「アップル」という単語と「地図」という単語を並べてみるとき、皆さんはおそらく 2012 年にアップルが引き起こした大惨事のことを思い出すだろう。同社は iOS 6 をリリースする際、デフォルトのナビゲーション・アプリを Google Maps から独自のソリューションに置き換えた。そしてそれは大失敗に終わったのだ。
リリース直後に数えきれないほどのバグが発生し、地図データ自体も笑ってしまうほど信憑性に欠けたものだった。ユーザーを河の中や空港の滑走路に誘導するような事態も起きたため、アップル CEO のティム・クックは謝罪文を発表し、Maps アプリの責任者は解雇された。さらに、長年 iOS の責任者を務めてきたスコット・フォーストールも会社を去ることとなった。
それから 2 年が経ち、iOS は現在ほぼ安定している。しかし iPhone や iPad のユーザーは未だに iOS 6 地図アプリの影響から抜け出せていない。Apple Maps の内容も機能も、まだグーグルやノキアの地図アプリには追いつけていないようだ。ただし、iOS 8 がリリースされればようやくこうした状態が改善されるかもしれない。
大勢のユーザーが Apple Maps に戻ってくる
2年前は iOS 6 の Apple Maps があまりに不評だったため、同年 12 月に Google Maps が iOS 用のアプリを App Store に出したことでようやく iOS 6 へのアップデートを受け入れるユーザーが増えたとも言われている。
当時 Google Maps は Apple Maps より何年も先を行っており、そのリードはいまだ健在だ。しかし最近の情報では、アップルがすさまじい勢いで追いついているという見方もあるようだ。
ComScore の最新データによれば Apple Maps は 2012 年 9 月から翌年同月までの間に 3500 万人ものユーザーを獲得したという。一方で、Android と iOS を合わせた Google Maps のユーザーは 2012 年の 8100 万人がピークであり、2013 年では 5870 万人にまで落ち込んでいる。
少なくとも iPhone ではアップルが優勢のようだ。昨年は Apple Maps が 3500 万人 もユーザーを増やした一方で、Google Maps を使い続けている iPhone ユーザーはわずか 600 万人となっている。さらに The Guardian によれば、彼らの三分の一は単にまだ iOS 6 以上にアップデートしていないから Google Maps を使っているだけなのだという。
つまり、Apple Maps はようやく大半の iPhoneユーザーにとってデフォルト地図アプリとなりつつあるのだ。iOS 7 になって Apple Maps はかなり進歩したがまだ改善の余地は十分に残っている。
アップルの地図製作者が iOS8 に向けて作っているものは何か?
Apple Maps はリリース当初から見た目だけは綺麗だった。特に3Dの Flyover 機能は素晴らしい。しかし今のところ、ナビゲーション機能はお世辞にも褒められたものではない。車での移動であれば問題はないが、自転車やバス、電話といった他の移動手段には対応していないのだ。
Google Maps や他の競合アプリはこうした公共の交通手段にも対応しているし、ストリート・ビューやローカル検索といったオプション機能も魅力的だ。アップルは iOS 8 で、こうした課題にも取り組もうとしている。
2013 年にアップルは複数の地図関連企業を買収しており、特に昨年の夏には 2 か月にわたって集中的にM&Aを推し進めていた。7 月にはローカルのビジネス情報をクラウド・ソーシングで収集するサービス「Locationary」と、地下鉄やバス、電車、タクシー、徒歩、自転車などの数百にわたる交通機関から乗り換え情報を取得する会社「HopStop」を買収している。さらに 8 月にはアプリメーカー企業の Embark Inc を傘下に収めた。Embark Inc は主要都市におけるナビゲーション・サービスを提供する 10 種類のアプリを App Store に登録していた企業だ。
数か月前には WiFiSLAM と呼ばれるスタートアップを 2000 万ドルで買収している。この会社は非常に精度の高いナビゲーションを売りとしており、「小売店などで顧客に一歩単位の屋内ナビゲートを行って商品へと導き、近接度に基づいたソーシャルネットワークを提供」するようだ。一部の情報筋やネットに飛び交う噂によれば、アップルは秘密裡に地図データの整理と分析を専門とする BroadMap の買収も行っているという。
