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トップページ > 神代ふみあき書庫 > 赤松・椎名系作品 > よこしまほら OTR版リファイン > 第三話 激動、回る因果の糸車
劇的に変わるシュツもあれば変わらない角度もある。
それがリファイン風味w
風味とか言っている時点で逃げてるわなw
誰にでも避けえぬことは有る。
それを大きな火事にするか小さな火事にするかで人の対処能力というモノが問われる訳だが、そんなもの関係なし、という人間もいる。
小さな火事にして延焼を防ぐ、ではなく小さな火事をキャンプファイヤーにしてみんなで楽しむ、みたいな。
もちろんそんな魔術的な出来を誰もが出来るわけではない。
しかし、結果的にそうなる、という人間は少数ではない。
高畑やコノカ、千鶴に施した手法。
これは魔法修行における革命的な手法であった。
なにしろ、魔法の修行という部分において手探りであった部分、魔力の認識を外部から認識させるというモノだったからだ。
普通はできない。
非常識で出来ない。
しかし、横島は出来た。
これは神具ともいえる霊能力「文珠」によるものだが、詳しく語るまでもない事だろう。
基本、一個二個で実現可能な範囲において、それは人間による再現が可能な範囲が多い。
今回の魔法修行もその方向性で、再現をするのであれば手間はかかるが不可能ではないという点に問題がある。
そう、秘匿魔法の拡散防止の観点から見た問題だ。
存在は知っている、しかし修得に難点がある、だから拡散速度が遅いのだ。
それが魔法使いでなくても修得できるとなれば、魔法使いたちの存在理由に傷がつく。
そんなわけでMMにも報告せず見なかった事になったわけだが、完全に情報が漏れないわけではなかった。
なにしろ、当の本人である高畑が前面に出すぎているのだ。
体質的に詠唱が出来ないはずの高畑が無詠唱で魔法行使しているとなれば何処かに絡繰りがあるとみるのが普通だろう。
そしてそれを個人的に問う事が出来る立場からの干渉となれば、高畑本人も秘匿が難しい。
「というわけで、魔法世界の外交官に君の話をせざる得なかったんだ。すまん」
出張から帰ってきた高畑を見て舞い上がったアスナを置いておいて、占い部屋に横島を引っ張り込んだ高畑は深々と頭を下げた。
「まぁ、その件は後でもいいですよ。多分込み入った話ですよね? それよりアスナちゃんをもっと構ってあげてくださいよ。あの子結構さみしがってますよ?」
「・・・え、そうなのかい? コノカ君と同室だしお友達もいっぱいいるし・・・」
「そうじゃないでしょ、高畑先生。あんたアスナちゃんのなんなのさ? 保護者でしょ、親代わりでしょ? 金出して住む場所だけ与えれば幸せなのか?」
少しきつい横島のセリフに呆然とする高畑。
「高畑先生が頻繁に出張に出ているのはいいんですよ、ええ。でも、いつごろ帰って来るとか今度の休みに遊ぼうとか、そう言う話無いんですか? 俺はもう少し親代わりとして父親として・・・」
そこまで言って横島は言葉をとめた。
さすがにそれ以上の言葉を言う資格がないと思ったからだ。
しかし高畑には十分伝わっているようであった。
「・・・あー、あの年頃の女の子が何を考えているかとか、こう解らなくてねぇ」
さみしそうに笑う高畑の前に据え付けのタロットを並べる。
二度三度並べ直し、そしてすっと高畑を見る。
「いま、手に取れるのは一つだけ。愛おしい妹分か自分の夢か。妹分を手放すなら二度と触れるな。妹分を手に取るなら二度と手放すな」
ごくりとつばを飲み込み高畑を横島は覗き込む。
「自分の女か世界か、そんな判断は突然襲ってくるもの。今はいい、でも必ず決断が必要になる」
あまりに真剣な視線に、相手が高校生であることを忘れた高畑は真剣に見つめ返した。
「もし、もし、妹分を手放した、ら・・・?」
「生涯関わらないと決めた相手を気にする必要はないだろ」
「しかし、あの子は師匠から預かった大切な・・・」
瞬間、のびてきた手を避ける事が出来なかった高畑は、横島に胸元を締め上げられる。
「・・・誰から預かった大切な存在? 宝石箱にでもしまっておけ」
その迫力は高校生のモノではなかった。
そう、目の前にいる少年は、いや、目の前にいる男は、かの魔界の大公爵を下した男なのだ。
その目の力は最早人の枠を超えている。
あの時目指した英雄たちと同じ色をしていた。
疲れた笑みを浮かべた高畑が小部屋から出てくると、アスナが飛びついてきた。
「た、高畑先生! ど、ど、どうしたんですかぁ!? もしかして横島さんになにかされたんですかぁ!?」
いやいや、と苦笑いでアスナの頭を撫でる高畑はアスナを覗き込んだ。
「実はね、色々と占ってもらってさ。それで、今度の休みにリフレッシュしろってね。だから今度の休み、アスナ君は付き合ってくれるかな?」
「よろこんでぇ!!!!!!」
絶叫のような嬌声をあげたアスナであったが、浮かれまくっていた所為で高畑の顔を良く見ていなかった。
その覚悟を秘めた顔を見ていれば、何かを感じたかもしれないのだが。
「じゃ、あとで電話するよ、アスナ君」
「はい♪ おまちちてまーーーす♪」
もう、ふわふわと地に足付けていないアスナを見て、コノカは続いて出てきた横島を事務所の端まで引っ張り込んだ。
「・・・横島さん、どういうことなん?」
「あんまり手抜きしてると、アスナを失うぞって脅しただけだよ」
「本当にそれだけなん?」
「・・・まぁ、色々だな」
「ウチには言えんことなんやね?」
「うん、御免」
透明な笑顔の横島の胸に頭を擦り付けたコノカ。
「あーあ、もっと大人になりたいわぁ」
「大人になんて勝手になるもんだ。つうか俺もまだまだ大人じゃないぞ?」
