠夫、その名前は様々な波紋を起こす。

 

 

 昨今の地道で強大な活動はGS協会内でも評判になっており、出来れば自分の派閥に取り込みたいと思っている人間も多い。

 しかし、彼は美神令子の弟子であり「美神令子除霊事務所グループ」であることを公にしている。

 つまり、六道の声がかりであることは間違いないのだ。

 正直に言えば欲しい、しかし無理、それが協会内の派閥における常識であった。

 とはいえ全く粉もかけないのは腹立たしいというわけで、この程噂になっている横島GS主演映画でも見に行くか、と重い腰を上げた幹部が数名。

 

 

 しかし、ところ変われば評価も変わる。

 

 

 評価が高いどころではない神魔の間では、どのレベルの神魔までが見に行ってよいかという論議が恐ろしい密度でおこなわれ、姉弟子・戦友・師匠・義姉妹あたりまでが許可された。

 で、人間界での救国の女神、は出さないわけにはいかないので、しぶしぶ許可された訳だが、それであれば自分だって行けると騒いだ者もいる。

 

 天竜童子、その人。

 公のルートで横島を「家臣にする」と宣言した人物、というか存在である。

 まぁ、龍族はそれを看板にしているが、契約支度金ともいえる金を美神令子が着服しているので契約は成立していないというのが神魔の常識となっている。

 横島自身も「洒落」であると考えているようなのがそれを後押ししているが。

 ともあれ、泣くわ喚くはダダこねるわと大騒ぎになったが、さすがに龍族だけ贔屓もできず今回は見合わせとなっている。

 次回の機会はどうにか、ともなっているが。

 

「殿下、どうしても映画を見たいのでしたら、横島さんにお願いして妙神山での上映会をしてもらいましょう。それでご満足いただけませんか?」

「・・・うむ、小竜姫、たのんだぞ」

「はい」

 

 まぁ、彼女としても正面から誘える機会なので逃さないだろうし、神魔勢両陣営ともに勧誘の機会を得たようなものだ、許可されることは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 数々の柵、数々の人間関係。

 そう、人は生きて行くだけで関係を広げてゆく。

 しかし、そんな人間にとって根幹ともいえる人間関係がある。

 

 

「まーったく、あの愚息。何の連絡もしないで・・・」

「仕方ないだろ、百合子。あいつも今や一国一城の主だぞ?」

「そんなの、高校卒業してからでもいいやろ!」

「普段から自立を促す母親を演じてるくせにか?」

「・・・子供は、もう少し子供でいていいはずや」

 

 

 とんでも夫婦が子供の成長を図るために飛び立つ。

 いまだ混乱も激動もない麻帆良にだが、それは間違いない一歩であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 横島の高校生教室、某女子中学生教室が完成したのち、前祝だという事で何故か横島事務所に大勢の生徒が集まっていた。

 基本、かなり大きな喫茶店店舗であった影響で三クラスぐらいははいる容量であるが、大騒ぎには向いていない。

 加え、いつもの常連高校生や中学生もふらふら現れたので、なんだかもう良くわからない騒ぎになっていた。

 

 

「ま、とりあえず、新田先生なんかもよく来るから、あんまり騒がないでくれよー」

 

 という横島の忠告も、祭り前のハイ気分に押し上げられて流され気味であったりする。

 

「あー、こういう騒ぎもいいもんやなぁ」

 

 思わず零すようにつぶやく銀一であったが、今回の麻帆良滞在は大きく得るものがあったようであった。

 

「ま、一歩先に大人になった銀ちゃんにゃぁ、まぶしい光景か?」

「そうやなぁ、まぁ、振りかえれば懐かしい、そんな感じやけどな」

 

 ふふふ、と笑う二人。

 それを密かに写メする女性との多いこと多い事。

 

 一応、銀一が横島事務所に滞在していることは有名だが、未来の名作のために涙を呑んで干渉しないことがファンクラブで決められており、また、全女生徒による密着監視体制によって不心得者もゼロであった。

 ただ例外的に横島事務所関係者が生活方面とか仕事関係で交流することは「ギリギリ」許可されており、そんな関係を望む者たちをギリギリさせていた。

 

 実は麻帆良極地地域でいえば横島や雪之丞の人気も負けていないため、一種のアイドルグループとその事務所という扱いであった可能性もあるのだが、詳細は不明である。

 

 

 

 

 

 

 夜半も過ぎれば燃料切れになる生徒も出だし、ぞろぞろと寮に戻る流れなのだが、なぜか横島事務所参加組やそのクラスメイトはどっしりと居座っていた。

 そろそろ門限じゃないのかぁ~的な話を横島が振ってみたが、実は麻帆良の寮に門限はないそうで。

 これが麻帆良の外の街で夜遊びしているというのならば問題にもなるらしいが、麻帆良の街の中という条件であればある程度自由がきくそうだ。

 

 このフリーダムさの背景には「魔法使いによる治安」というデッカイ看板に対する自意識過剰なまでの自信があることがうかがえるわけだが、その辺は突っ込まない横島。

 なにしろ、その辺位細かく突っ込んでいると突っ込みきれないほど麻帆良という街は突っ込みどころ満載だから。

 外から見ていると、秘密主義でガチガチの鎖国状態に思えた麻帆良だが、中から見ると「のんき」過ぎてこちらが心配するほどであった。

 それは基本的に「魔法」の万能感からくる盲信なのだが、外界との接触を断つ方向の「秘匿」意識も自らを特別視するような感覚を増長させ、一種の「廚二病」を魔法使い全体で発症しているとも言い切れる。

 これにより身を持ち崩した魔法使いはかなり多く、オカルトGメンの牢獄を占有しつつあるMM工作員や、某NGOで活躍中の無精髭元教師などもその方向性だと言えるだろう。 

 

