「賃上げで勝つカイシャ」

旅館を2軒にしたら現場に“軋み”が

南房総で旅館を経営する「ろくや」の渡邉丈宏社長(前編)

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2014年3月13日(木)

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千葉県南房総市にある「網元の宿ろくや」。弓なりに広がる白砂の岩井海岸から200mほど街なかに歩いたところにある磯料理と温泉と海水浴の宿だ

 網元の宿ろくや――南房総にある鮮魚料理と温泉が自慢の宿だ。

 どこの旅館も同じように、ろくやにもバブル経済崩壊後に客足が遠のく経営危機が襲った。だが、地道な経営改革の結果、今ではネットのクチコミサイトの評価も高まり、宿泊予約が簡単に入らないほどの繁盛旅館になっている。

 2011年には2軒目のホテル「ROKUZA」を開業。ここにきて3軒目となるレストランの開店準備を進めるところまで復活を果たした。この改革の過程で、ろくやの渡邉丈宏社長は、会社の成長のためには、スタッフの労働環境の整備がいかに大事かを学んできた。

 そもそも、旅館のスタッフが日々どのように働いているのか、それを具体的に知る人は一般にほとんどいないだろう。誰もが旅館に宿泊した経験があるにもかかわらず、旅館には宿泊客側からは決して見ることができない仕事のやり方がある。

 例えば、同じ宿泊客に出迎えから見送りまで同じ客室係りが連続してサービスを提供しようとすれば、前日のチエックインから翌朝のチエックアウトまでの作業を同じスタッフが担当することになる。これではカレンダー通りの暦日に基づく現場の作業管理ができなくなる。

 旅館には法律の特例として、客室やフロント、厨房で働く従業員には、お客様が到着する夕方のチエックインから朝のチエックアウトまでを1日の労働時間として管理することが例外として許されている。このような労働時間管理の方法を旅館の現場では「たすき掛け」と呼び、会社は正午から翌日の正午までの1日で作業シフトを組む。また、午後と翌日の午前を一対にして1日の休日を与える。

 また、旅館で働く従業員には「中抜け」と呼ばれる長い休憩時間が実質的にある。一般のサラリーマンでは考えられないが、旅館の従業員はタイムカードを4回打刻するところも多い。これは、従業員が朝食の時間帯と夕方から夜までの夕食を挟む特定の時間帯に勤務しているため、昼間に家に戻って食事をしたり、家事を済ませたりという長い休憩時間が入る。これがその中抜けとなる。

 これを見るだけでも、旅館の従業員は非常に長い拘束時間で働いていることが分かるだろう。接客サービス業という特徴から、定期的な休日があるわけではない。多くの人が動く行楽シーズンや週末は出勤しなければならず、家族の負担も非常に大きい。

 このような職場環境から、旅館業を含めた宿泊サービス業の離職率の高さが大きな課題となっている。しかし、地元経済という視点からこの旅館業を見ると、売上のほとんどは地域の外からもたらされ、そしてその売上の中の約30%が人件費として、また約20%が食材などの仕入れとして地域内に還流する。旅館は非常に重要な“地域貢献産業”としての顔がある。旅館を経営し続けることは地域にとっても重要であり、それを支える従業員の働く環境を改善していくことが非常に大事だということが分かる。

 今回は、現場の無駄を徹底的に排除し、生産性の向上を通じて、従業員の長い拘束時間を改善し、給料も上げようとしている株式会社ろくやの渡邉丈宏社長に話を聞いた。


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