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第四話 雷光、人妻美智恵の@@教室

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タイトルに大きな意味はありませんw
内容も健全ですよ? w




 

 

 こと女性の感情は共感と共有という太い柱が歴然として存在している。

 

 これに振り回される人は多いし、これを振り回す人も多い。

 結局は社会性の差が出るので根本的な問題かどうかは難しい。

 しかし、一般的な女性の感覚からすると、高畑=T=タカミチは女の敵とされている。

 

 大きな要因として「アスナ失恋」はあるわけだが、これについては色恋沙汰なので問題はない。

 というか、高畑ほどの年の人間が女子中学生と本気の恋愛をしては不味かろうという意見も根強い。

 が、彼の行った仕打ちについては一致した見解がまとまっている。

 いくらなんでも「あんな」になるまでの仕打ちをするかよ、と。

 さすがに黙って入られなかった女教師関係者が問い詰めたところ、

 

 予想をはるかに超えた対応であったらしく、言葉も無いと切り捨てたとか。

 以降、職員室での居場所は無く、休職届けと共にNGOへ流れていった。

 

 そうなると彼の担任していたクラスの担当は誰になるのか、これは大いに紛糾した。

 様々な教員の名前が挙がるが本人からの拒絶があり大揉めになったりもする。

 「もう、横島GSにたよるか」という投げやりなアイデアが出たところで、ある男の重い腰が上がった。

 

 麻帆良学園中等部所属、学年主任 新田教諭である。

 

 現役生徒から「鬼」と呼ばれるも卒業生から絶大なる人気を誇り、同窓会招待率ナンバーワンの呼び名も高い風紀の鬼であった。

 この立候補、じつはあまり歓迎されていない。

 なにしろ、卒業生および父母人気が高すぎるのだ。

 彼が一クラスを担当するとなれば相当の反感が高まる。

 

「@@先生より新田先生に!」

 

 とリアルで声が聞こえてきそうな勢いとなることは間違いなかった。

 さすがにそれは困るということで、源しずなが代行で受け持つこととなったわけだが、こうなると副担任という立場に立候補、という男性教員が動き出そうとした。

 が、葛葉刀子の絶対零度の視線が周囲を凍結させた。

 怖い、怖すぎる、と実は新田ですら肝を冷やしていたが、まぁそれはそれ。

 ほぼ学園放逐状態となった高畑の禊が終わるのはいつのことか?

 それは誰もわからない。

 

 

 

 

 

 

 片や加害者の動向もさることながら、被害者の心のケアという面で言えば、仕事が目新しくて遣り甲斐があり、目に見える結果が積み重なるという横島事務所はアスナにとっての癒しといえた。

 また、クラスメイトと共に勤務している関係でクラブ活動という感覚もあってか、実に癒しとなっていた。

 替わりに美術部を辞めた訳だが、これは正面から許可されている。

 アスナ自身は語っていなくても、高畑目当てで入部したようなものであることは理解されていたから。

 逆にレアな進路を取ったということで美術部員達からも歓迎されていて、いろいろと相談が舞い込んできていたりするのだから良い交流だろう。

 

 そんなアスナの癒しの本丸、横島事務所に新田教諭がやってきた。

 最近とみに生活態度がよくなってきたり成績上昇が顕著であるアスナ達が、オカルト的なズルをしていないかという調査が名目であった。

 いや、率直に言えば、洗脳・思考誘導等々、不穏な想像すら新田の手元に「憶測」として舞い込んできている。

 個人的に言えば、新田にとって「横島忠夫」は実にすがすがしい青年であった。

 思春期という不安定な時期に引かれやすい「オカルト」という存在を、かなり現実的な存在として世間へ紹介し、さらにその危険性なども啓蒙している姿は眩しいぐらいであった。

 加えて、事務所に参加している少女達が自分を見る目が良い。

 上司や部下ではない、仲間を思う気持ちが籠もっており、その感情に曇りは感じなかった。

 しかし新田は今「憎まれ役」として訪問しているのだ。

 この程度の荒波は越えてもらわなければならない。

 

「・・・つまり、オカルトによる犯罪行為はしていないと誓約できるというのだね?」

 

 ずいぶんと意地の悪い聞き方に、少女達の眉がつり上がるのがわかる。

 うむ、これはかなり嫌われたものだ。

 逆に心底信頼されているな、横島忠夫君、と新田。

 

「オカルトの犯罪行為は立法で規定されています。当然犯すことのない行為です。ただ・・・」

「・・・ただ?」

 

 いままで、経営者の顔であった青年の顔が「悪戯小僧」に変わったかのように見える。

 なんだ? そう思った瞬間に新田の視界が暗転した。

 

 

 

 

 一瞬の暗転だったのか、気づけば何処とも知れぬ場所にいた。

 いや、この空気、この気配、それは間違いなく学校が持つ「それ」であった。

 が、周辺ほとんど、机も壁も床も天井も木製という後者はしばらく見ていないもので、異常な状況と知りつつも懐かしいモノのように感じてしまう新田であった。

 なでてみると、木目の壁はしっとりとしていて、暖かみを感じる。

 これが真夏ならば冷たく、真冬で在れば暖かく感じるだろう。

 これだ、と新田は思う。

 この環境こそ、学習に必要なものだ、と。

 

「どうですか、新田先生。これがうちのオカルト犯罪じゃないけどズルをしている、そんな内容です」

 

 突如現れた横島をみたが、新田の目には敵意はない。

 

