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原発事故3年 自主避難者は今

3月13日 16時30分

間嶋ひとみ記者・風間郁乃記者・早川沙希記者

東京電力福島第一原子力発電所の事故で、国が設定した避難指示区域の外から福島県外に避難している自主避難者は、事故から3年がたった今も2万5000人以上に上っています。
国の指示ではなく、自分の意思で避難を選んだ人たちですが、おととし国会で成立した法律、「原発事故子ども・被災者生活支援法」では、就学や住宅確保などの支援の対象とされています。
こうした自主避難者たちは今、どんな課題を抱え、何に悩んでいるのか。
NHKでは全国の自主避難者を対象にしたアンケートを初めて実施しました。
このアンケートの結果や、そこから見えてきた課題について、社会部の間嶋ひとみ記者、山形局の風間郁乃記者、新潟局の早川沙希記者が解説します。

原発事故自主避難者アンケート

アンケートは去年12月から1か月余りの間に、自主避難者で作る団体や支援団体などを通じて行いました。
回答を頂いたのは307人。
内訳は、女性が86%、男性が12%で、平均年齢は42.04歳でした。
また、88%は子どもを連れて避難した人でした。

被ばくの心配度と避難

そもそもなぜ、自主避難したのか。
その質問に対しては、94%が「被ばくの影響を心配したから」と回答しました。
そして、時がたつにつれて、被ばくの影響を心配する度合いが変化したか尋ねたところ、「心配度合いが弱まった」と回答した人は18%だったのに対し、「強まった」、「変わらない」と回答した人は82%でした。
被ばくの不安を和らげようと避難したものの、今も多くの人が不安を取り除けていないことがうかがえます。
放射線や被ばくについて、調べれば調べるほどよく分からなくなるという声も寄せられました。

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中には再避難した人も

アンケートに回答した人の中には、避難先からいったん福島に戻ったものの、再び避難した人が16%含まれていました。
いったん、福島に戻った理由は、「家族との離れ離れの生活に疲れた」が24%、「家族や知人に戻るように言われた」が20%などでした。
一方、再び避難した理由については、82%が被ばくの影響が心配になったことを挙げていました。

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日に日に苦しくなる家計

アンケートを行う前の去年の秋ごろ、自主避難した人を取材した際、「避難先と福島との『二重生活』で生活が行き詰まろうとしている」、「本当は避難を続けたいが、お金がなくなったので元の場所に戻らざるをえない」という訴えをよく聞きました。
今回のアンケート結果でも、全体の3分の2に当たる65%が、「家計が日に日に苦しくなっている」と答えていました。
自主避難者は、住宅の提供や高速道路料金の一部無料化などは避難指示区域の人たちと同じ支援が受けられます。
しかし、賠償については大きな差があります。
福島県郡山市の自宅に夫を残し、新潟市に2人の娘と自主避難している磯貝潤子さん(39)は、自宅のローンが1000万円以上残っているうえ、福島と新潟の「二重生活」で出費がかさむようになりました。

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去年12月からパートで働き始めましたが、子どもに習い事をさせるほどの余裕はなく、塾に通うのを我慢してもらっているといいます。
子どものためを思って始めた避難生活が、逆に、子どもの将来の可能性を狭めてしまうのではないか。
磯貝さんの不安は募るばかりだといいます。
磯貝さんは、「ふるさとに戻りたいが、被ばくへの不安が解消されないかぎり、戻ることはできません。避難生活が長引くなか、家計は苦しくなる一方で、どうすればいいのか、先を考えると怖くなります」と話していました。

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家族関係の悪化

長引く避難生活は、家計だけでなく、家族関係にも影響を及ぼしていました。
今回のアンケートでは自主避難者のうち、夫と離れて暮らす女性の37%が、時間の経過とともに「家族関係が悪化した」と感じていると回答しました。
また、「会話の量」について71%が「減った」と回答したほか、「悩みを相談する頻度」については「減った」と回答した人が60%でした。
さらに、夫婦の間に深刻な溝が出来てしまった人もいて、避難したあと、離婚したり離婚を検討したりしている人が23%いました。

