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第五話 劇的、ビフォ○・アフタ○

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というわけで、週刊になりつつありますが、これは以後の更新タイミングを約束するものではありません(逃避

※前回更新の際、ビル内部を霊力清掃してますが、魔鈴さんが反省する前の魔法清掃ではございません。どっちかというと、綺麗にした後のコーティング、ワックスのようなものとご理解ください。




 

 

 そういえば、と思いついたことがあると電話をしてみる横島。

 

 

 電話の先は明石教授。

 言わずとしてた魔法先生であり、技術部門のトップ。

 

 電話の内容は、先日の電力魔力変換って、麻帆良結界でやって無かったか? という当然の疑問であった。

 詳しい話を電話ながら聞いてみたところ、かなり効率が悪いものであることが解った。

 投入されている技術が魔法だけであるせいだろうか、電力10に対して得られる魔力が4といった具合であった。

 電力から霊力変換を出来る美神美智恵の場合、電力10に対して9.5と恐ろしいまでの高効率を示しており、横島の霊力魔力変換も1:1と言って良い変換率のため、この計画を小耳に挟んだ学園長も一枚かませてくれとすがり付いてきたほどであった。

 電力の半分が喪失するような効率となると、その喪失分はどこに行くのか、と言う疑問が出る。

 科学的な視点で見ても魔法的な視点で見ても、何処に、という調査ぐらいしようものであるが実は詳細調査されていないことが判明した。

 というわけで、効率の悪い変換ながら直接変換の実例と言うことで見学を申し込むと、最初は渋られたが学園長からの梃入れで押し通ってしまったりする。

 この見学の話を聞きつけた美神美智恵も滑り込み、末っ子を長女にスルーしての参加と相成った訳だ。

 

 この件では長女、美神令子からの言葉少ない抗議が面々と電話で流れ込んできており、何かするときは前もって横島事務所で預かりなさい、という指示まで添付しているのは仕方ないだろう。

 なにしろ所長である美神令子こそが美神事務所のエースなのだ。

 彼女が動けなければ、売り上げに大きく関わる。

 

 それはさておき。

 

 電力から魔力への直接変換の問題点は直ぐにわかった。

 なにしろGS、ことオカルトには強いのだ。

 

「「あーーーー、あああああああああ」」

 

 美神美智恵と横島忠夫、二人とも問題点に直ぐに気づいた。

 

 電力を機械的な手法を介在しているとはいえ「精霊」に変換させていたのだ。

 

 それは効率が悪いだろう、と頷く二人。

 

 基本、秘匿された魔法使いは「属性精霊魔法」を使っている。

 技術面でも方法論面でも「精霊」に依存しすぎているのだ。

 だから不可能技術や幻想技術の見えない部分、ブラックボックス部分の大半が精霊の負荷にかかっていると言っていい。

 だから無茶苦茶をすると、その分魔力の効率が落ちるのだ。

 まぁ精霊の方でも無理を通される分、取り分が多くなるという感じともいえる。

 

 逆に美神美智恵の場合は自らに取り込むための吸収変換技能であるだけに、その変換効率は高い。

 手法や方法論も確立しているため、その補助のための魔法陣を完璧に仕掛ければ効率はさらに上がる。

 加えるならば、横島の霊力・魔力変換も彼の霊的な能力の視点で見れば簡単なものであった。

 基本的に、魔力も霊力も人間から発することのできる力だ。

 魂の力だとか気力の力だとか色々と差を説明する人間はいるが、横島はそれをベクトルの違いだと考え把握している。

 霊力も魔力も気力も、別方向へ伸びたベクトルの同質の力である、と。

 

 そして収束に優れた方向性を持つ横島だからこそ気づいた、魔族という別種族を体に取り込んだからこそ判った事実として、魔法使いの言う魔力は、魔法使いが言うほどの特別な力ではない、ということ。

 だからこそ、ほぼ百パーセントの効率で、霊力から魔力へ変換を成功しているのだ。

 

 この手法、既に個人的なモノであれば現実化している。

 それは横島が開発した霊波詠唱。

 

 霊波を精霊が認識しそれを契約として受け入れているという時点で、魔力でも霊力でもOKという状態であることがわかる。

 加えて横島自身から術を授けられた高畑が、それを魔力で行使している時点で互換であると確証が出来る。

 つまり、魔力で構成された魔法世界への魔力注入は、大電力の供給と持続性のある変換が行えれば全く問題がないという可能性が大きくなるわけだ。

 

「でも、横島君。さすがに符術だけでは難しいわよ?」

 

 おおよその霊力行使は符術への変換が出来る。

 いや、おおよそであって全てではないが、出来ないことはない。

 基本的な攻撃術の符化は基本だし、短距離なら転移すら可能だ。

 が、この手の大きな力をどうにかするという行為を、恒常的に実施するという仕事には符は向いていない。

 瞬発的な大きい力の行使や封印など向きなのだ。

 ともなれば霊具等の開発が必要になるかというと、それはそれで方向性が違う。

 そう感じた横島は、不意に色々と思い出した。

 前世の記憶ともいえる京都陰陽師、高島としての記憶が。

 そして一つの打開案が浮かんだ。

 

「隊長、あれっすよ、碑」

「いし、ぶみ?」

「そう。霊的に魔法力的に効率の良い素材に符を刻んじまえば、耐久性がありつつ再現可能なものになるんじゃないっすか?」

「・・・あ」

 