「なるほど、学習に向いた環境を彼女達に与え、集中補習した、ということだね」

「加えて言えば、この空間では時間の流れが任意なんですよ。だから、この空間の中で何時間勉強しても外の時間の流れはゼロ、と言う感じにもできます」

 

 ・・・それは大したズルだ、と苦笑いの新田だった。

 

 勉強ができるようになる魔法のような力を使って成績を上げたわけでも、別人のような勉強知識をオカルトチックに刷り込んで労無く結果を手に入れたわけでもない。

 確かに時間を削り出す技術はオカルトかも知れないが、彼女たちは時間というモノを手に入れて誠実に勉学へ取り組んだだけなのだ。

 そう、横島の言うように「犯罪」はしていないだろう。しかし「ズル」という意見はあるだろう。

 だが、学習している時間を人よりかけて、そして身につけているという姿勢は称えるべきことでもある。

 

「しかし、ここで時間を過ごしすぎると、使った分だけ老化しないかい?」

「いいえ、新田先生。この空間での時間の流れは肉体に影響されません」

「それでは少し変な気がするんだが? 肉体に影響しないので在れば、脳に記憶された内容が外で反映されないのではないか?」

「その辺のオカルトと科学の立証はできていませんが、その辺に詳しい『ドクターカオス』に聞いてみました」

 

 オカルトに疎い新田ですら知っているオカルト界の巨人の名に少し興味が引かれる。

 

「・・・なんと?」

「この空間での記憶は、魂に刻まれるのだろう、と。だから学習効果が高いし忘れにくいのだろう、と」

 

 なるほど、と新田は笑う。

 実に軽やかに。

 

「・・・魂に刻まれるほど勉強したのなら、成績上昇は当たり前だね、横島君」

「はい」

 

 とはいえ、ノートやパソコンでの仕事結果は反映されるのだから不思議空間であることには変わらない。

 そんな話をすると、新田はじつにばつの悪い顔になった。

 

「あー、今更こんなことを頼むのは言い難いのだが」

 

 新田は結構本気であった。

 

 

 

 

 

 

 

 一部勢力でささやかれた「オカルト犯罪」説は、学園風紀の筆頭とも言える新田教諭によって否定された。それはもう完全否定。

 が、異を唱える教師もいる、というか居ないでもないので、それは新田が率先して体感させた。

 

 大量の書類やノートパソコンを持ち込んで。

 

 およそ愛子時間的に言えば4時間ほどで出てくるのだが、出入りする教員の数は日々増えていたりする。

 加えて、愛子内自習をする生徒も増えており、愛子先生以外にも本物の先生なども混じった課外学校状態になっていたりもする。

 こうなると愛子先生と本物の先生の対立かと思いきや、じつは教え方に差が合りすぎて対抗意識はない。

 愛子先生のやりかたは、いわば家庭教師のやりかた。

 本物の先生の方向は言わずもがな。

 ただ、愛子空間での生徒の授業態度が非常にいい上に理解力も高くなるので、愛子空間内で授業をしたいなぁと言う教師もちらほらいたりもするのだが。

 

「君たちは、教師だろう!」

 

 と、そんな新田先生の一喝があったりもする。

 

 利点や有用性を示されると自分も使いたいと思う人間もかなりでるのだが、もちろん制限はかけられた。

 というか、中でやっていることは自習なのだ。

 自分お部屋でもいいだろ、と苦笑いの横島に軽い拒絶を受けて、となるのだが。

 実際、事務所女子も毎日愛子空間に入っている訳ではない。

 事務所待機中に宿題や予習復習は当たり前であった。

 勤務中なのにいいのか、という話もあるが、それは逆に学業優先と言うことで所長横島忠夫が推奨している。

 

 なにしろ元々横島も劣等生。

 前の高校からの成績表と現在の麻帆良の評価がつながらず、正しい資料をよこせとか、逆に違う人間に違いないとか言う騒ぎになっているほど。

 これは麻帆良のカリキュラムがどうこうと言うものではなく、純粋に勉強できる時間が「愛子空間」で増やせたという点が大きい。

 横島自身も美神事務所にいる段階で単独除霊が増えてからオカルト学習は進めていたし、学校での授業について行くために愛子空間のお世話になっていたので、自然な流れとも言えるわけだが。

 前高校を転出するまでに校内の評価はひっくり返せ無かったが、はじめから学習意欲のある学生として転入してきた横島を見れば悪いイメージな訳がない。

 というわけで、クラスメイトとも在る程度交流があるのだが、やはり濃い繋がりなのは濃い人間と、となってしまう。

 

「よぉ、横島。妹がこれワタセってよ」

「なんだよ、てるみちゃん。気を使わなくてもいいのになぁ」

「ヨコシマ、たぶん気遣いじゃないわよ?」

「え。そなのか?」

 

 とかなんとか、オカルト相談や依頼人関係でお菓子やなにかが持ち寄られることが多い。

 かけてくわえて、青春第一主義の愛子は学生に人気が高く、授業でわからないところは愛子先生に聞け、という勢いだったりもする。

 

 劇的だったのは計算尺方式だろう。

 詳しい手法は避けるが、理系人間が文系解釈で開眼したとだけ言っておこう。

 逆に文系人間に理系人間の内心情という理解を導き、文系人間脳味噌内理系仮想装置というとんでもないモノを埋め込んだことで「万能家庭教師」の名を欲しいままにしていたりする。

 成績面ではふつうのタマモもクラスにはとけ込んでいるが、逆に「妖狐」としての側面が気にされなさすぎてタマモの方が驚いているほどであった。

 それも人間からの上から視線ではなく、個としてのタマモが認められている状態のため、タマモ自身もくすぐったい想いをしている。

 