「じゃ、おとまり女子は風呂に入るわよ~」

「「「「「は~~~~い!」」」」」

 

 タマモの掛け声に、周囲の女子が喜びの声を上げる。

 

 横島事務所開設に際して改造された設備の一つ、大風呂がある。

 これは魔鈴めぐみの魔法技術による異空間拡張が用いられており、家族風呂程度の面積に麻帆良女子寮の大風呂とほぼ同等の湯船が仕掛けられている。

 設置に協力した魔鈴めぐみも度々入りに来ており、大きなお風呂はいいですねーとかいいつつ横島の目の前を通り、煩悩の炎をたきつける真似をしたりしなかったり。

 で、このお風呂は魔法技術によっていつでも入れるように整備されているため、女子寮で入り損ねたという女子が時々利用しに来るのがお約束になっている。

 事務所所属の女子中学生もこのための下着などを自分のロッカーに入れているので、あまり違和感がなかったりする。

 

「え、みんな下着もってきてるの?」「うわ、替えの下着取りに戻ったらそのまま寝ちゃうかも」

 

 ざわざわとする常連女子学生に横島が苦笑い。

 

「なんなら雪之丞にコンビニまで護衛させるけど?」

「「「「「よろこんで!!」」」」」

 

 かなり肉食系の笑みで微笑む女子学生を見て、さすがの雪之丞も引き気味であったりする。

 

「つうか、銀ちゃんは小浴場な」

「小浴場って、あれ、十分大きいやろ」

 

 面積的に言えば大浴場にはるかに及ばない湯船だが、10人ほど入っても十分余裕がある時点で大きいと断言できるわけだが、大浴場はプールレベルなので何とも言えない。

 

「じゃ、寮に帰る女子は送ってくぞ~」

「「「「「はーーーーい!!」」」」」

 

 数人の女子が手をあげてきゃいきゃいしていた。

 ・・・というか。

 

「アヤカちゃんや。2-A全員のこってるんけど、ええんか?」

「・・・ご迷惑おかけしますわ。ですか、この雪広アヤカの名において、これ以上のご迷惑は・・・」

「いいんちょー、そろそろおふろいくわよ~」

「おまちになって、アスナさん! ・・・というわけで失礼しますわ」

 

 きゃいきゃいと年相応に楽しそうにしている少女たちを見て、なんだかいいもの見たなーという気分にさせられた横島であった。

 

「よこしまさ~ん、おくてってくれるんでしょ~~~~♪」

「ほいほーい」

 

 流石に送り狼になる気の無いのは相手が女子中学生だからなのか、ポケットで輝く「自/制」の文珠のおかげなのか、それは横島本人しか知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 開会式とかそういう公式行事はない。

 なにしろ都市全体がお祭り状態になったのだ。

 パレードあり、航空機によるデモ飛行あり、飛行船なんか飛んでいて都市全体に響くような宣言が起きたのだけは判った。

 

『『『『『『・・・・回、麻帆良祭、かいま・・・・』』』』』』

 

 周辺全てのスピーカーから放送された宣言は、電気的な伝達速度の差から微妙にずれて重なり合い、そして重要な部分しか聞き取れなかったが、既に人気店へ行列している人間も、目的地に走っている人間も合わせて拍手を行った。

 そして、今この瞬間に開店する店があった。

 

 

 

「「「「「喫茶店『Arbor(アーバー)』へようこそ!」」」」」

 

 

 

 基礎コンセプトが「御休憩」なのは名前で知れるわけだが、やはり保護者や学外級友などが一番に来るパターンもあり、開店の段階でほぼ満席に近い状態になった。

 

「へぇ、この椅子、普通の学校の椅子じゃないけど・・・手作り?」

「はい、知人に特異な人がいるので、発注しました」

「へぇ、木工が得意って、面白い人ね」

「いいえ、存在が『特異』なんです」

「・・・・?」

 

 まぁ、目の前でモリモリとテーブルや椅子を作り上げられた彼女たちからすれば、【特異】扱いなのは仕方ないだろう。

 これで好感度が低ければ「変態」「異常」と呼ばれるであろうことを考えれば、かなり譲歩しているともいえるのだが。

 

「まぁ、素敵な雰囲気ね」

「いらっしゃいませ、しずな先生」

 

 喫茶店『Arbor(アーバー)』である2年A組の担任である源しずながやってくると、保護者、それも男方やふらりとやってきた男子学生などが少し盛り上がる。

 

「どう? 問題はなかったかしら、雪広さん」

「はい、しずな先生。色々とお世話になっている人もいますけど、みんな元気です」

「そう、よかったわ」

 

 その笑顔に少し歪みがあるのは、「色々とお世話になっている人」に大きな心当たりがあったからであった。

 一般教師から、それも学年主任にして鬼の風紀新田から絶大な信頼を得つつも、魔法先生からも大きな支持がある少年、いや、彼と称してもおかしくない人物。

 

 横島忠夫。

 

 様々な騒動が彼を中心として起こっているが、しずなにとって一番大きい話と言えば「高畑」であろう。

 それなりの交流のあった、そして引かれていた相手であった。

 苦労性でお人よしで、現実の中で子供っぽさが抜けない感じが危なっかしくて、気になる人、であった。

 魔法世界では英雄の一人とされていたが、いつまでも子供っぽさの方がしずなには感じられる相手であった。

 

 あの服装も、たばこも、全部自分の師匠の真似。

 生活破綻者でお酒に弱くて、そして誰よりも「正義」を好む。

 女の身では理解しがたい価値観を堅持し続けている気もしたが、それは自分が理解すればいいかもしれないと思っていた、

 