 そう、その手の技術は、表のオカルトにおいて普遍的に存在している。

 都庁地下の施設でも、大量に使われているからだ。

 そして素材選考の段階で霊力魔力変換を加味すれば、さらに効率は上がる。

 

「そうね、面白そうね。防弾素材に刻めば、物理も霊力も兼用できそうね」

「で、電力変換が直接魔力に行えるようになれば、オカルトGメンの戦力も拡充という事で」

「「ふふふふふ」」

 

 この話は即座に超・葉加瀬・カオスに伝わり、大いに盛り上がることになる。

 

「・・・それはもしかしますと、私も除霊が出来るようになるという事でしょうか?」

 

 実は一番乗り気なのは茶々丸であった。

 オカルト素材でグローブやアイグラスなどを作ったカオスのおかげで、直接ではないにしろ支援が出来るようになった茶々丸だが、内心もう少しエヴァや横島の支えになりたいと思っていたのだ。

 

「なに言ってるんだよ、茶々丸ちゃん。いつもいつもお世話になってるじゃないか。事務所はフォワードだけで動いてるんじゃ無いんだぜ?」

「・・・所長」

 

 とはいえ霊能へアプローチする事を全くあきらめていない茶々丸は、移行の素材試験に進んで参加したのであった。

 

 

 

 

 

 

 既存のオカルト知識を新素材に刻むだけと思われた「碑技術」は、恐ろしい勢いで進化を遂げた。

 自分で発生する霊力や魔力を通す、ではなく、自然界に存在する魔力や霊力をつかって効果を出すことに成功したからだ。

 つまり事実上、回転させるだけで「魔法の矢」を連射することの出来る魔法具が完成したのだ。

 出来上がった段階ですでに放心状態というマッド開発者集団であったが、美神美智恵はこの現象を何処かでみたことがある、と考えていた。

 回転する「それ」、導かれる結果。

 なんであったか、そう想いを深めたところで思い出した。

 

「マニ車、なのね!」

「まにしゃ?」

 

 その一言で理解できなかったのは葉加瀬と横島のみ。

 残りの人間は大いに理解を深めた。

 

「マニ車っていうのは、チベット密教の仏具で、その仏具を一回転させると経文を一回読み切ったことと同じ効果があるとされているものよ。ただ、本当にその効果のあるモノは発見されていないけどね」

 

 つまり、マニ車の本当の効果があるような霊具が出来てしまった、ということである。

 

「隊長、これって、いろいろと応用できるっすよね」

「そうね、本当に無限の可能性があるわよ!」

「でも、自然界の霊力とか魔法力をがんがん使うと、これって魔法世界と同じ事になるんじゃないっすか?」

「・・・・!!!」

 

 そう、世界に満ちあふれた魔法力を使いすぎたが故に崩壊の喜々を迎えつつある魔法世界。

 これと同じ現象が起きると考えれば、この地球世界はどのような崩壊が起きるのか?

 明らかに今までの想像を遙かに超える何かが起きることは間違いなかった。

 

「・・・そうね、せめて素材に通す力は、自然供給式ではなく精霊石あたりを組み込んだ方がいいわね」

「だったら、碑の魔法陣の表面を精霊石加工すれば、外から流れ込んでくる自然魔力を防げるんじゃないですかね」

 

 横島のその台詞を聞いたマッド開発者達は、再び眠れぬ夜を過ごすことになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 破魔マシンガンの改良、というか魔改造がおこなわれた。

 

 元々、マシンガンの弾丸の替わりに破魔札をばらまくというコスト度外視の装備なのだが、流石に運営コスト削減の声が高い中央からの指令は無視できないため急場の対応として導入したのが、給弾部分にドラム型マガジンタイプのアダプターをつけたものであった。

 このドラム型アダプターには、軽微な霊力を受けて回転する新素材碑技術円盤「マニドライブ」が組み込まれており、使用者の霊力を増幅して霊波砲を連射するという機能が組み込まれている。

 威力としては大きいものではないが、それでも連射が容易であることと消費霊力が非常に低いことが評判になり、各支部から問い合わせが殺到する騒ぎになっている。

 ほくほく顔で取引材料にしている美神美智恵はさておき、苦々しい顔の西条は大きな借りが出来てしまったと重い気持ちを抱えていた。

 

「大丈夫よ、西条君。この件でオカルトGメン日本支部が背負う負債はないわよ?」

 

 少なくとも、今までの美神美智恵ならば負債など踏み倒す姿勢であっただけに不思議に感じる西条であった。

 しかし、相手が相手、一本釘を刺さねばならないと言葉を重ねる。

 

「ですが先生。また僕たちは横島君の・・・」

「それも含めて、彼との共同歩調はとれています。今はすべてを話すわけには行かないけど、そのすべてでバランスが取られたの。理解しなさい」

「・・・はい」

 

 ここまで言われては引くしかない西条であったが、定期連絡で詳しい話ではないがその裏付けが取れた事でどうにか安心できたのであった。

 

 こんな心霊兵器が開発されたとなると各国軍事部門が動こうものであるが、これは杞憂であった。

 まず、物理能力面での威力不足が大きな壁となっており、さらには応用性の低さがさらなる壁となる。

 ことオカルト面では恐ろしいまでの威力とコストの低さであったが、リアル軍事面では大きな力と言えなかったからであるが、実はマガジンのパッケージを変更することで「魔法の矢」を属性に関わらず連発できる事が知られれば話も少し違うかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 今回の魔改造、横島事務所経由で販売されている関係で、収入がすごいことになっているのだが、総収入の2割ほどを麻帆良学園都市へ寄付金として入金していた。

