(2014年3月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
世界的な需要急増を受け、鎮痛剤用の天然麻薬の世界最大の供給国であるオーストラリアが供給不足に陥りかねないとの懸念が渦巻くなか、有力製薬会社が同国に対し、アヘンケシ栽培産業をタスマニア島以外にも拡大するよう要請した。
グラクソ・スミスクライン(GSK)、ジョンソン・エンド・ジョンソン、そしてオーストラリアのTPIエンタープライジスはオーストラリア政府に対し、オーストラリア本土で初めてアヘンケシの商業栽培を認めてくれるよう働きかけている。GSKは既に、ケシ栽培を非犯罪化する法律を可決すると見られているビクトリア州で実験を開始している。
「世界の中産階級が拡大するにつれて鎮痛剤の需要が増加している。だが、タスマニアで利用できる土地には限りがある」。TPIの最高経営責任者(CEO)、ジャロド・リッチー氏はこう言う。「我々は最近、干ばつと嵐に見舞われており、(ケシが)いくらあっても足りない」
アヘンケシにはモルヒネ、コデイン、テバインが含まれている。これらの成分はヘロインなどの違法薬物だけでなく、「ソルパデイン」など、一般的な鎮痛剤にも幅広く利用されている。アヘンケシの栽培は国連に規制されており、国連はオーストラリアを合法的な商業生産が認められるほんの一握りの国の1つに指定している。
独占を謳歌してきたタスマニア農家は大反対
オーストラリア政府は半世紀にわたり、タスマニアに栽培認可を与えており、同州農家に年間1億2000万豪ドル(1億800万米ドル)相当の独占体制をもたらした。タスマニア島は、アヘン剤をベースにした鎮痛剤の世界供給量のほぼ半分を担っている。
先週国連が公表した数字によれば、1993年から2012年にかけて鎮痛剤に対する需要が3倍以上に膨らみ、服用が1日当たり140億回相当に達した。特にアジアで中間層の消費者が服用を増やすため、需要は一段と増加すると見られている。
ケシの栽培・加工はタスマニア経済の重要な一部だ。島の人口は約50万人で、失業率は7.6%とオーストラリアで最も高い。タスマニアの農家はケシの商業栽培を他州に拡大することを求める製薬大手の要請に対して激しい反対運動を繰り広げており、栽培拡大は自分たちの生計手段に壊滅的な打撃を与え、麻酔作用を持つ植物のデリケートな性格からして法と秩序に絡む問題を招きかねないと警告している。
3月15日土曜日に実施されるタスマニア州選挙を控え、オーストラリア政府は農家の懸念に敏感になっているが、製薬大手は、ケシ栽培を本土に拡大しない限り、オーストラリアは世界的な鎮痛剤のサプライチェーンにおける重要な役割を失いかねないと警鐘を鳴らしている。