Kチャネル1

 イオンチャネル(イオンチャンネル)と双極性障害(BP)との関連性が最近明らかにされてきている。以前、このブログでも述べたように、L型電位依存性カルシウムチャネル(Ca)チャネル(L-type voltage-gated calcium channel subunits)のα-1Cとβ2サブユニットをコードしているCACNA1CとCACNB2の遺伝子が、双極性障害も含めた精神疾患との関連性がゲノムワイド関連解析(GWAS)にて炙り出されたのではあったが関連ブログ2013年3月17日 5大精神疾患に共通した遺伝子を発見、このような結果から、双極性障害はカルシウムチャネル疾患ではないかと考えられるようになってきている。
 
 こういった観点からは、双極性障害に対してはカルシムチャンネル拮抗剤が効果を有する可能性があり、既に双極性うつ病へのカルシウムチャネル拮抗剤であるイスラジピン(isradipine)の臨床試験が開始されている。

 さらに、治療抵抗性の双極性障害へのプレガバリン(リリカ、N型電位依存性のカルシウムチャネルのα2δ-1サブユニットとα2δ-2にサブユニットに結合してカルシウムチャネルを阻害する。L型にも作用するかもしれない )のオープン試験(補完療法)が既に行われており、効果があることが報告されている。

 双極性障害はカルシウムチャネル疾患である可能性があるのであった。

 しかし、イオンチャネルはカルシウムだけではなく、ナトリウムチャネルやカリウムチャネルも存在する。双極性障害ではカルシウムチャネルだけが関与しているのであろうか。

 いいや、カルシウムだけでなく、カリウムチャネルも関与しており、むしろ、カリウムチャネルの方が大きく関与しているかもしれないのである。

 今回は、双極性障害ではカルシウムチャネルだけでなくカリウムチャネルも関連しており、双極性障害はイオンチャネル疾患、特に、カリウムチャネル疾患であるというレビューがあったのでその論文を紹介したい。
 
 精神疾患の病因や病態を規定する分子としてはモノアミンが第1軸であると仮定するならば、近年はグルタミン酸が新たな第2軸として設定されつつあり、そしてさらに、新しい第3軸としてイオンチャネルが設定されるのかもしれない。

  川の流れに例えれば、躁うつ病という川の流れの一番下流にはモノアミンが位置し、その上流にはグルタミン酸が位置し、さらに、その上流にイオンチャネルが位置しているといったイメージになるものと思われる(下図)。
イオンチャネル・グルタミン酸・モノアミン仮説

 薬物治療としては、既に決壊してしまっているモノアミンの段階でのダムにアプローチするよりも(抗精神病薬)、より上流に位置するダムであるグルタミン酸やイオンチャネルにアプローチをした方が適切な対処法である可能性がある。他剤併用になってしまうが、モノアミン・グルタミン酸・イオンチャネルに各々作用をする薬剤を使用し同時にアプローチするのが一番効果的なのかもしれない。

 なお、カリウムチャネルは非常に複雑であり、その全容を理解することは容易ではない。カリウムチャネルに関しては下の日本語のサイトに詳しく記載されており、このサイトの解説も是非参照して頂きたい。
http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB

  (なお、「channel」は、以前は「チャンネル」と日本語では表記していたが、今では「チャネル」という表記が主流になったようであり、今回のブログでは「チャネル」という表記を用いております。)

双極性障害におけるカリウムチャネルについてのレビュー
「A review of potassium channels in bipolar disorder」

要旨
Abstract

 双極性障害(BP)は遺伝性の精神疾患の1つであるが、疾患の原因遺伝子は判明していない。複数の経路にまたがるような複数の遺伝子の変異は、遺伝子型-表現型の関連性に寄与している。最近のゲノムワイド関連研究の結果では、イオンチャネルの構造や調節に関連する遺伝子が関与している証拠があり、BPはイオンチャネル疾患(channelopathies)である可能性が示唆される。このレビューでは、電位依存性カリウムチャネルのBPへの潜在的な役割に焦点を絞り、BPはイオンチャネル疾患であるという仮説を検証した。さらに、遺伝子などの研究から得られた証拠を検討し、BPの基底に存在しうる生物学的な病態を議論した。そして、カリウムイオンチャネル疾患としてのBPの治療について考察した。最後に、中枢神経系のイオンチャネル疾患としてのBPとてんかんとの間における興味深い類似点についても言及した。

