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「引きこもり」するオトナたち
【第189回】 2014年3月13日
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池上正樹

自分たちはテロ予備軍?35歳以上は切り捨て?
東京都「引きこもり支援策」の内情

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 東京都が2014年度から「引きこもり支援策」として、家庭訪問支援に取り組む――そんな方針が、3月5日の都議会本会議の中で明らかになった。

 引きこもり支援のあり方について取り上げたのは、日本共産党の里吉ゆみ都議会議員だ。

 この日の一般質問で里吉都議は、舛添要一都知事に対して、こう認識を聞いた。

 「引きこもり状態の人たちは、何とかしなくてはと思っても、なかなか一歩を踏み出せない。また、親は自分の育て方が悪かったのではないかと悩み、誰にも相談できず抱え込んでしまう。社会にとっても損失です。長期間引きこもっている方は、自ら相談に出ていくことは非常に困難であり、自宅などに直接訪問するアウトリーチ支援を進めていくべきではないか」

なぜか支援対象は「34歳まで」
高年齢化する現状を無視か

 また、里吉都議は、引きこもり状態の長期化、高年齢化が進んでいて、都の引きこもり支援策の対象が「34歳までという年齢制限は、実態に合わなくなっている」とも指摘した。

 東京都が突然、34歳までの若年者を対象にした「引きこもり支援策」をスタートさせた2007年度当時は、全国に先駆けた施策として、他の自治体からも注目されていたのは事実である。

 翌08年度には、都は49歳までの「引きこもり状態にある高年齢層」の調査を追加で行い、リーマンショックの時代的状況とも相まって、就職試験の失敗や、リストラ、派遣切りなどにより社会から離脱してきて元に戻れなくなる「新たな引きこもり層」が急増している現状も明らかにした。

 ところが、こうして長期化・高年齢化が進む中、その後も都の「引きこもり支援策」は、なぜか34歳までを対象にした限定的な支援策に留まり続けた。

 当然のことながら、「34歳まで」という年齢制限については、当事者やその家族から「35歳以上を除外するのは不公平だ」という強い反発を招いている。

引きこもり対策担当部署は
「青少年・治安対策本部」という違和感

 しかも、都の引きこもり対策の担当部署が青少年・治安対策本部だったことから、「治安対策の一環なのか」という波紋を呼んだ。当事者の間からは「自分たちはテロ予備軍なのか」と脅え、委縮する声も多く聞かれた。

 引きこもり家族会でも、この担当部署に関して、ずっと「都の引きこもり支援は現実に即していない」と訴え続けてきたものの、家族会に向き合おうとせず、取り合ってもらえなかったという。

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池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、通信社の勤務を経て、フリーに。雑誌やネットメディアなどで、主に「心」や「街」をテーマに執筆。1997年から日本の「ひきこもり」現象を追いかけ始める。東日本大震災後は、被災地に入り、震災と「ひきこもり」の関係を調査。最新刊は『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)。他に『ドキュメント ひきこもり~「長期化」と「高年齢化」の実態~』(宝島社新書)、『ふたたび、ここから~東日本大震災、石巻の人たちの50日間~』(ポプラ社)など。最新刊は『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)。池上正樹 個人コラム『僕の細道』はこちら

 


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「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

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