 これは麻帆良側の研究施設での共同結果であることを意識してのことであった。

 さらにはカオス・超・葉加瀬で二割ずつを引き受け、残りは窓口としての横島事務所への収入となっている。

 当初は名前だけ貸すぞ、といっていた横島であったが、思いの外外部問い合わせが多いため研究に専従できないというわけで、窓口を横島事務所へ、となったわけだが、横島自身も電話窓口を六道婦人経由で投げたりしているのであまり意味がないかも知れないと考えている。

 

 ともあれ、表のオカルトへ麻帆良謹製の技術流出が直接在ると問題なので今の形態が望ましいわけだが、そうなるとやり玉に挙がるのは横島事務所、のはずだが・・・。

 

「やっぱり美神さんにリベート渡すと効果的だよな」

「美神の大将はボリ過ぎだと思うぞ」

 

 と、一台あたりのリベートを美神事務所に裏金・・・ではなくグループ協賛金として納金することで、横島は安全を得て、美神は濡れ手に粟な不労収入を得てWinーWinの関係を構築した横島のバランス感覚は絶妙と言えるだろう。

 まぁ、横島事務所の持ち出しが結構あるのだが、それは美神事務所との良好な関係を考えれば必要経費と割り切る横島であった。

 

「つうか、雪之丞はこういう心霊兵器って嫌いだと思っていたぞ?」

「あのなぁ、こういう機械が嫌いなら『ミニ四駆』なんかするかっつうの」

「そりゃそうか」

 

 と、二人の手にはミニ四駆よりはふた周りほど大きいラジコンカーサイズの車の模型があった。

 流石凝り性の二人だけあって、それは市販品の模型を遙かに超える精度で再現されたもので、そのまま販売したら三桁万に到達するであろう価格がつけられる可能性を秘めていた。

 そんな模型の中には「あるもの」が仕掛けられている。

 

「・・・この『マニホイールバッテリー』つうのはすげぇな」

「元ネタは『フライホイールバッテリー』な」

 

 フライホイールバッテリーとは蓄電池の一種で、電力というエネルギーを真空超伝導状態に保存された回転運動体に運動エネルギーとして保存するもの。

 電力の取り出しは、その回転運動エネルギーから発電する方式をとる。

 この手法を参考にした「マニホイールバッテリー」は電力だろうと呪力だろうと魔法力だろうと回転エネルギーに変えることで自己保存と回転維持にエネルギーが使われ、入力した以上の電力などのエネルギーを誘導できるというトンデモ試作品であった。

 

「まぁ単価はむちゃくちゃ高いけどな」

「今は、だろ?」

「まぁ、今は、な」

 

 そう、オカルト素材や高分子素材などを大量に使っているので「今は」高い。

 しかし、素材の研究や代替え素材などが開発されれば価格は一気に下がるし、その応用性は高い。

 いや、唯一の弱点がある。

 それは、

 

「回転方向にぶれる、か」

 

 そう、雪之丞の呟きのように、回転する物体が据え置き状態なら問題ないが、運動する車や飛行機などに使われると、途端に回転方向に動きがぶれる。

 

「まぁ、物理的な回転力を維持してるんだから仕方ないだろ?」

 

 苦笑いの雪之丞に横島も首を傾げて笑うが、解決の方向は一つか二つしかない。

 

「まぁ、なぁ。物理組成の質量を減らすか、回転方向を縦にするかぐらいしかないよなぁ」

 

 もちろん、これは碑技術ではなく、その発展型であるマニホイール技術の話なので大きな問題にはしていないが、何となく突き詰めておいた方がいいと感じている横島であった。

 

 そう、これは「霊感がささやく」そんな感覚。

 

 

 

 

 

 

 

 学園転入からこっち、様々なトラブルやイベントがあったが、最大のイベントが開催されようとしていた。

 

 麻帆良学園祭

 

 三日間の開催期間で数十万の観客動員をもたらす一大イベントにして大騒ぎ。

 もちろん、こんな大騒ぎで盛り上がらない学生など居ない麻帆良学園内各学校は、大いなる盛り上がりを見せるわけで。

 横島が在学する共学区高校の教室も鰻登りの最高潮であった。

 

 執事・メイド喫茶、お化け屋敷といった定番から色物企画が目白押しの中、一人の男子生徒が声を上げる。

 

「映画とらねぇ? ほれ、去年だか一昨年、横島って香港映画出てたじゃねぇ?」

 

 様々な意見集中のなかで発せられた投げやりな意見。

 しかし、その発言の中心が横島であるのならば、それはまさに「話は別」である。

 

「あー、あれ? 主役のアップ以外のスタントは全部やったなぁ。つうかよく知ってたな、スタッフロールにも載ってなかったんだぜ?」

 

 ひでぇよなぁ、二枚目のほうが売れるからって、くそ、あれか? 三枚目には映画にでるなって事か? とかぶつぶつ言っていたわけだが、クラスメイト、それも女子は違っていた。

 

「うそ! あの濃い顔より横島君の方が格好いいって!」

「そうよ!! 今頃横島君を使えばよかったって後悔してるって!」

「そうよそうよ!!」

 

 とクラスメイトの援護射撃を受けて、「身内の援護はこそばゆい」とか思っている横島は十分鈍感と言えた。

 

「あー、私も映画賛成かも。当日時間出来るし」

「あ!! それいいアイディア!!」

 