高校生は立派な子供です、と胸を張る横島。
「それでも、横島さんは大人やもん」
少し流した涙の痕をぬぐって、コノカは事務所のキッチンに滑り込んだ。
週明け、学校をアスナが休んだ。
実はその原因を女子寮のほとんどが知っている。
それほどまでの絶叫だった。
それほどまでの涙であった。
頬はやつれ瞼が腫れ上がっていた。
声も出ず最後には咳き込みすぎて血まで吐いていた。
爪は折れ、拳は傷つき、そして嘔吐に暮れた。
早朝まで続いた彼女の嘆きを聞いて、誰もが同情し、そして怒りを感じていた。
そこまでの絶望を与えたであろう相手に対して。
しかし、それを口に出すことはなかった。
何しろ事は恋愛事だ。
年上の男性に憧れる、恋するという方向性は普通だし、それが敗れるというのは一般的だろう。
しかし、孤児であり苦学生であり、親愛以上の絆のある関係である二人が、いやアスナがここまで悲嘆に暮れるというのだからよっぽどなのだ。
だからこそ、それだからこそ、級友達は激しく怒りを燃やしそして冷静に考えた。
彼女に今何が必要なのか、を。
今までの特効薬は「高畑」であった。
しかしそれは劇物へと変わった。
ならば何をどうすればいいか。
身近な大人や頼れる人間を脳内検索したが、だれも決め手に欠ける状態だった。
さりとて自分たちで何とかできるかと言えば、それもイマイチ自信がない。
どうしたものかと難渋する中、雪広アヤカが決断を下す。
「・・・横島さんに頼りましょう」
友人知人の中で最も頼れる相手。
学生たちのコネの中で最も「大人」の相手。
「・・・でも、いいのかネ? 相手は一流GSヨ?」
超の一言に、コノカと千鶴はにこやかに笑った。
「忘れたんですか、超さん。横島さんはね・・・」
「「「美女美少女の味方」」」
唱和してみれば、いままで興味がないという風であったエヴァまで声をそろえていた。
瞬間、重苦しい空気は吹き飛び、そして春風のような笑いが満ち溢れていたのであった。
横島への相談は実に的確であった。
話を聞いた横島は、アスナを「愛子空間」に取り込みひと月ほど好きにさせたのだ。
愛子空間での時間は任意に流れるが外との時間差は無視できる。
たとえ二十年の時を流しても外の時間がゼロで帰ってこれるのだ。
無論、一人にしたわけではない。
横島やタマモ、コノカや千鶴さらにはエヴァまで交えて愚痴を聞き思いの丈を聞き、そして傷ついた想いを癒したのだ。
失恋を癒せるのは時間だけ等とよく言うが、まさに特効薬がそこにあったわけで、ゆっくりと流れた一か月というか一晩で、アスナは笑顔を取り戻した。
たった一晩で泣いたカラスが、などという事にならない様に、アヤカ達は女子寮で広報活動に勤しんだ。
失恋の痛みを忘れるためにGSに頼るというのはどうかと思うが、しかしながら傷心を時間で癒すという行為をしていると聞けば同情的になり、理解が非常に深まったと言える。
現実的な話、この行為自体は否定できない流れであることを女子寮住民は理解していた。
少なくとも、何の手当もなく放置されれば自殺だってしていたかもしれないとすら彼女たちは感じていたから。
それゆえに、アスナの傷心相手への悪感情は高まり、そして深まっていた。
登校したアスナをクラスメイトは代わる代わる抱きしめた。
その思いを感じ、アスナは少し涙を流す。
「・・・みんな、ありがと。吹っ切るのに時間がかかったけど、でも、もう大丈夫、うん」
よかったよかったとみんなで讃えあい、そしてその偉業の成し遂げた横島を心から讃えている中で担任がやって来る。
高畑=T=タカミチ、その人。
アスナを見た高畑は瞬間的に気まずそうな空気になったが、アスナはにっこりほほ笑んで周囲に声をかける。
「ほらほら、みんな席につこー」
明るい声に戸惑う高畑であったが、頭を切り替えた。
いまは教師の時間だ、と。
しかし、彼は理解していなかった。
手に入るものはただ一つ、その事実を。
その日、アスナは実に多彩な活躍を見せた。
授業中に当てられても機敏な反応を見せ、体育でもいつも以上の活躍を見せ、そして笑顔が可憐になっていた。
昼休みにそのことを問いただされると、ちょっと笑顔。
「実はさぁ、愛子空間で色々と勉強を見て貰っちゃって、結構成績上がったと思うのよ、うん」
まさに衝撃の告白であった。
いままで成績低迷組の筆頭であったアスナが、神楽坂アスナが、バカレンジャーのバカレッドが、そんな告白をしたから。
「・・・では、アスナさん。簡単なテストを」
そういって、ノートの一ページに英語の問題を書いたアヤカであったが、それを指さしてアスナがこういう。
「いいんちょ、綴りが間違ってる」
「・・・え!?」
驚いて見てみると、確かに問題のスペルが違っていた。
「本物だ」「ほんものだ!!」
ざわざわとする周囲に思わず苦笑いのアスナ。
「いやぁ、今までのレベルが低すぎただけだし、あんまり騒がないでほしいかなぁと思うんだけど」
「天変地異ですわぁ!オカルト犯罪ですわぁ!!」
取り乱したアヤカにアイアンクローを掛けたアスナが周囲を見回す。
「確かにオカルトな愛子空間で勉強したけど、ズルはしてないわよ」
愛子空間自体がズルかもしれないけど、と笑うアスナの笑顔が魅力的であった。
とりあえず、保護者筋を学園長に、と横島は申し入れた。
最初は驚いた近右衛門であったが、学園に常駐していないうえに担任が保護者ではまずい、という意見を取り入れた。
すでに学費や寮費をだしているので、実質上は変わりないという現実も後押ししただろう。
「しかし、アスナちゃんが失恋とはのぉ。あの高畑君が思い切るとは思わなかったぞぃ」
「・・・タイミング悪く自分が背中を押しちまったんですよ」
横島的には、もう少しアスナに構ってやれ、と方向を付けたつもりであった。
しかし高畑はアスナを切った。
