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第一話 開店、横島霊能事務所

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OTR版の修正を挫折し、新たに書き直すことにしました。

その第一話ですが、どんなかんじでしょう?




 

 かつて、大霊症と呼ばれた事件があった。

 一般的には核ジャック事件として有名だ。

 魔界の大公爵が人界へ侵略侵攻したという事実はさて置いて、悪霊・悪魔・魔族が世界中に跋扈したという事実だけでも十分だろう。

 半年が経過した今でもその爪痕は深い。

 

 

 

 そんな最中、男が埼玉県麻帆良学園都市に降り立った。

 

 

 

 男の名は「横島忠夫」。

 美神令子除霊事務所所属のGSであり、なり立てではあるが「A」ランクGSでもある。

 彼が表向きの目的として訪れたのは、麻帆良学園都市統括学園長である近衛近右衛門への挨拶であり、ちょっと裏向きの用件は関東魔法教会会長である近衛近右衛門への会談であった。

 むろん本当に裏向きの目的もある。

 それは一つの救援要請であった。

 

 その話を持ってきたのは、ピエトロ・ド・ブラドー。

 ハーフバンパイヤであり横島忠夫の友人でもあった。

 

 彼曰く、麻帆良の結界の内側で、半ば封印状態で軟禁されている吸血鬼が居るというのだ。

 そしてその吸血鬼から「助けてほしい」と相談があったという。

 聞けば、ピートも幼いころに世話になった女性だという事で、美神の後押しもあり横島はこの救援要請に対して前向きに検討することにした。

 丁度良いことに、関東魔法教会から常駐GSの派遣がGS協会に依頼されているという事もあり、そのお鉢が美神に回ってきたという幸時期だっただけに横島に押し付ける事が出来てうれしい美神であった。

 

 とりあえず、常駐GSといっても事務所を構えるわけでもなし、期間もいまだ決まっていないという事もあり、身一つで乗り込む予定だったのだが、何処から嗅ぎ付けたのか伊達雪之丞がついてきてしまった。

 

「麻帆良っていやぁ、閉鎖された魔法本拠地だろ? 護衛ぐらい連れて行け」

 

 にこやかにほほ笑むバトルモンガー。

 正確に言えば、秘匿された、であるが、外的勢力を異常なまでに排除する姿勢は「閉鎖」と表現するに相応しいもので、今回の常駐GS誘致も協会は何らかの罠であるとすら思っているぐらいだ。

 それはさておき、絶対に大事にする気満々の護衛ってどうよ、と思わなくもない横島だが、事、戦闘系を丸投げできると考えれば好都合。

 じつに、あの師匠にしてこの弟子ありと言える関係と思考法であった。

 

 

 

 横島達を出迎えたのは豊満な体つきでありながら、どこかホンワカとした雰囲気を醸し出す女性であった。

 

 

「源しずな、と申します」

「よ、横島忠夫です」

「・・・(ママに似てる)」

 

 

 なんとも戦略性に飛んだ人選であろうか。

 少なくとも横島忠夫の人柄を見通した、見事な出迎えであった。

 まさにカウンターパンチ。

 

 

 とはいえ、麻帆良側も大混乱であった。

 なにしろ常駐できるほどの時間を持て余したGSを誘致したはずが、表のオカルトの秘匿されたヒーローが現れたからだ。

 

 

 一人の少年の名は「伊達雪之丞」。

 GSにおける単純攻撃力で見れば世界有数、そして単体戦力としては最高とまで言われる「人間以上」の中核。

 魔装術と呼ばれる禁術の極みに達した事でも有名でもある。

 

 一人の少年の名は「横島忠夫」。

 あの美神令子の弟子であることで有名だが、それ以上に彼の名を裏から支えているのは「倒神者」としての字(あざな)だ。

 かの魔界の大公爵アシュタロスを倒したとして、表のオカルトの裏のさらに裏に記された存在だったから。

 どのような力があり、そのような権能を持つかまでは知りえなかった。

 しかし神界、魔界、人界の救世主であることには変わりなく、影響力は恐ろしいまでのモノである。

 非公式ながら、神魔の最高責任者からの覚えもめでたいという情報もある。

 

 そんな人界の切り札が、その気もないのに麻帆良にやってきたとあっては警戒心も山盛りになることは間違いなく、まるで子猫を守る親猫のように、バリバリに毛が逆立っていたのだった。

 

 剣に手をかけるもの、発動体を握り締めるもの。

 彼らの動向に物凄い殺気が高まっていたが・・・

 

「はぁ、なるほど、先生でしたかぁ。大変な仕事ですよねぇ」

「いいえ、横島君や伊達君みたいな危険な仕事じゃありませんから」

「いや、教師って、ほら、たくさんの子供の運命を左右する仕事だろ? 俺たちのは言わば『終わった』人生の後始末みたいなものだ。所詮壊し屋の仕事だよ」

「・・・あなたたちの仕事で沢山の人が救われているんです。壊し屋だなんて言わないでください」

 

 すこし、滲んだ瞳に二人は白旗。

 

「・・・あー、はい、わかりました」「・・・う、わかった」

 

 こんな風に素直に返事をする姿は、まさしく「少年」の姿である。

 これを見て何も感じないほど彼らも鈍感ではない。

 そう、彼らもまた魔法「先生」なのだから。

 

「・・・うむ、彼らもまた、生徒でしたか」

「実に素直そうな少年たちではないですか」

「あんな彼らに世界の重責を押し付けていたのですね、私たち大人は」

 

 と、まぁ、こんな理解になるのは教師と言う職業柄仕方ない。

 が、魔法「生徒」はというと、ちょっと猜疑心の方が強い。

 とはいえ、二人の少年たちの感情の発露に疑いを持っているのではなく・・・

 

「絶対、乳に騙されてるよな」

「伊達ってやつは尻派だと思うぞ」

「横島ってのはちちしりふとももだな」

「しずな先生だもんな、しかたねーか」

 

 無駄に意味の無い、それでいて熱い会話が進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 会見はあっさりと進んでいた。

 まず、常駐自体依頼内容どうりだが、麻帆良としては活動拠点を構えてほしいという話になる。

 隠れているとはいえ魔法使いの町なのになぜ、という問いには「わしらの魔法は除霊に向いておらんのじゃ」と率直な返答が帰ってきた。

 

「つまり、腰を据えて処理を依頼したい、と?」

「そういうことじゃ」

 

 回答を得た横島は、一応準備契約として取り交わした内容にいくつか修正を加えた。

 非常に明確でバランス感覚の強い指摘に驚く学園長であったが、内容を確認した上で「是」の意をしめす。

 

「ところで、横島君」

「なんですか?」

「・・・この、保護妖怪についての監督事項なんじゃが・・・」

「意にそぐわず怪異が使役されている場に我々が迎撃した場合、その怪異の解放及び保護を出来る権利を有する、そう言う内容で書いてあると思いますが」

「うむ、しかし、使役されていた怪異が素直にGSの言うことを聞くものなのかのぉ?」

 

 学園長の疑問ももっともなものだが、軽く笑った雪之丞が横島の頭をつつく。

 

「じいさん、こいつは人外にモテるやつでな。既に幽霊、妖怪、化けネコ、妖狐、人狼と引っ張りだこなんだよ」

「やかましいわい」

 

 つつかれた手を払いのけ、気まずげにほほえむ横島を見て、学園長は彼を信用しようと心に決めた。

 

 

 

 

 

 もちろん、その日のうちに裏切られるとは思ってもいなかったわけだが。

 

 

 

 

 

