写真・図版

 世界市場で競争力を持つ東芝の最先端技術が韓国メーカーに不正に流出していたとして、警視庁が強制捜査に着手した。電機産業を中心に日本メーカーは韓国や中国勢に追い上げられ、地位低下が著しい。技術の流出が一因とされるが、対策は追いついていない。

 「事実はすべて間違いありません」。不正競争防止法違反(営業秘密開示)容疑で13日に逮捕された米半導体大手「サンディスク」の元技術者、杉田吉隆容疑者(52)は、警視庁に逮捕された後、東芝の最先端技術を不正に持ち出したことを認めているという。

 杉田容疑者が持ち出したとされるのは、東芝の主力商品である記憶媒体「NAND型フラッシュメモリー」の最先端技術に関するデータ。NAND型フラッシュメモリーは東芝が開発し、今も同社の「稼ぎ頭」だ。だが、韓国メーカーなどとの開発競争は激しい。

 警視庁の調べでは、杉田容疑者は東芝から情報を不正に引き出した直後に、データの提供先だった韓国の半導体大手「SKハイニックス」に転職している。

 世界の先端を走る東芝の技術は、ライバル社にとっては入手したい情報。同庁は、日本企業の最先端技術の流出という事態を重くみており、今後、杉田容疑者の取り調べを本格化させ、SK社への転職の経緯などについても解明を進める方針だ。

 企業の営業秘密の侵害に対する捜査は、かつては立証のハードルが高く、立件が見送られるケースが多かった。不正競争防止法は2003年の改正で刑事罰が創設されたが、当初は、ライバル企業を優位にする動機があったことなどを立証しなければならず、これが壁になった。

 大手自動車部品メーカー「デンソー」から設計データを持ち出したとして、愛知県警が07年に中国人技術者を逮捕した事件では、同法の適用を見送り、データが入った社有パソコンを横領したとの容疑をやむなく適用した。

 このため09年に要件を緩和。情報の不正な「取得」だけで適用できるようになった。緩和後は、愛知県警が12年3月、工作機械メーカー大手「ヤマザキマザック」の技術情報を不正に取得したとして中国籍の元社員を逮捕。同年6月には神奈川県警が、川崎市のプレス機械メーカーから設計図データを中国企業に流出させたとして、メーカーの元社員ら2人を同法違反容疑で逮捕、2人は有罪判決を受けた。元社員ら側に中国企業側から現金が渡っていたことも明らかになった。