 しかし、横島忠夫の登場でそれはひっくり返った。

 高畑が意図的に放置していた問題、神楽坂アスナの存在を突きつけたのだ。

 横島にしてみれば許せない行為であったのだろう。

 もっとケアすべきだと主張したとしずなも理解している。

 だが、高畑の出した答えは独善的なものであった。

 

 己の英雄としての立場をとったのだ。

 

 これは女である以上に人間として許せないものであり、怒りを覚えた。

 少なくとも誰かを助けたというのならば、最後まで、少なくとも相手の安全が完全に確保された時点で誰かに引き継ぐべきなのだ。

 それを放置という形で縁を切らず、自分に依存させていたというだけでも酷いのに、それを今になって断ち切ったのだ。

 もっと早くならば問題はなかった。

 思春期に入る前であれば新しい両親への依存にすり替えることもできただろう。

 しかし、親愛を恋ととらえるほどに心が成長してからの拒絶とは、あまりにもひどすぎる話だ。

 もし、横島忠夫の存在がなければ、神楽坂アスナは最悪の選択すらしていたかもしれないのだ。

 とはいえ、初めから横島忠夫の存在がなければ、今まで通りのぬるま湯な関係が続いていたかもしれない。

 破たんし修復した状態から見れば、何とも唾棄すべき状態に見えるものであるが、初めから破たんせずに恋心が別の誰かに向くまで待てばよかったという見解もある。

 

 そう、横島忠夫が最初に求めたように、親身になって相手をしていれば、親愛を親愛と理解して、その時間の中で年相応の恋を見つけたかもしれない。

 

 でも引き金を引いてしまったのは高畑であった。

 

 たしかに横島忠夫はシグナルだったかもしれない。

 魔王という存在に打ち勝った高校生などという判りやすすぎる英雄像は毒物以外の何物でもなく、高畑はそれに触発されてしまった。

 

 今だ彼は自分の選択した内容に疑問を感じていないかもしれない。

 だが、それは決定的に常識から外れた選択であるとしずなは感じていた。

 そう、女の常識、人の常識。

 魔法使いの常識など知った事か、と内心唾を吐きそうになるしずなであるが、それを表に出すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(今頃、麻帆良は学園祭か・・・)」

 

 

 

 

 一週間にわたる長期襲撃は迎撃任務にあたる者たちに絶望的な疲労と与えていた。

 英雄の息子、ネギ=スプリングフィールドを狙った襲撃は魔族召喚、鬼族召喚と大物量作戦となっており、今まで経験をしたこともないような激戦となっていた。

 

 幾人もの魔法使いが倒れたが幾万の魔物たちが送還された。

 

 しかし背後の学院には一歩たりとも触れさせない。

 少なくとも、彼が、ネギ=スプリングフィールドが健やかに過ごす時間だけは確保したいと願う高畑の意志の固さだけで戦線は維持されているともいえる。

 

 

 無詠唱で乱射される魔法の矢。

 少しの動作で放たれる居合拳。

 ひと時の平和を維持するために、拳は血でまみれてゆく。

 

 

 確かに途切れてしまった絆はある。

 神楽坂アスナ、いや、「アスナ=ウェスペリーナ=テオタナシア=エンテオフュシア」。

 大切な仲間、偉大なる師匠から預けられ、麻帆良へ送った少女。

 彼女は今思えば癒しであったのだろう。

 あの大戦を潜り抜け、そして「それ」を成したという確かな成果だったのだから。

 彼女と共に過ごす日常こそが癒しであった。

 しかしその絆は切れた。

 いや、自ら断った。

 

 

『「いま、手に取れるのは一つだけ。愛おしい妹分か自分の夢か。妹分を手放すなら二度と触れるな。妹分を手に取るなら二度と手放すな」』

 

 

 至言であった。

 事実であった。

 現実であった。

 

 たった一つに気付くまで、様々なものを失い、様々な絆を失った。

 そしてたった一つ、ただ一つの夢だけは失いたくない、と理解した。

 だから、だから。

 

「君たちの野望、すべてをたたき伏せる」

 

 

 

 

 

 世の中に戦争の英雄は数多い。

 しかし、戦争の英雄は勇者にはなれない。

 より多くの存在を救うために選りすぐった相手を殺す。

 この行為に勇気はなく、そして意思はない。

 

 人間相手の戦線を維持するのは政治。

 人間相手の戦意を鼓舞するのは政治。

 人間相手の戦争を意図するのは政治。

 

 政治政治政治。

 

 この世界に判りやすい悪などいない。

 誰しもが意図をもって戦争を起こし、誰もが意志をもって戦争を続けている。

 戦線の奥にいる「政治」が。

 この構図を理解していない時点で、彼が正道へと立ち返ることはないだろう。

 守っているという実感と、叩き潰しているという実績。

 しかし大局的に見れば「兵士」の行為に過ぎない。

 戦って、戦って、戦い続けて。

 無限の先頭を超えた先にあるものは、単なる肉体疲弊と戦力消耗、そして精神の摩耗。

 これが自己喪失という不幸への道なのか、無名戦士の死という幸福への道なのかは誰も理解できる話ではない。

 ただ、どこかで道が切り替われば、再び絆が増えるやもしれない、それだけが希望だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 出迎え、に麻帆良中央駅にいったところ、物凄い感じになっていた。

 美神・氷室・犬塚、とかなり個性的な美女美少女に人ごみの輪が出来上がっていたからだ。

 これが以前の地元であればナンパ男達に群がられているのであろうが、麻帆良は良い意味で善良な人間が多い。

 祭り時期で来訪客が多いのだが、それでも基本属性が間違いなくそちらの方向であったりする。

 

「横島君、こっちよ!」

 

 笑顔で手を振る美神令子に横島が手を振り返す。

 そんな行為でさえ以前の土地なら嫉妬や陰口がついて回ったものであるが、麻帆良では・・・

 