「ま、ついてきてよかったわよ」

「横島君って、そう思わせてくれるモノね」

 

 妖狐と机妖。

 美少女二人の呟きは、一人の男に向けられたもの。

 これを知っても嫉妬の風は未だ弱かったのであった。

 

「あ、愛子くん! ちょっと二時間ほど頼めるかな!?」

「セルヒコ先生。それじゃぁ聞こえ悪いっすよ?」

「あ、いやいやいや! 僕は高畑君とはちがうよ!?」

 

 とまぁ、急場に時間が足りない先生達に愛子空間を貸しているという事実も、まぁ、いろいろと影響しているわけだが。

 実は、魔法先生の場合、愛子空間を使うと使用時間単位で学園に請求書が回る仕掛けになっている。

 魔法先生達の給与面がどうなるか、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 訓練訓練の中、除霊実地に中学生組が出てきた。

 参加者はエヴァ、アスナ、コノカ、千鶴。

 千雨は事務志望なのでお留守番である。

 

 で、現地実習に、ということで安価で引き受けたビル除霊物件であったが、はじめの段階からイメージが違っていた。

 

「まずは、依頼証と状況の確認」

「「「「はい!」」」」

 

 まず必要なのは、その現場が正しいかどうか、依頼されている内容と適合しているかどうか、そうまるで商品確認のような行為だが、依頼されていない物件を除霊しても誰も喜ばないわけで。

 そこで各自が書類を確認していた。

 住所、名称、そして依頼主。

 依頼内容とその規模の算定。

 明らかに見習いがする事ではないが、横島は一通り経験してもらうつもりであった。

 

 全員の確認が終わったところで、横島は一歩進み出る。

 

「えーっと、横島さん。なにしてるんですか?」

 

 横島は除霊対象のビルの周りを、片足を引きずるようにふらふらと進んだり飛んだりしている。

 

「これはな、禹歩(うほ)ていう歩き方。こうやって土地の悪い星を踏みつぶすことで、浄化符や結界符に頼らない除霊ができるんだ」

 

「禹(う)という文字は元々蜥蜴や鰐、竜を象った象形文字だと聞く。そうだな、所長?」

「おお、よくしってるなぁ、エヴァちゃん」

「まぁ、安価な仕事料をカバーするための貧乏GSの技だな」

「うるせぇ、雪之丞!」

 

 とまぁ、実費をかけなければダンピングにならないと言う独自路線のために、様々なチャレンジをしている横島であったが、無駄に技術面での高さを見せる横島だけに、美神が普段使っている一千万札レベルの結界を張れているのはお約束に違いない。

 もちろん、これは「竜」の神話に基づく呪法だけのこともあり、龍神の加護が極めて高い横島だからこその効力かも知れない。

 ともあれ、神域レベルでの浄化をされたビルは、もう悪意在る存在としてこの世に残ることが難しいレベルになっているが、其れだからこその研修とも言える。

 

「さ、装備の点検をしよう」

「「「「はい」」」」

 

 横島の趣味でお札ホルダーは足に取り付けられている関係で、全員がホットパンツかジーンズ姿。

 そして揃いのプロテクターを着けていた。

 これはアシュタロス戦時の美神がつけていたものを模している。

 また、ただのガードではなく、オカルト技術も投入されていて、十分にGSとして使い物になるものであった。

 まぁ、横島にとっても本格的な弟子は初めてなので、入れ込みすぎている感じもあるが、仕方ないのかも知れない。

 よそ様から預かった大切なお姫様だ、という意識が強すぎることが原因なのだが、それを責めるのは酷な話と言える。

 

「じゃ、実地確認」

「「「「はい!」」」」

 

 ビルの入り口から霊波で周囲を探りつつ安全なエリアを増やしてゆくという手法は、まるで軍のようであったが、安全と確認された場所の壁にお札を貼ってゆき「クリアー」としているのは独自手法かも知れない。

 

 現状を一つずつ解決してゆき、その手は最上階まで至ったそのとき、その幽霊はあらわれた。

 

『お、おれれはおれはおれれはぁぁぁ・・・・』

 

 完全に自意識を失っているタイプであった。

 

「一人で除霊する場合は、まぁ結界を張りつつ外からチクチクってパターンと、相手の認識をすり抜けて派手にバーンってがあるな」

 

 そう言いながら、横島は狂ったように拳をふるう幽霊を淡く光る霊波の盾で防いでいた。

 

「所長、私の場合は遠距離から『バーン』なんだが?」

「エヴァちゃんの場合は、距離をとって結界を張ってバーンか、肉の壁で動的壁を作ってバーンだな」

「所長、わたしは?」

 

 アスナの言葉を聞き、ニヤリと笑う横島。

 

「まぁ、アスナちゃんとコノカちゃんと千鶴ちゃんは未だスタイルはわからんな。ただ、性格的に見ればアスナちゃんは雪之丞と同じ前衛、コノカちゃんと千鶴ちゃんは後衛かな?」

 

 霊波の盾と同じ輝きが横島の手の中で光ると、理性が消滅していたはずの幽霊に理性の色が浮かぶ。

 

『・・・あ、あれ、おれは、なんで・・・』

 

 砕けきった人型という風だった幽霊は、さよちゃんとほぼ同じ感じに人型になっていた。

 

「忘れたのか? あんたは死んで幽霊になったんだ」

 

 そう言いながら横島はオカルト免許を示す。

 

「GS横島忠夫だ。あんたの除霊の依頼を受けた」

 

