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探求大都市のマリー 作者:葛城

第四章:忘れ去られた者たち

第十一話:再来する者


「それじゃあ、少しこの部屋で待っていてくれ」

 その一言共に部屋を後にしたバルドクとかぐち。残されたマリーたちは、案内された部屋の中でのんびりと時間を潰す。地上には無い不思議な空気が満ちていたその中は、何とも不思議な気持ちにさせられる部屋であった。
 何から何まで材木で作られた空間……というのが、一番簡潔な説明だろうか。地上にも木材だけで作られた建物は多数存在するが、それを差し引いても『不思議で奇妙な』という形容詞が付くのはココだけだろうと、マリーは内心そう評価した。
 マリーたちが知る扉とは少し違う横滑りの扉に、細い草を編み込んで作られた、独特な肌触りの床。部屋の壁にはミミズがのたくったような線が掛かれた紙が掛けられており、その下には武器と思わしき高そうな短剣が、後生大事に置かれている。
 それなのに、外と中庭を遮るものが薄い板というだけの、何とも奇妙な作り。そのうえ、中庭から中に容易く入ることも出来る。短剣はおそらく観賞用なのだろうけれども、あまりに不用心だ。これが地上なら、一週間と経たずに盗まれているところだろう……そう、マリーは思った。

(床に座るのは構わないんだが……それにしても、この『畳』とかいうやつは、不思議な肌触りだな)

 そんな独自のルールにも、マリーたちは目を瞬かせる。初めて触れる材質の床に腰を下ろしたマリーたちは、体感する新しい世界に目を白黒させっぱなしである。もちろん、監視者たる源も同様であった。
 しかし、ただ一人と一体、イシュタリアと『人形』であるテトラは違っていた。

「――瓦、畳、ふすまときて、掛軸に縁側に刀か……ここまで来ると、もう色々どうでもよくなってきたのじゃ……」

 疲れ切ったようにぐったりとマリーへもたれ掛るイシュタリアの悲哀が、ポツリと零れる。立ち上がる気力も無いのか、畳の上に力無く座り込んでいた。
 これは『畳』。
 これは『掛軸』。
 あれは『瓦』。
 それは『刀』。
 これは、それは、あれは……。
 部屋に入って早々、聞かれてもいないのにイシュタリアが部屋に置かれた物や内装全ての名称を口早にまくしたてたのは、今からほんの少し前のことである。
 もしバルドクとかぐちが部屋に残っていたら、それはそれは驚いていただろう。珍しく半ばやけくそ染みた感情を露わにするイシュタリアの姿に、マリーたちはしばし目を丸くするばかりであった。

「……よく分からんけど、元気出せよ。そのうち良い事あるって……後、ふすまとか、一つ一つ説明してくれてありがとう」

 何かが感極まったのか、呆然とした様子で肩を落としているイシュタリアの背中を、マリーは優しくさする。「ふふふ……お主らには私のこの憤りが分からんじゃろうなあ……」遠い眼差しを浮かべるイシュタリアに、マリーたちは首を傾げるばかり。普段であればマリーにもたれ掛るイシュタリアに目の色を変えるサララも、この時ばかりは気を使ってマリーの隣に座る他無かった。
 そうして困ったように互いを見合わせるマリーたちを見て、イシュタリアは内心ため息を吐くしか出来なかった。

(本当に、分からんじゃろうなあ。この気持ちだけはのう……)

 致し方が無いことだと分かっていても、心が乱れてしまう。『モノレール』に引き続き、失われた歴史の一端に触れているということの重要性に、果たしてマリーたちは気づいているのだろうか。

 たぶん、気付いてはおらんのう。

 即座に結論付けたイシュタリアは、ボールのように畳の上を転がっているナタリアの身体を、足で止める。「なぁに?」と碧眼を向けられたイシュタリアは、ナタリアの頭をのそっと己の膝に引っ張り込んだ。
 何をするつもりなのかと目を瞬かせるナタリアを他所に、イシュタリアは己のビッグ・ポケットから『フレッシュ・コム』を取り出すと、乱れに乱れきった金髪に、そっとコムを差し込んだ。

「少しばかり癒させてもらうのじゃ」
「なんだか分からないけど、どうぞご自由に。変な髪型になんかしないでちょうだいね」
「安心するがよい。ただ髪を梳くだけじゃからな」

