訃報:大西巨人さん97歳=作家、小説「神聖喜劇」
毎日新聞 2014年03月13日 00時29分(最終更新 03月13日 01時23分)
小説「神聖喜劇」で知られる作家、大西巨人(おおにし・きょじん<本名・のりと>)さんが12日、肺炎のため、さいたま市中央区の自宅で死去した。97歳。葬儀は近親者のみで営む。喪主は長男で作家の赤人(あかひと)さん。
福岡県生まれ。1939年、九州帝国大法学部中退。毎日新聞西部支社に入社し、校閲部などで勤務。42年、長崎県対馬要塞(ようさい)の重砲兵連隊に入隊し、敗戦を迎える。46年毎日新聞を退社、雑誌の編集を経て作家生活に入った。
軍隊の不条理を通して人間とは何かを問うた代表作「神聖喜劇」は、自身の入隊体験が下敷き。55年の雑誌連載開始から25年かけて原稿用紙4700枚を書き上げた。主人公の二等兵がずば抜けた記憶力を武器に上官たちの論理の矛盾を突き、人間を抑圧する国家のシステムをえぐり出す。作中で言及される「無責任の体系」などは現代にも通じる普遍性を持ち、戦争文学の傑作とされる。2006年には漫画化され、話題を集めた。
他の長編小説に「三位一体の神話」「深淵」など。評論でも活躍し、「軍隊を特別な世界とみなすのは結果的に権力側に加担する」と説いて「真空地帯」の著者、野間宏らと論争になった。
◇福岡で反戦の思い語る
大西巨人さんは旧制福岡高校から九州帝大に進み、軍隊生活を経て、戦後は福岡市で雑誌「文化展望」の編集に携わった。文芸批評などを担当していた。
2008年には地元福岡市で開かれた「大西巨人 走り続ける作家」展の公開座談会に出席し、元気な姿を見せた。日本の現状について「満州事変の頃を連想する。悪い方向に進む要素を内包している」と発言し、反戦の思いをにじませた。
座談会で相手を務め、親交のあった火野葦平資料館(北九州市)館長の坂口博さん(60)は「代表作『神聖喜劇』は一見難解だが、文体に慣れると随所に盛り込まれたユーモアが分かり、大衆性にも富んで面白い。文体、テーマともスケールが大きく、世界文学の一つと言ってもいい。今後も読み継がれる作品。書く意欲を最期までお持ちでした」と故人をしのんだ。【米本浩二】