遺伝疫学
GENETIC EPIDEMIOLOGY

 (詳細は略して要点だけとする)。双極性障害(BP)の双子や養子の研究では、遺伝的な要因が病因であることを示している。BPの家族研究では、一般集団に比べて、BPの発症リスクが発端者の同胞では5~10倍であることを示唆している。双生児の研究では80~90%という高い推定遺伝率である。しかし、関連遺伝因子の同定は未解決のままである。個々の双極性障害の症例へのシークエンス解析では、個人に対する大きな影響を及ぼす稀有な変異の例を明らかにすることはできても、集団レベルでのBPのリスクを説明することはできなかった。BPでは、おそらく、小さな効果を有する多くの遺伝子の変異が集団全体に不均一に存在し、BPのリスクとして集団に影響を及ぼし、その遺伝子の変異体が多くの分子経路に関わることで、様々な程度の経路障害が生じ、それによって個々のケースでのBPの感受性や表現型(症状や重症度)が決まるのであろう。

ゲノムワイド関連解析
GENOME-WIDE ASSOCIATION STUDIES

 (これも詳細は略して要点だけとする)。過去20年にもわたりBPの感受性遺伝子を同定するために多くの労力が費やされてきた。人ゲノムプロジェクトの完了、ハイスループットジェノタイピング技術の進歩、遺伝子データベースの充実により、ゲノム全体を公平にスキャンして一般的な多型変異部位を検出するゲノムワイド関連解析(GWAS)に拍車がかった。初期に行われたGWASではBPにのみ有意差を示す遺伝子変異は検出されなかったが、対照や患者のサンプル数を増やすにつれて有意な結果が提示されるようになっていった。

 2008年に最初の有意な結果が報告された。Ferreiraらは、4387例のBPと6209例を対照としたGWASの結果からBPの最初の候補遺伝子となるSNPを報告した。rs10994336であり、ANK3(ankyrin G、アンキリンG)遺伝子の中に位置する。2009年、Schulzeらは、以前にプールされたGWASのサンプルを用いて2つ有意なSNPを検出し、ANK3が候補遺伝子であることを見出したが、Ferreiraらが報告したSNPを含んでいた。その後もGWASの結果報告が続いたが、検出されたトップの遺伝子はいづれもANK3であった。ANK3以外の他の候補遺伝子は、BPも含めた5大精神疾患に共通する遺伝子として報告されたSNP(rs4765913)であり、CACNA1C遺伝子の中に位置する。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2703780/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2793269/ 
(ANK3について)
AnkyrinG

 ANK3とCACNA1Cは双極性障害の生物学的な病因メカニズムを示唆していると思われる。ANK3は、電位依存性イオンチャネルの分布を調節するアダプタータンパク質であり、CACNA1Cは、L型電位依存性カルシウムチャネルのα1Cサブユニットである。これは双極性障害がイオンチャネル疾患であるという仮説を支持する所見である。そして、これらのSNPに対する経路分析の結果からも、この仮説は支持されうる。

 NIMH GAINとWTCCC GWASのデータを用いて最近行われた経路分析の結果からは、イオンチャネルの構造や調節に関与する遺伝子の関与が示唆された。NIMH GAINのデータによる経路分析にて統計学的に有意な遺伝子セットが16あることが見出されたが、その中の9セットはイオンチャネル/結合/トランスポーターの遺伝子セットである。これらの9セットの中の8セットはWTCCCにサンプルでも有意であると再現された。注目すべき最も重要な遺伝子グループは、電位依存性イオンチャネル活性に関与する遺伝子のセットである。4種の遺伝子だけが遺伝子セットの中で重複するため(注; いろんなセットに出現するような重複が多い遺伝子があればその遺伝子が第一候補となるのであろうが、多くのセットに重複する遺伝子はなかったようだ)、これまでのGWASで検出された少数の遺伝子よりも、双極性障害では、共有する分子機能、すなわち、電位依存性イオンチャネル活性が関連しているものと思われる。
 関連する遺伝子セットを同定する別の経路分析としては収束機能ゲノミクス(CFG)アプローチがある。CFGの結果でも、双極性障害におけるイオンチャネル機械の調節不全が関与している証拠が示されたが、カルシウムやカリウムイオンのコントロールだけでなく、細胞の接着に関与する遺伝子セットの関与も示された。

