3月12日はワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の誕生から25周年になるそうだ。開発者、ティム・バーナズリー氏が1989年のこの日に、〝ウェブ〟という文書管理システムに関する提言をまとめたのだという。
米シンクタンク「ピュー・リサーチ・センター」は、この記念日に合わせて、「2025年のデジタルライフ」という約60ページにのぼる報告書をまとめた。
報告書の副題では、名だたる専門家たち約1900人から回答のあったアンケートから、2025年のインターネットは「'電力'のようなものになる――良きにつけ悪しきにつけ、より目立たず、人々の生活に深く埋め込まれたものに」とうたっている。
●手元にある「未来」
なるほどこの四半世紀で世界は変わった。80年代のスーパーコンピューターの何倍もの計算処理能力をもつスマートフォンを、通勤ラッシュの車内で大半の人が手にする光景は、思いもつかなかった「未来」ではある。
ただ、2025年を考える手がかりは、その私たちの手元にある。まさに「生活に埋め込まれたネット」だ。
報告書は、2025年の予測を15のポイントから読み解いている。8つの明るい見通し、6つの暗い見通し、そして最後の一つはニュートラルなアドバイスだ。
○情報の共有は、機器を通じて日常生活の中に埋め込まれ、電気のように、より見えにくくなっていく。
○インターネットの広がりがグローバルなつながりを推進し、互いを理解するようになる。
○「モノのインターネット(IoT)」、人工知能(AI)、ビッグデータによって世界の理解が深まる。
○拡張現実(AR)と「ウェアラブル(身につける)端末」が日常生活、特に健康に関するデータ管理に利用される。
○政治意識や行動が促進され、平和的な変革やアラブの春のような政変がさらに引き起こされる。
○〝ウーバーネット(超ネット)〟の広がりによって、国境の意味が薄れ、関心を共有する人々の新たな〝国〟が生まれ、従来の国家の管理能力を上回っていく。
○アクセス、システム、ルールを見直していくにつれ、インターネットは〝インターネッツ(複数のインターネット)〟になっていく。
○教育におけるインターネット革命によって、より多くのチャンスが訪れ、設備や教員にかかるコストも低下するだろう。
×持てる者と持たざる者の格差が危険なまでに拡大し、不満や暴力につながる可能性がある。
×ネットの悪用は〝進化し、規模も拡大〟するだろう。いじめ、ストーカー、ポルノ、犯罪...そういったことをする人間は今もいるが、より大きな能力を持つことになる。
×これらの変化に対応するため、政府や企業は権力の行使をより確かなものにしようとする。
×人々は利便性を求めてプライバシーの妥協をするようになるだろう。そしてプライバシーは高所得層だけが享受するものになる。
×人々や組織は、複雑なネットワークによる変化に迅速に対応することはできないだろう。
×今の通信ネットワークがもたらしている大規模な変化にほとんどの人がまだ気づいていない。そして、ネットワークは将来的にさらに破壊的な変化をもたらす。
△展望と正確な予測は役に立つ:「未来を予測する最良の方法は、それをつくり出すことだ」
最後の引用は、〝パーソナルコンピューターの父〟アラン・ケイ氏の有名な言葉だ。
●スターたちの言葉
報告書では、インターネットの世界の〝スター〟たちの言葉も紹介している。
例えばインターネットの通信規格「TCP/IP」を開発し、〝インターネットの父〟と呼ばれるグーグル副社長、ヴィントン・サーフ氏は、ネット投票の実現や、立ち上がりからグローバル市場をねらうネットビジネスの拡大、ネット講座(MOOC)の収益拡大などに言及している。
ニューヨーク・タイムズのシニアライター、ジョン・マーコフ氏は、かつてはインターネットのユートピアを夢想していたが、現実には反ユートピア社会が訪れるのではないか、とダークな予測をする。
そして、ニューヨーク市立大学起業家ジャーナリズムセンター所長で著名ブロガーのジェフ・ジャービス氏は、「グーテンベルクの亡霊」について述べている。
グーテンベルクの活版印刷が登場してから、書籍のコンテンツ、そしてビジネスの形が見えてくるまでに半世紀を要した。そして、私たちが今いるのは、〝グーテンベルク暦〟でいえば、グーテンベルク聖書印刷の作業にとりかかってから20年後の1472年だと言う。
「ウェブがもたらした最初の20年の変化を考えてみてほしい。その上で、次の10年を予測しろというのか? ごめんだよ」
きょうも、世界は変わっている途中だ。
(2014年3月12日「新聞紙学的」より転載)
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