先月、米海軍大学校から面白い報告書が発行されていました。メモ代わりの更新。
第二砲兵(SAC)は弾道ミサイル発射台としてTEL(移動式ミサイル発射車両)を運用していますが、中国海軍(PLAN)もまた潜水艦を対艦巡航ミサイル(ASCM)の発射台として位置付けているという指摘はユニークですね。
また、対水上艦戦(ASUW)能力に比べると、対潜戦(ASW)能力構築にあまり大きな進展が見られない理由について以前からあれこれ考えていたところだったので、本レポートは個人的に大変興味を惹かれる内容でした。
以下、要約です。
現在の任務:台湾と近海
ターゲッティング・データ
将来の任務:シーレーン防衛
合理的に弱いASW
このように、敵潜水艦の効果をはぐらかしたり制限することを主眼に中国の対台湾作戦は練られている。作戦運用の柔軟さの背景には、地理的条件だけでなく、中国軍の先進型長距離ASCMと弾道ミサイルへの強い信頼がある。
結 論
「中国海軍発展の主目的は台湾。その台湾有事の3つのシナリオが、いずれも潜水艦に依存しないような作戦計画を立てている」というのが、ASW戦力構築の進行度が遅い理由なのですね。
もちろん、南シナ海や東シナ海においても中国は核心的利益を抱えており、必ずしも台湾有事の作戦計画だけで現状を説明しきれるわけではありませんが、説得力のある洞察ではあります。
潜水艦戦力が強力であるに越したことないのは当然です。仮に中国の経済力がまだまだ軍事力の拡大を支え続けられるとしたら、いずれ日米とのASW戦力差は縮まるかもしれませんね。
この章の他にも読み応えのある内容がもりだくさんな報告書なので、おススメです。
【中国海軍をとりあげた報告書関連】
William S. Murray, Underwater TELs and China’s Antisubmarine Warfare, [PDF] China’s Near Seas Combat Capabilities, China Maritime Study No. 11, Center for Naval Warfare Studies, February 2014.
第二砲兵(SAC)は弾道ミサイル発射台としてTEL(移動式ミサイル発射車両)を運用していますが、中国海軍(PLAN)もまた潜水艦を対艦巡航ミサイル(ASCM)の発射台として位置付けているという指摘はユニークですね。
また、対水上艦戦(ASUW)能力に比べると、対潜戦(ASW)能力構築にあまり大きな進展が見られない理由について以前からあれこれ考えていたところだったので、本レポートは個人的に大変興味を惹かれる内容でした。
以下、要約です。
現在の任務:台湾と近海
- 台湾が核心的利益の中心である。
- 中国軍の近代化は、台湾有事を最優先に備えるためのもの。第二砲兵の短距離弾道ミサイルがその最たる例。
- 潜水艦によるASW能力は向上しているが、依然として仮想敵国と比べると低いレベル。
- 外洋はもちろん、近海においても十分な魚雷戦能力がない。
- ディーゼル艦の性能は限定的で、外洋任務や魚雷を撃ち合うようなASUWに適さない。
- 非大気依存(AIP)推進能力は、外洋において通常動力艦が抱える根本的制約を解決するものではない。
- 攻撃原潜(SSN)が戦術的柔軟性をもたらすはずだが、中国には静粛性に欠けるSSNしかなく、能力の高い仮想敵SSNに対して近海のASWで生き残れない。
- 同じ理由から、中国SSNはインド洋のような遠海―そこではステルス性の不足が脆弱性を生む―でも十分な活躍は見込めない。
- PLANは、ASUWにおいてASCMをを重視している。
- 長距離ASCMに関しては、ロシア製SS-N-27Bを搭載した8隻のキロ級(636M型)ディーゼル艦を保有。
- 宋級SS、元級SS、商級SSNは、CH-SS-NX-13を搭載。
- 宋級SSはYJ-82(本レポートでは輸出名のC-801で言及)を搭載。