 学園長との会談を終えた横島と雪之丞は、何気なく周囲の監視の目の網をくぐり抜けてゆく。

 少なくとも、網の目のように集中砲火している視線の中でどうやって、と思われるところだが、現実に二人は人混みの中に消え、監視者達の視線の中からも消えてしまった。

 体術的に気配を消し、霊術的に波を消し、そして文珠的に「隠」れてしまえば誰も見つけることは出来ない。

 たとえ目の前にいてもそれが何か確認することは出来ないほどに。

 

 そんな細心の注意の元に視線の網から抜け出した二人が赴いたのは森の中のログハウスであった。

 軽いノックをすると、ドアの向こうからメイド服の少女が現れる。

 

「お待ちしておりました、GS横島様でいらっしゃいますね? マスターがお待ちです」

 

 とても自然に二人を招き入れた少女は、応接間まで案内した後消える。

 いや、消えると表現できるほどの自然さで去った。

 再びノックすると少女の声が「はいってくれ」と答えたので、遠慮なくとびらをひらく。

 そこには、ゴシックロリータに身を固めた、十歳程度の西洋美少女が座っていた。

 勿論、内心は出さない横島。

 だが、彼の言葉を記載すればこんな感じになる。

 

『どうせこんな事だと思ってたよぉ!!』

 

 見た目10歳程の幼女に対して欲情できる訳のない横島忠夫は、ただただ仕事モードのレベルをあげることにした。

 

「美神礼子除霊事務所所属、GS横島忠夫です」

「・・・護衛のGS伊達雪之丞だ」

 

 口調の差はある。

 しかし、二人には仕事先で見られる相手への敬意が見られた。

 その手の空気はすぐに相手に伝わる。

 ゆに、少女は頬をゆるめた。

 

「丁寧な挨拶、傷み入る。私は今回の依頼主、エヴァンジェリン=A=K=マグダウェル、真祖の吸血鬼だよ」

 

 イスから立ち上がり、右手を差し出す少女に横島もそれにあわせ、深い握手をする。

 

 

「この度の依頼は、不当に拘束された契約の解除、でいいですか?」

「ああ、三年ばかりと言われて縛り付けられた契約が、すでに15年目。正直、不死の我が身を呪いたくなる時間だよ」

 

 苦笑いの少女、エヴァンジェリンに勧められるままに、座る横島と雪之丞の前に、音もなく紅茶がおかれる。

 先ほどの少女の仕業であった。

 

「魂ある存在、か。世界で三例目、かな?」

「・・・うむ、GS横島殿には、そのもの、茶々丸が魂を持つ、と感じられるのかな?」

「ああ、エヴァンジェリン殿。彼女には定着して間もない、無垢な魂が存在する。俺の知る人工霊魂は後二つ、渋澤人工霊魂一号と試作型人造人間M666マリアだけだ」

「ほぉ、すこし話を聞かせてもらってもいいかな?」

「ああ、表のオカルトじゃぁ結構有名だからな」

 

 そんなわけで、出された紅茶がつきるまで、人工霊魂についての話が盛り上がったのだが、そろそろ、と切り出す雪之丞。

 

「エヴァンジェリン、あんたを縛る契約は、契約書式か? 呪いか?」

 

 わずかに息を止めた後、ため息とともに彼女は語る。

 

「・・・呪いのほうだ。まさに呪いだ」

 

 なるほど、と頷いた横島は、エメラルドグリーンの珠を通して彼女をみる。

 

「うん、これならいけるな、うん。解術可能だ」

 

 目を見開くエヴァンジェリン。

 

「とはいえ、術式を施した本人はどこにいるんだ? 無茶苦茶すぎて逆に話が聞きたいぐらい何だが」

「・・・死んだ、ときいている」

 

 なにか、こう、思いを込めた言葉であったが、横島の言葉がすべてを吹き飛ばした。

 

「いやいや、俺たちもその情報が知ってるが、おかしいんだよこの呪い。術式自体に手を加えられたあるわ、初期状態でどこかに繋がる指定はあるわ、まるでエヴァンジェリン殿の魔力をどこかに大量に吸い上げているような、そんな感じだぞ」

 

 いままでの、甘酸っぱい空気をすべて振り払われたエヴァンジェリンは、ものすごく殺気に溢れた顔で横島をみた。

 普通ならばちびって逃げ出すほどの殺気だが、訓練された丁稚は伊達ではない。

 この程度で腰が引けていては美神令子の弟子などやっていられないのだ。

 

「・・・横島殿、そのへん、詳しく調べられんか?」

「あー、俺一人じゃ無理なんで、専門家に依頼していいですか?」

 

 溢れる殺気に少しビビった横島であったが、かけた電話の先には平常運転であった。

 

「・・・というわけで、お力を。ええ、ピートの幼児時代を知る数少ない現存の方ですので、ええ。ええ、では」

 

 いいえ顔で「仕事したぁ」という雰囲気を出しているが、単純に彼は仕事を人に丸投げしただけ。

 いや、勿論なんでも抱え込めるわけではないのだが、彼自身の経験が少ない影響で、こういう困難な状況でプロに頼ることに何ら抵抗感がない。

 加えて、自分では全く痛くもない情報を切り売りしただけなので、さらに爽快感がアップしていたりする。

 

 流石美神令子の弟子、であった。

 

 

 

 程なくして、横島が呼び寄せたプロ、小笠原エミがあらわれた。

 大型特殊のカテゴリーを遙かに飛び越えるモンスターバイクの登場に驚く人々もいたが、そう言う視線を無視できる美人の特権か、あらゆる結界を越えてエヴァンジェリンのログハウスまで直行できた。

 

「・・・なるほど、横島、よく見つけたワケ」

 

 エミの見立てでは、エヴァンジェリンにかけられた呪いを利用して、三つの干渉があるという。

 一つは学園の大型結界へ繋がっており、何らかの大型術式に転用されているという。

 二つ目は、この麻帆良の中心にそびえる世界樹と呼ばれる大樹の奥底に繋がっており、何らかの影響を受けているだろうという。

 で、三つ目。

 これが最悪だとエミが言う。

 

「これは言わば思考制御なワケ」

 

 エヴァンジェリン=A=K=マグダウエル自身といえる個々の思考能力。

 これに妙なバイアスを加えている存在がおり、それが図書館島と呼ばれる施設の奥底にいるという。

 

「有罪だな」

「有罪だ」

「有罪なワケ」

 

 三人のGSは、もの凄く剣呑な視線で呪いの分析結果を見つめていた。

 

 

 

 

 

 その瞬間を言葉で表すならば、大規模停電で始まった、と言っていい。

 初めは原因不明だったが、調査後すぐに麻帆良結界への付加が高い状態になり電力がダウンしたものだと判った。

 

「原因はなんじゃ!?」

「・・・推測ですが、結界のバランス比重が急遽狂ったとしか」

 

 明石教授はおおよその予想はしていた。

 バランス比重が狂った。

 それは何のバランスか?

 そう、電力と魔力で支えられていた結界が電力だけになったために過負荷になったのだ。

 では、なぜ魔力比率が無くなったのか?