 その言葉の直後に身体の力を抜いたナタリアを見て、イシュタリアは締まりのない笑みを浮かべる。分からないながらも、要求を受け入れてくれる事実に思わず唇が弧を描く。するり、するりと手応え無くコムが通って行く感触に、ぬふふふ、と頬を震わせた。
 何とも、不気味な光景である。思わずマリーの腕にしがみつくサララの頭を、マリーは優しく撫でる。室内ということもあって、サララの胸を覆っているプレートは外されている。そのおかげで温もりと膨らみがダイレクトに伝わってくる。サララぐらいの年代だけが持ち得る、弾くような弾力を伴う心地よさだ。

(直接揉み揉みするのもいいが、服越しの感触もやはり乙なもんだな……ん、そういえば……?)

 ぷにゅぷにゅの体温と匂いに意識を集中しながら、ふと、マリーは顔をあげる。くるりと部屋の中を見回し、思い浮かべた人物がいないことに気づき、おや、とその名を呼んだ。

「ドラコ~」
「――呼んだか?」
「おう、居たな……っていうか、なんでお前廊下に居るんだ?」

 がらりとふすまを開けて、廊下の向こうから顔を覗かせたのはドラコであった。(小便でもしてきたのか?)と首を傾げたマリーは、「ほら、お前も部屋に入ってこいよ」タンタン、と隣の畳を叩いた。

「悪いが、入れない」

 しかし、ドラコは珍しくマリーの言うことに首を横に振った。困ったように首を横に振るばかりで、一向に入ろうとしない……本当に珍しいことだ。不思議に思ったマリーが理由を尋ねると、しばしドラコは考え込むように視線を彷徨わせると、「実は」と唇を開いた。

「その、『畳』というやつは、見た限りでは草を編み込んで作られた物だろう?」
「まあ、見た限りではそうだな」
「床が木で出来ているならばまだいいのだが、さすがに編み込まれた草となると……私の足では……な」

 その言葉と共に、にゅう、とドラコはマリーに見える様に足を差し出す。鱗に覆われた竜人の足を見て、ようやくドラコの言いたいことを察したマリーは、「なるほどねえ」納得に苦笑した。

「爪を引っ込めることは出来ねえのか?」
「引っ込めてコレなのだ」
「……そうか。ところで、もしかして館に居る時も爪を引っ込めていたのか?」

 うん、とドラコは頷いたのを見て、マリーはふむ、と顎に手を当てる。そういえば、館の絨毯が所々解れてきていると女たちが話していたことを、マリーは思い出す。今までドラコ自身が何も言わなかったこともあって気にも留めていなかったが、ドラコにはそういった物が必要なのかもしれない。
 これが終わったら、ドラコの靴を買いに行こうかな。
 そう、マリーは心に決めるとすぐ、「――ん、何でお前だけ廊下に出ているんだ?」バルドクとかぐちが廊下に佇むドラコに首を傾げながら、部屋に戻ってきた。二人の後ろには白髭を蓄えた年老いた亜人と、ナタリアとそう変わりのない背丈の、かぐちと同じ白髪の幼女が仲良く手を繋いで立っていた。

「仕事について話がしたいから、部屋に入ってください」

 そう言ってドラコの手を引くかぐちであったが、ドラコは一歩もその場から動こうとはしなかった。思わず首を傾げる二人に、マリーはドラコの足を指差して、事情を説明する。
 チラリとドラコの足を見やった二人は、納得に頷く。構うことなく入れと促されるが、どうやらドラコはそれでも入るつもりはないようで、嫌々と抵抗するばかりであった。
 さすがに、二人もそこまで嫌がっている相手に無理強いするつもりはないのだろう。二人はため息と共にドラコから手を離すと、するりとドラコの横を通り過ぎた。

「妙なところで意固地なやつだ……まあ、それなら廊下で話を聞いていてくれ」

 ふすまを開けっ放しにした状態でマリーたちの前に来ると、バルドクは部屋内の壁に歩み寄り……ガラリと、『押し入れ』を開いた。

「……今更だが、気が回らなかった俺を許してくれ」

 取り出した二枚の上質な座布団をマリーの前に並べ、マリーたちにはソレと比べて質素な座布団を手渡す。一つ頭を下げて受け取ったマリーは、それをお尻の下に敷く……中々の座り心地だ。
 ちなみに、老人と幼女は当然のように上質な方へ腰を下ろしていた。そして、二人はこれまた当然のように老人と幼女を挟むようにして左右に腰を下ろせば、マリーたちは向かい合う形となった。
 自然と、マリーたちの視線が老人と幼女へと向けられる。老人と幼女の視線がマリーたちに……特に、老人の視線がはっきりと己にだけ向けられているのが、マリーには分かった。
 呆然。まるで魂が抜けたかのように呆けた様子でマリーを見つめる老人。老人の隣に座る幼女がそれに気づき、鋭い視線を向けてくる。それに反応しそうになるサララの手を握りしめながら、マリーは内心苦笑するしかなかった。