こうして数え上げるとアップルが 2013 年に買収した 15 の企業のうち、三分の一は地図関連だったことになる。明らかにアップルは一日でも早く自社の地図サービスを改善したいと考えているようだ。
改善のテーマ
Apple Maps の地図データは近いうちに大幅な改善が行われるだろうが、ユーザーが最も求めているのは公共交通機関に対応したナビゲーションだ。
9to5Mac によると、アップルに近い情報筋の話では iOS8 と共にリリースされる最新の Apple Maps は、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークを含むアメリカの大都市におけるバス、電車、地下鉄などの公共交通機関に対応するという。特定の空港への具体的なナビ機能も強化されるらしい。さらに、ナビゲーションをすぐに開始するか後で行うかも選ぶことができるという。
これらの公共交通機関に対応することで、アップルは Google Maps とまともに渡り合えるようになるだろう。 Google Maps にも、アップルが予定しているナビの開始時期選択に良く似た機能が備わっている。アップルにはローカル検索やストリート・ビューといった課題も残されているが、もしかしたら iOS 8 にはそうした機能が登場するかもしれない。
アップルが勢いよく続けた買収劇のおかげで、同社の地図データは充実する一方だ。さらに関係者によれば地図の見た目にも大きな変更が加えられ、よりクリーンで道がはっきりと見えるデザインになるらしい。うまく行けば検索機能も改善され、正確な企業名を打ち込まなくても目的地を探せるようになるかもしれない。
もしかしたら、アップルはグーグルのようなストリート・ビューの提供は行わない可能性もある。アップルのロゴを貼り付けた車が写真を撮って回る光景は誰も見たことがないだろう。アップルはこの問題に対して独自の解決方法を展開するかもしれない。同社は 2011 年に拡張現実に関する特許を取得している。iPhone に搭載されたコンパス機能を使って周囲の地点を可視化するという選択肢もありそうだ。
つまり、アップル版のストリート・ビューは写真ではなく 3D モデルで構成されるかもしれない。しかし携帯のディスプレイを通してみれば、ストリート・ビューと同じように周囲にあるものを把握することはできるだろう。
その他の可能性
今年の後半には 6 社を超える自動車メーカーが、アップルの CarPlay を搭載した車両のナビゲーションを Apple Maps に一任することになる。もともと iOS7 の機能として紹介され「iOS in the Car」として知られたこのプロジェクトでは、車載ディスプレイ上で音楽、通話、メッセージやナビ機能を操作することが可能となる。
この CarPlay は今週リリースされた iOS 7.1 によって正式にリリースされたが、自動車メーカーはおそらく iOS 8 の登場に期待を寄せているはずだ。何しろドライバーは目的地の検索やナビ機能をアップルに委ねることになるので、iOS 8 と共に Apple Maps が改善される保証が無ければ自動車メーカーもこの話には乗らなかったと考えられる。
今年、Apple Maps はようやく自動車だけでなく公共交通機関のナビゲーションにも対応することになるが、他にもまだ新機能がありそうだ。アップルは拡張現実を使った屋内地図を、ショッピングセンターやビルなどで展開するかもしれない。Apple Maps をサードパーティ製のアプリと連携させることも可能性としては考えられる。それによって Apple Maps の認知度も上がり、ユーザにとってもデベロッパーにとっても iOS のスタンダードなナビゲーション・アプリになることだろう。
Apple Maps の改良以外にも、iOS8 では Healthbook と呼ばれる新しいアプリがリリースされると言われている。このアプリはユーザーに健康情報を提供し、フィットネスのサポートを行う。この Healthbook はアップルのウェアラブル・テクノロジーへの進出を意味するものでもあるかもしれないが(今度こそiWatchか?)、新しい Apple Maps と連携してユーザーのフィットネス活動をインタラクティブな地図上に表示してくれるようになるだろう。
Apple Maps がようやく競合たちと対等に張り合える成熟したアプリになることはどうやら間違いなさそうだ。そして、 Google Maps を始めとする競合たちが一体どのように自社のプラットフォームを進化させてアップルを引き離すつもりなのか、今後も目が離せない。
画像提供
トップ画像:Madeleine Weiss
文中画像:Apple、Shutterstock
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