 

「・・・もしや、まさか!!」

 

 近衛近右衛門は日中の会見を思い出し、そして寒気を覚えた。

 

「学園長?」

「すぐにエヴァの安否を確認するのじゃ、すぐに!!」

 

 驚いた魔法先生たちは顔を見合わせたが、一人が電話を片手にコールし続けている。

 答える様子はなく、そして、コールはむなしく続く。

 そして学園長も一つの電話番号にコールした。

 

 相手は3コール程で応答する。

 

「はい、GS横島忠夫です」

「横島君、めんどくさい話は抜きじゃ。エヴァに何をしたんじゃ」

 

 ざわりと周囲が波立つ。

 横島とは、日中学園長を訪問したGSの名前。

 

「ああ、契約通り、『意にそぐわず怪異が使役されている場に我々が迎撃した場合、その怪異の解放及び保護を出来る権利を有する』権利を行使しました」

「・・・エヴァには強力な呪いが掛けられていたと思うのじゃが?」

「ええ、三年の契約で解術が約束されていたはずの呪いが、十五年もの長きにわたって放置されていましたねぇ」

「それは、こちらとしても不本意であったが、彼女を守るためには管理下にあることを示す必要があったのじゃ」

「それでも、登校地獄なんつうバカみたいな呪いをそのままにする理由になりませんよね? 三年で開放する『契約』だったんですから」

「・・・エヴァンジェリンには、犯罪者としての賞金がかかっておった。その彼女を無力化することで彼女自身を守る結果にもなっていた事実は間違いないのじゃよ、横島君」

「なるほど、それっぽい道理を押し付けて『契約』をないがしろにしますか。これは我々と交わした契約も信頼がおけませんね」

「・・・ぐぅ」

 

「ま、長年の契約違反とその代理要求は明日以降行いますので、またお会いしましょう」

「ま、まつのじゃ! エヴァをそのまま連れ出せばどうなるかわかっているのか!?」

「ああ、呪いですね? もちろん『全て』を断ち切らせていただきました。図書館島から伸びているものと、世界樹のふもとから伸びているもの、そして学園結界から伸びていたものすべて、ね」

 

 ぶつりと切られた電話。

 二度目のコール以降、電波が届かないか電源が切られているというメッセージとなっていた。

 さらに言えば、緊急起動したエヴァンジェリンの装具に仕掛けられた発信機が、一瞬だけ大宮で確認され、即座に消えた。

 

「学園長・・・・」

「緊急発電システムを起動、結界を支えるのじゃ」

「・・・はい」

 

 麻帆良で起きた大混乱。

 この根本はGSを招き入れたことだと不満を高らかにする魔法先生も多かったが、事情通はそうではなかった。

 そう、三年の契約を踏みにじっていたのは魔法使い側であったから。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、本当に横島はやってきた。

 ただし人員が昨日と違っていた。

 中心に横島忠夫。

 右隣に伊達雪之丞。

 左隣に小笠原エミ。

 そして、背後に控えるように、エヴァンジェリン=A=K=マクダウエルその人。

 加えて絡繰茶々丸。

 総勢4人と一体が現れていた。

 

 彼らから差し出されたのは口頭契約における覚書と、その違反に関する賠償範囲及び無許可での魔力使用への賠償についての書類であった。

 甲だ乙だと細かな書式はいいとして、大きく気になる部分を近衛近右衛門は指摘した。

 

「・・・この、横島霊能事務所所属、エヴァンジェリン=A=K=マクダウエルというのはどういう事かのぉ?」

「ああ、エヴァちゃん、昨日付けでうちの事務所に入ってくれたんですよ。つまり、俺が保護する『GS見習い』です」

「『GS見習い』のエヴァンジェリン=A=K=マクダウエルだ。何分経験が浅いのでな、無礼は勘弁してくれ」

 

 にやりと笑う少女の背後には、恐ろしいまでの魔力が渦巻いていた。

 

「・・・あー、横島君。君は昨日、美神令子除霊事務所所属、と自己紹介しておらなかったか?」

「ええ、昨日の会見の時点まではそうでした。で、あのあと強く上司に勧められて、事務所を開設することになったんですよ。独立資金も十分ですし、敷地も抑えてありますし、独立保証人は師匠のほかにもさまざまな人が名乗りを上げてくれまして、いやぁ、お世話になってしまいましたよ」

 

 そういいながら、GS免許とGS事務所開設関連書類を見せられて、そして驚かされた。

 彼の上司であり師である美神令子の名は出てくるだろう。

 加えて、唐巣和宏、六道冥子、美神美智恵、魔鈴めぐみと錚々たるメンバーが名を連ねており、加えてこの場にいる小笠原エミもその一人であった。

 

「ま、独立保証人なんて二人いれば十分だけど、この男は随分と出世する目があるから今のうちにつばをつけておくってワケ」

 

 皮肉げにほほ笑む笑みであったが、現実の話、横島忠夫の伸び代には目をつけていた。

 そう考えれば、今回の騒動で手を貸すのは必然でもあったと言える。

 

 魔法使い側は、この詐欺同然の手腕に怒りを燃やしていた。

 己の正義を疑わない彼らにとって、エヴァンジェリンは殺してもなお生ぬるい存在であり、生かしたまま生涯をすべて悔恨に費やすべきだとすら思っていた。

 いや、この場で相発言する者がいた。

 

 ガンドルフィーニ教諭である。

 

「なぁ、あんた。そういう感情を込みにして結ぶのが契約ってやつなんだぞ? 理解していないのか?」

「・・・横島忠夫君、きみは彼女の罪状を知らないから言えるのだ!」

「なら、おれが濡れ衣を着せられた『人類の敵』って罪状をどう思いますか? たしか麻帆良の住所からも色々と脅迫のお手紙をいただきましたが?」

 

 ぐっと言葉に詰まるガンドルフィーニ。

 

「少なくとも、うちのエヴァちゃんから進んで殺しをした事実はないですよ? 賞金稼ぎなんていう凶状持ちを返り討ちにし続けたものだから賞金が上がっただけですし、真祖なんつう状態異常を回復できますって誘いに乗ってみれば魔法使いの策略で解剖されたとかの記憶があれば、そりゃ魔法使いなんか信じないでしょう?」

 

 そう言いながら取り出したのは、別の書類。

 そこには「重要機密」というはんこが推されたもので、内部はラテン語であった。

 一応警戒しつつ読み続ける学園長であったが、その内容に息をのむ。

 

「真祖っていいますけどね、彼女の場合は人工の真祖なんですよ。バカな魔法使いの不老実験が無理やり行われた結果が彼女。それは見てのとおり『メガロメセンブリア』の極秘資料でも認められた事実として保管されています」

 

 その資料を奪い合うように見つめる魔法先生、いや魔法『教員』たち。

 

「・・・いいですか、その資料はあなたたち魔法使い、いいや、正義の魔法使いを自称するメガロメセンブリアの秘匿ライブラリーに保存されている事実なんですよ」

 

 その見せられた事実に呆然とするもの、偽物だと糾弾する者、そして暗い炎に心を犯されるものと様々だが、誰もが二の句を継げないでいた。

 

「まぁ、過去に行われたメガロの罪は追及せんよ。恨んでいるし怒りはあるが、いまさら何を言っても無駄だ。しかし、この十五年間、いや正式な契約期間を抜けば12年間か、この時間に対する賠償を要求する」

 

 すっぱりと言い切るエヴァンジェリンの隣に立ち、腕の中に抱き込む横島忠夫。

 

「あと、無断で魔力を吸収利用して学園結界と怪しげな怪異を飼ってるってな事も追及する」

 

「横島、詳しい話は学園長がご存じみたいなワケ」

 

 きらりと目を光らせる小笠原エミの視線から逃れるように視線をそらす学園長。

 

「有罪、か」

「有罪だな」

「有罪なワケ」

 

 三人のGSから有罪を言い渡された学園長は、一般の魔法先生の人払いを願い出た。

 

「学園長、ですが!」

 

 無精ひげのダンディが声を募らせるが、退出を宣言。

 職権を盾に全員を押し出した。

 

「すまんな、これを話すという事は、魔法世界における麻帆良の立場を失うことと同義なのじゃよ」

 

 学園長から飛び出た言葉は、実に危険性あふれる内容であった。

 前世代の魔法世界の戦争とその原因。

 そしてその背後で行われていたメガロメセンブリアの権力抗争。

 加えてその権力抗争のせいで濡れ衣を着せられた某国の王女。

 それを助けたはずの戦争の英雄が、実は魔法世界の戦争を裏で操っていた秘密結社の首領を相打ちで封印しか出来なかったこと。

 その封印が、今も世界樹の木の真下で行われていること。

 その監視のために英雄の仲間が図書館島の地下深くにいること。

 さらにその封印を守るためにエヴァンジェリンの封印を利用していたこと。

 