『あ、あ、あ、そうだ、おれはころされて・・・』

「あんたを殺した犯人は、もう地獄行きになってるよ」

『・・・そうか、もう、恨む相手もいないのか』

 

 ゆっくりと霊体は光にあふれ、そして一本の柱になって、そして消えた。

 横島はしばらく真言を唱える。

 

「おんかかかびさんまえいそわか、おんかかかびさんまえいそわか」

 

 それは地蔵菩薩真言。

 死後、罪を犯したモノを送る地獄道での救済を祈る言霊。

 まるで歌のように低く響いた真言を繰り返した後、ふぅ、とため息をついた横島。

 

「というわけで、除霊完了」

 

 そう言って振り返った先の少女達は、いろいろと感じ入るモノがあったのか涙を流していた。

 今回の除霊は「説得」が効いた数少ない霊だ。

 GSの除霊というと神通棍や破魔札で直接的な攻撃を加えて吸引といういうのが一般的に知られている手法である。

 横島も美神事務所で見続けた方法はそうだ。

 しかし、その手法では全く値下げの要素はない。

 そこで、究極的に使用霊具を減らしてコストダウンをし、人手で賄ってしまおうというのが横島事務所の方針だった。

 もちろん、値段に見合わない討伐系の依頼もある。

 そう言うときには間違えない。

 最大戦力で向かえば良いだけだ。

 

 まぁ、雪之丞を投下するだけだが。

 

 それはさておき、相手を思いやる除霊は、彼女たちに深く深く根付くことになる。

 根付いた意識はやがて大輪の花を咲かせることになるのだが、それはまた何れの話。

 

 少女達が落ち着くのを待ったところで、大量の掃除道具を出した横島を少女達は不思議そうな目で見つめていた。

 

「・・・あの、横島さん、これは?」

「ん? 見ての通りの掃除道具だよ、千鶴ちゃん」

 

 が、使い道が普通ではなかった。

 なんとこの物件を掃除してしまおうというのだ。

 それも霊力を込めた掃除道具で。

 

「ほほぉ、つまり、この方法で事務所は掃除されているのだな?」

「さすがエヴァちゃん、よくわかったな」

「とうぜんだろ。神域など目じゃないほどに聖別されておったから何事かと思っておったのだ」

「そっかぁ、ウチの実家と雰囲気にとったのはそう言うことやったんやねぇ」

 

 というわけで、少女達に加えて同行護衛の雪之丞も加わり、てきぱきと除霊掃除を加えて仕事が完了した。

 

「きれいにはなったけど、これって意味があるんですか? 横島さん」

「アスナちゃん、この掃除をするのとしないのとではオカルト事故の発生率が全然違うんだ」

「どのぐらいなんです?」

「・・・掃除しないと再事故率120%増し」

 

 げぇ、とすごい目で見られる横島。

 

「まぁ、だから仕事後のGSはお札とかを張って半ば封印するんだよ。だけど、そうすると高いお札代が値段に組み込まれちゃうだろ? だから禹歩と霊的清掃で結界を張って安価ですませてるんだ」

 

 苦笑いの横島へ、コノカが首を傾げて言う。

 

「横島さん、そこまで必死にならんといかんほど高いん? お札」

「最低数十万円、最高額は数千万。個人じゃ払えないだろ?」

 

 長い沈黙がコノカとの間で発生したが、仕方ない話だろう。

 とりあえず作業に集中して、どうにか一時間後には終了していたのは流石と言える。

 

「・・・さってと、じゃ、現場の除霊後写真も撮ったし現場報告書も書いたし、おしまい! ご苦労様でした!」

「「「「ごくろうさまでした!」」」」

「結構神経も使ったし霊力も使ったから、疲れてると思う。だから今日はゆっくり寝てくれぇ」

「「「「はい!!」」」」

 

 初めての現場実習はこれで終了した。

 しかしまぁ、本当の仕事はこれから。

 麻帆良への提出書類、GS協会への提出書類、美神事務所への報告書類、顧客への請求書及び現場写真の貼付等々。

 事件が会議室で起こっているわけではないと言う映画のせりふではないが、除霊は現場で終わるものではないというのが現実だろうと千雨は感じていた。

 

「面倒な書類は俺が書くから、千雨ちゃんは経理関係書式と請求書関係をまとめてくれぇ」

「わかったよ、横島さん」

 

 とはいえ、任される仕事の大半はテンプレートのある書式なので、間違いないように落とし込めば良いだけだし、横島事務所的には使用霊具が少ないので作成も楽であったりする。

 加えて、オカルト知識を細々と教えてくれる愛子先生とタッグを組んでいるので、彼女自身、これで給料もらっていいのだろうかという疑問すら感じていたりもする。

 が、実はかなり横島事務所で戦力扱いだった。

 なにも教えることもなく表計算ソフトや経理ソフトを扱え、ネット情報操作や協会との書類のやりとりも電子化させつことで遅延をなくし、美神事務所への報告ですらメール化させてしまう猛者であった。

 このレベルでも大助かりなのに、これに加えて税務署関係の資料集めも「ネットでテンプレ見つけたから」と進んで仕事をしてくれると愛子大興奮だったりする。

 そんな風な彼女なのに、本人は大したことをしていないとか、給料分は働かないと申し訳ないとか言っているのは微妙であった。

 

「あれか、横島が感染したか?」

「なにがだよ、雪之丞」

 

 もしかすると自己卑下とか自己認識が低いという症状で在れば感染しているおそれはあるだろう。

 何しろアレは精神にもたらす症状のくせに感染病のたぐいだから。

 

 

 

 

 

 