(いや、まあ、来たのがこんなのだったらそんな顔するのも分かるけどさあ……せめて、もう少し隠そうぜ)

 己の見た目を理解しているマリーは、あえて老人の視線に歯向かおうとは思わなかった。それよりも、マリーの興味はバルドクたちの恰好……正確に言えば、バルドク・かぐち・老人・幼女の四人が身に纏っている恰好に目を止めた。

「ところで、ずいぶんと珍妙な恰好だな」
「……いちおう、これが、俺たちの礼服だ」

 おっと。マリーは己の唇に手を当てた。

「すまない、今の言葉は訂正する。なかなかユニークな恰好だな」
「……ありがとよ」

 苦笑するバルドクとかぐち。明け透けの無いマリーの感想に、いまだ目じりを尖らしている幼女の眉が、ピクリと跳ねる。遅れて、老人の頭は再起動を果たしたようだ。
 ハッと目を瞬かせた老人は、隣に座る幼女の機嫌の急降下に気づいて、バツの悪そうに居住まいを正す。次いで、幼女の怒りを誤魔化すように、おほん、と一つ大きな咳を――。

「珍妙ではないのじゃ。そこのバルドクと老人が着ているのは『袴』と呼ばれるれっきとした衣装で、女子二人は『着物』と呼ばれるやつじゃよ」

 する前に耳に届いたイシュタリアの言葉に、老人はハッと顔をあげる。驚愕に満たされた瞳が、イシュタリアを捉えた。

「なんと……お嬢さんは、この恰好がどういうものなのかを知っているのかい?」
「……? さすがに全てを知り尽くしているというわけではないが、ある程度のことは覚えておるのじゃ」

 首を傾げるイシュタリアの言葉に、老人は真顔になった。そしてそれは不思議なことに幼女も老人と同様に目を見開き、驚いたようにイシュタリアへと顔をあげる。

まだら様、ほむら様、その方が先ほどお伝えしたイシュタリアという名の少女でして、大変な博識家になります」

 二人の驚愕を察したかぐちが、ポツリと説明を始める。それに反応したのは、意外にも幼女の方……焔であった。

「この方が、『地下街』と地上を繋ぐ『乗り物』の名称を知っていたという少女なのですね?」

 そして、これまた意外にも焔の口頭はしっかりしていた。無理に大人っぽく話したようでもないそれは、見た目とは裏腹の知的性を感じさせた。

「はい。そして、その膝にいらっしゃるのがナタリアさん。御二方の正面におられる銀髪の肩がマリーさん、その隣にいるのがサララさん、そして、廊下に居たのが我らと同じ亜人のドラコさんで、部屋の奥におられる男の方が源さん、その腰にしがみ付いているのがテトラさんになります」
「なるほど……バルドク、かぐち、ご苦労でありました。今はただ、羽を休めなさい」
「勿体無きお言葉です」

 その言葉と共に軽く頭を下げるバルドクとかぐち。しばしの沈黙の後、「さて、それでは改めまして」と焔が話を切り替えた。

「私の名は焔、『三貴人』の一人であり、この屋敷の主でもあります。今回の件が終わるまでこの屋敷に滞在してもらうことになります……短い間となりましょうが、どうかよろしくお願いします」
「同じく、『三貴人』の一人、斑と言います。見ての通り肉体派ではないが、必要な物があったら、ワシに声を掛けてください。出来る限り用意させますので」
「……『三貴人』とは、この『地下街』を統括する代表者みたいなものと思ってください」

 そっと差し込まれたかぐち説明に納得すると同時に、揃って頭を下げる二人につられてマリーたちも頭を下げる。そして、顔を上げた焔と斑は互いの顔を見合わせ、一つ頷くと、マリーたちへと顔を向けた。