 完全にぶっちゃけであった。

 

「あー、近衛老、なんでそこまでぶっちゃける?」

「もう、何も知らぬ若造の相手で寿命を削るのは沢山なのじゃ。わしも近いうちに引退して孫と余生を暮したかったのじゃなが、そうはいかせてもらえなんだ」

 

 そう言って懐から取り出したのは、魔法使い見習い派遣に関する決定書。

 発行はメガロメセンブリア。

 その内容は、ネギ=スプリングフィールドという魔法使い見習いの修業の場として麻帆良を使わせろというモノであった。

 

「・・・あー、もしかして、GSの常駐は、この対策か?」

「心の半分ほどはその考えがあったことを否定せんよ」

 

 苦笑い、というか人生に疲れた老人の顔で近衛近右衛門は微笑んだ。

 

「んー、エヴァちゃんちょっといい?」

「なんだ、所長」

「横島霊能事務所の事務所を麻帆良に開いて、ちょっとだけ仕事しない?」

「・・・一応、私も少しは同情してしまったからな。その意見は受け入れないでもないが、私と所長では人員が足らんぞ?」

「そりゃ、ほかに増員は考えてるよ」

 

 肩をすくめる横島は、学園長を見た。

 そこには、何故かきょとんとした老人が居た。

 

「俺たちは契約を守りますよ、学園長」

「じゃ、じゃが・・・」

「契約はそういうモノなんです」

 

 にっこり笑って差し出した横島の右手を、近衛近右衛門は恭しく両手でつかむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、一応賠償契約証書まで引っ張り出してきた関係上、それなりに何かが動かなければならないと考えた近右衛門は、事務所用地と建築物を引き受けることを宣言。

 開示された機密の重さもあってか、賠償に見合うモノと三人のGSとエヴァンジェリンは認め、ここに和解が成立した。

 

「とはいえ、エヴァンジェリンよ。麻帆良に滞在するなら、せめて中学校を卒業してくれんか? クラスメイト達も転校もしておらんのに学校に行かなくなったでは矛盾が大きい」

「・・・まぁいいだろう。費用はそちらで持てよ?」

「うむ、それで十分じゃ」

 

 代わりに夜の警備は横島霊能事務所へ発注し、そこからエヴァンジェリンを派遣することとなった。

 こと、今までは悪の魔法使い、であったが、これからは「GS見習い」として派遣される訳で、魔法関係者の意識改革が必須と言えた。

 

 

 

 

 

 

 きけば、提供される店舗は、元々喫茶店だったそうだ。

 だが、麻帆良市内でも大型店舗やチェーン店舗が乱立しているため、個人商店は非常に厳しく、先月で店を閉めたとか。

 今だ珈琲のにおいがする店舗を見まわして、このまま使えばいいかと思う横島だった。

 

「で、横島。増員枠には俺が入ってるんだろうなぁ?」

「もちろんだ。あと、事務専門に一人、美神さん経由で一人かな」

「ん~、所長、それで足りるのか?」

「ああ、一応茶々丸ちゃんも手伝ってくれるとうれしいかな?」

「はい、喜んで、所長」

 

 今はがらんとしているスペースにパーティーションを区切って部屋っぽくしたり、ソファーセットを置いて威圧感の無い、それでいていい感じにしたり。

 残っているカウンターに席をつけて、簡単な霊能相談をオープンでしたり。

 

「・・・なんだ横島、随分と具体的だな」

「そりゃ、商売だぜ。利益出さないとな」

「さすが美神の旦那の弟子ってか?」

 

 ケタケタと笑う男たちは、まるで文化祭の出し物を練っているかのようだった。

 

「あー、所長、本当に私がGS見習いでいいのか?」

「んー? ああ、一応中学卒業と高校卒業は必須だけどな、それまで夜盗つもりだけど嫌か?」

「い、いや、そうではなくてだな。私は、ほら、魔法世界で悪の魔法使いとして名が通っていてだな・・・」

「俺は人類の敵として名が通っていたぞ?」

「それは誤解だっただろう!」

「エヴァちゃんだって誤解の積み重ねだろ?」

「・・・うぅぅぅぅぅ」

 

 優しく少女の頭を撫でる横島。

 

「あんな、エヴァちゃんや。おれらはエヴァちゃんを表の世界に引っ張り込むって決めたんだ。迷惑だろうと関係なしだ。それが嫌だったら、実力で抜け出してくれ」

「・・・ふ、お前は、お前たちは気持ちの良い悪党だな。私の肌に合いそうだよ」

「ま、人類の敵に悪の魔法使い、で、禁呪使いの小悪党が組むんだ。面白そうだろ?」

「違いない」

 

 からんか、と軽い笑いのエヴァンジェリンを、嬉しそうに撫でつける横島の姿は、どうみてもお兄さんと言うよりお父さんであった。

 

 

 

 

 

 

 突如、麻帆良にGS事務所が開業した。

 

 聞けば茶々丸ちゃんやエヴァちゃんがGS見習いとして出入りしているそうだ。

 先日休んだのもその準備を手伝っていたからだという。

 今までクラスの人たちと出かけたり遊んだりしない、そう思っていたのだけれど、実はエヴァちゃんが霊症で、遠出ができなかったのだと判明。

 私たちはすごく驚いたんだけど、エヴァちゃん曰く

 

「所長自身も一流だが、その人脈も一流でな。GS小笠原エミを招いて私の霊症を治療してくれたのだ」

 

 小笠原エミといえば、あの大霊症で活躍したGSの一人。

 日本オカルト界のけん引役でもある。

 

「へぇ、じゃ、その所長さんって有名人なん?」

 

 コノカのセリフに、ニヤリとほほ笑むエヴァちゃん。

 

「有名だぞ、全世界的に、な」

 

 GSの名前は「横島忠夫」。

 訂正報道はあったけど、一時期は「人類の敵」「世界の裏切者」と責め立てられたGS,実際は高校生の身でありながら敵戦艦に潜入して戦いを有利に導くためのスパイ活動をしていたという凄い人。

 

「す、すごいじゃない! そんな有名人が麻帆良で開業!? なんで?」

 

 朝倉は携帯片手に情報検索しながらエヴァちゃんにかぶりつきだ。

 

「学園長の依頼でな。麻帆良は魑魅魍魎が集まりやすい地形だが、今まで問題なかったらしい。しかし大霊症の影響で問題が出始めているので、GSに常駐してほしいと協会に申し出たそうだ。おかげで私も治療を受けられた。ありがたいことだよ」

 

 苦笑ともとれるエヴァちゃんの顔に、私たちは少し見とれた。

 

「ふわぁ、おじいちゃんええ事したんやねぇ」

「うん、学園長えらい!!」

「というかエヴァちゃん、オカルト障害だったんだ」

「言ってくれればいいのに」

 

 とはいえ、話してくれたところで私たちに出来ることなどほとんどない。

 解決のための糸口だって手を出せやしない。

 でも、みずくさい、とか思ってしまうのは仕方ないだろう。

 

「まぁ、これで霊症も解消したし、あとは支払いだけだ」

「「「「「えええええええええ!?」」」」」

 

 驚く私たちに、眉をひそめるエヴァちゃん。

 

「S級GSの小笠原エミ、A級GSの横島忠夫、さらには周辺GSにも協力を依頼したのだぞ? ただで済むわけがない」

「で、でも、私たち中学生で、ほら!」

「神楽坂アスナ。お前は自分の学費を稼ぐために新聞配達をしている、そうだな?」

 

 うん、と私は頷く。

 

「私も、私の自由のために除霊代をGS見習いとして稼ぐのだ。何ら間違っていなかろう?」

 

 おもわず、すとん、と胸の内に何かが落ちる感じがあった。

 そうか、そうなんだ、と。

 

「そっか、じゃ、お互い頑張ろうね、エヴァちゃん」

「うむ、そちらも頑張れよ?」

 

 そうだ、気になったんで聞いてみよう。

 

「ねぇエヴァちゃん、バイト代っていくらぐらいもらえるの?」

 

 んー、とちょっと悩んでいるみたい。

 安いのかなぁと思っていたら、私だけに耳打ち。

 

「危険な仕事なのでな、時給も待機時給も高い、というか高すぎるのだ。だから普通の中学生の前では話せん」

「えーっと、なんで私には?」

「お前は自分で生活を立てようと努力して稼いでいるだろう? そういう人間の金銭感覚は疑わん」

 

 そんな会話の後で聞いた時給は、こう、常識ってどこに行ったんだろうと思わせる内容でした、ええ。

 才能無いから関係ないけど、GS助手になったら一年で中学卒業後の資金まで稼げそうだと思ってしまったのは仕方ないだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 エヴァちゃんの話で、ちょっとしたオカルト相談や霊視は無料だというので、クラス全員と言っても良いほどの勢いで放課後突撃してしまった。

 聞けば、所長の横島さんや他の所員さんもまだ高校生なので、放課後直ぐに会えるわけではないそうだけど、でも、カギをもっているというエヴァちゃんにくっついて行ってしまった。

 今まで全く知らなかった世界だけに、興味半分だったんだけど、事務所は、GS事務所と言うよりも「喫茶店」って感じだった。

 

「それは仕方ありません。この場所は以前喫茶店で、ほとんど改装しないで事務所にしてしまったのですから」

 

 いつの間にか集まった人間分のコーヒーが茶々丸さんから手渡されていた。

 

「・・・ふぅん、っておいし」

「ほんとや、おいしいなぁ」

 

 珈琲党の朝倉とコノカが驚いていた。

 砂糖やミルクを継ぎ足したとしてもその美味しさは変わらず、私たちは驚きのままの表情で彼らを迎えてしまった。

 

「お、千客万来だな」

 

 からん、とドアのベルが鳴ったと思って見ると、そこには四人の男女がいた。

 女性は、セミロングの髪の毛の女子と金色の髪の毛を綺麗に編み込んだ人。

 男性は、ちょっと背が低めの目つきの鋭い男性と優しそうな笑顔でバンダナが似合う感じの人。

 

「所長、見物客だ。アピールしとけ」

「よっし、108の宴会芸を持つ男が、輝くところを見せちゃるか」

「おいおい、ここは何事務所なんだよ」

「さすがヨコシマ、期待を裏切らないわ」

「はぁ、もう、横島君ってば」

 

 自己紹介してくれた人たち。

 女性は、タマモさんと愛子さん。

 片や狐の妖怪、片や机の妖怪だそうで。

 

「「「「「ようかい~~~!?」」」」」

 

 なんと横島GSの事務所には妖怪が所員で勤務していました。

 

「そうよ? 何かおかしい?」

「まぁ、妖怪が高校に行ってますって段階でおかしいわよね」

「あら、向こうの高校にはパンパイヤハーフや虎人がまだいるわよ?」

 

 聞けば、麻帆良に来る前の学校で愛子さんと同級生だった横島さんが、この事務所開業時にヘッドハンティングしてきたそうだ。

 で、横島GS・パンパイアハーフ・愛子さん・虎人の四人でオカルト委員なんて活動もしていたとか。

 ・・・高校生なのに凄い。

 

「タイガーは純粋な人間だよ」

「あら、タイガー君って純粋な人間なの?」

「・・・? 虎のハーフの臭いよ、あの男」

「いやいやいや、まじだって、ほんとだって」

「「またまたぁ」」

 

 本当の妖怪から妖怪扱いされる純粋な人間と言う人にも興味があるんだけど、やっぱりリアルなオカルトにも興味がある。

 そんな私たちが、ちょっとオカルト体験できないかと相談してみたら、愛子さんとタマモさんを指さされて、妖怪、と一言言われてしまった。

 まぁ確かに、その通りなんだけど。

 なんか日常に馴染みすぎてて、特別な感覚がないんですよ、ね?

 これぞオカルトってのがみたい、と朝倉も食いついてる。

 

「んー、俺たちの霊能って、こう、いまいちなんだよなぁ」

 

 そんなことを言いつつ不意に、一か所で視線をとめた横島GS。

 誰もいないところにちょいちょい手招きした後、横島さんの手が光に包まれた。

 それはエメラルドグリーンの綺麗なひかりで。

 私たちはその時初めて感じる霊波、魂の輝きに胸をときめかせた。

 

 

『うわぁ、気持ちいい力ですねぇ』

「おう、きもちいか、それはよかった」

『でも凄いですねぇ。今まで私が見えた退魔師の方って少ないんですよ?』

「まぁ、おれは見ることがうまいからな。で、君の名は?」

『相坂さよっていいます~』

 

 って、ええええええええ!?

 

「ゆ、ゆうれい?」

『あれ、もしかして、わたし、皆さんに見えてます?』

 

 ブンブン頷く私たちを見て、ひどく嬉しそうにほほ笑む幽霊、いや相坂さよちゃん。

 

『あ、あ、あ、あの!! 私とお友達になってくれませんかぁ!?』

 

 聞けば幽霊になって60年ほど。

 誰にも視認されずにさみしい思いをしていたそうだ。

 

「まぁ、幽霊っていうのは普通そういうもんなんだよ。誰にも認識されず、誰とも対話できない。それが普通の幽霊なんだ」

 

 が、横島さんが霊波を調整することで私たちにも見えるようにしたそうです。

 逆に悪さをしたり、自縛したりする幽霊の方が少ないそうで、その少ない幽霊を開放するのがGSと言う仕事なのだそうです。

 

「で、さよちゃん。お友達がいっぱいで来たけど、想いはかなったかな?」

『・・・え、えーーーっと』

 

 周囲を見回すさよちゃん。

 彼女がどう思っているかわからないけど、出会いが別れなんて悲しい。

 だから、私は、私たちは色々と想いをこめてみてしまった気がする。

 

『・・・できれば、もう少し、残っていたいんです』

 

 その言葉を聞いて、横島GSはどうするのか、そんな視線で見たら、にへらってわらって、こういってくれた。

 

「じゃ、勝手に除霊されないように登録幽霊にしないとな」

「「「「「へ?」」」」」

 

 なんというか、流れがおかしい気がしたので、もう一人の男性を見ると、彼は笑っていた。

 

「ま、横島ってのはこういうやつだ」

 

 ということで、さよちゃんは正式に横島さん預かりの幽霊としてGS協会に登録され、これから所員として働くそうです。

 

「なんや、こう、あったかい人やなぁ」

「そうね、凄く変だけど」

 

 コノカと私は思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 幽霊同級生さよちゃんの噂は凄い勢いで広がった。

 

 最初は怖いもの見たさで、最近ではお友達として。

 あと、身元引受人の横島GSも比例して大人気。

 占い同好会でも名誉会員になってもらえないかと折衝中。

 というか、私が折衝の役目を背負って事務所によくお邪魔している。

 

 横島さん自身、トランプやタロットの占いが得意。

 まぁ宴会芸の内らしいけど。

 それでも、ピンポイントに相談に来た娘の「本当の悩み」を引き出して、霊能とは関係ない解決法の方向を示してくれる。

 まさに占い、というか導きといった感じで。

 そんなわけで、

 

「横島さん、私に占い教えてくさい」

 