「すげぇ美人と知り合いって、ああ、横島GSか」

「やっぱGSはちげぇ」

 

 とまぁ、こんな声が好意を込めてささやかれる。

 来訪客も好意的な視線で、関心などもしている。

 

「女を待たせるなんて、男失格よ?」

「待ち合わせの三〇分まえに来てるってのは想定外ですよ、美神さん」

 

 言外、子供みたいにはしゃいでいることを指摘すると、少し赤くなって視線を逸らす美神。

 

「横島さん、そんなこと言わないでくださいよ、もう」

「そうでござるよ、横島先生。美神殿は昨日の晩から楽しみにしていたのでござるよ?」

「なによ! あんたらだって楽しみにして夜更かししてたの知ってるのよ!?」

 

 真っ赤になった美神をみて、思わず内心にやついてしまった横島。

 そう、「あんたら『だって』」なのだから。

 

「まぁまぁ、美神さん。起こってないで、ね」

 

 にやにや笑いの横島をとりあえず殴って麻帆良祭初日を堪能し始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

「・・・流石、麻帆良。この妖気・・・すごいわ」

 

 驚きと冷や汗で顔をゆがめる美神。

 

「あー。美神さん、一応学園長は人間らしいっすよ?」

 

 自らの情報開示で美神をフォローする横島であったが、別方向のフォローにはなっていなかった。

 

「なにげに失礼じゃな、君ら」

 

 とりあえず、裏でも表でもトップである近衛近右衛門と面会という出だしな訳だが、一応「ギャグ畑」の人間として必要なボケを絡めないといけないと言う責任感が支配した空気であることは避けられない。

 その責任と施行、それが美神事務所の能力だから。

 

「・・・失礼しました、寿老・・・いえ、近衛老」

 

 実物を知っているだけに、ボケだけではなくそう見える美神であった。

 

「・・・あー、美神令子殿。この麻帆良にあなたの大切なお弟子さんを派遣していただいたことを感謝しているのじゃ」

 

 一応仕切り直し・・・になりきっていないものの、近右衛門も「いつものこと」なのでスルーするあたり、横島に対応できているおかげだろう。

 軽い歓談の後、今後の方針や協力関係なども打ち合わせることが出来た近衛近右衛門にとって、この麻帆良祭は良い滑り出しであったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 雪広アヤカの誘いで行った「乗馬体験」であったが、犬塚シロは馬に怯えられ乗れず、おキヌは大人しい馬なのにバカにされて好き勝手に乗せられるという微妙な状態にはなったが、それは乗馬部員としてもチャレンジしがいのある題材であったため、様々なチャレンジが試みられたが、おキヌには横島が同乗し解決するほか無かった。

 シロに関しては、乗馬部内でもっとも暴れ者の馬が、シロの前につれられてきたとたん、腹を見せ横たわり目を閉じたのをみて誰もが理解した。

 

 

「「「「「(死ぬのを覚悟したんだ)」」」」」

 

 

 某暗殺拳ではないが、捕食される者が捕食するものと出会ったとき、あらゆる判断があるが、その中の一つであると誰もが認めた瞬間だった。

 以降、その馬は従順になり、部内でもっとも素直な馬になったと言うが、それが一度覚えた死の恐怖からの逃避であることは間違いなく、さすが食い気選考は違う、と横島は感心したのだったがそれは未来の話。

 

 なんの抵抗もなく、どんな馬でも乗りこなす美神は逆に感心され、さすが一流は違うとアヤカも驚かされたが、実際美神にとってはおキヌの方がうらやましい。

 持ち前の意固地が表にでて、そんな表情は全くだしていなかったが、横島には美神の背後の気配を感じて、早々に乗馬体験の撤退を決めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ちょうどお昼と言うことで、横島は知人の出展である「超包子2」に美神達を案内した。

 

「おお、美神先生の娘さんネ! 是非とも御馳走させてもらうヨ!!」

 

 という超鈴音の熱烈歓迎を受けて、美神令子は内心の冷や汗を隠せないでいた。

 

「(ママ、どれだけ弟子の幅を広げようって言うのよ・・・、というか何処に向かってるのよ!?)」

 

 弟子、というか雇用関係で「幽霊・妖狐・人狼」がいて、密かに居候で「妖精」までいる美神令子も人事ではないのであるが、そのへんは親子と言うことで。 ともあれ、五月も大いに張り切っており、注文とは別枠でドンドコ料理を山のように出すのをみて、流石に美神も「いや、そこまで出してもらわなくても」と苦笑いであったが、逆に超と五月に驚かれる。

 

「「え、GSとかオカルトの人って、いっぱい食べるんじゃないんですか?」」、と。

 

 さて、彼女たちの知るオカルト関係者を列記しよう。

 

 ・横島忠夫(大食い)

 ・伊達雪之丞(大食い)

 ・ドクターカオス(大食い)

 ・犬塚シロ(大食い)

 ・氷室キヌ(小食)

 ・タマモ(妖怪枠)

 ・愛子(妖怪枠)

 

 なんと大食いの多いこと。

 指折り数えられて説明され、ひどい頭痛を感じた美神であるが、その背後で「こりゃうまい」と連呼してカキコむ横島とシロの姿を見れば、もう否定など出来るはずもなかったわけで。

 

「あー、ありがとうね、超さん、四葉さん」

 

 まぁ、この対応が順当であることは疑いない。

 まるで計算されたかのように、美神一行が満足する頃にはテーブルの上の料理はなくなっていたのでった。

 

 

 

 

 

 

