新たな万能細胞「刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得細胞(STAP(スタップ)細胞)」を作製した小保方(おぼかた)晴子さん(30)は2011年3月、不安を募らせていた。研究員として米ハーバード大に戻る予定が、東日本大震災の影響で米国での就労ビザがいつ手に入るか分からない。頼ったのは現在の所属先で、神戸市中央区にある再生医療の拠点、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターだった。震災が大きな岐路となった。
当時、同センターには現山梨大教授の若山照彦さん(46)がいた。以前、共同で研究したことがあり、震災直前に会った時の「困ったことがあったらうちにおいで」という言葉が頭に浮かんだ。思い切って「困ったので明日から行ってもいいですか」と連絡を取った。
これがきっかけとなり、短期間の滞在のつもりが、13年3月にはセンターの研究ユニットリーダーに抜てきされた。
00年に設立されたセンターは、動物の発生メカニズムの解明と再生医療などの応用基盤を築くための研究機関。多数の研究チームがあり、外部の資金も含め約40億円を超える予算を組む。人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った世界初の臨床研究を進める高橋政代プロジェクトリーダー(52)も所属している。
笹井芳樹副センター長(51)は「ベテランの研究者だけでなく、新しいことに挑むアイデアを持った若い人にもチャンスを与えている」と話す。
一度は英科学誌ネイチャーに却下された論文を、掲載される内容にまで充実できたのは、笹井さんらの助言があった。小保方さんも、支えてくれた周囲への感謝を惜しまない。「やると決めたらやり切る」(学生時代の知人)という姿勢も大学時代から変わらない。
早稲田大のラクロス部の先輩だった川崎市の女性会社員(30)は「早朝の練習にも毎日出て、失敗してもこうすればうまくいくのでは、と常に考えていた」と振り返る。
今後、STAP細胞をめぐる世界との競争が激しくなるが、小保方さんは「いろいろな方への恩返しと言うと変だけど、一歩一歩研究を続けていきたい」と決意を新たにする。
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