3月13日、マレーシア航空370便の捜索は何の手掛かりもつかめぬまま6日目を迎えたが、マレーシア政府のリーダーシップの欠如に国際的な批判が集まっている。写真中央は会見するマレーシアのフセイン運輸相代理。クアラルンプールで撮影(2014年 ロイター/Edgar Su)
[クアラルンプール 13日 ロイター] -マレーシア航空
消息不明となってからすでに5日が経過したが、国際的な捜索活動が大規模に行われている。空振りの捜索活動が続く中、マレーシア当局が記者会見で不手際を繰り返していることや、マレーシア航空の情報が正確性を欠くこと、さらに不明機らしき機影を軍用レーダーが捉えていたという情報がリークされても、マレーシア軍の正式発表が遅れたことなどに、各国の不満が高まっている。
不明機と管制塔が最後に交信した時刻が間違っていたことや、盗難旅券を使って搭乗したとされる2人の男の写真が脚の部分だけ同じ写真だったことなど、情報が錯綜(さくそう)した事例は枚挙にいとまがない。
「マレーシアの当局や航空会社が非難を受けるのは当然だ」と語るのは、米ワシントンにある戦略国際問題研究所の東南アジア専門家、アーネスト・バウアー氏だ。「彼らの情報の扱い方はたちが悪い」と同氏は指摘する。
一方、マレーシアの政府関係者らは、前例のない非常に複雑な危機に最善を尽くしているとし、情報が誤っていたり錯綜したりすることは、災害の対応に当たるいかなる国でも起こりうることだとして擁護する。
しかし乗客の3分の2が自国民である中国は、マレーシア政府に対するいら立ちを隠さない。これまでにもマレーシアに対し、捜索を拡大するよう再三要求してきた。
中国の航空行政を担当する民用航空局の李家祥局長は13日、この問題で北京に派遣されているマレーシア側の特使に対し、捜索範囲の拡大を再度求めたことを明らかにするとともに、マレーシア側からの情報提供が円滑に行われることを期待していると述べた。
<関係各国の反応>
行方不明となっている中国人乗客の家族からは、情報提供の遅れに怒りの声が上がっている。北京ではマレーシア航空の担当者に厳しい罵声が浴びせられ、水のペットボトルが投げつけられた。
中国共産党機関紙「人民日報」が発行する英字新聞「グローバル・タイムズ」は、マレーシア政府が発表する情報は首尾一貫していないと指摘。マレーシアが捜索活動の中核を担えるだけの能力があるのか、国際社会に疑念を抱かせていると論じている。
中国以外の国々はマレーシア政府の努力を表向きは称賛しているが、担当者の中にはコミュニケーション不足や初動の情報収集に遅れがあったことに対し不満を抱いている者もいる。
米政府の担当者は、不明機が交信を絶った後で軍用レーダーが機影を補足していたことに関し、マレーシア側の情報共有が遅れたため、重要な証拠が失われた可能性があると述べた。ある西側政府の担当者は「何が起きているのか、その情報が不足していることは壊滅的な状態だ」と嘆く。
<マレーシア政府の官僚主義>
この問題についてマレーシア政府の閣僚らは沈黙を守っている。
「消息不明になって最初の2日間は大混乱だった」と明かすのは、捜索活動に詳しいマレーシアの国防当局者だ。この当局者は、他の省庁と情報を共有するにも多くの許可を求めなくてはならなかったとし、「官僚主義的であったために遅れたことを認めざるを得ない」と述べた。
マレーシア政府は、ナジブ・ラザク首相のいとこでもあるフセイン国防相兼運輸相代理を捜索活動の担当に据え、メディアとの応対にもあたらせている。
フセイン国防相は12日の会見で、情報の不透明性への批判に対し、「われわれが直面する事態は類のないものだ」とした上で、「これだけ多くの国々とのやり取りは簡単ではない」と釈明した。
マレーシア政府の会見は初日以降、開かれる回数がめっきり減った。12日夕方にようやく行われたこの会見は2日ぶりだった。
<中国の海洋進出を後押しする可能性も>
8日未明に管制塔のレーダーから370便の機影が消えた数時間後から情報の混乱は始まっていた。マレーシア航空は当初、交信が途絶えた時刻を午前2時40分と発表していたが、数時間後には1時30分に訂正した。
盗難旅券で搭乗した人物が複数いることが明らかになり、その人物像について、イタリアとオーストリアの旅券を使った「アジア系の顔立ちをした」2人だと内相が発言したと伝えられた。しかし後になって、フセイン国防相がこの情報を否定し、さらに航空行政の担当者がACミランのバロッテリ選手に似ていたとの発言をしたため、混乱に拍車をかけた。
結局、この2人はイラン人だと判明し、同機が消息不明になっていることとの関連性も低いとみられている。
11日には警察がこの2人の写真を公表したが、脚だけが同一の写真であるとみられ、ねつ造されたものではないかとの疑念を招いた。地元の報道によると、警察はのちに写真をコピーした際のミスだったと述べたという。
国家警察長官は、不明機にチェックインをすませながら実際には搭乗していない乗客が5人いるとする航空行政担当者の発言を否定した。マレーシア航空はのちに、空港に現れなかった予約客が4人いたことを確認した。
一連の騒動でおそらく最大のものは、マレーシア軍が9日、不明機が消息を絶つ前に、出発地に引き返そうとした可能性があると発表したことだろう。この発表に関して、その後当局は12日まで沈黙を守ったため、政府は何かを隠そうとしているのではないかといった憶測や、正しい場所で捜索が行われているのだろうかといった疑念を招く結果となった。
12日になってようやく、当局者が正体不明の機影を、370便が消息を絶った場所から何百マイルも離れたマラッカ海峡の上空で補足していたと確認した。
前出のバウアー氏は、マレーシア政府の危機対応の失敗は、この地域で中国の経済力および軍事力が台頭している結果だと指摘。領有権問題に直面するマレーシア政府は明確な領海の認知がなく、管理体制も整っていないため、結果として周辺の友好国との調整も不調に終わっているとし、「残念なことに、今回の件でそれが明らかになった」と語った。
さらにバウアー氏は、こうした推測が正しければ、中国がこの海域を支配すべきとの中国政府の考えを後押しすることにもなりかねないと警告している。
(Stuart Grudgings記者 翻訳:新倉由久 編集:伊藤典子)
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