 と思いっきり集中して賛成意見が集まり、今まで乱立していた女子意見が集約されることになった。

 脚本や監督、撮影機材の調達先などがどんどん決まってゆく中、キャスティングはというと、実は結構早々と決まった。

 まず、男子側の主役は「横島」一択。

 飛んだりはねたりスタントが出来たり、かけて加えて特殊効果を霊能で補えたりということで。

 同じ方向性で雪之丞も撮影班のメインに組み込まれ、二枚看板という形になりそうな方向性であった。

 が、女子が割れた。

 まず、タマモ。

 傾国傾城を地で行く美少女ぶりに加えてオーラが違うと言うことで主役女優に抜擢されたのだが「絶対にいやだ」とシャットダウン。

 では次点で愛子、と言う声も挙がったが・・・

 

「机付きで女優は無理だと思うなぁ」

 

 と、こちらもシャットダウン。

 女優選びで紛糾する中、横島は一応聞いてみた。

 

「タマモ、なんでいやなんだよ?」

「だって、美神たちがみにくるのよ? 絶対にからかわれるわ」

「あー、それは俺もいやかなぁ」

 

 からかわれるとは思わないが、流石に恥ずかしいとは感じていた。

 まぁこれが演劇なら羞恥で恐ろしい感じもするが、映画なら先撮りだし問題ないかもしれない、と思うことにした横島であった。

 

 

 

 

 

 

 

 麻帆良防衛仕事の時は別にして、何かの映像に使えるかもしれないからと言うことで撮影班が除霊仕事について回ろうとし始めた。

 

「ウチの娘達を巻き込まないと約束できるなら素材撮影ぐらいはいいけど、除霊現場は撮影禁止な?」

「「「了解」」」

 

 というわけで、生の除霊現場をロケハンした撮影班は非常に盛り上がりまくって帰って行った。

 

「・・・こう、取りたい映像が出来たって感じだよな!!」

「脚本とかがらじゃねぇとか思ってたけど、絶対他人に渡したくなくなったよ」

「おれだって、監督だなんていやな話だと思ったけど、でも」

「「「絶対にやり遂げたいよな!!」」」

 

 突貫工事とも言える脚本制作とその絵コンテ作りができあがり、撮影準備が完了したのは学園祭の二週間前。

 素人映画製作としてはギリギリの時間であったが、それでも撮影は開始された。

 

 生身の、それもワイヤーアクション無しで2m近く直立状態から跳躍できる横島と雪之丞は、要求アクションの三倍の精度を出す化け物アクターであり、秒間コマ数を意識してギリギリの早さと視覚効果でアクションの出来る変態であった。

 それに合わせるように、それに呑み込まれるように役者生徒への要求レベルはあがって行くが、なぜは引っ張られるように役者生徒達の技量も上がってゆき、その撮影隊の評判は上り調子となっていった。

 

 

「・・・カット!!」「今日の必要コマは終了でーす!!」「おつかれさまでしたーーー!」

「「「「「おつかれさまでした!!」」」」」

 

 

 見物に集まってくる生徒もエキストラに組み込んだり、突発で台詞を言わせたりしても素で対応できる麻帆良生徒のレベルの高さはさておき、撮影が快調なのは良いことだろう。

 すでに横島事務所に見習い出来ている生徒や遊びに来ている生徒経由でその評判は広がっており、撮影分だけで作った短編予告を動画サイトにアップしたところ、は良い出来だったと外部から話があったぐらいだった。

 というか、霊波詠唱破棄習得移行、麻帆良へ好感情を隠すことのない唐巣神父が珍しく電話をしてきたかと思ったら、そんな話をしたというのだから何処まで広まっているのやらと首を傾げる横島であったりする。

 

 そんな撮影の最中、サングラスにマスクトレンチコートという見るからに怪しい男が撮影見学できていると騒ぎになる寸前であったので、撮影開始前にちょっと尋問、という形になるはずだったのだが・・・

 

「よぉ、よこっち、予告みたで。学生映画とは言え主役とは、おしいな、ほんま」

 

 サングラスをずらして現れたのは、今、話題沸騰のイケメンアイドル俳優「近畿剛一」、いや、横島忠夫の幼なじみ堂本銀一その人であった。

 

「・・・なにしとるんや、銀ちゃん」

「いやな、今度映画の第二弾やるんやけど、役作りに行きづまってん。で、よこっちがGSしとるって美神さんから聞いたんでな、ちょっと参考にさせてくれへんかなぁ、と」

 

 えへへ、とほほえむアイドル顔にサングラスとマスクを付けさせ、一応スタッフ側に押し込む。

 

「撮影終わってから要相談や、じっとしててくれよ?」

「おう、わかっとるって!」

 

 怪しさ満点の格好で親指を立てる銀一に、一抹の不安を感じたわけだが、その不安は的中する。

 

「ね、ねぇ、今の声、聞き覚えない?」

「・・・うん、なんか聞いたことある」

 

 ぼそぼそと、録音のじゃまにならないようなさざめきを聞いて、いやな予感が当たったと背筋が寒くなる横島。

 どうしたものか、と内心腕を組む横島であったが、流石の銀一は斜め上であった。

 撮影の合間に変装をとって、周囲に挨拶してしまったのだ。

 

「僕を知ってるみなさんすみません! 今日は仕事で友達のよこっちに会いに来たんです。ですからこの撮影のためにどうか静かにしてやってください!!」

 