 武術大会、ウルティマホラの予選会場に誘われていた横島は、見物に美神達も誘ってつれてきた。

 わりと武力寄りの事務所と思われがちの美神や横島だが、除霊というものが力業ではないと理解しているが、それでも体捌きは無駄ではないことも知っているので、たとえ学生の大会でも興味がないわけでもないのだ。

 

「・・・おお、あの乙女、スゴいでござる」

 

 予選も大詰め、バトルロイヤルを抜きんでた数人の選手が、自分の技を披露している会場をみてシロはうめいた。

 

「あー、あれがウチの事務所にも遊びに来る古菲(クーフェイ)、くーちゃんだ、シロ」

 

 通称バカンフー。

 横島制作の罠群を喜々として試して引っかかるという迷惑千万な存在だが、不思議と人好きのするタイプである。

 

「へぇ、大陸の留学生?」

 

 名前もあるだろう。

 しかし、それ、そのものから感じる気配というモノがある。

 立ち振る舞い、動作、そして姿勢。

 

「ええ、実家が拳法の良いところらしくて、形意拳とか八卦掌とかが得意らしいっすよ、美神さん」

 

 聞けば八極にも手を出しているという話だが、それは「死合」になるからやめとけ、と横島も苦笑い。

 

「ふぅん、でも、なんかこう、麻帆良っぽくないわね」

 

 クーフェイの攻撃には、積み上げてきた功夫以上の何かを感じるモノがなかった。

 それは卑怯結構メリケン粉を地で行く美神令子にとって背骨のような何かがないような感覚を覚えるものであろう。

 加えて麻帆良と言えば「秘匿された魔法の閉鎖都市」。

 

「ああ、それはあれでしょう、気とか霊力とか絡んでないからじゃないっすか?」

「あら、アレほど技が練られていれば、気、というか発勁ぐらいには至っていてもおかしくないんじゃないの?」

 

 拳の重さは、正しく積み上げられた功夫によって決まるといえるだろう。

 1の天才の努力を1000の凡人の努力が覆す。

 それが拳法というものであると美神は言っているのだ。

 

「んー、挙動一致、ぐらいで壁にぶち当たってる感じですね。で、留学中なんで師がいないからその殻が破れない、っと」

 

 正しい努力の積み重ねを行っても、その先にある真実に届くのは一握り。

 正しい努力を正しい方法で、常に行い続ける中で生まれる壁を導く者が居て初めて成長という階段が開かれる場合もある。

 

「えーっと、一応、2m近くの男の人を、パンチ一発で吹っ飛ばしているんですから、すでに十分じゃないですか?」

 

 冷や汗をかきながら言うおキヌに、横島・美神・シロが首を横に振った。

 三人曰く、まだまだ伸び代があるんだから、と。 

 

 そう、シロですら気づける先があるが、それを理解できる環境ではないことも彼女にとっての不幸だろう。

 技巧者はいる。

 技能者はいる。

 しかし、真の達人がいない環境では、そこに至ることはない。いや、至極まれに至る者はいるが、その道はひどく長く険しい。

 下手に教わると下手になる、そういうことなのだ。

 

「お、くーちゃんの勝利か」

 

 最後の一人が古菲に吹き飛ばされ、予選の一位通過が決まった瞬間だった。

 

「クーフェイちゃんが頭二つぐらい抜きんでてるから。まぁ学生レベルじゃないわよね」

「そうでござるな。クー殿の力はすでに一段上に行ってもいいのでござろうが、師匠に一度相談するべきでござろうなぁ」

 

 武術という者は、自分を育てるものであるといえる。

 その武術で行き詰まったのならば、その師に相談するのは当たり前であるとシロは真剣に考えている。

 それで答えがでないこともある。

 しかし、進む道の形ぐらいは掴めるものだから。

 

「おお、横島さん。見に来てくれタカ!」

 

 にっこり微笑む少女、古菲にいろいろとみんなでほめ言葉をかけていたのだが、すこしだけ彼女の顔が曇る。

 

「・・・でも、麻帆良には真の強者がいない。修行にならないヨォ」

 

 がっくり肩を落とす古菲に、なにを思ったかもの凄い笑顔で美神はささやく。

 それを聞いた古菲の目が、徐々に明るさをとりもどし、最後には爛々と輝く獣のそれになった。

 

「・・・ほ、ほんとアルか!?」

「ほんとほんと」

 

 笑顔でうなずく美神をみた後、古菲は横島に詰め寄った。

 

「横島さん、優勝したら手合わせしてくれる、本当ネ!?」

「・・・えーーーーーー」

 

 思わず美神をみる横島だったが、やってやれ!と目で語る姿しか見えなかった。

 隣のシロも「拙者も手合わせ希望でござる」という目をしていたが無視。

 で、おキヌはというと・・・

 

「実は、さっきの試合の中で、古菲さんがもっと伸びる、もっと強くなれるって横島さんたちが話していたんですよ」

 

 と、よけいなことを言う。

 

「ほ、ほ、ほんとうアルかぁぁ!!!」

 

 もう、底なしの明るい笑顔で「パーーーー!」と輝く見せられたら逃げ場はない。

 致し方なく、本当に致し方なく引き受けることにした横島であった。

 

「ただし、麻帆良祭が終わってからだぞ、くーちゃん」

「わかったアル!!」

 

 この時点ですでに手合わせの約束をしているという見方もあるが、現実的な力量差をみれば古菲の優勝は決定的なので、麻帆良祭終了後という約束の方を重視した横島であった。

 

 

 

 

 

 

 午後からも回ったところの大半が、横島事務所へ遊びに来ている女学生のところばかりであったことに怒りを燃やしつつ深い関係をアピールする三人の女性であったわけだが。

 その手の行動は横島事務所でよく見るものであったため、アピールされる側も「いつものこと」と割り切っている姿はどうかと一般的に思う。

 訓練された者たちにとっては日常という段階で、美神事務所女子の敗北ともいえるのか、横島事務所的な日常の勝利といえるのか。

 