 と正面から申し込んでみた。

 すると横島さんは少し困った顔。

 

「コノカちゃんは基本はもうできてるだろ? あとは人生経験とか思いやる気持ちとか、そういう方面を伸ばしてみたらどうかなぁ?」

「でも、横島さんみたいな優しい占いが出来るようになりたいんですぅ」

 

 べったりカウンターにへばりつくような礼をしたところ、何とかOKをもらえた。

 ついでに占い同好会の名誉会員にもなって貰えたのはラッキーやね。

 で、どんなことを教えてもらえるかと言うと、もう完全に現場主義。

 霊能相談に来た人の表情や言葉をきいて、心の耳を澄ませる、というもう、完全に徒弟制度。

 

 真髄ていうモノはそういうモノだ、とこれはエヴァちゃんのセリフ。

 

 同じ時間と同じ空間を共にして初めて得られる知識があるって、ほんま弟子やな。

 でも、そのおかげか、横島さんが話をする前に、その方向性が何となくわかるようになった。

 相手がどんな心を持っているかまでは判らないけど、それでも大きな進歩だと思う。

 私もいつか、こんな陽だまりのような空気を出せるようになれれば、そんな風に思う。

 

「いや、コノカ、あんたもそんな感じだから」

 

 そうなん? アスナ。

 せやったらうれしいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 一時期は緊張状態で戦闘寸前だった横島事務所と魔法使いたちであったが、初めの大騒動以降はおとなしいもので、以前より出席率の良いエヴァンジェリンや、夜間警備での効率の良い活動は非常に好評で、改善であると信じられるほどになっていた。

 もちろん、魔法関係者を排除した学園長との密約にどんなことがあったかは知れないが、それでも学園長の、近衛近右衛門の交渉能力を考えれば、一方的な関係にはなっていないだろうという盲信に近い信頼もあった。

 その信頼自体が後継者の成長を阻害し、老域にいる近衛近右衛門への圧力になっているとはだれも思ってもいないあたり、業が深い話だろう。

 

 

 

 一方、横島忠夫は今まで通っていた都内の高校から転出し、麻帆良の共学高校へ転入した。

 愛子、タマモ、雪之丞を伴って。

 軽いノリで美女と言える二人を歓迎する教室男子。

 見た目でいえば平均以上で、さらに言えば高収入であるGS二人を歓迎する教室女子。

 肉食的と言うよりも、わかりやすい特徴を備えた転校生たちを歓迎して、と言う形になる。

 休み事にオカルトっぽい話を求められたり、妖怪であるところの美女二人に色々と質問が行ったりとかなりフランクであったが、その男が現れるまでの話。

 

「たのむ、GS。助けてくれ」

 

 男の名は豪徳寺薫。

 妹が数日前から様子がおかしく、医者に見せてもわからず困っていたのだが、ある医者が「オカルト科」のある病院に紹介状を書いてくれたそうだ。

 そしてその診療結果、GS、それも一流以上の除霊が必要と言われたという。

 あー、と言葉に迷った横島は、雪之丞と共に席を立つ。

 

「わり、この後の授業、さぼるわ」

「すまない、仕事だ」

「タマモ、愛子、後は頼んだ」

 

 そう言いながらバンガラリーゼントを引き連れて、横島達は事務所へ入る。

 

 

 

「・・・つまり、除霊が高額になる可能性がある、ということか?」

「ああ、一回の学生やサラリーマンじゃ払えないほどの決済になる可能性がある」

 

 話としては簡単だ。

 事件解決をして収入を獲ればいいのだ。

 

 しかし、問題はそこではない。

 

 適性な仕事には適正な価格と言うモノがあるのだ。

 そのへの感覚に薄い唐巣神父などはGS協会からやり玉に挙がっているが、それは個人の資質と言える範囲でもある。

 弱者救済は彼の趣味の範囲、と言えるであろうから。

 しかし、業界に顔を突っ込んだばかりの横島が、そんな横紙破りなどできるはずもなく、GS協会から提示される仕事の報酬や事例などを細かく説明した。

 

「・・・そうか、なるほど。よくわからん相手の良くわからん仕事だからこそ、明確な指針が必要、か」

「つうわけで、霊視自体は無料にできる。これはGSの標準的なサービスの一部だ。しかし除霊本体になると、さすがに俺の一存で無料にはできん」

「最低価格を割り込む支払い能力しかないと判断されれば、GS協会の支払い共済で補助を受けられるが、それは横島の評価を落とすだけの覚悟は必要だ」

 

 そう、支払が出来ないような仕事を好んで受けて、GS協会の共済基金にダメージを与え続けるようなことがあれば、それは明らかな規約違反だ。

 が、少しでも支払いを安くしたい依頼人はその制度を悪用して、GSの評判を落としてでも支払いを渋るようになっていたりもしているので、制度自体の見直しすら叫ばれている昨今。

 進んで受けたい制度ではない。

 

「そうか、だから教室じゃなくて事務所に連れてきてくれたのか。済まないな、困らせたみたいだ」

「それはいい、間違いなく一般には知られていないGSの事情だ。でも、家族を助けたいという気持ちは大切だ。せめて霊視させてくれ」

 

 

 

 

 

 

 少女の名前は「てるみ」。

 麻帆良市内にある自宅の一室で寝かされていた。

 顔色は悪く、生気も薄い。

 何かに取り憑かれていると考えてもおかしくない状態であった。

 

 そしてこの状態にあれば、誰もがGSを頼るところだが、いままでGSのいなかった麻帆良では、そんな反射行動がなかった。

 いや、もぐりは居たようだが、安心できない相手という事で信頼はなく、インチキというレッテルが張られていたようなので、被害も少なかっただろう。

 

 それはさておき、エメラルドグリーンの珠を通して周辺を見る横島を、雪之丞は何か言いたげに顔をゆがめている。

 

「・・・横島、おまえなぁ」

「霊視は無料、だろ?」

「ったく、勝手にしろ」

 

 不機嫌そうに視線を逸らした雪之丞であったが、この現状自体を好んでいるわけではないので解決の為ならば止む無しと思っている感じではある。

 

 しばらく周囲を観察した横島は、深々とため息をついた。

 

「・・・やっぱり、高いのか?」

「いや、なんつうか、困った」

「?」

 

 横島の説明を聞いて、雪之丞ですら驚いた。

 

「ドペルゲンガーだと?」

「それも、霊症じゃなくて、この娘の霊能なんだな」

「・・・なんてことだ」

 

 世に、空想の友達という言葉がある。

 エアギターとかのお友達ではなく、精神的に追い詰められた子供が生み出す緊急避難という解釈だ。

 その空想の友達と言うモノは現実の友達との接点が生まれてゆく中で消えてゆくものなのだが、彼女は、豪徳寺てるみはそれが出来なかった。

 さらに言えば、薄れゆく関係を無理やり自分の霊力で補ったため、彼女は今のような状態になってしまったのだ。

 

「じゃぁ、そのドッペルなんとかを消せば・・・」

「あんなぁ、豪徳寺。お前の妹は、自分の友達が殺されるのを見てられるような子か?」

「・・・・!!」

 

 そう、除霊とは、その存在を認められた何かを殺すこと。

 彼らが自らを壊し屋と呼ぶ側面でもある。

 

「なら、どうしろと・・・!」

 

 んーっと悩んでいた横島であったが、ドッペルげんがーと言う単語から一つの筋道を思いついた。

 

「あー、少なくとも解決してから算出するけど、十万掛からない解決法が浮かんだ。やってみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 横島忠夫が以前通っていた高校には、様々な怪異がかかわっていた。