 本来ならきゃーーーーと声が渦巻くところだが、この撮影自体が楽しいのを知っている野次馬達は周囲に目を配らせ口をふさぐゼスチャーで答えた。

 

「ありがとぅ、ほんま感謝や」

 

 ほんわかほほえむ銀一をみて、ファンは口から出そうになる歓声をかみ殺すのに全力を込めるのであった。

 

 

 

 

 

 撮影終了とともに押し寄せたファンを慣れた感じで捌く銀一をみて、流石プロやなぁと感心していた横島であったが、隣に誰か立っているのに気づいた。

 視線を向けてみれば、さよちゃん。

 わりと撮影野次馬への出席率が高いことで有名であった。

 

「はぁ、人気がある方なんですねぇ、横島さんのお友達」

「あー、近畿剛一って言うんだけど、しらん?」

「えーっと、知りません」

 

 申し訳なさそうに言うさよちゃんであったが、まぁいいかとなでる横島。

 幽霊であった頃から横島に構われることを心地よいとしていたさよちゃんはスゴく気持ちよさそうに微笑むのだった。

 

「わりぃ、よこっち。ファンサービスってのは俺らの宿命なんや」

「いいって、銀ちゃん。で、どこか宿取ってるのか?」

「じつはよこっちの事務所目当て何や」

「まぁええけど、狭くても文句言うなや」

 

 もちろんや~と微笑む笑顔は、先ほどよりも泥臭い、演技の香りのしないものであった。

 

 

 

 

 

 とっとと横島事務所まで帰ってくると、今度は事務所の一部で歓声が上がる。

 ただし、魔法先生の一部と遊びに来ていた女子中学生の一部のみ。

 ちょっと盛り上がってしまったのは、佐倉愛衣、釘宮円、葛葉刀子、愛子、であった。

 あとは実に平坦な反応で、それを銀一は喜んだ。

 まぁ、千雨は驚きすぎて声が出なかったのだが。

 

「まぁ、では、そのぉ、近畿ぃ・・・・」

「近畿剛一さんです、おねえさま!!」

「そう、その剛一さんと横島さんは幼なじみですのね?」

 

 どこかピントのずれた会話に頭痛を感じていた千雨であったが、ちょっとその子供の頃の話というのは興味があった。

 

「じゃ、子供の頃の横島さんや近畿さんって、どんな感じだったんですか?」

 

 自然な感じで質問を差し込むと、視界の端っこでエヴァが「いい仕事だ」とグットサインを出しているが、まぁそれは良しとして。

 

「そうやなぁ、男子引き連れてスカートめくりしたり」

「終わりの会でつるし上げられたのは俺だけだけどなぁ」

「ミニ四駆でよこっちは全国大会で一位やったなぁ」

 

 苦笑いで合いの手を入れていた横島は、不意に隣にいる男を引っ張り出す。

 

「・・・おお、その東京代表が、ここにいる伊達雪之丞」

「ダテ・ザ・キラーやて!! まじかっ!!うわぁ、あの隔絶した整備力、あこがれてたんやぁ!」

 

 さすが同世代、さらには同じ世界を共有していただけあって盛り上がる盛り上がる。

 

「まて、結局横島に勝てなかったナンバーツーなんだ」

「いうなや、伊達君。俺かてよこっちは破れんかった。君は東京代表になれたんやろ? 俺は大阪代表にずっとなれんかったんや・・・」

 

 食いしばるような悔しさを秘めた声に、雪之丞は共感を覚えた。

 

「強すぎる奴が同じ地域にいるか、流石にそれは苦しいな」

「俺はあのとき悟ったんや。早い奴が勝つんや無い、強い奴が勝つんやって」

「・・・その結論、俺も同感だ」

 

 まさかミニ四駆というおもちゃレースの話とは思えないほど重深い話に、周囲はかなり引き込まれていた。

 

「・・・でも、それって、みによんくっておもちゃの競争の話ですよね?」

 

 みんな思っていても踏み込まなかった地雷原に、さよちゃんが今、大いなる一歩を踏み込んだ。

 

「あー、まぁそうかもしれないけどな・・・」

 

 横島が肩をすくめ、銀一が苦笑いし、そしてなんだか深い笑みで視線をはずした。

 

「その『世界』は確かにあって、そんで、認め合う仲間が居るんだよ」

 

 その言葉と共に三人の男達がはいタッチして、そしてその世界を共有していることを誰もが理解した。

 

 

 

 

 

 

「ども~、報道部のアイドル朝倉で~す」

 

 注目度の高い話題となると現れる報道部であったが、リアルに接点の多い朝倉が記者にと立候補でやってきた。

 で、目の前で展開する横島・雪之丞・銀一の一体感のある光景にある種の感動をおぼえた朝倉であった。

 

「お、和美ちゃんいらっしゃい。今日は何の取材だい?」

「じ、じつは、横島さんと近畿君、というか近畿さんが幼なじみと聞いて直撃取材にきたんですけど・・・」

 

 ちろっと雪之丞をみる朝倉をみて、言いたいことを悟った横島が「ミニ四駆」繋がりである事をはなす。

 

「・・・え? まじですか? あのタミヤカ○プ前人未踏の三連覇、浪速のペガサスって横島さんだったんですかぁ!?」

 

 朝倉和美、じつは一時ミニ四駆に凝っていたため、その話題の追従性も高かった。

 

