最後のガラパゴス、メディア業界が変わる日

デジタル時代にジャーナリストが生きる道(上)

 デジタル化などの技術革新により、メディア業界が大きく変わろうとしている。これからメディア業界はどう形を変え、ジャーナリストの仕事や生き方はどう変化するのか。ウェブメディアの現場から、メディア新世界におけるジャーナリスト像を考える(本稿は、朝日新聞出版『Journalism』2014年3月号に寄稿した文章を、一部修正したものです)。
1997年の山一證券の経営破綻をきっかけに、日本の金融業界は大きく変わった(撮影:尾形文繁)

日本の3つのガラパゴス産業

「メディア業界に入りたいんですけど、どう思いますか」  

そんな相談を学生から投げかけられるたび、「うーん、やめたほうがいいかもね」と答えることが通例だった。しかし最近、 私の答えは180度転換した。「これから、メディアほど面白い業界はない。今なら、メディア業界に入ったほうがいい。新しいモデルを創る100年に1度の大チャンだ」―学生にはそう話すようにしている。  

これは、優秀な学生を口説くためのセールストークではない。本当に、今のメディア業界にはチャンスがゴロゴロ転がっているのだ。「今後 10 年間に、新時代のメディアを創った人間は、メディア史に名を残せる」と言っても大げさではない。私自身、2012年 11 月に東洋経済オンラインの編集長に就任し、デジタルメディアに携わる中で、「メディアの大変化」を確信するようになった。   

近頃、私は「日本には三つのガラパゴス産業がある」と講演でよく述べている。その三つの産業とは、教育と医療とメディアだ。これらの産業は、規制や言語のカベに守られてきたため、ビジネスモデル、慣習、人材のマインドが、完全に時代遅れとなってしまっている。しかし今、 グローバル化とデジタル化によって、ついにそのカベが壊れ始めた。  

今後のメディア産業の変化を占う上で参考になるのは、1990~2000年代の金融・通信業界の歴史だ。それまで、ドメスティックかつ規制ガチガチだった金融・通信業界は、規制緩和・グローバ ル化・IT化により業界地図が一変した。  

その象徴が、97 年の山一證券破綻である。これをきっかけに、雪崩が起きるように合従連衡が始まった。さらに、IT 技術の発達により世界のマーケットが統合され、デリバティブなど金融工学が発展した。山一證券破綻から、 08 年のリーマンショックまでの 10 年間に、金融業界はグローバルかつハイテクな産業へと脱皮したのだ。同じように通信業界も、NTTの再編成、ブロードバンドの急速な発展、ソフトバンクの参入などにより、大きく変貌を遂げた。  

それと似たことが、メディア業界にも起きようとしている。

これまでのメディア業界は、完全な寡占構造だった。新聞では、読売、朝日、日経、毎日、産経の5社体制は長らく変化がないし、地方では、地方新聞が独占状態を築いている。  

基本的に、大手の新聞は、「生産(記事作成)」「加工(編集)」「流通(宅配)」の三つの機能をすべて自社で抱えている。いわゆる、垂直統合モデルだ。しかも、業界における人材の流動性が低く、優秀な人材が会社内に囲い込まれているため、もし新聞業界に参入しようとする企業がいたとしても、「宅配網を一から築くのが大変」「マーケットで優秀な人材を雇えない」という理由で、あきらめざるをえなかった。  

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