(2014年3月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
欧州中央銀行(ECB)は、物価の安定という自らの目標を達成できずにいる。困ったことに政策理事会は、主に各国の方針の相違のために、効果的な対策について合意を形成できない恐れがある。これはかなり危険なことかもしれない。
功績は功績として認めよう。ECBが2012年夏に打ち出したアウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)プログラムは――そして、それに先だってイタリア人のマリオ・ドラギ総裁が行った、ECBは単一通貨を維持するために「必要なことは何でもやる」という発言は――市場に対する人々の信頼感を回復させた。
ECBは大砲を1発も撃つ必要のないまま勝利を収めた。OMTの発表の後、イタリアやスペインの国債利回りは、それまでよりもずっと容認できるレベルに下がっていった。
ECBの目標に遠く及ばない超低インフレ
ところがそれに比べると、ECBは物価の安定には成功していない。確かに、ECBの目標はほかの中央銀行のそれと同じくらい明白だとは言えず、同じくらい対称性があるとも言えない。ECBの目標は「2%を下回るが、2%に近い水準のインフレ率を中期的に達成すること」だ。だが、2014年2月の総合インフレ率は前年同月比0.8%だ。2%に近いとはとても言えない。
また、国際通貨基金(IMF)欧州局の幹部らによるブログの説得力のある議論に見られるように、これはかなり危険な状況でもある。
第1に、この低インフレは予想通り、弱い需要と同時に発生した。2013年第4四半期にユーロ圏の内需(実質ベース)は2008年第1四半期の水準を5%下回っていた。この差はスペインでは16%で、イタリアでは12%だった。ドイツでさえ、内需は2011年第2四半期以降伸び悩んでおり、ユーロ圏を牽引する機関車とは言えなくなっている。
このギャップを埋められずにきたことで、金融危機の打撃を受けた国々の回復はより難しいものとなり、投資は減少し、長期失業が新たに生み出されるに至っている。こうした状況は今後、ユーロ圏に深い傷を残すことになるだろう。
第2に、ユーロ圏が今後デフレに陥るリスクがあることは明らかだ。ドラギ氏は以前、デフレとは多くの国々で多くの財の価格が自己成就的に下落していく現象のことだと述べている。この定義に従えば、デフレはまだ生じていない。ユーロ圏でインフレ率がマイナスになっているのは3カ国だけで、消費者物価指数の構成品目のうち価格が下がっているのは5分の1に過ぎないからだ。