「まずは今の状況を説明したいのですが、お食事はその後でもよろしいでしょうか?」
「あんまり長くならないなら、それでいい――」

 ぐぎゅるるるるぅぅぅぅぅ……。
 突如部屋中に響き渡った大な異音に、マリーは言葉を止めた。それが腹の虫の催促であったことに気づくのに、少しばかり時間が掛かるぐらいに、その異音は大きかった。

「お腹は減っているけど、私じゃない」

 首を横に振るサララから、私も違うぞと首を横に振るイシュタリアたちを見やったマリーの視線が、廊下から顔を覗かせているドラコの姿を捉えた。その唇の端からは、一筋の涎が垂れていた。

「……腹、減っているのか?」

 恐る恐る尋ねると、静かにドラコは頷いた。じゅる、と涎を呑み込んだドラコの腹が、再び盛大な催促を鳴らした。バルドクとかぐちが、ぷっ、と笑みを噴き出した。

「……我慢、出来そうにないか?」

 ぐぎゅるるるるぅぅぅぅ。
 言葉よりも雄弁と物語る胃袋と、庇護欲を覚えてしまうぐらいに悲しそうな表情を浮かべるドラコ。子供よりも無邪気な反応に、今度は焔と斑がふふふ、と笑みを零した。

「長旅でお疲れでしょうし、今日の所はお休みになって……積もる話は明日にしましょうか」
「……気を遣わせて、すまない」

 再び鳴ったドラコの腹の虫に、今度こそ耐え切れなくなった焔と斑の笑い声が、部屋の中に響いた。



 ふと、こみ上げてきた尿意に目を覚ましたマリーは、むくりと布団から身体を起こす。眠気でぼんやりとする意識で、様々な寝息がふわりと響いている室内を見回した。
 花瓶に活けられたウィッチ・ローザの淡い光が、サララたちの顔を優しく照らしている。イシュタリアやナタリアもそうだが、サララもしっかりと寝入っているようであった。

「……ああ、そういえば」

 今がどこなのかを思い出したマリーは、大きな欠伸を零した。『地下街』では一般的とされている寝間着(『浴衣』と、イシュタリアは話していた)の胸元を整えながら、マリーはぼさぼさになった頭を掻いた。
 と、同時に、ずしん、と総身に圧し掛かっている疲労を遅れて実感したマリーは、もにょもにょと唇をへの字にした。寝る前にも薄々気づいていたことだが、マリーは憂鬱な気分になってしまうのを抑えられなかった。

(やばいなあ……もしかして、風邪でも引いたか?)

 いつもよりも熱いかもしれない額から手を離したマリーは、深々とため息を吐いた。あの化け物との死闘後、粘液を洗い流す為とはいえ、いちど身体を水浸しにしたのが悪かったのかもしれない。
 それに加えて慣れない環境と心に圧し掛かる不安事、短時間ではあるがフルパワー状態で動き回ったのも重なり、不調を後押ししているようだ。
 サララたちには辛うじてバレてはいないようだが……酷くならなければいいのになあと願いつつ、マリーは暗がりの中で立ち上がった。くらりと揺れる身体を堪えつつ、サララたち起こさないようにそろりそろりと足音を忍ばせて廊下へ向かう。

 するりとふすまを開けて顔を覗かせれば、すぐ近くの場所で寝息を立てているドラコの姿があった。身体と翼を丸めて寝ている姿は、まるで幼子だ。結局ドラコが部屋内に足を踏み入れたのは食事のときだけで、トイレの時以外はずっとこの場所にいたなあ、とマリーは思い出した。
 後ろ手でふすまを閉めながら、マリーはキョロキョロと左右を見る。眠気のせいか妙に意識がはっきりせず、トイレの場所が上手く思い出せない。
 まあ、てきとうにぶらついていれば、そのうち見つかるだろ。そう結論付けたマリーは、先ほどと同じくドラコの前をそろりそろりと忍び足で進み――。

「眠れないのか?」
「――い、いきなり声を掛けるのは止めろ」

 ポツリと声を掛けられて、ギクリと足を止めた。振り返れば、身体を起こしたドラコが大きな欠伸を零していた。胸の谷間を無造作に掻くドラコは、大きく実った膨らみをぷるんぷるんと震わせながら、無言のままに立ち上がった。