- 巡航ミサイルへの傾斜は、水上艦船においてはすでに明確である。
- ほとんどすべてのPLAN水上艦船は、YJ-83を8〜16発搭載。
- 4隻保有するソブレメンヌイ級駆逐艦は、SS-N-22を8発搭載。
- 約60隻のホウベイ級は、それぞれYJ-83を8発搭載。
- 空軍(PLAAF)や海軍航空隊(PLANAF)も巡航ミサイルに投資している。
- H-6爆撃機やその他の航空機がYJ-12を搭載しているのが確認されている。
- 中国が水上艦、航空機、潜水艦から発射される巡航ミサイルを重視するのは、旧ソ連/ロシアにならったもの。
- 旧ソ連は、ソブレメンヌイ級駆逐艦やスラヴァ級ミサイル巡洋艦、Tu-160ブラックジャック、Tu-22Mバックファイアを対艦巡航ミサイル発射プラットフォームとした。エコーII級、チャーリーI級・II級、オスカー級各原潜もNATO水上艦戦力に対抗するための巡航ミサイルを搭載していた。
ターゲッティング・データ
- 長距離から正確にASCMを発射するには、ターゲッティング技術に頼る。
- これに関しては、超水平線(OTH)レーダーや偵察衛星が強力なインジケーターとなる。これは、SACのDF-21D対艦弾道ミサイル(ASBM)にも同じことが言える。
- 潜水艦へターゲッティング情報を供給する上で有用なのが、超長波(VLF)である。VLFは、海中深度10m程度まで到達することが出来るため、潜水艦は水面上にアンテナを出さずに通信できる(衛星通信や短波(HF)と違い、被探知の危険が減る)。VLF信号は、ブイまたは水中ワイヤーアンテナで受信できるので、潜水艦本体は水面下にいられる。
- 中国は、この使用目的でアンテナを開発している。
- VLFでターゲットの緯度・経度情報、発射規模、攻撃構成、望ましい弾着時間などを潜水艦に送る。
- それをもとに、潜水艦搭載コンピューターが発射時間や飛行経路などを計算する。
- PLAN潜水艦の運用形態は、第二砲兵のTELに似ている。それらは有事に配備され、ターゲッティング・データと発射命令が下されるまで、静かに一定期間隠れる。
- 潜水艦をTELのように使うのはいくつか利点がある。
- 乗務員にはそこそこの熟練度しか求められず、したがって外洋・深海における訓練は最低限度で良い。
- 巡航ミサイル発射手順は陸上のコンピューター訓練施設などでも習熟できる。実際、青島潜艇学院(Qingdao Submarine Academy)において、コンピューターによる訓練が公開されている。
将来の任務:シーレーン防衛
- シーレーン防衛におけるローエンドの脅威は、たとえばソマリアの海賊だ。
- 現在は「アフリカの角」あたりでの海賊対処だけだが、いずれはインド洋や東アジアの海域におけるPLANの役割が求められる。その任務には、近代型SSNを擁する軍事的脅威から商船や水上艦を保護する活動が含まれる。
- 現在、中国は深海のASW任務に重点的に取り組んでいない。
- 曳航ソナーを搭載するのは近代化された駆逐艦やフリゲートで、それ以外の水上艦に外洋におけるASW能力はない。
- PLANAFは対潜ヘリコプターを持つが、能力は低い。固定翼の対潜哨戒機がインターネットで確認されている(注:Y-8とみられる機体のこと)。
- 2隻の旧型宋級SSNとその他第一世代SSNは、世界でも最もうるさいSSNだ。つまり、中国の現行SSNは戦力にならない。
- ディーゼル潜水艦も広範囲で効果的なASWを展開することはできない。
- 外国に港を持っていないことも、ASW戦力を運用・維持する上で不利である。
合理的に弱いASW
- なぜ中国のASW戦力は低いままなのだろうか。中国が台湾有事のシナリオで潜水艦の重要性に直面せざるを得ないことを考えると不思議と言える。
- もっとも説得力のある説明はこうだ;台湾有事において、仮想敵国の潜水艦を探知・破壊する必要がないと中国は合理的結論を下している。
- 台湾有事においては3つのシナリオが想定されている:
(1)爆撃
(2)封鎖