 寮に戻った除霊女子達は、ひとまずラウンジでお茶をすることにした。

 こう、興奮が体から離れない、そんな感じだから。

 

「あれが、成仏、なのよね」

「うん、あれやね、こう、神々しいってかんじで」

「死んだ人は仏様って、ああいう意味だったのかしら?」

 

 エヴァは自分のログハウスがあるので茶々丸とともに帰宅しているが、女子寮住まいの三人は感動を共有していた。

 正直、さほどGSとしての目標があったわけではなかった千鶴には衝撃的で、そして思いの外、感動的であった。

 逆に今回の実習で合わないと思ったら事務所内に入っても良いとまで言われているが、千鶴は、いやアスナもコノカもその気はなくなっていた。

 

「ねぇ、コノカ。吸引した悪霊って、オカルト廃棄物になるって言ってたけど・・・」

「そうえ、オカルト廃棄物やって集められて、ゴミのように処理されるんやって」

「でも、そうなると、成仏にはほど遠いわよね?」

「「「・・・・」」」

 

 彼女たちに胸の内に芽吹いた「成仏」。

 これは絶対的にGSへ求められるモノではない。

 そうGSは生きている人々へのサービスであって、死んだモノへ行うサービスではないからだ。

 究極、人ならざるものすべてを排除する仕事と言える面が大きい。

 しかし、横島事務所の方針は違っていた。

 霊との対話に代表される「説得」が柱になっているのだ。

 そう言う意味では今回の実習は、かなり効果的な教育と言えたが、世間一般としては異端の最前線であることは間違いない。

 もちろん、横島事務所の方針について異端であることは説明されているが、何でもかんでも除霊という方針に抵抗を感じる思春期世代には絶大な支持があり、進んで従う、そう言う空気を持っていた。

 

「教会だと、無理矢理除霊するから輪廻の向こうで狂気の魂が紛れ込むんだって話している方がいるそうだけど・・・」

「チヅ姉、それほんと?」

「私も又聞きだから確証はないけど、でも其れを実感させられたわよね」

「「「・・・・」」」

 

 このときの会話は、かなり先まで彼女たちの方針として共有されることになった。

 いわば、横島事務所の方針を肌で感じた瞬間であった。

 若さもあっただろう、少女の潔癖さもあったかも知れない。

 しかしこの想いは間違いのないモノであったと、彼女たちは再び振り返ることになることは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日は休みであったが、朝早くから起きてしまった彼女たちは食堂でそろって朝食を食べていた。

 で、その彼女たちの仕事の内容を知っているクラスメイト達がワラワラと集まってきていた。

 筆頭は「朝倉和美」。

 言わずと知れた「麻帆良のパパラッチ」である。

 出せば出すだけ、流せば流すだけ売り上げの上がるGSネタは報道部でも特集しており、できれば同行取材も、なんて話もあったわけだが、さすがにお仕事なので「だめ」ということになっている。

 ただ逆に、報道部で定期発刊している新聞の占い欄に横島自身が寄稿していたり、かなりの脳筋エッセイ「最強への未知(誤字にあらず)」という雪之丞の連載も人気で、いままで購買層ではなかった格闘関係者という定期購入者まで掘り起こされているのは出来すぎであろう。

 それ故に、横島事務所に見習い参加している4人と事務員一人と同じクラスの朝倉には、編集長から徹底取材命令が出ており、あの手この手で情報を引き出しては記事にしていたりする。

 今回もその手で、と思っていたのだが、本格的な仕事の現場であったらしく「守秘義務」を盾にされてしまうと太刀打ちできない。

 相反する権利として「報道の自由」というものもあるが、朝倉自身も自分の記事がそこまで高尚なものだとは思っていないので一歩踏み出しにくいモノがある。

 

「・・・とはいえ、昨晩は其れなりに経験できた、と」

「それは否定できないわね」「そーやなぁ、言葉にすると卑猥やけど」「あらあら、コノカさんも言いますわね」

 

 ネタは押さえた、ということで、ガセに走るか憶測記事に走るか、そのへんは編集方針でさだめよう、と席を離れた。

 入れ替わるように現れたのは雪広あやか。

 

「・・・ところでアスナさん。横島さんはご活躍ですの?」

「うん、結構格好良かったなぁ・・・」

「せやね、格好ええわ、ウチの所長」

「そうねぇ、すてきだったわねぇ」

 

 どうやら朝倉、いまだ切り口が甘いようだ。

 雪広あえかの交渉能力が凄まじいだけなのかも知れないが、守秘義務という壁を越えた「惚気」が朝早い休日の食堂を彩ってゆくのであった。

 後ほどその情報を聞いた朝倉は自分の修行もまだまだだと大いに反省したのだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このほどの情報漏洩、大きな問題になるかと思いきや、想いっきり流されてしまった。

 完全なスルー。

 

 なぜか?