夢か方向性かハタマタ理想かは知らないが、アスナよりも、今のアスナを守る事よりも何かを優先した。
教師をやりながらでも出来ることに専念することを決めたのだ。
教師とアスナの保護者ならばまだいいと思える。
しかしアスナの保護者を、アスナの兄貴分を降りたのだ。
美女美少女の味方を自称する横島には絶対に出来ない判断であった。
「うむ、視野が狭いと思っておったが、目の前の英雄に火をつけられてしまったか。残念な話じゃ」
横島を見つめる近右衛門であったが、横島自身は何故見られたか理解していなかった。
「できればの、横島君。アスナちゃんのことを見てやってくれんか?」
「乗りかかった船です。無責任に放り投げませんよ」
「うむ、もちろんワシが責任者で保護者であることは違えんぞ」
「それは信頼してますよ」
にやりと笑う横島を見て、近右衛門は内心責任重大だと背筋を伸ばす。
老い先短い自分に降りかかる厄介事としては重くはない事だが、人ひとりの将来のかかった判断だけに手は抜けないと思うのであった。
「・・ところでのぉ、横島君。おぬしが保護した幽霊なんじゃが」
「ああ、さよちゃんですか。いい子ですよ?」
「ん、ああ、それは理解しているんじゃ」
聞けばさよちゃん、麻帆良の古参教師ならだれでも知っている存在だそうで、出来れば無益にしないでほしいという声が集まっているとか。
「あー、美神事務所の同僚に何百年も幽霊をしていましたぁって娘がいまして、今も仲がいいですよ?」
「うむ、その話広めてよいかのぉ?」
「ええ、なにしろ稀代のネクロマンサー氷室絹のことですから」
「・・・彼女は生きているではないかのぉ?」
「ある事件で幽霊にされ数百年。その後ある事情で肉体を取り戻したがゆえに霊の気持ちがわかるネクロマンサーになった、という事情までOKです」
「・・・ほぉ」
目を細め、そして情報を精査し、どこまで流すかを考える近右衛門。
ともあれ、代行で親権を保持していた高畑からアスナは引き離された。
苦渋の決断ではあるが、それでも必要な処置だと横島は信じる。
高畑は、自分の選択を今更ながら悔やんでいた。
聞けばアスナが自殺寸前まで追い詰められたとか、横島忠夫に縋ったとか、様々な話が入ってきたからだ。
加えて親権を学園長が持つこととなり、彼女とのつながりは担任と生徒という関係のみとなっていた。
いや、その関係すら危ういだろう。
最近、彼は学園長から「NGOに専念してみてはどうかの?」という提案を聞く機会が増えた。
アスナという心配がなくなったのだから、麻帆良に縛られる必要はないだろう、と。
彼としても考えないでもない選択肢だが、それではだめなのだ。
高畑には、高畑として守りたい存在が居るのだから。
高畑が「それ」を成し遂げるための巣(ネスト)として麻帆良は必須であり、間違いなく必要であったから。
高畑自身自覚のない事だが、彼は旧世界の事を下においている。
成し遂げる理想の中で「旧世界」の雑事は本当に順位が低く、そして考慮の範囲からかなり外れていた。
勿論、世界平和の為、という行為自体には正しさを感じている。
しかし、彼が乗せている軸足は、魔法世界であった。
あの冒険の、あの闘争の、あの血なまぐさい世界。
心躍り血沸き肉躍る英雄たちの世界こそ、高畑の現実であった。
ゆえに、目の前に移る旧世界が軽く薄く映るのだ。
もし仮に、アスナが神楽坂アスナにならずに放浪生活していれば、こんな扱いにはならなかっただろう。
いつまでも守護する対象であっただろうから。
しかし、麻帆良という世界の一般の中に埋もれた彼女は既に「神楽坂アスナ」であって「アスナ=ウェスペリーナ=テオタナシア=エンテオフュシア」ではない。
冒険を終えた勇者の従者は一般人なのだ。
某国の姫君でも黄昏の巫女でもない。
普通に生きて、普通に育ち、普通に生活してゆく存在。
そう、高畑=T=タカミチが干渉しなくても進んでゆく日常。
彼はそう割り切ったはずであった。
そんな彼が今味わっているのは、離婚した嫁さんが綺麗になってゆく姿を柱の陰から見つめる元夫、そんな感じ。
実に女々しい話であった。
「おっさん、仕事いけや!!」
横島が投げつけた文珠「雷」の直撃を受けて真っ黒になる高畑。
大爆笑の事務所メンバーおよび「神楽坂アスナ」。
それは子供らしくもあり少女らしくもあり、そして女の顔であった。
失意の高畑が休職願を出してNGOへの集中参加を決めたころ、アスナが正式にGS見習いとなる事を表明した。
加えて、長谷川千雨が事務員登録をし、愛子の助手状態で事務所に来るようになる。
千雨自身、横島事務所の空気は好きだし、相談料や修行関係の面倒も見てもらいたいという思いもあったとか。
逆にアスナは新聞配達よりもGS見習いに専従することで、一気に奨学金関係を一掃するつもりだとか。
霊能はついでという事だったが、現段階でも自然に開眼している部分があるので修行すればもっと磨かれると言われると俄然張り切るアスナであった。
というか、横島事務所における霊能習得は安易で簡易。
驚くほどにその道は開かれる。
ただ、それを「身に着けられる」かについては個人個人の努力によるところが大きく、当然ながら誰もが簡単に使いこなせるわけではない。
ただ、その力がない状態で座学をするよりも、力ある状態で座学を受けた方が身が入るからという理由で「霊能」を開発してしまう横島にも非常識のそしりを受ける責任はあるだろう。
というかガンガン美神に怒られたが、同じ美神でも美智恵は「オカルトGメンで研修してくれないかしら?」と、かなり煽情的な衣装で交渉に来たというのだから本気だろう。
勿論「悪の人妻にはまけん~~~~!」と血の涙を流しているあたりをみれば必須な秘匿性を一応は理解しているであろうことは疑いないが、それでもどこかコミカルになるのは彼らしいだろう。
