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01:11
客のいないサッカーなんて、河原の球蹴り遊びですね!

3月8日のJ1リーグ・浦和VS鳥栖戦で起きた「JAPANESE ONLY」横断幕問題で、浦和レッズに厳しい処分が下されました。13日にJリーグ村井チェアマンの発表によると、浦和レッズに対してけん責及び、1試合の無観客試合の開催という制裁をくだすとのこと。Jリーグで無観客試合という制裁が下されるのは初めてのこと。浦和レッズはJリーグの歴史に大きな一歩を刻みました。

この処分の妥当性については、さまざまな意見があるところでしょうが、史上初というインパクトも含め、僕は「重い」処分であると感じます。まず無観客ということになれば、見込まれていたチケット販売による営業収入はゼロになります。浦和は3万人規模の動員が望めるチームですから、1枚2000円としても6000万円のダメージ。さらに売店での飲食、グッズの売り上げ、あるいは来場者がないことによる広告関連収入の減額などがあれば、さらにダメージは増していきます。

Jリーグ内での規約によれば、制裁のランク付けとしては、けん責⇒制裁金⇒無観客試合の開催⇒勝点剥奪⇒下位ディヴィジョンへの降格⇒除名処分と厳しくなっていく扱いとのこと。その意味ではまだ「軽い」と考えることもできます。海外の例では実際に名門クラブが勝点剥奪や、下位ディヴィジョンへの降格などを経験しています。これが牢屋ならユベントス先輩あたりが「客が暴れただけだろ?」「ウチなんか裏社会と通じて八百長だよ?」「降格してからが一人前よ!」なんて励ましてくれる程度の処分と考えることもできます。

しかし、僕は思うのです。勝点剥奪など、無観客試合の前ではかすり傷みたいなものだと。

観客のいないエンターテインメントに一体何の価値があるのでしょうか。誰も見るもののない芸など、自己満足でしかありません。エンターテナーは観客に見られて初めて生きる意味がある。それを奪われることに比べれば勝点剥奪など机上の計算ゲームにすぎません。

そもそも、勝点15を剥奪されたところで、5勝ぶんが消えるだけですよね。勝点30を剥奪されたところで、10勝ぶんが消えるだけです。それで2部に落ちたところで実は何も困らない。ガンバ大阪も、セレッソ大阪も、柏レイソルも、もちろん浦和レッズも、2部に落ちた経験を糧にして這い上がってきている。「昇格」という特別な喜びまで感じながら。

たとえ勝点が剥奪されるとわかっていても、試合があれば喜びが生まれます。仲間との語らいが、美味しいグルメが、深夜に及ぶ反省会が、サッカーのある週末が待っています。正直、勝点剥奪されて試合は普通にやったほうが、お金の面でも喜びの面でもプラスは大きいはず。

翻って先の「JAPANESE ONLY」横断幕。

この文言をめぐってはさまざまな解釈論争が持ち上がりました。そして、ついに当事者から聞き取りをした内容が、浦和レッズを通じて発表されました。そこで明かされた「意図」は、「サポート」とは真っ向反する驚くべき排他主義にほかなりませんでした。会見に立ち会った取材陣からはこのような報告がされています。



「ゴール裏は聖地」
「自分たちでやっていきたい」
「ほかの人たちは入ってきてほしくない」
「海外のお客さんが来て統制が取れない」

THIS IS 排他主義。

どのような意図かわからないウチは、差別的かどうかためらう程度の曖昧模糊とした文言であったものも、この当事者の主張を重ね合わせると確実に差別的な意図の文言です。それも外国人差別どころではなく「俺ら以外全員差別」という極めて狭い了見の、紛うことなき立派な差別ではありませんか。

この思想をサッカーでよく見られる「居残り」「ケンカ」「バス囲み」などの光景とリンクさせると、要するに「気に入らない者は実力で排除する」という、どこの独裁国かと思うような論理が、あのあたりの「聖地」を支配しているとしか思えなくなってきます。