 

 それは除霊対象と依頼主に依るとしか言いようがない。

 この手のビル除霊、基本的に噂がひどく買い手や借り手がつかない場合に依頼される。

 つまり業界を接見するほどの悪い噂になっているのだ。

 だからこそ、有名なGSや実力の高いGSに依頼して「もうだいじょうぶですよ~」と安全宣言をしたいのだが、それを宣伝するのにも資金がいる。

 人の噂で金がかからないのは悪い噂だけと相場が決まっており、今回もその「よい噂」のために資金投下をしなければならない、という状態だったのだが、麻帆良女子中学経由で流れた「GS」情報により非常に良質な除霊と物件の安全性が噂となり、その手間が省けた、という訳である。

 

「・・・というわけで、依頼主からはすごく感謝されたけど、次からは気をつけてな?」

「「「はーい」」」

 

 まったく、と苦笑いのエヴァであったが、その場にいたら乗せられていただろうことは予想できたので口には出さなかった。

 エヴァンジェリン=A=K=マクダウエル御年600才前後とはいえ、やはり女性。

 心の二つの柱は堅持していたから。

 

 基本、除霊された後の情報というのは顧客の責任になる。

 何らかの問題があたっとしても、契約外であればGSに責任はない。

 しかし、そのようなトラブルが頻発すれば評判は落ちるし、仕事も来なくなる。

 GS協会も仕事を振らなくなるし、収入も減る。

 いわゆる不のスパイラルというものだが、逆に正のスパイラルもある。

 客先の評判がよければGS協会も仕事を振りやすいし、協会外の個人指名依頼も増えるし収入も上がる。

 実績が上がればランクも上がり信用も増す。

 正に今、横島事務所の状況といえた。

 

 横島も雪乃丞も、自らを「壊し屋」と称している。

 これには主義や主張のような理由はないが、既に終わったものや終わるものを相手にしているという自覚から来ているものだ。

 ただ、全てが終わらせるものかというとそうではなく、輪廻の彼方へ送り出す、そんな行為もまれにある。

 そんな貴重な体験を彼女達に見せられたのは僥倖だと横島も雪乃丞も感じていたのだが、まさかあの光景がGSとしての原体験になっているとは思いもしなかった二人であった。

 

「・・・ま、そのへんはいろいろ経験していくうちに解るでしょ?」

「タマモの言うとおりだな。いろいろ経験してもらうか」

 

 

 というわけで、除霊助手組は現場に出るようになった。

 ただし、エヴァは麻帆良防衛がメインであったりするが。

 

 

「所長、私も除霊メインでつれてけ」

「あー、エヴァちゃんは指名依頼が多いからなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 悪の魔法使い、とされているエヴァだが、現実的な話をすれば「麻帆良」防衛の要といえる存在である。

 以前は結界用の燃料という役目もあったが、各種の呪いが解呪されて以降は純粋な戦力として期待されている。

 勿論、エヴァの魔力を使えなくなってしまったために結界の出力が落ちてしまったという理由もあるが、それも外の勢力、オカルトGメンと連携した防衛指針が功を奏してそれを補っている。

 加えて、魔法使いとして全力を出せるエヴァの存在はいわば戦略核レベルで、その存在が知られれば知られるほど雑魚な襲撃者は減る一方であった。

 逆にMMからの逆スパイや襲撃者が増えてきたのは皮肉なことだろう。

 人より秀でたる力を持つと自称する「魔法使い」が、力なき一般人であるはずの「オカルトGメン」に一番検挙されているというのだから更に皮肉といえる。

 彼ら自身、表の立場上「魔法使い」と自称出来ないため、様々な役職を盾にして釈放を求めるのだが、発動体を取り上げるとシュンとして、仮に渡すと尊大になるという行動は捕まった「魔法使い」全員にいえる共通点で、星マークや月マークのついた棒を渡せば魔法使いかどうかが解るとまで言われるほどの間抜けさ具合であった。

 

 勿論彼らにも彼なりの正義がある。

 「正義の魔法使い」というプロパガンダに踊らされているとはいえ、彼らの世界の常識と彼らの世界の正義がある限り、彼らは彼ら自身にとって正義なのだ。

 魔法世界を平和に導いたメガロメセンブリアは「正義」であるし、それに楯突く旧世界の魔法勢は「悪」なのだ。

 恒久的な平和を維持している「元老院」は正義であり、彼らの言動を婉曲に否定して拒絶する麻帆良は「悪の巣窟」なのだ。

 加えて言えば、悪の魔法使いである「エヴァンジェリン=A=K=マクダウエル」まで麻帆良にいるのだから、これは誰が見てもあいつらが悪い。

 

 とまぁ、こんな話が調書に書き連ねられているというのだから、正に電波満開な内容といえる。

 真剣に「これ」を語り、オカルトGメンも魔法世界に進出して正義を語ろうとか誘っているというのだから魔法の秘匿はどこに行った、と職員達はため息をついているとか。

 こんなストレス全開の職場だが、職場自体の成績としては過去最高で、除霊関係を一般価格で普通GSに発注してもお釣が来るほどの稼働率になっている。

 勿論、オカルトGメン自体は非営利団体だが、活動自体に整合性がある限り予算の上限が高く、地域性が高い限り活動レベルが高い。

 更に言えば政治的なカードに出来るとなれば予算などいくらでも付くわけで。

 

 いま、オカルトGメンは空前の「魔法世界バブル」状態であった。

 

 更に言えば、陣頭指揮に当たる西条にとって目の上のたんこぶがお休み中なのがいい。

 確かに有能だし破格の能力を持っているが、いつまでもあの世代の女性がトップにいるのは組織として正常な動向ではない、と彼は考えている。

 そこで、まれに見るほどの稼動状態のうちに、組織自体のシェイクダウンをしてしまおうと画策しているわけだが上手くいくかどうか?

 軽い造反劇の結果は、いずれわかるだろう。

 

 

 

 

 

 

 さて、お休み中の美神美智恵は何処にいるか?

 じつは麻帆良の横島事務所に来ていた。

 いつものように横島を振り回しに着たのではなく、横島の要請によってきたのだ。

 何を要請したのか?