「わぁ、まぁ連覇記録って破られてないんだ?」

「あったりまえですよっ!! 最近じゃぁレギュレーションがコロコロ変わって最高のセッティングなんて維持できませんって」

「そうかぁ? 最速は無理でも最強は維持できるんじゃねーか?」

「最強って、雪之丞。おめーそれは幻想だって」

「いや、必ずコンディションにあった最強がある。俺は確信してるぞ」

 

 熱のある会話についてゆける女子は朝倉だけであったが、先日作ったカーモデルを引っ張り出して説明を始めた雪之丞の手元をみて、男性魔法先生が低くどよめく。

 

「あー、雪之丞君、それを手に取らせてもらってもいいかね?」

「・・・ああ、ガンドル先生か。いいぜ」

 

 てわたされたカーモデルをしげしげと、それで居てきらきらとした瞳で見つめる彼は、この瞬間だけ子供に戻っていた。

 隣でのぞき込む神多良木も興味があるようで、トレードマークのサングラスを外してノゾキコんでいた。

 その瞳をみて女性魔法先生や女子中学生がどよめいているのだが、それが気にならないぐらいに男性魔法先生達は子供になっていたりする。

 

「か、神多良木先生って、結構目がきれいなんだねぇ」

「か、かたらぎ、ちょっといいかも・・・」

 

 そんな呟きが響いていたり居なかったり。

 

 

 

 

 

 

 撮影班に銀一が混ざったことにより、見物客が女子で埋まるかと思いきや、なんと男子の数が上回っていた。

 

 原因は朝倉情報。

 

 ヤミヤ○ップ三連覇、浪速のペガサスその人が横島忠夫であったとぶっちゃけて、その上で大阪予選でしのぎを削っていたのが近畿剛一であり、全国大会でライバルであったダデ・ザ・キラーが雪之丞だと知られると、もう居ても立っても居られない男子学生で溢れてしまったのだ。

 教室でも毎日その話題であり、強度のリスペクトが発生中であったりする。

 朝倉情報でありながら、その情報精度は高く、ガセ無しの話であった影響か、スクープ賞を得たとか言う話を事務所までやってきて話のだから、結構嬉しかったのであろう。

 

「うわぁ、これ、ほんものじゃないですか!!」

「せや、これがよこっちのペガサスや」

 

 銀一が実家に一度戻って持ってきたミニ四駆をみて、朝倉大興奮となったが、他の女子中学生はあまり関心がないようであった。

 

「ほぉ、これは作り手の魂を感じるな」

「お、エヴァちゃん、わかるんか!?」

「うむ、私もまた作る者なのでな」

 

 悪の魔法使いことエヴァが結構いい食いつきを見せていた。

 彼女自身、人形遣いとしての自負と目を持っている。

 糸繰りの修練と暇つぶしをかねて服なども結構作っているが、造形物全般に目利きを持っていると言える。

 そのエヴァからみても、その存在感と魂を感じる、そんな存在に見えていた。

 

「『これ』は、もう全盛期の力はあるまい。しかし戦った歴史が『これ』を輝かせている」

「そうなんや、そうなんや! うわぁ俺感動したわぁ!」

 

 まるで貴重な芸術品を扱うような気遣いを見せるエヴァに銀一は猛烈な感動を覚えた。

 流石横島忠夫の周囲にいる人間だ、と。

 まぁ、「人間」ではないのだが。

 

 

 

 

 

 

 ものつくりの魂が共鳴している背後で、その他女子はちょっとしらけ気味であった。

 なにしろ話題の中心が玩具だから。

 だが、そこに異を唱える朝倉和美。

 

「あのね、これって同じ年頃の女の子がコスメとか髪型とか襟足とかをちょことこかえて年上っぽいとかキャラに合うとか合わないとか言ってるのと同じなんだよ?」

 

 少女たちや元少女たちは思う。

 小学生当時のおしゃれって、こう、背伸びして可愛いモノであったと。

 

 少ないお小遣いで玩具のようなコスメを買っていた。

 髪型や衣服のワンアクションに大きな意味を見出していた。

 

「で、男の子にとっては、当時の話は過去の遊びじゃなくて今という時間につながる歴史んだよ。理解してあげなくちゃ」

 

 ふふーんといい女ぶった物言いだが理解できなくもない。

 女が女である内は、男の価値観など理解できるはずもないが、そう言う単純な物差しではないと朝倉は語っているのだ。

 

 が、ここで無粋な乱入者。

 

「何を言ってるんですか、朝倉さん。最高?最強?くだらないレギュレーションに守られた貧乏遊びの組み合わせじゃないですか。最高の技術と最高の材料で作られた『それ』の方が、強いに決まってますよ!!」

 

 鼻高々な葉加瀬聡美その人である。

 どうやら望外のオカルト収入で少し歪んでいるようだ。

 

 これを今も熱中している小学生辺りにブチかませば、非常に熱い展開になっただろう。

 その方向性で「物凄く」熱いセリフを吐こうとした朝倉を、雪之丞と横島が抑えた。

 

「(モガモガモガ)・・・ぷはぁっ、って、横島さん、伊達さん!! あんなこと言わせていていいんですかぁ!?」

 

 ほとんど泣いてる状態の朝倉に、横島と雪之丞は肩をすくめる。

 

「おんなじ事言って、億単位で資金突っ込んで負けた人がいるからなぁ」

「ああ、そうだな。ありゃぁ、負けフラグだ」

「「「「「え?」」」」」

 

 驚く周囲に一応説明。

 