そんな彼のもとに定期的に訪れているのが、氷室絹であった。
彼女自身、横島忠夫の元へ遊びに来れるのは嬉しい事だが、それ以上に横島からの依頼をこなしているという事実がうれしかった。
それは麻帆良の幽霊少女さよちゃんとの交流であった。
麻帆良以外の場所を知らず、そして幽霊としての常識も知らない彼女へ「幽霊」のいろはを教えてあげてほしい、と横島から依頼されたのであった。
もちろん依頼金は美神事務所へ払われているが、さほど大きな金額ではない。
なにしろGS見習いへの派遣要請。
この事実を美神は断腸の思いでスルーしたわけだ。
「で、カオスさんがそろそろベースボディーの準備ができるという話なんですが」
「おお、さすがカオス。おキヌちゃんアリガトな」
「伝言だけですよ、もう」
にっこりほほ笑むおキヌをみて、少なからず色々と燃え上がるものがあるコノカと千鶴。
そして、なんとなく、本当になんとなく面白くない気分の千雨とアスナ。
『横島さん、そのべーすぼでぃーってなんですか?』
「ああ、さよちゃんの霊体が摩耗しない様に保護してくれる体の事だ」
『ほえぇ・・・・』
短い付き合いながら相手が理解していないことを把握した絹はにっこりほほ笑む。
「さよちゃん。その体があれば、街を歩くことも食事をすることもできるの。人とほぼ同じ事が出来て、そうね、出来ないのは出産ぐらいね」
『しゅ、しゅっさんですかぁ~♪』
真っ赤になったさよちゃんが、ちゅうをくるくる回っている。
「それはすごいネ、共同研究を申し入れたいネ!」
ひさしくやってきていた超がガッツリ食いつく。
「あー、超ちゃん。君たちの作った茶々丸ちゃんだって十分凄いだろ?」
「横島さん、そのベースボディーとは、言わば義体ね? その価値はもう計り知れないヨ!」
ムフーと鼻息の荒い超を横島は覗き込んだ。
「商売繁盛は結構だけど、これは商売じゃないんだぜ」
人助け、だ。
そういって額をつつかれると、なぜか嬉しそうな顔で微笑む超。
「なんだよ、何がうれしんだ?」
「横島さんぐらいネ、私を子ども扱いなのハ」
「そうか? 先生たちもみんな超ちゃんを子供だって思ってるぞ?」
そんな横島に「ノンノン」と指を振って見せる超。
「そんな事ないヨ。私を本当に子供に、女の子に見てるのは、横島さんぐらいネ」
小娘気分がうれしいヨ、とにょほほほ~とほほ笑む超。
それは確かに中学生っぽい顔であったが、演技の香りもする。
もちろん、中学生とはいえ女子だ。
外面を偽ることもあるだろう。
それでも少女の笑顔は珍しい、と誰もが感じていた。
逆の意味で浮足立っているのは葉加瀬聡美。
研究者の立場とか乙女の立場とかそういうのはすっ飛ばして、自分も開発に関わった茶々丸が大いに評価されていることと、共に研究できるという喜びに満ち溢れて、だ。
誰に?
ドクターカオスに、である。
ヨーロッパの魔王とうたわれ、その実績は遥か数百年にわたる錬金術師という存在に、茶々丸が認められ、そして共に研究をしたいと申し込まれたからだ。
それは、15に満たない少女と数百年の重みを超えた老人との共同戦線。
まるで果ての見えない戦場で轡を並べるかのような高揚。
万能の天才と言われる超には味わえない、そんな高みであった。
その研究の第一弾が「ベースボディー」。
正式名称は「霊体保護外殻義体」。
表のオカルト技術を色々と突っ込んで、さらにはカオスの研究中の技術も大量に混入しているため、製作段階での共同という形にはなっていないが、それでもこれからの事を考えれば浮き立つ心を抑えられない思いであった。
茶々丸はかなりの制御部分を科学で補いOSという基礎部分が存在しているが、今度のベースボディーはその基礎部分をオカルトに依存している。
その差を、その技術格差を、そして常識の壁を飛び越えられる喜びは超との出会い以上の高まりで、気を抜くと失神してしまう程だというのだから言わずもがなだろう。
では超は、というと、これも真っ当な浮かれ方とは言い難い。
彼女の内心を焦がしているものは元々「罪悪感」であった。
彼女の知る歴史の中で「大霊症」などという事件も無ければGSなどという職業もない、
魔法は魔法でオカルトはオカルト、いや魔法とオカルトは全く交わらないものであった。
オカルティズム、というものが表の存在であったことはないし、社会影響があったこともない。
さらに言えば、魔界の大公爵なんて存在が世界進行を企てたなどという事件があれば魔法世界だろうと旧世界だろうと一丸となって立ち向かうに違いないとすら思っていた。
しかし、結果は違う。
麻帆良は結界の死守に大わらわであったし、魔法世界は渡航を禁止して閉じこもっただけであった。
かくのごとく、魔法があっても変わらない、引きこもり体質は変わらない。
魔法が世界的に開示されても未来が知れた、と感じさせられる、強く感じさせられる事例であった。
その中で、彼女が見たひとりの男。
横島忠夫。
まるっきり素人から業界に入り、様々な事件を乗り越えて、いや乗り越えさせられて魔王まで討ち果たした人類の英雄。
自らの先祖などかすんで消えるほどの業績だ。
しかし、彼の活躍期間を考えてみよう。
確かに彼は自らの意志で業界に入ったのかもしれない。
流されるままに進んだ道かもしれない。
だが。
だがしかし。
彼女がこの世界にやってきたタイミングとほぼ時間を同じくしているというのは何という偶然か。
いや、思考を重ねるまでもなく敏すぎる彼女の頭脳は一つの結論を導き出した。
出してしまった。
~バタフライ・エフェクト
細かな理論を考えるまでもない。
蝶の羽の動きが、世界の裏側で何かに影響する。
風が吹けば桶屋が儲かる、そんな関係をイメージさせられた。
自分が彼をあの立場に押しやったのではないか?