「すまん、起こしたか?」
「いや、竜人は元々眠りが浅いんだ。物音や足音に、すぐに目が覚めるようになっている」

 首を横に振るドラコは、おや、と目を瞬かせた。そして、スッと目を細めると、爪を引っ込めた手でそっとマリーの頬を撫でた。その指先の冷たさに、ホッと気を緩めてしまうのは、それだけマリーの体温が上がっているのかもしれない。

「……顔が赤い。病気になったのか?」
「んん、まあ、その一歩手前かな。トイレ言ってスッキリすれば、明日には元気になるさ」

 そうドラコに手を振ると、マリーはさっさとトイレへと歩き出し……後ろに付いてくる足音に、マリーはゆっくりと振り返った。

「……お前もトイレか?」

 ドラコは、無言のままに首を横に振る。次いで、おもむろにマリーの手を取って横に並ぶと、クイッとその手を引っ張った。
 ……どいつもこいつも心配性なやつだ。やれやれとため息を吐いたマリーは、ドラコの手を強く握り返すと、グイッとドラコを引っ張った。笑みを浮かべるドラコに妙な気恥ずかしさを覚えながらも、マリーとドラコは気配の途絶えた通路をとてとてと歩き始めた。



 へくち。
 そのクシャミは、随分と可愛らしいものであった。屋敷から出て、少し離れた場所にあるトイレから帰る道すがら……浴衣の前をギュッと握りしめて背中を丸めるマリーを見やったドラコは、そっと目を細めた。

「マリー……やはり、明日は休んだ方がいいのではないか?」
「……そうするかどうかは明日判断するさ。今決めるのは早計もいいところだぜ」
「しかし、屋敷を出る前よりも顔が赤くなっている……熱が上がっているのではないか?」

 心配そうに伸ばされたドラコの手が、優しくマリーの額を覆い隠す。竜人特有のごつごつとした鱗の冷たさに、マリーはうっとりと目を瞑る。そのおかげで、目に見えて目じりをつり上げたドラコの顔を見ずに済んだのは幸いであった。

「やはり熱くなっている……汗も掻いているし、良く見れば震えているではないか……明日は私たちに任せ、マリーは屋敷の中で療養するべきだ」
「到着初日に風邪引いて仕事先で寝込むとか、探究者でなくても失笑ものだぞ。それに、理由が何であろうと一度引き受けた仕事だ……このぐらいの熱なんて、どうってことないさ」
「そうは言うが、気力だけでどうにかなるほど人間の身体は頑丈では無い。それはマリー、お前も知っているはずだ」
「言われなくても理解させられているさ……何度も言うが、無理そうならちゃんと休むよ……っは、はっ……」

 へくち。
 見た目通りの可愛らしいクシャミをしたマリーは、ずずっと小さな鼻を啜った。すりすりと背中を撫でてくれるドラコに礼を言うと、天井に広がるウィッチ・ローザの小さな明かりを見上げた

「家の中を移動するだけならまだしも、小便するだけの為に一旦外に出なければならないっていうのも、けっこう不便な話だな」

 屋敷のトイレは、マリーたちが寝泊まりしている本館となる住宅から離れた場所にあり、屋敷の中には使用できるトイレが一つも無い。『地下街』ではトイレの利用方法が厳格に決められており、共同のトイレ……いわゆる公衆便所を利用するというのが、ここでのルールであるからだった。
 数十年前に伝染病が流行ったことで、今のルールが徹底されるようになったとのとだ。それはそれで新たな問題が出そうなものだが、何でも『地下街』の地面は地上と違い、地面の中に小便や糞便といった不浄な物を埋めると、半日と立たずに分解して塵に変わるらしく、今の所伝染病が再来したことはないとのことだ。
 何故、そのようになっているかは『誰も知らない』というのが、バルドクやかぐちの弁である。どうやらそれは『地下街』が出来たときから変わっていない『システム』らしく、今ではその理由すら忘れ去られてしまった……というのが、斑と焔の弁である。
 初めは『まるでダンジョンの中みたいだな』と驚いただけであったが、今になって恐ろしく不便なことにもなり得ることを、マリーは身を持って痛感させられていた。

 ……それにしても。

 ゆっくりと視線を下ろしたマリーは、ぐるりと周囲を見回す。比較的真新しい家々ばかりが並ぶここら一帯は、今が『地下街』では深夜ということを差し引いても、あまりに生命の気配が感じられなかった。
 そっと首を伸ばして傍の家を覗きこめば、閑散とした室内には花瓶が置かれた台と、敷かれた二つの布団が目に留まる。使用された形跡が見られないそれには皺ひとつ見当たらず、きっちりと並べられていた。

「……ここらはずいぶんと静かで不気味だな」

 ポツリと零した感想に、ドラコはふむ、と頷いた。

「そうだな。私の鼻にも耳にも、亜人の気配が感じられない。息を潜めているだけかも分からないが、ここら一帯が空き家になっているのかもしれないな」
「ふーん、それなら寂しい雰囲気が漂っているのも納得――」

 ちょっと待て、臭いすら感じないだと?