 既に述べたこれまでで最大のGWASの一次分析では、カルシウムイオンチャネル遺伝子(CACNA1CとCACNB2)の変異が関与していることが示されたが、さらに、経路分析の結果でも、カルシウムチャネル活性に関与する遺伝子は、複数の精神疾患中で多面的な効果を及ぼしていることが示唆されている。これらの知見は、カルシウムチャネルの機能を変化させる遺伝子変異は、双極性障害だけでなく、他の精神疾患にも共通する基本的なメカニズムに寄与していることを示唆している。
 注; カルシウムイオンチャネル遺伝子のみで5大精神疾患が全て説明できる訳ではないだろう。それでは双極性障害も統合失調症も自閉症も全ての精神疾患が同じになってしまう。おそらく、症状や重症度といった疾患の表現型の一部としてカルシウムイオンチャネル遺伝子が関与しているのであろうが、双極性障害を他の精神疾患から区別させうる他の遺伝子の関与が重要なのではなかろうか。その1つがカリウムイオンチャネルなのだと著者らは言いたいようである。

カリウムイオンチャネル遺伝子の知見
GENETIC FINDINGS WITH POTASSIUM ION CHANNELS

 CACNA1Cの影響もあり、双極性障害(BP)におけるカルシウムイオンチャネルの役割ばかりが注目されている。しかし、双極性障害はカリウムチャネルも大きく関与している可能性がある。NIMH GAINサンプルの再GWAS分析からは、カリウムイオンチャネルもまたBPの病因に寄与している可能性があることが示されたのである(この点に関しては論文としてはまだ未報告であるが)。すなわち、ANK3遺伝子と相互作用をする遺伝子である。ANK3は神経細胞内の他の膜結合タンパク質と分子的に相互作用するタンパク質をコードしている。そこで我々は、ANK3遺伝子がコードするタンパク質と相互作用をするタンパク質をコードする他の遺伝子がBPの感受性に寄与することができるかどうかを検証した。
(カリウムチャネルの種類について)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB
 
 我々は、STRING 9.0バイオインフォマティクスデータベースを用い、ANK3と相互作用する物質(タンパク質)を同定した。さらに、ANK3のSNPとそれらのタンパク質がBPに関連するような相互作用を有するかをテストした。最も重要な発見は、ANK3とKCNQ2との間の相互作用であった。ANK3とKCNQ2の相互作用はKCNQ2の2つのSNPが関与していた。すなわち、KCNQ2遺伝子のrs2282150(イントロン中にあるSNP)とrs2297385(アミノ酸の配列を変化させない同義コーディングのSNP)の2つのSNPであり、これらのSNPはANK3遺伝子の16の異なるSNPと相互作用をすることが分かった。さらに、そのANK3遺伝子の16のSNPの全てが、タンパク質ータンパク質間の相互作用を媒介する機能ドメインであるアンキリンリピートの境界に位置していた。WTCCCサンプルからのデータでもANK3とKCNQ2が相互作用をすることが示唆された。さらに、KCNQ3もANK3と相互作用をすることが示唆された。KCNQ2とKCNQ3遺伝子は、ニューロンに存在する電位依存性カリウムイオンチャネルの構成要素であるヘテロ四量体複合体を形成するタンパク質をコードしている遺伝子である。
(双極性障害とKCNQ2との関連性) 
(アンキリンリピートについて)
(KCNQ2について)
(KCNQ3について)
KCNQ2-KCNQ3

 注; 補足しておくと、このレビューの著者らが発表した論文では(上で示したURL)、ANK3はKCNQ2とKCNQ3と相互作用し、軸索起始部(AIS)中のカリウムチャネルの局在化を指図するアダプタータンパク質である。KCNQ2 / 3複合体は、AISにおける神経細胞の静止電位を安定化し、活動電位の反復的な発火を抑制するM電流を生じさせる。これらのチャネルは神経細胞の興奮を「減衰」させる要素として機能しており、神経細胞の機能亢進を防いでいる。と解説されている。すなわち、ANK3の機能が低下すると神経細胞の過剰な興奮(機能亢進)が防止できなくなることを意味する。
 
AIS

 注; なお、ANK3はナトリウムチャネルの調節にも関与しているようである。さらに、KCNQ1は2型糖尿病にも関与しており、双極性障害と2型糖尿病との合併にも関与しているのかもしれない。