 そんな出展巡りの最終段。 

 横島のクラスの映画にご招待となった。

 美神達三人を薄暗い教室内に案内し、横島は一般職員出口から出て行く。

 

「じゃ、ゆっくり楽しんでください」

 

 上映が毎回満員御礼なので、カップルで誘導してきた者以外は外にでて入場可能者数を稼ぐという形に落ち着いたからだ。

 上映時間中、内部から響く効果音や歓声にどきどきしつつ、横島やタマモ・愛子までが緊張した風であった。

 雪之丞だけは会場に残っているのだが、これは弓と一文字そしてタイガーを誘導してきたためにカップル枠で場内に残っただけであった。

 このカップルにプラス1ピートも居たわけだが、これはエミによる独占囲い込みがあったため、逆に雪之丞が切り離したというのだから良い判断だろう。

 麻帆良に来てもっとも成長したのは雪之丞であるというエミの賞賛はカップルにしてもらったからだけではないことが伺える実例だったりする。

 

 しばらくの間をおいて、教室内の電気がつけられたと同時に万雷の拍手が漏れ聞こえた。

 そのことに手応えを感じた横島たちは、正面出入り口から入り、教室内の観客へ頭を下げた。

 

「みなさん、わざわざ見に来てくれてありがとぉ!!」

 

 わっと沸き上がる歓声に向けて横島が笑顔を向けると、そこには見知った顔が並んでいる。

 美神・おキヌ・シロ、雪之丞・タイガーピート、一文字・弓・エミ、小竜姫・老師・ヒャクメ・パピリオ、ワルキューレ・ジーク・ベスパ、美以・ケイ。

 冥子も美神美智恵もヒノメも唐巣神父も西条も。

 そして、GS個人活動を始めた際に知り合った妖怪たちが。

 誰も彼もが感動したと言っている。

 

「忠夫、がんばったな」

「忠夫、よくできてるよ」

 

 にっこり微笑む両親に、会心の笑みでグットサインを出す横島。

 それをみた周囲が、わっと沸いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 流石に事務所で、と言うわけには行かなかったので、麻帆良市内のホテルのパンケットを準備したが、料理に関しては何故か事務所人員が大いに盛り上がって作ってしまった。

 主にコノカ・千鶴。

 これになぜか超も加わると五月も負けじと加わり、非常にレベルの高いパーティー料理となってしまったのは誤算だったのかもしれないが。

 

「あー、すまんかったなぁ、五月ちゃん。今日も忙しかっただろ?」

 

「ー夜間営業無しですので、普段の営業より楽ですよ?ー」

 

 にっこり微笑む五月をカイグリしながら感謝を山盛りに送り、会場も楽しんでいってくれ、と微笑むと、五月も満面の笑顔で返した。

 

「いやいや、神魔でも楽しめるように、精進料理をベースにした満干全席って、もう、創作料理とかそういうレベルじゃないし」

 

「ーそれもこれも、横島さんのお話を聞けたからチャレンジできたんですよ? わたしはその場を与えてくれたことに感謝ですー」

 

 どうも感謝の方向と角度がお互いずれていることに気づかない、そんな勘違い系の会話だったので、タマモの介入でどうにか一時中断。

 

「あんたら、一生感謝し合ってるんじゃないわよ」

「「え?」」

 

 全く理解していない顔なので、むりやりタマモが挨拶周りに連行を決定した。

 

「五月、悪いけど『これ』もってくわよ」

「ーはい、ごゆっくりー」

 

 にっこり微笑む五月は、そのまま会場入りしているクラスメイトの元に歩いていったが、横島は首根っこを捕まれたまま会場中心部へ引きずられていった。

 

 

 

 

 

 

 息子が「GS」として独立すると言ったとき、心底反対した。

 卒業してからで問題ないはずだし、資金的にも立場的にも高校生という立場は弱すぎた。

 しかし、親の言葉など日本に残った時から聞くはずもなく、勝手に独立してしまい、勝手に起業してしまった。

 いや、少なくとも独立心溢れる方向性としては、親として望んでも得られない子供の成長といえないわけでもないが、それが「GS」という職業ならば話は別だ。

 

 正直、あの職種に息子が未だ居ること事態信じられないと思う。

 

 それこそ自殺してもおかしくないと言うほどに傷ついたはずなのだ。

 自閉症寸前までに追いつめられたはずなのだ。

 しかし、息子は「元気」に振る舞って、今までの学業の遅れを巻き返して、そして「バカ」であり続けることをやめ、自分を保持し続けた。

 そんな息子から届いた手紙を見て、私は、最後まで一度に読めずに泣いてしまった。

 泣き崩れた私をみて、夫は肩を抱いて一緒に読んでくれた。

 

 あのときほど男の子を産んで良かったと思わせてくれた事はない。

 

 しかし、独立企業となれば話は別。

 

 どこかに穴でもあれば、それを梃子に閉業まで追い込めると息巻いて麻帆良まで来てみれば、穴どころか企業一年目で青色申告確定が今の時点で出来ているというのだから驚き以上のナニモノでもない。

 さらに学業成績は常に上位であり、クラスメイトや同学年生徒、ひいては周辺学生にも好評というのだら本当に本人か疑いたくなる気持ちもある。

 

 いや、この姿勢こそが息子をゆがめたのだろうと反省。

 

 むりやり生活費を切り詰めさせなければ、あんなヤクザな事務所にアルバイトで出入りすることはなかっただろうし、そうなればあんな目に遭わせることはなかったのだ。

 