 その対応のために「除霊委員」などという役職まで有ったわけだが、そんな騒動の中で一人の美術教師が巻き起こした事件があった。

 特殊な画材によって自らのドッペルゲンガーが作り出され、本人と入れ替わるという事件であった。

 勿論解決どころか斜め上の着地を見せたのだが、詳細は割愛。

 その美術教師とかつての旧友タイガー寅吉を呼び出した横島は、事件への協力を依頼した。

 タイガーは焼き肉食い放題を奢ること。

 そして美術教師は、やりがいのあるテーマなので金銭的な報酬は断ると言い出した。

 

「横島君、あなたはいい話を持ってきたわ! これで今度は入展確実よ!!」

 

 それなりに意味があるのだと理解してスルーした横島であった。

 

 

 

 ふたたび豪徳寺宅に赴き、そしてタイガーの出番となる。

 いかに不可視の存在でも、それに姿を与えることのできるタイガーの能力は実に地道な除霊向きと言える。

 その事実に本人は気づいていないが、いずれは自覚してほしいものだと考える横島と雪之丞出会ったが、今は目の前の事件解決。

 

「でてきんしゃーい」

 

 タイガーの霊能力で視覚化されたそれは、ベットで寝込む少女そっくりの存在であった。

 

『・・・あれ、もしかしてお兄ちゃんたち、私が見えるの?』

「おう、GSだからな」

 

 思いっきりハッタリだが、少女には通じた。

 

『すごいねぇ、てるみちゃん以外で私が見えた人初めて』

 

 落ち着いた会話ができるようになったので、実は彼女自身は幽霊ではなく「ドッペルゲンガー」であることを説明すると、かなり聡明らしく、自分の存在がてるみを苦しめていることに気付いた。

 あまりの事に自分自身を絶望視、大いに横島に泣き縋った。

 落ち着くまで待った横島に、少女は言う。

 

『・・・GSさん、あのね、あのね、私を除霊してくれませんか?』

「だめ」

『・・・え?』

 

 にべもない否定に固まる少女。

 

「だって、そんなことしたら目覚めたときにてるみちゃんがさみしいだろ?」

『で、でも!!』

「うん、てるみちゃんの負担をなくすために、正式なドッペルゲンガーになってみないか?」

『・・・え?』

 

 再び固まった少女に某美術教師を紹介。

 独自の力でドッペルゲンガーに落とし込む、それも今までの薄っぺらいものではなく、本物と同じ存在を生み出す、その熱意を込めた彼女の説得に、少女は頷くのであった。

 

「じゃ、せんせ、お願いします」

「任せなさい、こんどこそ、すべてを描ききって見せるわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 結果としては、成功。

 生み出されたドッペルゲンガーへ、元々居た霊力によって維持されたドッペルゲンガーが全てを渡し、そして消えて行った。

 ドッペルゲンガー維持のために全力状態だったてるみの負担は確実に減り、そして目覚めた瞬間にすべては再び始まったのであった。

 

 

 

 

「うぉぉぉぉ、肉じゃ肉ですじゃ、タンパク質最高~~~~」

 

 

 

 麻帆良の某焼き肉店が、食い放題のリミットタイムを縮めることを検討するほどかきこんだ虎が居たとかいないとか、まぁ色々だ。

 

 

 

 

 

 

 こと、金の話になると、それを汚いと感じるのは若さの特権だろう。

 もちろん、それは年齢が低くなれば低くなるほど顕著で、それが思春期真っ只中の中学生となれば言わずもがな。

 そして今までかなりの好感度であった横島が、金の話をしたという事になると忌避感が強くなる。

 さらに言えば、エヴァンジェリンの除霊に関する費用面でも違和感がある少女たちには、かなりの反感が高まる結果となった。

 その意見を直接ぶつけられるのはエヴァンジェリン、ではなく茶々丸であった。

 もちろん、その際には正面から横島の正当性を訴えるためにホワイトボードまで持ち出す始末なのだが、やはり金銭を受け取ったという事実は気に入らないという少女たちも多い。

 

「・・・あのだな、A級のGSの平均年収はいくらだと思っている?」

 

 仕方なく口をはさんだエヴァ。

 首をかしげるクラスメイト達にエヴァは言う。

 

「年間で200億以上だ」

「「「「「!!!」」」

 

 それを地級で換算してみろ、と言う彼女に暗算で答えた超。

 

「・・・二百万以上ネ」

「そう、その男の時間を霊視無料と言って使っているのだぞ? あの男が本気で金を請求すれば、今回の件の報酬は三桁万だ。それを十万で済ませる妙案が浮かんだと言って喜んでいるのだぞ? 報酬が減って何がうれしいのだ、って私が聞いたらな、あの男は、あの男は!!」

 

 徐々に声を荒立てるエヴァを楓が抱き留めた。

 

「エヴァンジェリン殿、落ち着くでござる。あなたの言っていることは誰もがわかっているのでござるが、小娘根性が邪魔しているだけでござるよ」

「長瀬さん、それはいいすぎじゃないかな!」

 

 反射的に声を荒立てた釘宮に楓は冷たい視線を送る。

 

「命を懸けて怪異に対するGSという職業を甘く見てござらんか? それは街の不良ややくざを相手にするようなわけではござらんよ? 一瞬の油断で命を奪われる、そんな相手と駆け引きをする、そんな仕事なのでござるよ?」

 

 抱きしめた楓の暖かさと、横島擁護に冷静になったエヴァは冷静になれるように息を吐き出した。

 そんなエヴァを見て、気になることを聞いておくコノカ。

 

「あんなエヴァちゃん、さっき言いかけた、横島さんのセリフってなんなん?」

 

 瞬間的に血が上ったエヴァだが、再度深呼吸をして正確に伝えることにした。

 

「美女美少女の味方だから、いいんだ、と言い切りおった」

 

 一瞬の静寂。

 だが、しばらくして爆笑が周囲を占めた。

 あるものは机に突っ伏し、ある者は腹を抱えて、あるものは涙を拭いて。

 

「だめだ、だめだめだ、だめーーーー、あの人らしいって思ったらもうだめ、もう笑うしかない・・・」

 

 息も絶え絶えに言うハルナのセリフが全てを物語っているだろう。

 剣呑だった空気は吹っ飛び、GSだし仕方ない、という空気に代わってしまった。

 

「・・・あぁ、もう、あの人はすごいなぁ・・・それじゃ私らの味方ってことでいいのかな? エヴァちゃん」

「まぁ、そう言う解釈でも構わんがな、釘宮。大きな壁があるぞ」

「なによ、エヴァちゃん」

「横島所長の中で鉄の掟があってな。曰く『高校生未満はロリ』だそうだ。少なくとも美女カテゴリーじゃないそうだぞ」

 

 いままでの和やかな空気が凍った。

 

「・・・ああぁ? それってもしかして、現役女子中学生にケンカ売ってるってことでOK?」

「私もその点で攻めたが、何をしても曲がらなかったぞ?」

 

 しんと静まり返る空気。

 そのなかで一人の少女が手をあげる。

 

「つまり、私も『ロリ』認定なのかしら?」

 

 少女の名を那波千鶴。

 見た目も色気も超高校級であった。

 

「・・・一応、実名付で聞いてみたら『ああ、千鶴ちゃんか。背伸びしててかわいい感じだよなぁ』だそうだぞ」

 

 瞬間、手を挙げたままで真っ赤になった千鶴。

 あまりにそっくりな口調に、まるで本人のセリフのようだと思えてしまったのだ。

 

「ちづ姉を可愛いって、初めて聞いた」

「・・・すげぇ、横島さんすげぇ」

 

 ぼしょぼしょと囁きあうクラスメイトをよそに、真っ赤な顔で立ち上がる千鶴。

 

「とりあえず、私たちで話していても意味はないわ。直接聞きに行きましょう」

 