 少し前に行われた「娑婆鬼」という子鬼との対戦。

 依頼を受けた美神令子が投入した最新科学技術の推移を集めた車体の敗北。

 その後に行われたレギュレーション車両の勝利。

 

「うそ、そんなドリームマッチ見てみたかった!!」

 

 という朝倉のセリフは置いておいて、増長するマッド研究者は鼻で笑う。

 

「麻帆良を舐めてもらっては困りますね。少なくともコメリカの数世代先を行く科学力があれば、そんな結果なんかひっくりかえせますよ!!」

 

 あーっはっはっは、と笑う葉加瀬は正面対決を挑んできた。

 

「・・・んじゃ、麻帆良祭の中日に対戦すっか? 最高のセッティングで俺たちは挑むから、聡美ちゃんも最高の『それ』を作ってきていいで。ああ、レギュレーション無視でいいからな?」

「いいでしょう、いいでしょう! そんな玩具の話で歴史を語る馬鹿な男たちの目を覚ましてあげましょう!! そして横島さんには開発に専従してもらうのです!!」

 

 

 ちらりと本音をからめた宣言は朝倉和美の手により報道部で号外となり、麻帆良の話題を席巻した。

 

 

「ぜひ、ぜひ、我々も協賛させてください!!」

 

 

 こんな声が諸々上がり、急遽特別スタジアムが作られたり、タ○ヤ本社からも協賛が申し入れられて正式な大会が開かれてそのエキビジョンマッチ扱いになったりと大騒ぎになっていた。

 麻帆良で加熱した熱は、一週間ほどの準備期間しかない割には全国に波及し、現役の者たちも嘗て活躍した者たちも大いに盛り上がらせた。

 勿論、麻帆良の報道部が作ったタ○ヤ本社も公認のPVの影響も大きい。

 

 

 

 

 映像的には三人の若者が、一人のインタビュアーに答えるという形で進む。

 

 

『あなたにとってのミニ四駆、とは?』

 

◎タミヤカ○プ全国大会 三連覇 浪速のペガサス 横島忠夫

「んー、俺は『これ』で技術っていうものがバランスであり、総合だって勉強できたと思う。人間関係だって一緒でしょ?」

 

◎タミヤカッ○全国大会 四期連続東京代表 伊達雪之丞

「強さや正しさだけじゃねぇ、『それ』を想う気持ちが全てだって理解したぜ。俺の人生で一度は見失ったけど『それ』の絆が思い出させてくれた。忘れえぬ今につながる想い、だな」

 

◎俳優 近畿剛一

「俺は、友情ってやつを知った、かな。『それ』は今でも大切な思い出だし、今でも変わらない記憶だから。でも、手に取ると思い出すよ、熱い気持ちってやつを」

 

 しばらく談笑が続く画面の中に再び質問が飛ぶ。

 

 

『今でもあなたたちは、ミニ四駆、出来ますか?』

 

 

◎AランクGS横島忠夫

「ああ、多分熱中しちゃうんだろうな、うん。レギュレーションも部品特性も変わったけど、でも、求めるものは同じ。最高のバランスを目指すだけだよ」

 

◎BランクGS伊達雪之丞

「やるさ、間違いなく。でも、勝ち負けなんて関係ないな。俺は強い奴に会いに行くんだ」

 

◎俳優 近畿剛一

「今度は勝ちたいなぁ、よこっちに。つうか、まけへんぞ、よこっち、伊達っち」

「「おう、かかってこい!!」」

 

 どっと笑いが上がったところで、そのPVが終わり、臨時の全国大会が開かれる広告が続く。

 そこにはPVの三人に加えて、狂科学の頂点マッドXの作ったレギュレーション違反ぶっちぎりのマシーンもエキビジョンマッチで対戦されると聞いてとんでもなく盛り上がるわけだが、三人のインタビューの中で雪之丞が男子人気ナンバーワンだったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 こんな環境でも予定通りに撮影が進んだのは、様々な協力者の存在があったからだろう。

 魔法先生、中でも神多良木等は撮影に無理やり引き込まれ、役まで振られてしまた程であった。

 加えて密かに張られた結界などで警察関係の介入もなく、編集とアフレコを含めた形でパッケージ完成したのが麻帆良祭三日前というのだから恐ろしい勢いだろう。

 これに加えて完全準備期間となった教室で、大小さまざまな工作を始めた横島が、完全なミニシアターっぽい内装に変えてしまったのも驚かれた。

 一応その場所でSHRなどが行われるのだが、担任も実にやりにくそうであったりする。

 

 そして麻帆良祭前日。

 

 協力者や関係者を集めた事前上映会、「ゼロ号試写会」が開催されたのだが、そこに招かれたのは学園長を筆頭にした魔法先生や魔法生徒、そして横島事務所関係者などなどであった。

 およそ90分ほどの上映時間が終わると、まさに感涙という表情の魔法先生や魔法生徒にあふれており、横島事務所関係者もハンカチ片手に涙を拭いていた。

 

「・・・素晴らしい出来であったと思う。わしは久しく感動で泣いたぞい」

 

 近衛門の言葉を聞いて、クラス全員が歓声を上げた。

 映画製作で苦労したのは撮影ばかりではない。

 脚本も小道具も、現場整理役だって必須だった。

 買い物に走ったり撮影計画を立てたり、本当に全員作業であった。

 それを理解しているからこそ、主演者をほめるのではなくクラスを称賛した。

 そこに気付いたクラス全員がスクリーン前にならび礼をする。

 称賛の拍手が渦巻く中、タマモはこっそり携帯メールを飛ばした。

 

