徳島県の片田舎に神山町という町がある。人口6000人あまりの小さな町で、吉野川の支流、鮎喰川の上流部に位置している。少子高齢化も進んでおり、高齢化率は46%に上る。過疎化に苦しむ、日本の中山間地の典型のような場所だ。
ところが、神山はIT(情報技術)ベンチャーの“移転”に沸いている。
神山に全国的に有名な観光スポットはない。企業誘致に力を入れている自治体も数多い。それなのに、なぜ神山に人々が集まるのか。3月に出版した『神山プロジェクト』では、そんな神山の秘密に迫った。クリエイティブを生む場であり、新しい働き方の実験場であり、人間再生の場である神山。その本質を理解するには最適な一冊だ。
この連載では、出版の一環として、神山の現状や関わっているキーパーソンの話をまとめていく。4回目はえんがわオフィスを作ったプラットイーズの隅田徹会長だ。起業家として、隅田氏は神山に新しい風を起こそうとしている。
移住者のみなさんに聞いていますが、神山にサテライトオフィスを作った理由からお聞かせいただけますか。
隅田:直接のきっかけは3・11です。東日本大震災の後、災害時の事業継続がビジネス上の課題に浮上しました。プラットイーズはケーブルテレビ局やCS放送局にメタデータを提供しており、震災後、拠点分散の必要性に迫られたんですよ。ちなみに、メタデータというのはテレビ局が業務用に使う番組情報のことで、出演者やあらすじ、技術パラメータや著作権情報などが記録されているものです。