 興味深いことに、GWAS以前の手法である家系を用いた遺伝子研究においても双極性障害とKCNQ3などのカリウム関連遺伝子との関連性が示唆されている(ゲノムワイド連鎖研究などでの報告。詳細は省略する)。KCNQ2も同様にBPに関与していることが示唆されている。ある研究の結果では、KCNQ2のSNPがカリウムチャネル活性を抑制するという神経機能に関する結果が示された。その論文の著者らは、カリウムチャネル活性が抑制されると、躁と軽躁状態の特徴であるニューロンの過剰な興奮をもたらすかもしれないという仮説を提示した。

AIS-KV

 双極性障害の候補遺伝子としてのカリウムチャネルに関連する他の遺伝子もこれまでの分析研究から示唆されている。KCNN3遺伝子である。KCNN3は、電位非依存性のカルシウムにより活性化されるカリウムチャネル(voltage-independent calcium-activated potassium channel)であり、このKチャネルは、活動電位のイベント後に生じるシナプスの過分極の遅いコンポーネントを介してニューロンの興奮性を調節していると考えられている。
(SK3チャネル=KCNN3について)

 KCNN3遺伝子のエクソン1に高頻度で出現するCAGリピートの多型配列はBPに関与していることが報告されている。しかし、これらの研究サンプルをプールしたデータをメタアナリシスした結果ではそのような証拠は提示されなかった。しかし、メタアナリシスを行った研究者らは、その多型は症状の重症度といった双極性障害の部分的な表現型と関連している可能性は否定できないとした。確かに、最近行われた統合失調症のサンプルの分析では、長いCAGリピートと認知タスク(識別、選択、遂行)への良いパフォーマンスとの関連性が見出されている。なお、CAGリピートの繰り返しが多くなることはSK3チャネルの機能の低下を意味する

 双極性障害におけるカリウムイオンチャネルとの関連性のさらなる証拠が遺伝子発現の研究からも提示されている。スタンレー財団死後脳コレクションの双極性障害の線条体や側坐核(STR-NAC)や小脳のサンプルにおける72種のイオンチャネルサブユニットの発現状況が解析された。気分安定化剤はイオンチャネル活性を直接阻害するという能力があるため、気分安定化剤の影響がないサンプルを調査した。その結果、KCNQ2、KCNQ3、KCNA4遺伝子のアップレギュレーションだけでなく、電位依存性I型ナトリウムチャネル(voltage-gated type I sodium channel)遺伝子のα-サブユニットとβ-サブユニットをコードする遺伝子であるSCN1A遺伝子とSCN1B遺伝子のアップレギュレーションが見出された(小脳半球での所見)。線条体と側坐核では、KCNS3、KCNA1のダウンレギュレーションと、KCNN3のアップレギュレーションが見い出された。興味深いことに、もっとも著明な変化を示した遺伝子は小脳におけるKCNQ3(P = 0.012)とSCN1B(P= 0.004)であった。

 一方、抗精神病薬(クロザピン、ハロペリドール、オランザピン)を投与されたマウスの全脳のmRNA発現を調べた研究がある。その結果、抗精神病薬によってKv1カリウム電位依存性チャネル(Kv1 potassium voltage-gated channel)のサブユニットをコードする2つの遺伝子、すなわち、シェーカー(shaker)関連サブファミリーのKCNA1とKCNAB1と、Kvチャネルと相互作用するタンパク質をコードするKCHIP遺伝子の発現が変化することが示された。これらの結果から、抗精神病薬の作用メカニズムは、ニューロンの電位依存性イオンチャネル、特に、カリウムチャネルとナトリウムチャネルを調節することであり、それによってニューロンの電気的活動性や神経伝達が変化することであると論文の著者らは結論付けた。