 

『横島主演で映画完成。感動の嵐』、と。

 

 

 このメールは予想外な方向へ、様々転送され、まさにパニック寸前に人が集まることになるのだが、それはまだ誰も理解していない。

 

 

 

 

 

 

 では、と観客の入れ替え誘導や新規観客の誘導などの訓練のために行う「一号試写会」をする段階になって、やってきた一団に驚く。

 

「ありゃま、アヤカちゃんとこのクラス、全員かい」

「・・・はい、お恥ずかしい話なのですが、この映画を見せないと準備をボイコットすると言われまして・・・」

 

 にかっと笑うチアリーダー組やお散歩倶楽部や武闘派をみて頭痛を感じた横島であったが、まぁしかたないと肩をすくめる。

 

「・・・ですが、これほどの設備を買ったとなると、どなたかの持ち出しでしたの?」

 

 言外にGS資金でしょ、これ、というアヤカのセリフを、雪之丞が否定する。

 

「あ? この設備、映写機材以外全部横島が作ったぞ」

「・・・え?」

 

 思わず声を詰まらせるアヤカにエヴァも笑顔で言葉を重ねる。

 

「本当だ、雪広。わずか二日でこの出来だ。というわけで、間違いなくプラスだぞ?」

 

 今まさにアヤカが考えていたことを言い当てられて驚いたが、それでも縋ろうと思い立った。

 

「・・・横島さん、大変心苦しいお話なんですが、できれば、うちのクラスを手伝っていただけませんでしょうか?」

 

 正直、そういう手伝いを外に頼むクラスは多いが、アヤカは心苦しかった。

 事前に自分のコネを総動員しているため、それ以上に外の力を借りることに罪悪感があったのだ。

 しかしこのままでは準備が終わらない、というかクラス発表が始まらない。

 そんなぎりぎりの想いのアヤカに、横島は邪気のない笑顔で微笑んだ。

 

「おう、まかせとけ。俺は美女美少女の味方だからな! その代り、二年ぐらいしたらナンパに応じてくれよ、将来の美女のアヤカちゃん」

 

 思いっきり歯の浮くようなセリフだが心の底からそう思っていることは間違いなく、思わず顔を赤らめてしまったアヤカであったが、それは苦笑いへと変わっていた。

 なにしろ、横島の左右にはコノカと千鶴がおり、物凄く不機嫌そうな顔で両腕を抓っていたから。

 それは何とも微笑ましい光景で、少しうらやましいと思うアヤカであった。

 

 

 

 

 

 

 一年の時は超中心の中華飲食店をした「2年A組」であったが、その超も今年は独自に中華飯店を開店するので、クラスとしては別路線を求められた。

 そこでアヤカ・千鶴のコネを使いつつ本格イギリスカフェという形で出店をしようとして見たのだが、これが困ったことに労働力不足が発覚した。

 本格、と銘打っていたが、ほとんどの生徒が部活動をしている関係で制作専従できず、また、紅茶、というかティータイムの作法を知っているものがほとんどいなかったのだ。

 衣装と研修でほとんどの時間が使われてしまい、内装まで手が回っていないうちにタイムアップ寸前。

 誰でもいいから助けてほしい、そんな状況で現れた男、横島忠夫。

 数々の丁稚経験や工作経験は伊達ではなく、少ない材料でモリモリそれっぽい環境に変えて行ってしまった。

 机や椅子はロココっぽく、壁や柱はローマっぽくもイングランド風。

 既存のカーテンにはエヴァがものすごい速さでレースを縫い付けてゆき、間仕切り用の暗幕には、茶々丸が結構豪華な刺繍をアップリケしてゆく。

 くわえて、間仕切りの奥の厨房用の調理台が、なぜか雪之丞の手によってホイホイ運び込まれており、作業が遅れている持ち場は愛子空間に取り込んで進めさせ、とまぁ、まさに横島事務所のテコ入れと言える状態であった。

 

 室内製作に加わっていた生徒たちが唖然とする中、女子中等部2年A組の出し物である「喫茶 Arbor(アーバー)」は開店準備が出来てしまった。

 名前を聞いた横島が、天井に格子状の棚とブドウのイミテーションシャンデリアなどを何処からか追加したり、ブドウ釣棚のような簡単な門構えを作ったり、いつの間にか作ったのかわからないブドウのブローチなんていうモノまでおそろいで全員分作ったりと細かすぎる作業に呆然とさせられたが、それはそれ。

 

 あまりの仕事力に感謝した生徒たちが、自分の部活動の公開企画や出店にぜひとも来てほしいとチケットを渡す姿は少し学生っぽいかもしれない。

 

 

※Arbor : 西洋風の東屋。横島のイメージでは木の棚に蔦などが這っている感じだが、それをぶどう棚に連想した為、数々のアイテムが生まれている。

 




リファイン、でした。

本作で引っ張り出された碑技術は、むりやりマニ者技術につなげましたが、実は発想の大元は「都市シリーズ」osakaの言詞板です。
で、本当は美神美智恵を交えずに開発し、人間以外嫌いの美神家による違法言詞板騒ぎを演出しようと思ったのですが…隊長って取り締まる方じゃん、ということで参加させました。

まぁ、いつか繋げたい話です>違法言詞板騒ぎ
・・・つうか、絡めるとしたら、化け猫親子だよなぁ、やっぱW

※OSAKAで、違法言詞板騒ぎのパートが、猫獣人の担当イベントだった為。

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