安倍総理は2013年4月19日の「成長戦略スピーチ」[*1]で、「現在、最も活かしきれていない人材とは何か。それは、「女性」です」と発言しています。その後、同年6月14日に「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」[*2]を策定し、成長への道筋のひとつとして「女性の活躍推進」を掲げました。「特集ページ 女性が輝く日本へ」[*3]では、「女性が輝く」ための政策が説明されています。
こうした議論の中身・方向性については検証する必要があるでしょう。ただいえることは、明らかに日本社会はいまだに女性が働きやすい社会にはなっていないことです。この問題を解決するために、先日リクルートワークス研究所が興味深い提言(提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題)を行いました。そこで今回は、過去の「シノドス」の記事もあわせて紹介しながら、「女性が輝く」ひとつのあり方について考えていきたいと思います。
2003年6月20日に男女共同参画推進本部が「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」[*4]と決定して10年ほど経ちました。しかし世界経済フォーラムが2013年に発表したジェンダーギャップ指数[*5]で、日本は先進国の中でもかなり低い105位でした。
また厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」をもとにリクルートワークス研究所が作成したグラフをみると一目瞭然の通り、管理職に占める女性比率は2012年時点で6.9%と、30%には程遠く、その歩の進み方をみても、前途多難なようです。
なぜこれほどまでに遅々としているのでしょう。そして本当の意味で「女性が輝く」ためには、どんな政策が必要なのでしょうか。またより仕事で活躍したい女性のためになにができるのか、見ていきたいと思います。
[*1]http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0419speech.html
[*2]http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/saikou_jpn.pdf
[*3]http://www.kantei.go.jp/jp/headline/women2013.html
[*4]http://www.gender.go.jp/kaigi/honbu/150620.html
[*5]http://www3.weforum.org/docs/WEF_GenderGap_Report_2013.pdf
日本で「働くこと」のいま
これは内閣府が発表している「子ども・子育て白書」から作成されたグラフです。平均初婚年齢(妻)は2011年時で29歳、第一子出産時の母の平均年齢は2011年時で33.2歳となっています。
日本人女性の就業状況は、女性の年齢階級別労働力率をグラフにすると、20代後半から30代前半にかけて労働力率がグッと下がり、30代後半になって徐々に上昇していく「M字型カーブ」を描くことでよく知られています。言うまでもなく、20代後半から30代前半にかけて結婚や出産、育児のために、仕事を辞め、育児の落ち着く30代後半から40代に復帰するために描かれるカーブというわけです。
出産、そして育児はどれだけたいへんなことなのか。シノドス編集部は過去に、出産後に夫婦の愛情が冷めてしまうという衝撃的なデータを紹介している『産後クライシス』(ポプラ新書)の著者のひとり、内田明香さんにインタビューを行っています。
どうして妻は不機嫌なんだ?――産後に冷え込む夫婦の愛情(2013年12月3日掲載)
本書には考えさせられる、そして考えなくてはいけない問題がたくさん詰まっているのですが、このインタビューを読むだけでも、非常に多くの問題を痛感させられます。
例えば、労働時間の非常に長いこと。リクルートワークス研究所の「ワーキングパーソン調査2012」によると、「ホワイトカラー(管理職、事務職、営業職、専門職・技術職)」の中で、31.4%が週50時間(年換算2500時間)以上働き、過労死の危険性がある週60時間(年換算3000時間)以上働く人は10.2%もいるようです。
週50時間を単純に平日の5日分で割っても、一日の労働時間は10時間。移動時間も含めれば、一日の半分以上、仕事をしている人も少なくないのではないでしょうか。
もちろん育児・家事に対する意識を変えるだけで解決する問題もあると思います。しかしこのデータをみると、それだけで問題がすべて解決できるとはとうてい思えません。仕事をしながら家事をしたい人のためには、なにか手を打たなくてはいけない。もちろんこれは、性別を問わずに、です。
「仕事と家庭を両立する」そう一言でいっても、その実現のためには数多くのハードルを乗り越えていかなくてはいけません。まさにその問題に取り組むワーク・ライフ・バランス政策についても、理念によって、その成否が変わってしまうであろうことが筒井淳也さんの論考からわかります。
迷走する運命にあるワーク・ライフ・バランス政策(2011年12月1日掲載)
また、もうひとつご紹介したい筒井淳也さんの論考があります。
タイトルの通り、日本の職場の「窮屈さ」を指摘した論考です。ここでいう「窮屈さ」は筒井さんもお書きになっているように、職場の空間的な意味ではなく、自由裁量で働く余地がないという意味で、です。さらにこの「自由裁量の余地」は、ワーク・ライフ・バランスを向上させる働きをもつことが実証、あるいは期待されているようです(反証例もあるとのこと)。
このようなワーク・ライフ・バランスや「自由裁量の余地」に関係する働き方に「フレキシブルワーク」というものがあります。
これはヨーロッパで実践されているフレキシブルワークの事例です。こうした制度のひとつひとつの効果をつぶさに見ていくと共に、日本でもこういった制度を導入していくための検証が必要でしょう。