 心が壊れるほどの悲嘆の先で、息子には「戦士」としての評価がつきまとっている。

 子供っぽくて、泣き虫で、それでいて女の子にダラシナくて、優しいだけの息子に。

 私はそんな評価から息子を守りたかった。

 もう二度と、あんな悲しみにおぼれる息子は見たくなかった。

 しかし息子は、そんな母の願いをよそにGSの世界にドップリで。

 最近では麻帆良の中で弟子までとったという手紙を受けたとき、反射的に時差を考えずに電話をしてしまったぐらいであった。

 が、その弟子。

 実は引くに引けない内容であったことがしれた。

 

 

 まず、エヴァンジェリンちゃん。

 見た目はかわいい女の子だが、真祖の吸血鬼だとか。

 ハーフじゃないだけでピート君みたいな感じかと聞いてみるとその通りなのだが、実は彼女、呪いでこの学園都市に縛られていたとか。

 加えて、秘匿されている魔法陣営から賞金までかけられている関係で、その呪いの解放後は狙われることが確定していたという。

 そこで表の世界であるオカルトに属させることで、秘匿陣営の干渉を不能にしたというのだから、流石息子、とほめてやらねばならないほどの機転だった。

 

 

 次にこのかちゃん。

 彼女は秘匿陣営の大家「近衛」のお姫様だそうで、いろいろと事件があって魔法を知ってしまったのだという。

 今まで何で知らなかったのか、と疑問にも感じたのだが、そういう教育方針であったのだといわれてしまえば仕方ない。

 ともあれ、その彼女が魔法を知った際、秘匿陣営からの干渉があることを察知して決断する。

 

「GSになる」と。

 

 これにより、秘匿陣営の長である「近衛」の名が落ちて自分の重要度が落ちると判断したこのかちゃんの考えは、じつに感心できるモノがあり共感できた。

 そんなわけで、彼女の弟子入りも必要だろう。

 

 

 次に千雨ちゃん。

 きわめて現実的な感覚と視点の持ち主で、ザルになることが運命付けられている事務所のオカルト会計を一般レベルに維持してくれている敏腕女子中学生だった。

 その彼女自身、霊的な視覚が覚醒した状態で固定されているため、本来であれば引っかからない結界や異界を「普通に見えて」しまうために、いらない事件や事故に巻き込まれる体質なのだそうだ。

 こうなると修行して霊的視覚を制御するほか無いということで、格安で修行させるために弟子として取り込んだという。

 この息子の「安くするための努力」については、GS業界でも悪い意味で評判になっており、ダンピングだ業界価格破壊だと騒ぎになっているそうだが、材料費を削ってサービスをあげて価格を抑えるという手法は、一般気魚として当たり前の行為なのでこの点を責めるつもりは無い。

 

 

 次に千鶴ちゃん。

 事務所内事務も家事も修行もすべて関わっている少女。

 はじめは遊びに来ていただけなのだそうだが、彼女自身が無自覚に霊力を発揮している危険な状態であったため、封印か修行かの選択を求めた上での弟子入りという流れになっているという。

 この子は、一般的なGS見習いの流れだろう。

 意志も強く、そして実家の力も十分。

 表の庇護もうけられるし、裏の庇護は息子がすると言うことで、那波ともコンセンサスが取れているので問題ない。

 

 で、一番の問題がアスナちゃん。

 波瀾万丈の弟子入りであった。

 正直、多くは考えない。

 余りに事で同情で涙がでる思いだし、怒りで腸がちぎれる思いであるから。

 そんな彼女を精神的にも肉体的にも救ったのが息子だと聞けば、心底よくやったと誉めたい気持ちでいっぱいになる。

 

 ・・・そう、弟子、この角度での切り込みすら不可能で、さらには無駄に責任感が高くなった息子は、自分のところに来ているお姫様を何としてでも守り育てるんだと鼻息が荒くなっていたりする。

 ほんとうに、やっかいで、それでいて不可避な話であろうか。

 もしかすると、夫がナルニアにとばされた、あの瞬間からこんな運命が待っていたのかもしれない。

 そう思うと、すこし胃のあたりが痛い気もするが、これは無視した方がいい痛みだろう。

 で、さらに痛さを感じる頭痛の原因はというと・・・

 

 

「義母様、これなど旨いぞ」とエヴァちゃん。

「義母様、これなんてどうやろ」とこのかちゃん。

「義母様、さっきの会計手法で相談が・・・」と千雨ちゃん。

「義母様、関西風に作ってみたんですが、どうせしょう?」と千鶴ちゃん。

「お、お、おかあ、さま、って呼んでいいですか?」と、アスナちゃん。

 

 ・・・忠夫、どこにいくんや。

 ちとOHANASHIしよか、な?

 

「お、お、おふくろ!! 気苦労の多いお袋やお姉さま型に、こんなプレゼントがあるんや!!」

 

 差し出されたそれは、ひし形の宝石のようなペンダント。

 光にかざしてみると、なにか幾何学状の模様が透けて見える。

 

「・・・とりあえず、捧げ物として理解するけど、これなんや?」

「あしたのおたのしみ!!」

 

 じゃ! といって弟子の女の子たちを私から引き離しつつ逃げてゆく姿は「昔」のままに思えて少し安心できたのであった。

 

 

 

 と思って安心した私がバカだった。

 

 

 

 朝、麻帆良市内のホテルで目覚めると、体が軽かった。

 まるで、今まで背負っていた重石をおろしたかのような軽さに驚きつつ、目覚めの良さも気持ちいいもので。

 

「(久しぶりの日本、やっぱり緊張感とか合ったのかしら)」

 

 そんなことを思いつつ、化粧台の前に座って・・・

 

「・・・なにこれ」

 

 目元の小皺も口元の小皺も首もとも・・・。

 