 

 それは横島と美神美智恵の正面に座る超鈴音の顔色が物語っている。

 

 この事の起こりは三日前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 横島忠夫の下に、超鈴音から相談があると申し入れがあったのは、深夜のことであった。

 麻帆良防衛当番からも外れていたため、事務所で留守番がてら自習していたときに彼女はやってきた。

 

「ちょっと、いいかネ?」

 

 いつもどおりの笑顔ではあった。

 しかし、少し引っかかるものを感じさせる何かを感じた。

 

「お、超ちゃん。夜更けに一人歩きとは物騒だな。工学部からの帰りってなら送るぞ?」

「これでも北派の流れを汲む拳士ネ。そういう心配はイラナイよ」

「あのなぁ、超ちゃんや。いっぱしの美少女なんだから、そういう心配は常にするものなの」

 

 そういわれた超は、一瞬呆けたが、次第に嬉しそうに顔をゆがめる。

 だがそれは笑顔には至らなかった。

 ボロボロと涙が流れ、口からは嗚咽がこぼれ。

 

「ちょ、ちょっと、超ちゃん?」

「・・・助けて欲しいヨ、横島GS。もう、どうしたら良いか分からないヨ」

 

 崩れ落ちそうになる超を抱きしめて、自分の隣に座らせる。

 超は暫く声も無く泣き続けていた。

 

 

 

「信じられないとは思うガ、私は未来から来たネ」

「へーーー」

「信じてないカナ?」

「いや、時間移動だろ? 結構ありふれてるよな?」

「・・・え?」

 

 と、この後聞かされた美神親子や横島の時間移動遍歴を聞き、真っ白に燃え尽きそうになった超であったが、理解されているという事実に勇気を燃やし、一歩踏み出した。

 

「実は遠くない未来、魔法世界が崩壊するネ」

「原因は?」

「それは魔法世界の成り立ちに関わるヨ」

 

 

 魔法使い達の故郷とされている魔法世界は、ある場所に魔力によって作られた隔世(かくよ)であるという。

 その存在を支えるものが魔法なら、その世界を構成するものも魔法。

 つまり、その世界で魔法を使い続けることで魔法世界は徐々に寿命を削り、消滅の危機に瀕しているという。

 

「つうか、そんな世界、誰が作ったんだ?」

「歴史には書かれていないネ。ダケど、はじまりの魔法使い、そんな存在が居たといわれているヨ」

 

 まぁ、それはそれとして。

 超の世界の過去にも数々の英雄が魔法世界の救済を求めて活動したが、結果は魔法世界崩壊という結果と、魔法世界の住人が、隔世から放り出されるという事になってしまった。

 

「で、何処に放り出されたんだ?」

「・・・火星ネ」

「うわぁ・・・」

 

 火星、それは最も近い惑星といわれ、そしてファーストフロンティアプラネッツとも認識されている兄弟星。

 しかし、開発や探検が夢見られても、生身の体で生き抜くには厳しすぎる場所である。

 

「・・・じゃ、もしかして超ちゃんって、火星出身?」

「そうネ。生き抜いた魔法使い達が地球をうらやみ、理不尽に嫉妬して戦争を仕掛けた、そんな未来から来たね」

「・・・そっかぁ」

 

 うんうんと頷く横島が、今思いついたかのように聞く。

 

「じゃ、その悲劇を繰り返さないように、過去に?」

「・・・」

 

 だまって頷く超であったが、深々と頭を下げた。

 

「でも、その決意ハ無駄だったネ」

 

 彼女曰く、彼女が知る過去の歴史と今ではまるで違うそうだ。

 彼女の知る歴史では、GSという職業の表のオカルトなんていなかったし、魔界の大侯爵なんて存在が旧世界に攻めてくるなんて歴史も無かった。

 そして、これだけ活躍していれば名を越しているであろう事は間違いない横島忠夫のなもなかったとか。

 

「私のせいネ。無茶な時間跳躍でこの世界の歴史をゆがめてしまったヨ」

 

 ぼろぼろと涙を流す超の頭をなでる横島。

 

「なんで、なんでネ! 何でやさしくするのヨ!! 私は、わたしわぁ!!」

 

 叫びを上げそうになった超に軽くチョップ。

 何事かと目を見開けば、そこには真剣な顔の横島。

 

「なぁ超ちゃん。ここ二・三年の話なんだけど、おかしいなって感じることが無かったか?」

「・・・なんのことね?」

「たとえば、学年。もう何度も中学『2年』をしているなーって感じたこと無い?」

「・・・!!」

 

 何かを言おうとして、それでも何もいえなくて。

 超は口をパクパクさせていた。

 

「実は、魔法使い達が言う『旧世界』では、共通認識として世界中で認識されているんだ。まぁ、見なかったことにしてるけどな」

 

 横島忠夫は語る。

 まるで同じ年を何回も何回も過ごしているような日々。

 年号は変わらず、干支も移らず、しかし時間経過だけは体感できる不思議な日々。

 じつはこれには原因がある。

 

 それはあの「大霊症」。

 

 魔界の、それもトップレベルの存在が人間世界に現界してきたのだ。

 その圧力はとんでもないものになる。

 言わば光速を超えた重力を持つブラックホールの周りに居るようなものだ。

 視覚的には理解できなくても存在がゆがみ、空間がゆがみ、時空が歪む。

 ただ、知覚できる範囲の世界を超えた情報が歪むため、その差異でループしている事実に気づいたというわけであった。

 このループ、経験や物体の移動が反映される。

 つまり、物流や契約、そして売買成長、時間の流れで戻ってしまうと問題の出る全てが持ち越しという実にとんでもない内容でもある。

 さすが表のオカルトと言った所であろうか?