実際にはそうではないのかもしれない。

そうでないと感じている人、チームも多いはず。

しかし、「そうじゃないのが当たり前」という世界に僕らは生きているのですから、ひとつの例外もあってはいけない。そうじゃない世界で生きているつもりなのに、そういうキナ臭い空気がごく一部の「聖地」にはあるらしいとなったら、遠巻きに見ている人は全部まとめて「恐怖の対象」とします。1万台に1台程度の割合で爆発する湯沸かし器があったら、すべての製品が「爆発危険物」となるのと同様に。

今回の事件は、これまで長い間、そうした排他主義を放置し、なぁなぁで癒着してきたクラブ側・客側の行き着く必然だったように思います。小さな発火は今までも数多くあった。それが今回はたまたまドーンと燃えただけ。浦和以外のチームにも、現在進行形で火薬を抱えているチームは多いでしょう。最初に爆発したのが浦和だった、というだけです。

勝点剥奪よりも、あえて無観客試合という「重い」制裁を選んだJリーグのメッセージ。「聖地」を締め出された人に、はたして伝わるでしょうか。


ここからは余談ですが、僕が思うに、プロスポーツチームを強くする要素の最たるものは「客」です。客がいるから、そこにエンターテインメントが存在できる。客がいるから、そこに入場料収入が生まれる。客がいるから、看板やロゴ掲出などの広告料収入が生まれる。客がいるから、そこで生まれた金で高い条件を提示でき、よしんば同じ条件で競り合ったときでも、その大観衆の魅力が残留・加入の決断を引き出せる。

満員のスタジアム。

これこそが強いチームを作る源泉であり、決して裏切らないものです。今をときめくドイツ・ブンデスリーガと、一方で欧州の檜舞台から消えていくイタリア・セリエAの差。セリエAのガラガラのスタジアムと、ブンデスの満員のスタジアム。このふたつを見比べながら、ずいぶん前からこういう未来を僕は予見していました。客の少なくなったスタジアムはいずれチカラを失います。客がいなくて、客がいないから金もない場所で、サッカーなんかやる気になるわけないのです。

排他主義は決してチームを強くしない。

外国人が来て統制が取れない?

何故自分たち同士でお互いを評価するときは「アウェーまで駆けつける熱心なサポ」とか言うのに、わざわざ外国からここまで来た人を邪険にするのか。外国から来たんなら、不慣れで困っているでしょう。どこのメシ屋が美味いとかもわからないでしょう。外国から来たら、絶対ユニフォーム買いますよ。気軽に来れないんだから、ガバガバ買いますよ。

それを助ける…文字通り「サポート」するのがサポーターなのではないのか。それで1人客が増える。それで1人ぶんチームが強くなる。「魂見せろ!」なんて叫んでいるより、確実にチームを強くするはずです。別にいいじゃないですか、声出しができなくったって。写真撮ってばかりだって。座ったままだって。弁当食べてたって。相手方を応援しているファンだって。来た客全員、自分のチームのチカラになるんです。カムカムエブリバディじゃないですか。自分たちの陣取りゲームに夢中になっている場合じゃない。

浦和レッズがJリーグのお荷物とまで揶揄された時代から、アジアを制したビッグクラブに飛躍したのも、まっこと「客」のチカラだったと思います。それは心から敬意を払える、浦和のすごいところです。その一番すごいところと「JAPANESE ONLY」は、どう考えても相容れないものです。

サポーターができる最大のサポートは、「客を増やす」ことです。

自分が足しげく通うこと。

友だちを誘って連れてくること。

遠方から来た観光客を導いてあげること。

彼氏・彼女や子どもができたら一緒に楽しむこと。

そして、関心のない人をも注目させる大行列・大観衆を生み出すこと。

横断幕や旗、コレオグラフィ、チャントやコールはオマケです。なきゃなくても一緒です。聖地だけがどんなに頑張って声を張り上げても、満員のスタジアムのどよめきには敵わない。

浦和レッズを見習って、浦和レッズには頑張ってもらいたいものです。


清水サポーターのみなさんも貴重な経験、他山の石とお付き合いください!