 思わず浴衣をはだけて体の線を確かめると、それは驚異の立体曲線。

 というか、見慣れた体ではなく、過去一線で活躍していたであろう頃の体であった。

 髪の毛にも張り艶があり、こう、毛先の先からパワーが満ちているというか何というか。

 

「どうした、百合・・・子」

 

 夫の声に振り返ると、私をみた夫が硬直していた。

 

「ゆ、ゆりこ・・・?」

「あなた、どうも忠夫の悪戯にやられたみたいなの」

「百合子!!」

 

 がば!!と飛びついてきた夫は、こう、なんというか、獣っぽい雰囲気で。

 

「・・・親孝行な息子にプレゼントをあげねばならないな!」

「・・・一応聞くけど、チェックアウトまでに間に合う話なんでしょうね?」

「保証はできん!!!」

 

 ・・・はぁ、もう。

 この年で出産って、もう。

 忠夫、このツケは払わせるわよ。

 もうっ♪

 

 

 

 

 

 

 

 年齢詐称薬を研究して作り上げたアンチエイジング石版をペンダントにした「ブルースプリング」はかなり成功したようだ。

 実験対象だった魔鈴さんが全く外見変化が無かったので失敗か、と思わされたが、刀子さんから「増産を、増産を!!」という叫びの電話やら、隊長から「いくら、いくらなのぉ!?」という心の叫びまで飛び込んできては成功を疑うことは出来ない。

 うちの両親からの連絡がないところを見ると、成功の上で「セイコウ」しているのだろう事が伺える。

 

 ・・・美神さんより年齢差は狭い、と思っておこう。

 

 先日パンケットパーティーに来ていた魔法先生関係の女教師からは猛烈なアタックがあり、一応試供品ですーって配っておいたけど、この調子なら関東近縁で大評判になるんだろうなぁ、と人事ながら思っていた。

 

「・・・横島君、ただとは言わないわ。それこそ出資するから大増産なさい、ね?」

 

 なんつうか、美人に磨きが掛かった美神さん。

 もの凄い笑顔で迫ってきています。

 

「・・・私も出資するワケ」

 

 エミさんも怖いけど、なにも言わずに電卓片手に価格販売交渉を始める六道夫人も怖い。

 

「ま、まぁまぁ、みなさん。この会場では場違いですので、ね、また後ほど、ね?」

 

 今回の仕切(司会)をしている和美ちゃんが割って入ってくれたおかげで鎮火したけど、この後がやばいんやろなぁ。

 

『さぁ、タミヤカ○プ全国大会特別試走会においでいただきまことにありがとうございます。本会場のコースは統一レギュレーションコースをつなぎ合わせて三種三倍のコースとなっているため、参加者には合計十周の試走行が認められています。さぁ、各地の勇者よ! 最高のセッティングを探り出せ!!』

 

 和美ちゃんの名調子に、子供たちはそれをバックアップしている大人たちが燃えていた。

 

「じゃ、横島さんもチャレンジしてくださいね」

「ん? 本線にでない俺らも走らせていいのか?」

「当たり前じゃないですかぁ! 今回の目玉ですよ!!」

 

 なんつうか、こんな感じの子だったっけ?

 そんな風に思わされるほど、和美ちゃんはいい感じではっちゃけていた。

 

「・・・マッドXは目玉じゃないんか?」

 

 そう、PVの目玉は聡美ちゃんじゃなかったっけ?

 

「いやぁ・・・、ほら、なんだか例の鬼との対戦って有名らしくてぇ」

「ああ、出落ち決定、と」

「はい」

 

 思わず、聡美ちゃんが居るであろうスタッフテントを見て大きなため息をもらしてしまった。

 

「とりあえず、現行レギュレーションのベースタイムで三周ぐらいするから、俺の試走順番入れといてくれるかな?」

 

 なんだろう、こう、キュピーーンって感じで目がひかっとるぞ、和美ちゃん。

 

「もしかして、横島さん。この場で調整を?」

「おお。そっちの方がおもしろいだろ?」

 

 うををををを! と燃え上がった和美ちゃんは、なんとその事実をマイクで暴露。

 渦巻く会場、なめるなとここ数年のチャンプや地方代表がうなる。

 しかし、その行為自体はバカにしたものではないことを理解している。

 瞬間的に最高の組み合わせだって生まれる可能性があるし、会場内には田宮の特設ショップがあり、国内のほとんどのパーツが手に入る状態だから。

 さらに言えば、今回のコースは特殊レギュレーションコース。

 カーブやクロスコースなどは規定内だが、走行距離が長い。

 これはシャーシ強度へ気を配る割合が高くなる。

 

「まぁ、午前中は調整時間なので、みなさんは適当に回っててください」

 

 と、一緒に見に来たGS関係の方々を追い返したのだが、残ったのもいる。

 タイガー、ピート、そしてケイ。

 

「にーちゃん、おれもやりたい!!」

「おっし、一緒に最速を目指そうぜ!」

「すみません、横島さん」

 

 色っぽい猫又未亡人、であった美以さんだが、例のペンダントの影響で、若々しいお姉さんレベルまで昇華していた。

 やべぇ、もえる・・・、じゃなくて!!

 

「任せてくださいよ、美以さん。・・・あああ、っとお暇なようなら、ガード付きで見学なんか・・・」

 

 と、今まさに試走させようとしていたジークの首根っこをつかむと「横島さん、それは無体です!!」と叫ぶが、まぁ気にするな。

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、息子がこんなに楽しそうな顔をしているのは久しぶりで。出来れば近くで見させてください」

 

 そういわれては仕方ない。

 苦笑いで保護者席っぽいところに案内して俺はケイと共にベースマシンの選定から開始した。

 




リファインでした。

・・・大変です、しずな先生は結構心に重きを置いていましたが、タカミチ、全く意識していませんでした・・・残念!!

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