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アンケートに回答した女性の1人は、仕事のある夫を福島に残し、子どもと県外へ避難しました。
しかし、3年も続く「二重生活」で家計は苦しくなり、父親がいないのを寂しがる子どもを見ると、家族離れ離れの生活は限界を迎えていると感じています。
女性は夫に避難先に合流することを望んでいますが、仕事の都合や周囲からの反対で夫は福島に残ったままです。
孤立感を深めた女性は、離婚を検討するようになったといいます。
女性は「本当は離婚したくないんです。子どものために自主避難を選んで、その結果、離婚では本末転倒です。でも、子どもを守るためには、これ以外の選択肢はありません」と話していました。
一方で、アンケートでは、「離れて暮らす家族にありがたいと思う気持ち」が「強まった」と答えた人が51%いて、自主避難という選択に理解を示し、支えてくれている家族の存在の大きさを感じていることもうかがえました。

それでも避難を続ける理由

原発事故から3年たった今も、自主避難を続ける理由としては、77%が「原発の状況が不安定」、72%が「元いた地域は被ばくの影響が心配」と答えています。
今回のアンケートでは、家族そろって別の土地に移住し、新たな生活を始めている人たちもいました。
しかし、多くの人は、さまざまな犠牲を払うことになってもなお、原発や被ばくへの不安が消えず、自主避難を続けているようです。

今後の生活拠点は?

また、今後の生活拠点をどこにするか尋ねたところ、「もともと住んでいた地域」が26%だったのに対し、「今、避難している地域」が59%、「全く新しい地域」が15%で、今後も元いた地域に戻ることは難しいと考え、移住や避難先での定住を検討している人が、合わせて74%に上りました。

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福島県大玉村に夫を残し、神奈川県相模原市の実家に小学1年生の娘と避難している鹿目久美さん(46)も「今の避難先に定住せざるをえない」と考えている1人です。
放射線が将来、娘の健康にどのような影響があるのかはいまだに分からないままで、鹿目さんは「戻ろうという決断を後押しするきっかけは見つからない一方、娘は避難先の小学校に入学するなど、なじんできていて、今の環境にとどまる理由ばかりが増えていく」と話しています。
自主避難者の支援に取り組む「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」の共同代表の河崎健一郎弁護士は、「事故から3年がたっても被ばくに対する不安が解消されていない。地元に戻る人も移住する人に対しても、自主避難者の選択を尊重し、寄り添ったきめ細かな支援が必要になってくる」と指摘しています。

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自主避難者の新たな動き

原発事故から3年がたち、中には、福島にとどまっている人たちと新たに交流を深めようとする自主避難した人も出てきています。
先ほど紹介した鹿目さんは、友人たちと一緒に、春休みや夏休みなどに福島に暮らす親子を神奈川県のキャンプ場などに招待して交流するイベントを主催しています。
放射線のことを気にせず、目いっぱい外で活動してもらおうというのがねらいです。
夫や友達が福島に残るなか、自分だけ逃げてきたという後ろめたさが消えなかったという鹿目さん。
キャンプに参加した福島の親子から感謝されると、少し前向きになれると話していました。

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長期的に支える取り組みを

今回のアンケートを読み込むと、原発事故がなければ無縁だったはずの「被ばくへの不安」が、自主避難している人たちを日に日に追い詰めているようでした。
また、「避難生活を続けたいが、これ以上の負担には耐えられないので、戻らざるをえない」など、自分の希望に反する選択をせざるをえない人が出てきていると感じました。
原発事故によるトラウマや不安を取り除くには、さらなる時間を必要とする人が多いようです。
避難区域の外から自主的に避難している人も、それぞれの意思が尊重されたうえで、避難や帰還の選択ができるよう、長期的に支えていく取り組みが必要だと強く感じました。

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