自分が彼のあの悲劇を押し付けたのではないか?
自分が彼を不可避な人生に追い立てたのではないか?
敏すぎる彼女の最悪感は表に出てくることはない。
しかし、深く深く根深く、彼女をジクジクと苦しめることになる。
だが、そんな中、エヴァが解放された。
この先、正しき歴史の中でも縛られ続けた呪いから、早々と解放されてしまった。
次に近衛コノカに魔法が開示された。
先祖の行動でも何でもない。
開示されたのだ。
さらには神楽坂アスナが、過去の幻影から解き放たれた。
歴史に言う「魔法界の戦争」で様々なものを奪われ、最後には記憶すら奪われたアスナが、その楔ともいえる高畑から解放されたのだ。
彼女個人としても、魔法世界や英雄たちの思惑に縛られ続けたアスナの人生には大きく感じ入るものがあり、その彼女が解放されたという未来は超の改編したかった未来の一つでもあるともいえる。
~彼に縋り付いてみたい
そんな思いがじわじわと染み出すように心を占める。
それは恋ではない。
それは愛ではない。
打算と利己主義、そして諦観と一摘みの感謝。
時間をさかのぼりし少女にとってありえないほど歪んだ過去の中で得てしまった心の繋がり。
この思いを言葉にするまでもなく、彼女は浮かれていたのであった。
何れ起こるはずであった大きな火事は横島の存在によって消え去った。
ただ、彼女たちの心の燻る炎は、小さな火事程度で済まされるほどのものではありえない。
どれほどの大火となるか、それは始まってみなければわからない話であった。
地域除霊、という行為が見慣れたものになっているのは、横島事務所のおかげだ。
視覚的に見える幽霊も見えない幽霊も、ゆっくりと鎮魂してゆく。
それには劇的な変化はない。
しかし静かにそれが進んでいる光景は心安らかになるものであった。
そんな突然身近なものになったオカルトというモノをもっとよく知ろうという事で、小学校や保育園をまわりオカルト教室なんてものを開催するのも横島事務所。
劇をからめたりボードで説明したりと細やかな演出が効いて、かなり好評だとか。
オカルトショー「オカルト仮面ヨコシマン」は非常に人気で、敵役の「ダデ・ザ・ブラック」もかなり人気であった。
素顔で歩いていても子供たちが集まってくるほどである。
勿論、千鶴がボランティア参加している保母さん中でもヨコシマンの話題で盛り上がっており、いつもはどんなことをしているのかとか、どこに住んでいるのかとか子供たちは熱狂していたりする。
まぁ、トランポリンもワイヤーも特撮も無しに人が飛び、光線を発射し、そして吹っ飛ぶ姿は子供心に直撃だろう。
加え、タマモ・愛子の綺麗所を見せられれば女子も熱狂。
大きくなったら妖狐になるとか、妖怪になるという幼児が激増している原因であることは間違いないだろう。
この効果を重く見たGS協会は、首都圏全体で実施しようという提案を横島事務所に持ってきたのだが、それはアプローチが違うと突っぱねる横島。
話を持ってきた担当も首をひねったので一緒に外に行き、看板の一部を指さす横島。
そこには、大きくはないが確実に目立つ文字でこう書いてある。
『美神令子除霊事務所グループ』、と。
さらに言えば、そうそうたる有名GSの名が刻まれており。
そこまで読ませたところで横島はニッコリほほ笑む。
「・・・簡単じゃないでしょ?」
「・・・はい」
すごすごと帰ってゆく担当をしり目に、横島は美神令子に一報を入れる。
「つうわけで、協会からなんか一言有るとおもうっす」
『判ったわ。でもまぁ、役人のあしらいが上手くなったわね?』
「まぁ、腹に黒い何かを持ってる人たちと交渉が多いっすから」
苦笑いの横島を一通りほめたところで一応一釘。
『・・・助手を雇うのは勝手だけど、中学生に手を出したら社会的に抹殺するわよ?』
まっさかー、とにこやかな笑みの横島だが、事実上抹殺が決定状態であることへの自覚がある為、冷や汗が止まらないのであった。
一応は「高校生未満はロリ」という鉄則を堅持している横島の欲望の防壁は理解している美神だが、初めてできたという恋人が「0歳」。
前世における恋人も「0歳」。
もう、どうしようもないほどのシンクロニシティーに嫌な予感が止まらない美神は、氷室絹が通う回数を増やすほかないか、と考えるに至った。
とはいえ氷室絹も横島べったりなので、あまり効果はないだろうが。
「・・・いえ、もう一手あるかしら」
昨今、絹だけが麻帆良に行けてずるいと拗ねている犬が一匹。
使えるわね、とほほ笑むその姿は母親と瓜二つであったことをここに記す。