 脳裏を過った直観に、マリーはハッと目を見開いた。「マリー?」突如足を止めたマリーへと振り返るドラコを他所に、マリーは急いで今しがた覗いた部屋を、もう一度覗きこんだ。
 そして、そのままの勢いでその隣の家に飛びつき、中を覗きこむ。そこからさらに通りを挟んで反対側の家へと駆けより、中を覗きこみ……胸中の警戒アラームが、喧しくマリーに警報を鳴らした。

「そんな体で動き回るんじゃない……なんだ、何か見つけたのか?」

 遅れて来たドラコが、マリーの後を追い掛ける様に中を覗きこむ。しかし、ドラコの目には不審な点が映らないのか、顔中に疑問符を浮かべていた。

(……変だ、これは、おかしい)

 しかし、マリーは捉えていた。

(どうして、どこの家にも生活の跡が見られないんだ?)

 花瓶から枯れ落ちたウィッチ・ローザの残骸と、机や畳に降り積もっている埃……そして、生き物特有の臭いが一切感じられないことを!

(布団が敷かれているにしては、あまりに生活感が無さ過ぎる……この家は、いったいどれぐらいの間空けられているんだ?)

 屋敷から便所までの道中には、家々の数は決して多くない。しかし、『地下街』入口から屋敷までの道中には、様々な気配……はっきり言えば、亜人の気配が至る所から感じられた。
 その気配がこの家からは……この辺りからは全く感じられない。ただの空き家にしては捨て置かれた物の量が多すぎるし、閉鎖された世界でもあるココで、わざわざ住居を変える理由などあるのだろうか……わざわざ真新しい家を捨ててまで。

「マリー、気配を感じる」

 声を掛けられて、マリーはハッと顔をあげる。見れば、先ほどまで心配そうにやきもきしていたドラコが、厳しい眼差しを道中の向こう……先ほどまで居たトイレの方向へ向けていた。

「……亜人か? それともサララたちか?」

 庇われる形でドラコの背中に隠れたマリーが、そう尋ねる。

「どちらとも違う。初めて嗅ぐ臭い……酷く、嫌な臭いだ」

 ドラコは、首を横に振った。スンスンと鳴らした鼻が感知する気配に、ドラコの手足の爪がメキメキと隆起し、武器へと変わる。ぼぅ、と吐かれた灼熱の吐息がむわっと熱気を振りまくと同時に、ばさっと背中の翼が雄大に広がった。
 竜人の体内には、体内で生成したガスを詰め込んでいる火炎袋と呼ばれる臓器がある。『ラステーラ』にてあっという間に火が燃え広がったのも、このガスを使って行われる火炎放射によるものだったりする。

「強い敵意を感じる。あの、路地の向こうからだ」

 スッと、ドラコが指差した先。そちらに目をやったマリーの瞳が、時を同じくしてぬうっと姿を見せた来訪者によって「――っ!?」大きく見開かれた。

 ……やはり、生きていたか!
 マリーは、魔力コントロールを行った。

 そこに居たのは、あの時の……あの試験の時に死闘を繰り広げた、大男であった。あの時と同じ恰好のその男は、あの時と同じ巨大な剣をずずずと引きずっていた。
 遠目からでも分かる巨大な筋肉の塊が、ゆっくりとマリーたちへと振り向く。ボサボサの長髪の下に浮かぶ狂気に満たされた眼光が、ギョロリとマリーたちを捉える。一気にフルパワー状態になったマリーに、ドラコは再びぼぅ、と灼熱の吐息を吐き出した。

「マリー、その身体で無茶をするな」
「残念だが、そんなこと言える余裕がある相手じゃねえのさ……くそっ、こんなことならドレスに着替えるだけでもしておくべきだったぜ」

 どす、どす、大男が、マリーたちへと近づいてくる。その胸には、かつてマリーが付けた傷など一つも残っていなかった。

「ドラコ、あいつを人間だと思うな。イシュタリア並みの再生能力を持つ化け物だ。全身全霊を持って、殺しきることだけを考えろ。後始末のことを考えたら、お前が殺されるぞ」
「……面白い。竜人の力をやつに刻み付けてやろうぞ」
「余計なことは考えるな。俺のことも、今は忘れろ。やつを塵微塵に変えるまで、絶対に気を緩めるな……!」

 そう、マリーが最後の忠告をした直後。

「――がぁあああ!!」

 咆哮と共に、大男は大剣を振り上げた!