(3)侵攻
このシナリオの中では、中国は敵潜水艦と対峙するのではなく、回避したり分散させたりすることを指向している。
- シナリオ1: 爆撃
PLAAFやSACによる台湾への弾道ミサイル攻撃を阻止するとしても、敵潜水艦ができることはほとんどない。トマホークのような潜水艦発射型対地巡航ミサイルが中国にある短距離弾道ミサイル発射アセットを攻撃するだろうが、中国にはこれに対する防空システムがあり、この防空網を突破する数量の潜水艦発射型巡航ミサイルはない。したがって、中国は爆撃作戦を支援するためのASW戦力を増強する必要がない。
- シナリオ2: 巡航ミサイルによる封鎖
PLAAFの空爆に続き、港など台湾の重要拠点に対してSACによる精密攻撃が始まる。爆撃を生き残った台湾海軍艦船を迎えるのが、中国の潜水艦、主要水上艦、大量のホウベイ級などからの巡航ミサイル攻撃だ。特にホウベイ級は、高速で喫水が浅く小型であり、潜水艦からの攻撃にも強い。台湾有事に最適化した船艇である。他のPLAN水上艦は潜水艦に対し脆弱。
PLAN潜水艦は、魚雷ではなくASCMを搭載し、ASUWアセットへとシフトすることで、潜む代わりに台湾の北側や西側の浅くうるさい海に分散する。台湾周辺の浅い海は潜水艦作戦にとって適した音響環境ではないため、敵潜水艦がPLAN潜水艦を探知・破壊する作業には時間がかかる。ゆえに、中国のASCM搭載水上艦や潜水艦の多くは沈められるかもしれないが、おのずとその進捗度は緩やかなものである。結果として、中国による短期〜中期的な封鎖作戦に対する敵SSNの作戦上の効果は低い。中国はASWに大きく投資したのと同じ結果を低いコストと努力で獲得できる。
- シナリオ3: 強襲揚陸
2013年初頭時点で、中国が侵攻オプションを台湾への強制手段として現実的に考えているかどうかは不明。PLANの両用部隊の規模は依然として小さく、この問題に取り組もうとしていない。
そもそも、対侵攻側にとっても、潜水艦は効果的な兵器ではない。潜水艦の搭載可能な兵装量には限りがあり、両用部隊を探知・特定するレンジが短く、作戦海域は浅い上に、潜水艦はPLANのASCM潜水艦を追いかけたり空母艦隊をエスコートしたりする任務もあり、上陸部隊対処に割ける潜水艦の数は少ない。
このように、敵潜水艦の効果をはぐらかしたり制限することを主眼に中国の対台湾作戦は練られている。作戦運用の柔軟さの背景には、地理的条件だけでなく、中国軍の先進型長距離ASCMと弾道ミサイルへの強い信頼がある。
結 論
- 中国のASCM搭載潜水艦への投資目的は、沿岸から数百マイルの浅海域で敵水上艦を撃破することである。
- この距離で様々な発射プラットフォームからのASCMやDF-21D対艦弾道ミサイルが接近阻止・領域拒否を行う。
- PLAの大量のASCMは仮想敵国、とりわけ米国海軍に大きな挑戦を突きつける。
- 他方、中国の近代的ASW能力の不足は、遠海・深海の優勢を西側へ譲り続けることになる。
- したがって、現在の水面下の優勢を利用することが米国には必要。潜水艦発射型兵器の種類や数を拡大することが論理的結論である。
「中国海軍発展の主目的は台湾。その台湾有事の3つのシナリオが、いずれも潜水艦に依存しないような作戦計画を立てている」というのが、ASW戦力構築の進行度が遅い理由なのですね。
もちろん、南シナ海や東シナ海においても中国は核心的利益を抱えており、必ずしも台湾有事の作戦計画だけで現状を説明しきれるわけではありませんが、説得力のある洞察ではあります。
潜水艦戦力が強力であるに越したことないのは当然です。仮に中国の経済力がまだまだ軍事力の拡大を支え続けられるとしたら、いずれ日米とのASW戦力差は縮まるかもしれませんね。
この章の他にも読み応えのある内容がもりだくさんな報告書なので、おススメです。
【中国海軍をとりあげた報告書関連】
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