アジアの将来にとって最大の脅威は気候変動なのだろうか。今週のケリー米国務長官のアジア歴訪に基づけば、そう考えたとしてもやむを得ない。国務長官は中国の挑戦的な行動への懸念に関して控えめに主張し、代わりにあまり重要ではない環境問題に焦点を当てることを選んだ。結果的にその歴訪は、4月に予定されているオバマ大統領のアジア訪問にとって何の準備にもならなかった。
ケリー長官は気候変動が、テロやアジアの海と空での衝突を引き起こしかねない数多くの領有権争いと同様に重大な安全保障上のリスクだという考えを中国やインドネシア政府に対して強調した。数年にわたって秩序の維持にもっと関与して欲しいと懇願されてきた米国のそうした鈍感さは、オバマ大統領が4月に来訪した際の対応に跳ね返ってくる。聴衆は大統領の言葉を無視しながら、礼儀正しく拍手を送ることだろう。
ケリー長官には少し同情すべき点もある。というのも、アジア歴訪は、味方であるはずの民主党議員が大統領貿易促進権限(TPA)、通称ファストトラック(早期一括審議)権限に関する法案の審議を拒否したことで、環太平洋連携協定(TPP)の交渉が台無しとなった直後になってしまったからだ。今や米国と太平洋沿岸諸国との間で交渉されたいかなる取り決めも、すべての議員によるあら捜しの対象となってしまった。他に重視すべき問題がなくなったケリー国務長官は、地下で起きているマグマ活動と温室効果ガスの排出とに関連性があるかのように、インドネシアのケルート火山の噴火を引き合いに出して気候変動対策を呼びかけた。
ケリー長官はオバマ政権の大失敗に終わった「グリーンエネルギー」政策についても強調し、アジアの開発途上国に、米国が多額の税金を投じて行った無駄な公共事業をまねるよう促した。米国政府は納税者に大きな負担となったにもかかわらず、ほとんど売れていないプラグイン・ハイブリッド車「シボレー・ボルト」のようなグリーンプロジェクトに数十億ドルを浪費した。もしこれが、米国政府のアジアに対する経済戦略だとしたら、欧州株に再び目を向け始めるときが来たのかもしれない。
アジアが直面している重大な問題について発言したとき、ケリー長官は無力のように見えた。中国政府が一貫して北朝鮮政府をかばい、北朝鮮に核保有を許してしまったという事実があるにもかかわらず、ケリー長官は北京で、北朝鮮の核軍縮に向けた中国の「真剣な取り組み」を称賛した。それなのに、ソウルを訪問した際には、北朝鮮を支援する中国政府を名指して批判した。これは面と向かって中国と対決する度胸はないが、陰では喜んで批判するという姿勢を示唆している。自信に満ちた超大国のとるべき態度ではない。
アジア歴訪に日本を含めなかったことで、ケリー長官は日本政府と韓国政府の関係を修復する機会も逸した。オバマ大統領は4月に日韓を訪れるが、首脳会談は新たな構想を打ち出す場ではない。ケリー長官が日韓の亀裂に対処するため、イスラエル・パレスチナ和平交渉に対するのと同じくらいの時間を費やしてくれていれば良かったのだが。
自由貿易交渉が脱線し、米国政府の能力に対する同盟国の疑念が高まっている中、オバマ政権が残された3年間にアジアで何をしようとしているのかを見極めるのは難しい。先週にタイで行われた軍事演習など、米国は依然として多くの重要な役割を果たしているが、「アジアへのピボット」という大げさなレトリックが不必要な問題の原因となっている。期待値を上げてそれを下回るよりも、穏やかに話しながら実力行使に訴える方が、米国と同盟国の利益にかなうであろう。
中国政府は米国の「アジアへのピボット」に関して、安定を損ね、逆効果を生むとして批判しているが、中国の行動で、米国は言うほど怖くないということを露呈してしまった。米国政府がアジアとの軍事関係を拡大し、そこでのプレゼンスを拡大するという話し合いをしているさなかに、中国は領土をめぐって近隣国と対決するという計画をより強引に推し進めた。中国は保有する核兵器の近代化、ステルス戦闘機の開発、海軍の規模拡大、宇宙開発なども継続してきた。中国が機運は自国にありと感じているのは明らかだ。
オバマ政権はアジアのもろい安定性を維持するための新しい手段を見つけ出さなければならない。米国のアジアに対する深い関与は負担が大き過ぎるというのであれば、政府はその方針を転換する義務を米国民に負っている。しかし、アジアが米国の未来にとって本当に重要であるならば、オバマ大統領は太平洋地域における米国の圧倒的な影響力を維持するために、本格的な政策で自らの大げさな言葉を裏付けなくてはならない。
(マイケル・オースリン氏はアメリカン・エンタープライズ研究所の日本部長で、wsj.comのコラムニストでもある)
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