11-9.吸血鬼(1)
※3/10 誤字修正しました。
 サトゥーです。魔王に並んでゲームや物語のラスボスになる事の多い吸血鬼ですが、これほど弱点の多い敵役もいないのではないでしょうか?
 日光、ニンニク、流水を超えられず、招かれないと家屋に侵入できないなど弱点のオンパレードですが、それゆえに勇者に頼らずとも知恵と勇気で倒せる点が物語に向いているのでしょう。
◇
 下層に戻ってきたオレは、吸血鬼の元を訪れる前にもう少し下層を調べる事にした。
 先ほどはゼナさんを救出する事に主眼を置いていたので、あまりちゃんと調べていなかったので詳細に調査する。
 下層にはレベル50越えの存在が、30体ほどいた。
 一番レベルが高いのは、2番目に広い大区画にいる太古の根魂でレベル99。植物型の魔物なのか、大区画一杯の巨体だ。
 大怪魚と同レベルだが、階層の主では無いらしい。
 一応、階層の主で検索してみたが、存在しないようだった。
 次に高いのが、邪竜でレベル80。
 黒竜ヘイロンよりレベルが高いのに下級竜なのか。
 どういう基準で下級かどうか決まるんだろう?
 今度、ヘイロンに聞いてみよう。
「知らん」と回答が返ってきそうで仕方がないが他に聞けそうな者もいないしね。
 3番目に高いのが「骸の王」のレベル72。骸の王は「金属創造」「夢幻工場」というユニークっぽいスキルを持つ上に名前が「テツオ」だ。
 彼も真祖と同じく転生者に違いない。
 真祖との面会の後に、会いにいってみよう。
 そして幾分落ちてレベル53の「鋼の幽鬼」という存在がいる。
 彼も「魂魄憑依」という禍々しい感じのユニークっぽいスキルを持っている。名前が「タケル」になっていたので転生者の可能性が高い。
 種族がリビングアーマーなので、「魂魄憑依」で金属鎧を身体にしているのだろう。
 アリサ辺りが聞いたら「『兄さん』って言って」と強請りそうだ。
 この2人の転生者(仮)は、2つの隣接する大区画にそれぞれ陣取っているようだ。
 たぶん、仲良しなのだろう。
◇
 吸血鬼のいる大区画へと繋がる正門の前にはガーディアンが配置されていた。
『この門を越えたくば、その力を示せ』
『この門を越えたくば、その知恵を示せ』
『剣と魔法、その2つが無くば引き返すが良い』
 正門に刻まれた三つの口が生き物のように蠢き、言葉を紡ぐ。
 ガーディアンの内訳は、身長9メートルを超える巨大なゴーレムが二体と、半透明のレイスが一体だ。
 ゴーレムは、巨大なスケルトンのようなボーンゴーレムと、ロボのような鋼鉄製のアイアンゴーレムの2種類がいる。
 アイアンゴーレムが大砲と斧を融合させたような武器を持ち、ボーンゴーレムは4本の腕に短剣を2本とメイス、さらに丸盾を構えている。短剣といっても9メートルのゴーレムから見たサイズなので、オレから見たら肉厚の大剣みたいな感じだ。
 話し合いに来たのだから、殲滅するのはマズいか。
 オレが考えに沈むのに頓着せずに、アイアンゴーレムが戦端を開いた。
 砲斧を構えたアイアンゴーレムが、砲口から火炎弾を打ち出してくる。
 オレは「魔法破壊」を使うのも面倒だったので、手で火炎弾を弾いて軌道を逸らす。
 逸らされた火炎弾が、後方で回廊の壁に当たって大爆発を起こした。
 それを合図に、レイスが「凍結麻痺」の詠唱を初め、両手に武器を持つボーンゴーレムが踊りかかってきた。
 小さいモーションで左右から連撃を繰り出してくるのを軽やかなステップで回避して、向こうの攻撃にタイミングを合わせて掌で軽く触れる。
 その瞬間に「魔力強奪」で一気に相手の魔力を奪って行動不能にする。
 魔力を失ったボーンゴーレムが、ターンアンデッドを受けたスケルトンの様にバラバラになって地面に散らばった。
 飛び散ったボーンゴーレムの骨を棘蔦足の蔦から作った魔封じのロープとワイヤーで束ねて戦闘に復帰できないように捕縛してやる。
 もちろん、手作業では無く「理力の手」の魔法を使って縛った。
 レイスの詠唱は無視して、大砲を構えるゴーレムを無力化しに向かう。
 たとえ麻痺したとしても、無詠唱で「魔法破壊」すれば解除できるので、相手にするのは最後で良い。
 大砲はタイムラグがあるのか斧の部分で攻撃してきたが、動きが遅いので縮地を使うまでも無く軽く回避し、ボーンゴーレムと同様に「魔力強奪」で魔力を奪って行動不能にする。
 魔封じのロープで右足と左手を背中で結んで適当に拘束する。
 ログにレイスの麻痺をレジストしたと表示されたのを視界の隅に捉えつつ、レイスに跳び蹴りを加える。
 もっとも物理無効の特性があるせいか、レイスはオレの蹴りを余裕の顔で待ち構えていた。
 レイスには「生命強奪」という凶悪なスキルがあるので、向こうにすれば「飛んで火に入る夏の虫」といった感じなのだろう。
 レイスに触れる瞬間に一瞬だけ靴裏に魔刃のスパイクを発生させて蹴り飛ばす。
 もちろん、一撃で倒してしまわないように手加減を忘れない。
 蹴り飛ばされたレイスは、よほど痛かったのか魂消るような悲鳴を上げて出てきた門の横の墓標の中に逃げていった。
 痛みに弱いレイスというのも珍しい。
 そもそも痛みとか感じるのか?
