新日鐵住金の技術流出問題で韓国が繰り出した“場外乱闘”
ダイヤモンド・オンライン 3月11日(火)8時30分配信
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通電時に極限までロスを減らす方向性電磁鋼板は変圧器などに使われる。新興国での電力需要の高まりで注目が集まっている写真提供:新日鐵住金 |
火種は、韓国で上がった。2月17日、同国の特許庁は、新日鐵住金が保有する「方向性電磁鋼板」に関する4件の韓国特許について、“無効”という判断を下したのである。
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この判断は、韓国の鉄鋼最大手・ポスコが申し立てていた特許無効審判を認めた格好だ。平たくいえば、「新日鐵住金が韓国で持つ特許は、一般的なもので、特別な技術として認められない。したがって、ポスコが同じものを製造しても、まったく問題にならない」ということである。
韓国内では、「米国でも韓国と同様に新日鐵住金が持つ方向性電磁鋼板の特許が無効になった」との報道も流れたが、新日鐵住金は間髪を入れずに「まったくの誤りである」と完全否定した。
当惑を隠せない新日鐵住金は、事実関係をこう説明する。「米国での特許4件については、2012年9月にポスコが特許再審査請求を申し立てているが、基本となる特許1件はすでに有効との判断がなされている。残る3件は係属中であり、当社としては残り3件も同様に有効との判断がなされるものと考えている」。
● 韓国の作戦は吉と出ない
これらの方向性電磁鋼板をめぐる紛争をあらためて整理しよう。
2000年以来、旧新日本製鐵とポスコは提携関係にあるが、まず新日鐵住金は、同社を退職した研究者を通じてポスコが門外不出の“ブラックボックス技術”を盗み出したと主張している。そして、日本では、12年4月に「不正競争防止法」に基づき、約1000億円の損害賠償などを求め、ポスコとOBの研究者を提訴した。
それとは別に、米国では新日鐵住金が米国内で持つ製法上の特許侵害に関して、ポスコに侵害の差し止めなどを求めてきた。それに対し、ポスコは米韓で特許無効を申し立ててきたのである。
方向性電磁鋼板は、1953年に旧新日鐵が米国のアームコ社から技術を導入したものだが、68年以降は世界のトップになった。
現在までに、米国のAKスチール社(アームコ社)、ドイツのティッセンクルップ社、中国の武漢鋼鉄、日本のJFEスチールに有償でライセンスを供与している。
しかし、世界で年間約200万トン生産されている方向性電磁鋼板のうち、等級の高いものは約100万トン。その約30%をライセンスの供与を受けていないポスコと中国の宝山鋼鉄が生産しているのだ。かねて、新日鐵住金の宗岡正二会長は「何十年もかけて、数百億円を投じて開発してきた独自技術が、なぜこんなに早く追いつかれるのか」と疑念を表明してきた。
新日鐵住金は、韓国の特許庁が表明した今回の“無効宣言”に対し、高等裁判所に相当する韓国特許法院に審決取り消し訴訟を提議する。
米国の特許庁で係属中の残り3件の判断にも注目が集まるが、実は米韓における特許侵害をめぐる訴訟は、日本での不正競争防止法の訴訟には直接的に影響しない。
韓国側は、自国の特許庁の判断を追い風にして巻き返したいようだが、必ずしも有利に進むわけではなさそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)
週刊ダイヤモンド編集部
最終更新:3月11日(火)8時30分
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