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  • 最終掲載日:2014/03/09 00:29
異世界迷宮の最深部を目指そう

「異世界に迷い込んだ少年カナミは唐突に暗い回廊で目を覚まし、魔物にも人間にも殺されかけてしまう。その後、優遇されたステータス・スキル・システムを利用として、カナ//

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  • 連載(全163部)
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  • 最終掲載日:2014/03/11 21:00
デスマーチからはじまる異世界狂想曲

 アラサープログラマー鈴木一郎は、普段着のままレベル1で、突然異世界にいる自分に気付く。3回だけ使える使い捨て大魔法「流星雨」によって棚ボタで高いレベルと財宝を//

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  • 最終掲載日:2014/03/12 18:00
クロの戦記

ケフェウス帝国の貴族であるクロノ・クロフォードには秘密があった。それは異世界……現代日本……から、この世界にやって来たことだった。ほぼチートなし、現代日本の価値//

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  • 連載(全65部)
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  • 最終掲載日:2014/03/05 20:00
最新のゲームは凄すぎだろ

世界初のVRMMORPG「Another World」をプレイする少年はゲームでは無く、似た異世界にトリップしているのだが全く気付く事がない。そんな彼が巻き起こ//

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  • 連載(全33部)
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  • 最終掲載日:2013/09/19 06:00
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~

 ゲームをしていたヘタレ男と美少女は、悪質なバグに引っかかって、無一文、鞄すらない初期装備の状態でゲームの世界に飛ばされてしまった。 「どうしよう……?」「ど//

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  • 最終掲載日:2014/03/08 07:00
ログ・ホライズン

 MMORPG〈エルダー・テイル〉をプレイしていたプレイヤーは、ある日世界規模で、ゲームの舞台と酷似した異世界に転移してしまった。その数は日本では約三万人。各々//

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  • 最終掲載日:2013/11/05 18:00
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた

 ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、泊り込みのできる方。月給25万+歩合//

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  • 最終掲載日:2014/03/07 21:00
イモータル×ソード

 愚直に「最強」を目指す傭兵オルタ・バッカス。しかし20年以上も傭兵として戦場に身を置いていた彼は中々芽を出さなかった。自らの才能の無さを嘆き、鍛練の傍ら才能と//

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賢者の弟子を名乗る賢者

仮想空間に構築された世界の一つ。鑑(かがみ)は、その世界で九賢者という術士の最高位に座していた。 ある日、徹夜の疲れから仮想空間の中で眠ってしまう。そして目を覚//

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盾の勇者の成り上がり

盾の勇者として異世界に召還された岩谷尚文。冒険三日目にして仲間に裏切られ、信頼と金銭を一度に失ってしまう。他者を信じられなくなった尚文が取った行動は……。サブタ//

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ライオットグラスパー ~異世界でスキル盗ってます~(旧:異世界で盗賊やってます)

現世で事故死してしまった主人公のアガツマセイジ。ある理由から死後の転生先を地球ではなく異世界に決めた彼は、盗賊の神技(ライオットグラスパー)というスキルを習得し//

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謙虚、堅実をモットーに生きております!

小学校お受験を控えたある日の事。私はここが前世に愛読していた少女マンガ『君は僕のdolce』の世界で、私はその中の登場人物になっている事に気が付いた。 私に割り//

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Knight's & Magic

メカヲタ社会人が異世界に転生。 その世界に存在する巨大な魔導兵器の乗り手となるべく、彼は情熱と怨念と執念で全力疾走を開始する……。

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無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

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八男って、それはないでしょう! 

平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//

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月平均残業時間150時間オーバーの半ブラック企業に勤める山井善治郎は、気がつくと異世界に召喚されていた。善治郎を召喚したのは、善治郎の好みストライクど真ん中な、//

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