「せんせーーーーー! 拙者も麻帆良に通っていいって言われたでござるぅ――――――!!!!」
「だめーーーーー! こんなところでだめーーーーーー!!」
下校中に赤メッシュの少女から教われるという横島。
地元ならいつもの光景だが、麻帆良では世間的に性的に大暴れしていない影響で大騒ぎになった。
倒れた横島の顔を舐めまくるという様は、もう、なんというか、ちょっとエロいはずなのに、どうにもこうにも動物的であった。
いや、と視線が動き気づく。
彼女のジーンズから尻尾が生えているぞ、と。
「・・・はぁ、もう、シロってやっぱり犬ね」
「犬じゃないもん、狼だもん!!」
がうううううう!と叫びをあげた赤メッシュ、シロを引きはがして横島は起き上がった。
「おめー、シロ。もっとおちつけって」
ハンカチで顔をぬぐいつつ、横島はシロの頭を撫でる。
すると本当にうれしそうに笑顔を浮かべ、そして横島にすり寄った。
類稀なる美少女と戯れる、というのならば嫉妬の炎も燃えるだろう。
しかし、これは違う、と視覚が訴える。
「「「「「あれは犬、だな」」」」」
期せず、周辺全員の認識がまとまった瞬間だった。
「犬じゃないもん、狼だもん!!!!」
そんな姿も「犬」だ、と共通認識になってしまったのはシロにとって良かったのか悪かったのか。
場所を横島霊能事務所にかえると、既に中学生組は集まっており、大いに歓迎の雰囲気になっていた。
「あー、こっちにいるのは、犬塚シロ。美神事務所での同僚で、まぁ、自称俺の弟子」
「自称でござらん! 拙者は横島先生から霊波刀を修得したのでござる!」
そういって、自らの手から光り輝く霊波刀を発現させる。
それをみて中学生組は驚きに声を上げた。
「じゃ、横島さんも出来るの? そのライトセイバ○」
「ライトセイバ○言うなって」
まき絵のセリフに突っ込みを入れつつ、横島は自分の霊波刀を出現させた。
すると歓声のような声が事務所に響いた。
「すごい、ヨコシマンすごい!」「すごいですぅ、ヨコシマン凄いですぅ!」
鳴滝風香・史伽は保育園の幼児よろしくに大興奮。
また綾瀬夕映も、身近な非現実に心奪われていた。
いや、身近な非現実という点では、さよちゃんが一番なのだが、すでにクラスメイトとして受け入れている段階で麻帆良っぽいのだがそこはそれだろう。
「あー、さよちゃんは触っちゃダメな? 消えちゃうから」
『あ、はい! きれいだなーとかあったかそうだなーとか思ってませんから、ハイ!』
どうやら触れちゃう寸前だったようだ。
「・・・横島サン。オカルトって研究されてないカネ?」
「いや、結構色々と研究されてるぞ。逆に科学的なアプローチってのが難しくて意地になってるやつらが多いと思うけどな」
「そこでカオスさんなんですね!!」
そうそう、とにこやかな笑みを浮かべつつ、事務所所属メンバーにシロを紹介する横島。
「というわけで、みんなの姉弟子ってことになる、犬塚シロだ。まぁ、姉弟子って言ってもシロもまだ子供だから、そのへんは自由に付き合ってくれ」
「犬塚シロでござる。姉弟子とかそういう順番はおいておいて、仲良くしてほしいでござる」
ぺこりと頭を下げたシロへ、コノカ・千鶴・千雨・アスナ、そしてエヴァも頭を下げた。
にこやかな笑みで談笑するその姿を見て、魔法関係者であれば驚いたであろう。
悪の魔法使い、最強の魔法使いとしての自負と自信にあふれたエヴァンジェリン=A=K=マクダウエルはそこにはいなかった。
和やかな会話、にこやかな会話。
それでも侮らない視線。
そんな空気にシロも心弾む思いになっている。
「・・・ふむ、姉弟子殿は随分と実戦で磨かれたようだな?」
「いやいや、拙者の剣は今だ未熟。エヴァンジェリン殿に遠く及ばないでござるよ」
ごく自然に自分との力量差を理解したシロ。
しかし隔意はなく、気負けしているわけでもない。
視線も姿勢も尻尾ですら自然体だった。
「しかし、及ばなくとも負けぬ、と?」
「師匠がもう出鱈目でござるから」
ふふふ、と笑いあう二人を見つつ、横島は苦笑い。
「だれが出鱈目だって?」
「横島先生のエピソードの一つでも語れば、間違いなくそう思うでござるよ?」
「ほぉ、それは興味深い。たとえば、どんなものがある?」
「そうでござるなぁ、生身で大気圏突入して地上まで。同じく落ちたマリア殿は半壊でござったが、横島先生は一時的に記憶を失っただけ、というのはどうでござろう?」
「心底すまんかった」
打てば響く横島リアクションに、事務所中は笑いにあふれたが、その話を聞いてエヴァは内心冷や汗をかいていた。
