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2014-03-13 STAP細胞事件は博士号の価値を暴落させる

STAP細胞事件は博士号の価値を暴落させる

いろいろな論点がある今回の問題ですが、深刻なのが、博士号とは何なのか、何をあらわしているのか、意味があるのか、という部分に疑問が呈されてしまったことです。

博士号なんて、コピペで取れるんだ、誰もチェックしないんだ…

多くの人達がそう思ったことと思います。それが、私は悔しくてたまりません。

何度か書いてきましたが、私は大学院時代の指導教官である浅島誠先生から、君は向いてないから別の道に行った方が良い、と言われ、博士号を取得せずに、大学院を中退し医学部に入り直しました。

自分の研究能力のなさという恥を晒すようで恐縮ですが、浅島先生は簡単に博士号を取らせてくれなかったわけです。クオリティコントロールは厳格でした。

正直恨んだこともあります。けれど、だからこそ、別の世界でがんばってやろうと奮起したし、早くから別の世界に行くことができたわけです。もしズルズルと研究を続けていたらと思うと、ぞっとします。

科学ジャーナリスト賞2011の授賞式で浅島先生にお会いし、お褒めの言葉をいただきました。偶然なのですが、この賞の審査委員に浅島先生がいらしたのです(審査委員は複数いるので、浅島先生がいたから受賞できたというわけではないとは思いますが)。

このとき、別の道で奮闘している落ちこぼれ弟子の姿をお見せすることができ、遠回りした選択が報われた気がしました。

ともかく、(少なくとも理学の)博士号はそれくらい厳格で重いものだと思い知らされました(博士(医学)に関しては、ちょっと問題ありだとは思っています。拙書「医者ムラの真実」にも書きましたが…)。取りたくても取れなかった博士号。その後医学学位を取るのに7年かかりました。だから、私にとって博士とは本当に大きなもので、様々な能力があることを示すものだと思っていましたし、だから博士号を取った人を尊敬していました。

だからこそ、「博士漂流時代」を書くなど博士号取得者やポスドク問題について深く関わってきたわけです。博士号を持った人材にはスゴイ能力がある、こうした能力を社会で活用しなければ損だと訴えてきました。

しかし、コピペ博士号取れるのなら、博士なんでなんの意味もないわけです…

もちろん、大半はまともな、厳格な指導をしていると思っています。けれど、コピペ学位取れるなら、博士号なんてなにもあらわさない学位に成り下がります…そうなったら、私達がいくら博士人材の多様なキャリアパス云々と訴えたところで、聞く耳を持たない人がふえてしまいます。今まさに、博士号の価値が暴落しようとしています。


そういう意味で、早稲田大学で小保方博士を指導した教員の責任は極めて重いのです。なんで学位を与えたのか…誰もチェックしなかったのか…

コピペは簡単には発覚しません。最近はウェブ論文をチェックするウォッチャーがいるので、事後に不正をバラされて論文撤回が増えていますが(それが大きな抑止力になっていると思いますが)、巧妙な手口なら、分からないかもしれません。

しかし、小保方博士のデータ流用、盗用は大胆すぎです。注目の論文を出せば徹底的な検証にさらされるわけです。ウェブで不正を暴かれることは知らなかったのでしょうか?どうしてそういうことをするのかは、推測以上のことは言えないのでここでは考えません。問題は、大胆な盗用をしてしまう人物であるということを、どこかの段階でチェックできなかったかということです。

徴候はあったわけです。ラボのセミナー、博士論文、その他…その時に気がつけなかったのか。

気が付かなかったことが、本人も周りも不幸にしてしまったのではないか…


そこで、かつて浅島先生がしたように、別の道に行ったらどうか、とアドバイスできなかったのか…指導教員だけでやったらアカハラと言われるかも知れません。間に学生相談室が入ったり、第三者を介する必要があるかもしれませんが。


科学コミュニティは「性善説」でできています。基本的に別の研究者を疑いません。

いわば柵の中の羊の群れのようなものです(もちろん中では餌を奪い合っている)。このなかに羊の仮面を被った肉食獣が入ったら、あっという間に食べられてしまいます。

だから、誰を群れを囲っている柵の中に入れるかを厳しくチェックしなければなりません。それが博士課程であり、博士号でしょう*1


今この柵が穴だらけであることが疑われています。もちろん、羊でない何かが交じることを完全にゼロにすることはできないとは思いますから、問題が起こってしまったあとの対応が重要です。今回の場合、起こってしまった後の理研の対応が後手に回っているのが、問題を大きくしているように思いますが…。


例えが過ぎましたが、今問われるべきは、早稲田大学院生への指導体制、そして学位審査です。

そして、博士(医学)である自分が返り血を浴びる覚悟で言いますが、博士(医学)も含めた、日本の学位大学院のあり方を総点検し、見直していく必要があると考えています。決して早稲田大学だけの問題ではないわけです。


自浄能力を発揮するというのは、そういうことでしょう。

*1:私の場合は、弱い羊だったので、柵の中に入れると生き残れないと思われたのでしょう。

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