 

「確かに超ちゃんのしる歴史には『超鈴音』という存在は居なかったかもしれない。でもその影響がどんな形で出るかなんて誰もわからないんだぜ。まぁ、そういうことに詳しい人も居るから紹介するか?」

「・・・誰ネ?」

「伝説の時空間移動能力者にして、神魔の目を掻い潜り自分の欲する未来を掴んだ女。美神美智恵、だよ」

 

 

 

 その日、横島へ超の知る未来が開示された。

 

 やがてやってくる英雄の子供。

 波立つように暴れ行く運命の糸。

 対決、決戦。

 そして崩壊する魔法世界。

 

 超はいずれ崩壊する影響で対立する魔法世界と旧世界を統合し、全力で崩壊を防ぐつもりであった。

 しかし、魔法が一般化したらどうなるか、それはこの世界の表のオカルトが示していた。

 ありふれた、本当にありふれた、不便で万能には程遠い力の一つとしか認識できない魔法が公開されても、ありふれた不幸が量産されるだけで幸せには程遠いというのが超の結論であった。

 勿論横島はそれに同意しつつ一つ聞いてみる。

 

「なぁ、超ちゃん。魔法の世界を魔法だけで解決とか、無理なんじゃね?」

「・・・やぱり、無理かネ?」

「うん、だからさ、表のオカルトの力も使っちまおうぜ?」

「・・・え?」

 

 思いつきなんだけど、と開示された内容は、それはもう目から鱗の数々であった。

 物理的な力である電力を霊力へと変えることの出来る能力者の話。

 霊力を目の前で魔力へと変えてしまう横島忠夫。

 つまり、物理的な発電という行為が、紆余曲折はするであろうが魔力へ変換されるという事実。

 加えて、魔法球を使って外よりも中の時間を遅らせることによって、魔法世界の修復中の負荷を大幅に減らしつつ住民の精神的な負荷も軽減するという発想。

 更には、その保管先を横島忠夫のコネで月神族の生活空間にすることで魔力を大幅に補給できる環境とし中長期的な移住すら視野に入れるという提案。

 

「・・・すごいネ、凄すぎるネ! これなら、これなら、魔法使いも魔法世界の住人も救われるヨ!!」

 

 何処から取り出したのか、ノート型端末に数々の素案を叩き込みスケジュールを下記示す。

 それは妄想ともいえる無いようであったが、超には十分現実的に思えるものであった。

 

「まぁ、歴史なんてものはさ、今を生きる俺達が作るものなんだぜ? もちろん超ちゃんも一緒にさ」

 

 横島の言葉に、超は再び涙を流した。

 それは罪悪感とか諦観とかそんなものではなく、とても綺麗なものであった。

 喜びの感情でも涙があふれ出ることを理解した超であった。

 

 

 

 

 

 翌日、事務所に現れた美神美智恵。

 とりあえず、現在のところ解っている情勢をぶっちゃけた横島に、美智恵はにっこり微笑む。

 

「まぁ、さすが横島君ね。事件の中心に何故か居るわぁ」

「勘弁してください」

 

 とりあえず、地球上の転移スポットから妙な人間が来ないかをICPOでも調査してくれることになったのだが、未来情報からくる過去の改変については色々と話があるらしく、応接室に超を連れ込んで二人っきりで長々と会話をしていた。

 

 暫くして出てきた超は真っ白な顔色をしており、一方、美智恵はつやつやしていた。

 どうやら歴史改変の後輩へ色々と伝授したようであるが、麻帆良の天才と言われる彼女でも目を逸らしたくなるほどの重く黒い話であったことは間違いない。

 

 基本、歴史の変革はゆったりと、力強くが基本だと横島もわかっていた。

 小規模の修正を断続的に絶対的に行うことで大きく歪ませること無く目標に近づける。

 ただ、歴史的な絶対というポイントは外せない。

 それは横島忠夫の美神事務所入りであり、幽霊おキヌの復活であり。

 

 ・・・魔族 ルシオラの死亡であり。

 

 歴史は過去の積み重ねであるが、その最先端は今。

 今を生きる人間が歴史を作るが、過去の歴史もまた自分に繋がっている。

 今の自分を損なうことなしには歴史を改変することは出来ない。

 しかし、自分の存在基礎が変わってしまえば歴史の変革すら認識で気はしない。

 だから認識できる最小単位で圧力を絶対的に加え、そして改変する方向を常に意識して修正し続ける。

 それが歴史改変の基礎。

 

「・・・横島GS、私に協力してくれるカ?」

「強制的な魔法の開示とかじゃなければ、要相談だな」

「美神先生、色々とありがとうネ」

「ふふふ、この困難な道行を知っているのは私とあなたぐらいなものでしょうね。迷ったら電話しなさい。心得ぐらいは教えてあげるわよ?」

 

 今ここに、最強の歴史変革者の存在が手を組んだ。

 様々な問題はあるだろうが、それでも、執念の勝者と天才的逆行者の握手は、必ず歴史に残るであろう快挙であり事件であった。

 

「ところで美神先生。美神先生の能力である『電力の霊力変換』というのは研究できるカネ?」

「あら面白い話を知ってるのね。いいわよ? 私も興味があるから」

 

 

 

 正に恐ろしいもの達が手を組んだ瞬間だった。

 間違いなく二人を結びつけたのは、「共感と共有という太い柱」であったことは間違いないだろう。

 

 




一話でも、実は電力を結界に回すという形で「電力>魔力」変換は現実化していますが、今回そのことを超が指摘しなかったのは理由があります。

詳しくは次回を!!

※なんでこんな言い訳を書いているかというと、まぁ、面倒な指摘を少なくするためですw

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