「(たとえ霊具を身に着けていたとしても、恐ろしいほどの衝撃と摩擦熱のはずだ。そんな裏ワザで可能にしたのだ!?)」
当然真っ当な方法では無理なので、かならず裏ワザだとは思っていたが、竜神具と文珠の合わせ技とは理解に至らぬエヴァであった。
そうこうしている日々、とうとうそれがやってきた。
「霊体保護外殻義体」
さよちゃんの第二の人生を共に歩む体。
そして現代まで研鑽されたオカルト錬金術を結集された、まさにマリアの妹ともいえるほどの体ではあるが黒歴史的な何かではないアレ。
マリアでさえも「妹、うれしいです」と、記憶の彼方へ押しやっているのは何とも。
ともあれ、事務所の喫茶スペースを広く開け放ち、さよちゃん再生誕の瞬間が始まろうとしていた。
観客はかなり多い。
クラスメイト達はもとより昔同じクラスであったという教員たちや魔法先生たち、そして生体としての活動の身元引受人になると胸を張った近衛近右衛門も立ち会ってのこと。
麻帆良工学部の教授たちや院生たちも詰めかけている。
「いいか、さよ。おぬしにとって体を持つという感覚は既に遠いモノじゃろう。しかしじゃ、この霊体保護外殻義体、ベースボディーは霊体に人間の感覚を感じさせる機能がある。つまりこの体に生まれ変わったとすら思わせるものじゃ。わかるか?」
ヨーロッパの魔王とまで言われた異端の天才錬金術師ドクターカオスの言葉にさよちゃんは「はい」と答えた。
「現段階で、ワシの力をもっても達成できぬ人体機能で最も目立つのは『老化』『出産』『疲労』じゃ。一応擬似的に老化と疲労は見た目で再現できるが、出産は負荷のじゃ。あれは神の御業の範囲じゃな」
それでも、とカオスはさよちゃんに問う。
「それでも、お主はこの義体を得るか? 霊体のままならば、輪廻に加わり再び人生を得る事が出来るやもしれんぞ?」
『はい、どくたーさん。私は、この義体がほしいです。まだ生きていたいとかそういうんじゃなくて、この60年間過ごした麻帆良を、もっと体験したくて。だからお願いします。』
真摯な瞳を見つめてほほ笑むカオス。
これほどに純粋な幽霊は久しい、と。
まるで幽霊おキヌのようだ、と。
真摯なる思いを持つ無垢なる魂が今ここに、神秘たる技術の果てに生まれた体に生まれなおした。
ゆっくりと起き上がり、めをしばたかせ、そして周囲を見てほほ笑む。
「・・・おはようございます?」
ちょっとぴんぼけな挨拶に、周囲は非常に湧いた。
おめでとうと拍手が鳴り、おめでとうと抱きしめられ、おめでとうと握手が求められ、そして万歳三唱が響き渡る。
麻帆良女子中学の制服を着たさよが、ちょっとよたよたと歩くのをクラスメイト達が補助する。
以前クラスメイトであった教員たちが抱きしめて涙する。
存在を知っていたが何もできなかったと申し訳なく思いつつ、彼女の再生誕を祝う魔法先生たち。
そして、密かなる感動を味わいたかったが、目元から滂沱の涙があふれ出て隠せていないことを自覚した学園長。
ただ、葉加瀬聡美とドクターカオスは、さよの挙動に注目し、次のメンテナンス時の調整ポイントを図面に書き込んでいた。
「(物凄い光景ネ)」
超鈴音は目の前の光景に眩暈を覚えていた。
公開されたオカルトの常識で見ても常識外の光景であると言えた。
超自身、100年の技術里いうモノを叩き付けて今の地位にいると言ってもいい。
しかし、そんな自分の常識を超えた光景が目の前に広がっている。
千年を生きると言われるドクターカオス。
その彼が作り上げた人造人間マリアは、ロボットという概念など全く生まれていない魔女狩りの時代で生み出されたという。
その当時の一般的科学技術を考えて彼が生み出した錬金術の結晶を見ると、如何に異端で異質かがわかる。
自分など小手先の天才と言ったところだろう、と。
その点で見れば、今の光景は理解できる光景なのかどうか理解に苦しい。
数百年、独自の研究と研鑽の先に立っている魔王と、世界への逆撃を狙って逆行してきたものの、そのすべきすべてを失いつつある自分。
いや、逆行の段階で世界想定が甘かったと言ってしまえば其処まで。
明らかに対戦すべき相手の規模や味方となる勢力の想定が甘かったのだ。
この世界は、これほどまでに可能性に満ち溢れている。
ならばこの世界を信じてもいいのではないかとすら感じる。
そう感じさせられる光景であった。
「・・・あのぉ」
「どうしたネ。さよちゃん」
「おなかへりました・・・」
大爆笑の中、次々と運び込まれる料理に舌鼓のさよちゃん、相坂さよであった。
だが、超はちがった。
「(生理現象まで喚起したカ!)