 何をとは問えない。

 しかし、真っ赤になっていて緩んだ笑顔の彼女を見れば、今までの会話以上のネタがあることは確実に言燃えた少女たちであった。

 

 

 初めは金銭的な意味で怒りを燃やしていた少女たちが、なぜか煽情的な格好をして自称「美女美少女の味方」の持つ「正義」を猛烈な勢いで削りにかかったのは大いに疑問がある流れだが、某霊能事務所から聞こえる「わいは、わいは、ドキドキなんてしてないんやぁぁぁぁ」という声にぞんぶんに満足していったというのだから流石と言える。

 

 

 

 

 

 一時的に若年層からの人気が落ちたかに見えた横島霊能事務所だが、豪徳寺てるみ自身からのフォローや、同業他社に請け負ってもらった場合の対処や金額が知られると逆に変な心配になってしまった。

 

「あの人、そんな経営してて大丈夫なのか」と。

 

 猛烈なダンピングをしているかのようにみられているが、実際の処、手法や対応内容、そして費用を考えるとダンピングではないとGS協会も認める手法である。

 つまり、仕事内容と費用が報酬につりあっていると認定された訳だ。

 この点を知ったエヴァ所属の某中学生クラスは、なんでそこまで、と驚いたのだが、横島は苦笑いで答えた。

 

「俺の除霊は道具を使う事が少ないし、お札も自分で書いちゃうからな。だから極限にまでコストを抑えられるんだけど、それでも業界の一般的やり方をしたら周りに値段を合わせないといけないんだよ。だから、俺独自のコネとか独自の手法で、【この手法なら安い】って証明できれば、安くできるんだ。ま、そのたびに借りが増えるんだけどな」

 

 なんというか、実にお人よしだ、と誰もが思った。

 

 そして色々と悩みの多い長谷川千雨は、このお人よしなら信じてもいい、と感じさせられた。

 

 そんな彼女から横島宛に相談が来たのはちょっと雨の日の事であった。

 事務所にではなく、大手喫茶店チェーンの一角で待ち合わせた。

 参加者は事務所側からタマモと愛子、そして横島忠夫。

 相談者は長谷川千雨。

 彼女の相談は、

 

「・・・あの、実は、私、周りと、みんなと違う感じで・・・」

 

 それはよくある思春期の妄想では済まない感覚。

 他人が普通と感じることがそう感じなかったり、周が盛り上がっているのに自分が乗れなかったり。

 

「普通自動車に追いつく走りとか、あのでっかい木が普通だって思ってるとか、工学のやつらの発明が異常だとか・・・」

 

 霊をあげだしたらきりが無くなったらしく、頭をがりがりとかきはじめた。

 そんな彼女を優しく抱き留めるタマモ。

 

「千雨ちゃん、千雨ちゃんって呼んでいい?」

「・・・はい」

 

 少しして落ち着いたころ、タマモは彼女をゆっくりと撫で始めた。

 

「千雨ちゃんの感じていることは、正常なの。でも異常なの」

「・・・?」

 

 本来、麻帆良の中であれば、周囲の人たちの反応が正常なのだ。

 しかし、彼女にはそれが通じない、なぜか?

 

「麻帆良には、麻帆良と言う街自体が隠しておきたい秘密がある。だからその秘密を守るためにオカルト的な仕掛けがしてあるんだ」

 

 目を見開いて、タマモに抱きしめられたままの千雨が横島を見る。

 

「でも、君に『見鬼(けんき)』としての才能が高いために通じないんだ」

「けん、き?」

 

 それはオカルト的な才能。

 霊視ともいえる能力。

 オカルト関係者において基本にして最重要な才能。

 

「だから、君には選べる道がある」

 

 一つは、このまま才能を放置して、今の生活を続け、いずれ折り合いがつく日々を待つこと。

 一つは、才能を修業で強化してON/OFFが出来るようになること。

 最後の一つは、何もかも忘れて、才能を封印すること。

 

「・・・あの、なんで、選ばせてくれるんですか? というか私、麻帆良にとって不都合な存在じゃ・・・」

「そんなの関係ないんだよ」

 

 にっこり、それでいて力強く微笑む横島忠夫。

 

「なんつっても、美女美少女の味方だからな」

 

 それは、全く下心の感じさせない、それでいて頼りになることを思わせる、年上の男性(ひと)の笑顔であった。

 

「(神楽坂のオジコン、わらえねぇ・・・)」

 

 顔が真っ赤になることを自覚しつつ、小さくお礼を言う千雨であった。

 

 

 

 

 

 とりあえず、すこし真相を知った身で様子を見たいという事で、本日のオカルト相談は終わった。

 

「ね、ヨコシマ。なんで、霊能を封印させなかったの?」

 

 タマモにとって当然の質問であった。

 こと、霊能なんてものは、一般社会において意味の無いモノなのだ。

 人払いや人避けの符が効きにくくなるし、危険な目にあいやすい能力と言える。

 幼い子供に発現しやすくオカルト事故の数%は見鬼の子供が原因と言われていから。

 

「んー、ほら、今までの千雨ちゃんの見ていたものを全部否定するのは可哀そうかなって」

「本当に、横島君は美女美少女の味方なのね」

「あったりめーだ、愛子」

 

 にやりと笑った横島の顔に、二人の美女は、いや、妖狐と机妖怪はときめいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 初めての給与日。

 エヴァと茶々丸は酷く驚いていた。

 なにしろ、試算された「何もひかれていない」全額が入っていたからだ。

 

「これはどういう事だ、横島所長! こんなにもらっていては、除霊報酬を返せないだろうが!」

「え? いやいや、源泉見てくれよ。ちゃんと半分貰ってるぞ?」

 

 驚いて見直してみて、本当に半分引かれていた。

 というか元々がまるで一流GS並みの入金なのだから驚く。

 

「よこしまぁぁぁ! これは私への同情なのか!!」

「あのなぁ、エヴァちゃん。自分の価値をもう少し考えてくれよ」

「・・・GS見習いの収入じゃないだろう」

「でも、一流魔法使い、最強の魔法使いを雇ってるんだぜ? この程度の報酬なんか安すぎるんだよ」

「・・・あ」

 

 そう、エヴァの試算はGS見習いの計算。

 しかし横島は「一流の魔法使い」として計算しているのだ。

 勿論相場などない。

 しかし、ここで値切ればGS協会的に、オカルト業界的に看板への傷となる。

 というわけで、エヴァの給与面では業界の強いプッシュがあるのだが、その辺までは説明しない横島。

 オカルトにはハッタリが重要だと、師匠から言われ続けていたから。

 

「なんというか、本当にお人よしだな、所長は」

「無駄な金なんか一銭だって払ってないぞ?」

 

 勿論、他の所員にもそれなり以上入金されているが、高すぎると文句を言う人間はいなかった。

 というか、サラリーを受け取ったことのあるモノが、この事務所にはだれ一人いなかったのは驚き以上の脅威だろう。

 

 ともあれ、言いようのない暖かな感覚を覚えていたエヴァであったが、実は同じように疑問を発しようとした従者茶々丸に気付いていなかった。

 じつは茶々丸自身にも休養が振り込まれており、さらに言えば、口座まで横島が準備していた。

 自分はマスターの従者なのに、と言いたかったのだが、横島の目でタイミングを潰されて言葉に出来ないでいた。

 

 その数日後、まさかの手厚い給与体系に驚いた美神が怒りの訪問をしたわけだが、補助金やら控除やらが山ほどあるので問題ないと説明され、逆に「私が来ればよかった!!」と嫉妬の涙にくれたのは余談だろう。




さて、最近のノリで書き直した「レファイン」第一話です。

方向性はこんな感じに進みます。

時間はかかると思いますが、よろしくお願いいたします。

※一部で、OTRがORTになっていました。まーきゅりーw

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