 さらに、ラットの脳における電位依存性カリウムチャネルのサブユニット遺伝子の発現レベルに対する電気けいれん療法(ECT)の効果を調べた研究がある。ECTは、電流を短時間通電させてけいれん発作を誘導するである。しかし、時間の経過とともに、ECTは抗けいれん特性を有するようになる(電気ショックでのけいれん発作が生じにくくなる)。躁病へのECT使用の事例もあるが、ECTの主な適応疾患は大うつ病である。初期の研究では、カリウムチャネル遺伝子の発現レベルは慢性や急性のECTによって変化するが、その変化はカリウムチャネルのタイプ、脳の領域、ECTのタイミングに特異的であることが見出された。その後の研究では、慢性ECTにてカリウムチャネルの発現は有意に増加するが、カリウムチャネルのサブタイプや脳の領域に特異的であることが再び見出された。論文の著者らは、カリウムチャネル遺伝子は膜電位の調節に不可欠であるため、mRNAの発現の増加は、ECTの発作閾値上昇作用に関連している可能性があると結論付けた(=電位依存性カリウムチャネルであるKv7.2とKv11.1の遺伝子発現を増加させることがECTの臨床効果かもしれないと結論付けた)。

 注; なお、他の調査でも双極性障害とカリウムチャネルとの関連性が示されている。2013年にGWASのサンプルを用いて、対立遺伝子に特異的なメチル化された遺伝子による経路分析の結果が報告されたが、それによれば、カルシウム、カリウム、ナトリウムという3種のイオンチャネルに関連した遺伝子セットの濃縮が認められた。その中の遺伝子にはこのレビューでも触れられているカリウムチャネルに関する遺伝子が多く含まれていた(KCNB2、KCNK3、KCNQ3などが特に有意度が高かった)。

 注; さらに、NIMHが行った研究の中に、他のカリウムイオンチャネルであるKCNH2が神経細胞の発火に関与しており、KCNH2のアイソフォームの1つであるアイソフォーム3.1の過剰な発現が統合失調症の症状、すなわち、異常に増加した神経細胞の興奮性、回路暴走、非効率的な情報処理といった病態に関連しているだろうという研究結果がある。こういったメカニズムは双極性障害でも関与している可能性がある。

(次回に続く)

 この機会に、論文では触れられていなかったことで重要だと思われることを補足しておく。
 
 昨年度に出されたある論文では、カリウムチャネルの機能を発揮するには脂質の二重層におけるループ構造が必要であることが示されている。言い換えれば、脂質の二重層が障害されれば、カリウムチャネルの機能が発揮されなくなってしまうのである。
K-channel-Lipidω3-Lipid

 脂質の二重層で重要な役割をしているのがω3脂肪酸(DHA)である。双極性障害ではω3脂肪酸を補給しておくことがカリウムイオンチャネルの機能を保証する上で重要になろう。
 
 一方、髄鞘(ミエリン)という神経の軸索を覆っている絶縁体が傷害されれば、カリウムイオンチャネルの機能も障害されてしまう可能性が高い。カリウムイオンチャネルは軸索を覆うミエリンを形成しているシュワン細胞に多く存在する。すなわち、ミエリンの傷害はカリウムイオンチャネルの障害を惹起することになる。従って、ミエリンが傷害されれば神経の興奮性伝達が過剰になってしまう可能性がある。以前のこのブログで紹介した脱髄という現象が双極性障害の原因であるという仮説もある程である(関連ブログ2013年6月9日 双極性障害はMSなどと同じような脱髄性疾患であるただしMSとは異なり広範囲ではなく限局性のミクロな脱髄に留まっているのではあろう)。
 
 ミエリンの障害は炎症や酸化ストレスなどが原因となる。軸索のミエリンが障害されれば、カリウムイオンチャネルも障害され、神経の過剰な興奮が抑制されなくなることであろう。さらに、ミエリンという絶縁体が傷害されれば、軸索のところどころが裸電線となり、電流がショートしてしまい、神経細胞が興奮していなくてもミエリンが傷害された部位では勝手に活動電位が生じ、神経伝達過剰という現象が生じてしまう可能性もある。
 
 このような観点からは双極性障害においては、中枢神経系における炎症や酸化ストレスを抑えることが重要となる。ω3脂肪酸を補給すると伴に、プロバイオティクスにて腸内細菌叢を整えておくことや、抗酸化作用がある物質(野菜など)を補給しておくことは意味があろう。少なくとも、症状の重症化を抑え、再発を防止する観点からは大きな意味があるのではと私は考えている。
 
 現在の日本の医療では、ω3脂肪酸やプロバイオティクスや抗酸化物質は提供されない。自分自身で自ら補給するしかないのである。そのことを忘れずに、日常の生活の中で自分自身での補給に努めることが重要であろう。