その興奮は恐ろしいまでに高まっていた。
「霊体保護外殻義体機能説明会」というものが麻帆良学園大講堂でおこなわれた。
これは幽霊相坂さよが、人として生活する上で何が可能で何が不可能かを公の形にするためだ。
教師やPTA、そして麻帆良工学部などで周知することで、彼女の存在に危険がない事を示す目的があった。
横島を司会に、技術説明をカオスで行う説明会で、普通の人間には「義体」で行うような内容だろうか、と首をかしげるような機能であったが、逆にロボット工学系に強い人間たちにとっては驚きの内容であった。
人とほぼ同じ容積と重量で、人間男性とほぼ同じ速さで走り、その衝撃を自動回復できる。
力も能力もすべて人並みなのに、人並みにできるのに重量が女の子並で軽い。
もう、工学面ではあり得ない結果といえる。
もちろんオカルト技術やオカルト素材が鬼のように投入されている故の結果であるし。対費用効果で見れば明らかに再現不可能というレベルの価格でもある。 ともあれ、可能の看板が立っている以上、そこを目指さないわけには行かない学生達は、なんとか廉価で再現できないかを模索することになり、それはふつうに考える以上の進歩を呼ぶものであった。
PTAと呼ばれる団体は親の集合体ではない。
それは父母と教師の会。
父母と学校の相互理解・協力による児童・生徒の教育効果の向上を目的として各学校単位に組織される団体の総称である。
つまり、PTAの出席というのは、児童生徒の関連父母に、この会合自体で「新造人間さよ」に何ら危険も不安もありませんとする発表会だったのだが、実際のところ、自らも麻帆良学生だった父母にとっては、追い抜かして言ってしまった同級生との再会とも言える場であったため、感動で涙が止まらないと言う父母が多かった。
祖父母世代でも直接ではないが彼女を知っている人間も少なくなく、今回の会合に出席して、昔を懐かしんでいる。
まぁ、いろいろと不安を感じている父兄は居たが、彼女自身に不安があったと言うよりも、なんだかよくわからないモノにさよちゃんを押し込んで大丈夫なのか、という心配の方が上であったらしい。
実に愛され型の幽霊と言えよう。
こんな愛され型幽霊に癒されているのは麻帆良の中だけであった。
実際、幽霊となってから再び人生が歩めるという方向性は大いにある種の期待を持たせられるモノがあった。
そう、「不老不死」へのアプローチである。
いや、旧世界と言われる一般地球社会における反応ではない。
予算的にも現実的にも「コスト」に合わないと理解されているからだ。
しかしその辺の認識の甘い「魔法世界」では高い注目が集まっていた。
というか、その技術をよこせとメガロメセンブリア連合元老院から強いプッシュがあったのだが、当然かかる予算を報告したところ、何でも良いから寄越せと逆ギレ。
最後には「幽霊ごときに使わせる技術ではない。その義体を引き渡せ」とまで言い始めた。
「それは、三界、人界・神界・魔界との全面戦争宣言となりますが、よろしいのですかのぉ?」
わしはごめんじゃ、とにこやかに返答した近右衛門に大量の罵声が通信魔法越しに届けられたが、現実的に見て魔法世界の一勢力であるMMにその回答などできるはずもなく、何人かの魔法先生に非合法な指示を行ったが、それが実施されることはなかった。
ここ事態は徐々にゆがみを見せてきている。
MM直営であるはずの麻帆良であるが、魔法使いであることの誇りとMMからの干渉に従うことがイコールではないと感じ始めていたのだ。
そしてそれは、MMが掲げる「マギステル・マギ」への疑問であり存在への疑問でもあった。
ひいては根幹である「正義」への疑問となり、徐々に不信感の高まりが高い圧力となることを近右衛門も感じては居たが、それを操作しても益は無しとして放置することを決定した。
この処置に対してたまには麻帆良に戻ってくる高畑が抗議の声を上げたが、周辺政治状況や相坂さよへの発言を直接教えると、さすがに絶望の顔色を見せたが真実正義の形を変えることはなかった。
「高畑君、君は何を守りたいのじゃ?」
「・・・」
苦々しい、それでいて決意に満ちた顔であったが、近右衛門にはそれが意固地な子供に見えてならなかった。
少なくとも、これならば横島や伊達に様々な案件を任せた方がバランスよく行くだろうとすら思わされたが、気軽にそんなことを話せるものではない。
双方不完全燃焼でモノ分かれた近衛近右衛門と高畑であったが、大人としての最低の情報交換を行いつつ仕事に邁進したのであった。
そんな関係でも仕事はできてしまう。
まことに業が深い話であろう。
まぁ、俗世間の動きは別にして、さよちゃんはかなり再スタートした人生を謳歌していた。
勉強に遊びに、食事をしたり事務所仕事を手伝ったり。
たまには料理をしてみたり、二度寝して遅刻したり。
もう、生身の少女と変わりない生活を堪能しきっていた。
で、さよちゃん。
食べ過ぎても太らない体質で、味覚が体調に左右されないと言うことでお料理研究会や超包子などで試食に大活躍しており、四葉五月にも「一家に一人」と絶賛されたりもしている。
目標だった「友達100人」もすっかり越えており、電話帳機能付きの携帯電話がメモリーオーバーしてしまうほどであった。
実は嘗ての生徒や元同級生の先生達の登録が半分以上在るというあたりで、彼女が如何に今まで知られていたかを理解できる内容だろう。
ともあれ、女子中学生として、実に張りのある生活中のさよちゃんは、実は結構成績が悪くなかった。
徹底的に愛子先生による直接指導があったということもあるが、60年にわたるニワカ学生経験がモノを行っているとも言える。
その点では、長きにわたりエセ学生をしていた愛子と話が合うようで「青春」を大いに盛り上げる方向で師弟関係を結んで居るとも言える。
同じく師弟という意味で言えば、通いでやってくる氷室絹の影響も大きい。
お互い長年の幽霊経験の末に体を手に入れたという状況から心を許し合い、「さよちゃん」「キヌ姉さん」と呼び合う関係と言えた。
順風満帆な出だしの人生、その屋台骨を支えているのは葉加瀬聡美とドクターカオス、そして超鈴音であろう。
もっとも、さよちゃんの人生を支えていると言うよりも義体技術を茶々丸に転用できないか模索中という感じもある。
もちろん、オカルト技術の親和性は低くないが、ボディーとして親和性が高いのはさよちゃん義体よりもマリアボディーの方なのは皮肉な話であった。
「つまり、数世代先だと思って設計した茶々丸の体と互換性があるのは数百年前に設計されたマリアさんの方だったというわけですねぇ!」
「葉加瀬、それ以上言わないでほしいネ・・・」
葉加瀬・超ともに真っ青な状態だが、入ってくる未知の情報の方が嬉しいという奇妙なハイテンションで研究は続いていた。
まぁ、超としては100年も先の科学技術を転用したはずなのに、全く追いつける感じすらしないというのが納得行かない、そういう感情もないわけでもないのだが。
ともあれ、未来技術の伝達者であるだけの先行者超は、ここにきて未来技術を現代転用するだけではない「研究者」としての視点でこの時代を見始めた瞬間でもあった。
未来からの干渉で世界を監視していた超の、小さいながら重要な視点の転換だろう。
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