 そんなオレの疑問には誰も答えてくれず、ただ静かに正門が開くだけだった。
>「奪命耐性」スキルを得た。
◇
 出迎えも来ないので、勝手に入らせて貰う事にする。
 今日のオレの姿は、クロの基本セットに別の変装マスクを付けたカスタムバージョンだ。
 クロのままでも良かったのだが、吸血鬼の癖に吸血鬼殺しで有名なバン・ヘルシング――本来はヴァン・ヘルシングだが――と名乗る転生者疑惑のある人物に会うのに外人顔のクロの顔よりは、日本人顔の方が良いだろうと新しく作った変装マスクを付けている。
 外注デバッグスタッフをしていたタナカ氏の顔を拝借した。メタボ氏の顔だとオレの体型に合わないので、印象に残りにくい彼の顔を選んだ。
 湖上の城へと続く橋のたもとで、黒いドレスを着た2人の上級吸血鬼の女性が待っていた。
 女性なのにロードなのか。レディじゃないのかと命名したヤツを問い詰めたい。
 種族名なので文句を言っても仕方ないのだが、無性に突込みをいれたくなるので、勝手に吸血姫とでも呼ばせて貰おう。
 吸血姫は、背の低い幼い娘と背の高い年嵩の美女の2人だ。
 白い髪に碧眼の幼い方が300歳でレベル49、金髪に薄い青の瞳のグラマラスな美女の方が100歳でレベル41になっている。外見と年齢が一致しないのはフィクションの吸血鬼と同じなんだな。
 せっかくなので先ほど手に入れた「奪命耐性」スキルを最大まで上げておく。
「ようこそ、強き者よ」
「あなたが求めるのは戦いですか? それとも血珠や月夜草などの宝物ですか?」
「オレの希望は、真祖殿との会談だ」
 2人の吸血姫がオレの目的を問うてきたので、端的に答えた。
 今回はクロの口調ロールプレイは無しだ。
「そうですか……戦いは望まないのですか……」
 なぜか、美女の方が落胆している。
 戦いたかったのだろうか?
 吸血姫の幼い方が、「しばし待て」と告げて、片手をコウモリに変化させて城の方に遣いに出した。
 なんて、便利な。
 待っている間、ヒマだったので雑談でもしようと、2人に話しかけてみた。
 幼女は憮然とした顔で答えてくれなかったが、美女の方は愛想が良いのか普通に雑談に付き合ってくれた。
 といっても、共通の話題が無いので、月明かりしかないのに葡萄が実っているのは何故か、とか回りに見える不思議な光景について質問してみた。
 なんでも、アレは宵闇葡萄という植物型の魔物の一種らしい。名前通り、暗がりでしか育たず、日光を浴びると枯れてしまうのだそうだ。
 肉食の魔物なので、スケルトンやリビングドールでしか飼育が出来ないらしい。
 なるほど、農夫が喰われてしまうのか……作物まで魔界ちっくだとは……。
 吸血姫達には通常の食事は不要らしいのだが、嗜好品として育てているそうだ。
 色々と教えてくれるのは嬉しいのだが、オレが珍しい品に興味を持つたびに「私との戦いに勝利すれば対価に与えよう」とか、やたらと勝負したがるのに参った。
 彼女だけを見て吸血鬼がバトルジャンキーだと決めつける気はないが、キラキラした目で戦いに誘導するのは止めて欲しい。
 そんな雑談をしている間に、コウモリが戻ってきて幼女の手に戻る。
「主様がお会いになるそうだ。ついて来い」
 幼女は、そう無愛想に告げて、オレの反応も確認せずに踵を返して城に向かって歩き始めた。
※次回更新は、3/12(水) の予定です。
 今回は若干短めですが、その分、次回更新を早めにしますね。
 
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