つれづれイタリア~ノ<番外・ドーピング編>はたしてドーピングは“自転車のモノ”なのか? ソチ五輪で見えた実情とイタリア国内の実態
ソチオリンピックが終ったばかりだが、今回も残念なことに懸念されていたドーピング行為が明るみに出た。大会中にすでに6人のアスリートが違法薬物を使用したとして、メダルの没収はないながらも大会から追放された。とても悲しい現実だ。
ソチ五輪でドーピング陽性があった競技・国
バイアスロン女子・ドイツ(1人)
ボブスレー男子・イタリア(1人)
ノルディックスキー距離女子・ウクライナ(1人)
アイスホッケー男子・ラトビア(1人)
クロスカントリー男子・オーストリア(1人)
アイスホッケー男子・スウェーデン(1人)
※2014年3月3日現在
オリンピック前に沸いたニュース
パーフォマンスを高める違法薬物や血液ドーピングといった違法行為がソチでも発覚したことで、スポーツ界はクリーンではないという事実が浮上した。しかし実はソチオリンピックが始まる前に、「『Full Size MGF』という新種のドーピング物質が使用されているのではないか」という趣旨のニュースをイタリア国内のメディアが報じ、ドーピング問題に敏感なイタリアのメデイアはこぞって、オリンピックムードを楽しむというよりも過去の負の遺産を臭わせる報道方針に転じていた。
するとそれらの報道に対して、ネットユーザから次のような書き込みが立ち上がった。
「ドーピングは自転車競技だけのものだったのでは?」
つまり、イタリアでも「ドーピング=自転車競技の病」のイメージが定着していることは否定できないのだ。
自転車競技のアマチュアドーピング問題
イタリアで大きな問題となっているのが、プロのドーピング行為よりも市民レースで増加するドーピング検挙率だ。ネットショッピングが普及したことで違法薬物を簡単に手に入れられる環境が整い、市民レーサーの間でドーピング物質が蔓延している。
事態を重く見たイタリアオリンピック委員会(CONI)とイタリア厚生省は、2009年からアマチュアレースに対してもドーピング検査を行っている。残念なことに、検査できるスタッフが少なく、発見される可能性はまだ低いため、検挙されるリスクを背負ってでも優勝したいというレーサーは後を絶たない。結果として、各地で行われているグランフォンドで摘発が相次いでいる。
いちど摘発されればアマチュアレーサーであってもプロと同じような処分を受けるので、最低でも2年間のレース出場停止が科せられるという。
自転車競技以外のドーピング使用状況は?
イタリア厚生省は2009年、イタリア国内で行われているスポーツ大会におけるドーピング行為を監視するため、独自のドーピング監視及び検査委員会を設立した。現時点で25種目のスポーツが対象で、イタリア政府が認める公式競技団体主催のレースや大会に参加する選手たちに検査が義務づけられている。
そして昨年末、同省は「2013年上半期イタリア国内におけるドーピング検査報告書」を発表した。2013年1月~6月にかけて行われた検査は181大会にのぼり、778選手が検査の対象となった。まずは、次の表を見てほしい。
検査対象数の内訳
自転車競技 | 182人 | 23.39%
サッカー | 96人 | 12.3%
体操 | 73人 | 9.38%
ハンドボール | 68人| 8.74%
ウィンタースポーツ | 56人 | 7.17%
フェンシング | 53人 | 6.81%
バレーボール | 45人 | 5.78%
[以下略]
※検査対象総数778人=100%
各競技のドーピング検出率
自転車競技 | 182人 | 11人/6%
ハンドボール | 68人 | 3人/4.4%
ウィンタースポーツ | 56人 | 1人/1.8%
アイススケート | 32人| 2人/6.3%
キックボクシング | 16人 | 2人/12.5%
ボート | 8人 | 1人/12.5%
ラグビー | 8人 | 1人/12.5%
スポーツボディブィルディング | 6人 | 1人/16.7%
※左から競技名、検査対象数、ドーピング陽性件数/%
ドーピングの検出数だけを見れば、自転車競技における件数は非常に多いのだが、検出率に表すとほかのスポーツに抜きん出ているということはなさそうだ。また現実には自転車競技での統計方法はほかのスポーツとは異なっている。プロ選手のみでなく、FCI(イタリア自転車競技連盟)登録のアマチュアやホビーレーサーが出場する市民レースを開催する団体も対象に含まれているのだ。
自転車競技のデータをFCI登録選手に限って見てみると、3人から違法薬物が検出されていた。しかし、ほかのスポーツのアマチュア大会ではドーピング検査が十分に実施されないため、全体像が見えてこないのが事実だ。
それでも自転車競技にとって明るいのは、今まで明るみに出なかったほかのスポーツのドーピング行為が浮上し、イタリア国内では「ドーピング=自転車競技の病」の汚名は徐々になくなりつつあるということだろう。また自転車競技だけでなく、広がりをみせるドーピング検査を受けるなどしながらスポーツ文化の公平さを継いだ若者たちが成長し、プロの世界に入ることに意義がある。
イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ」