宇多田ヒカルのハイレゾはニセレゾ、だはー?

アナログマスターテープからニューヨークのマスタリングスタジオの著名エンジニアTed Jensenが24bit 96kHzでリマスタリングしたハイレゾ音源が発売されました。

毎度ながら、チェックしていきます。


まずは波形の比較から。

上がハイレゾ版、下が当時のCDアルバムです。

Automatic
Automatic波形比較


First Love
Firstlove波形比較


ご覧のように、当時のCDではガチガチの海苔波形でしたが、今回のハイレゾ版では余裕を持った記録レベルとなっています。


ちなみに、CD版の波形を拡大してみるとレベルオーバーによるクリップを生じていました。
AutomaticCD波形クリップ

これは聴感上、音割れとして聴き取ることが出来ます。ところどころボーカルの音がバリッっと鳴っているので聴いて確認してみましょう。比較的小音量だと分かりやすいです。

ハイレゾ版ではクリップによる音割れが無くなっていますのでこの分高音質となっています。しかし全体的にクリアーでおとなしめの音質なので、個人の好みによって評価は分かれているようです。


個人的には、CD版の波形に対してiZotope RX3のdeclipツールでクリップ波形の補正をした音が、一番好きな感じでした。キックドラムの音がビシッと、押してくる感じが心地良かったです。
AutomaticCDdeclip.png





さて、続いては問題の記録周波数領域についてのチェックです。
サンプリング周波数96kHzのフォーマットでは理論上、可聴域を超えた48kHzまでの信号が記録可能です。
しかし、この音源に関して有効な記録成分は20kHz近辺留まりであることが確認できました。

Automaticスペアナ全体

スペアナおよびスペクトログラムの波形からわかるように、おおよそ20kHzを超えたあたりからガツンと信号が落ちており、有効な信号が含まれていないことがわかります。


この周波数分布の波形を、CDとハイレゾで比較してみます。
黄色がCD、白がハイレゾです。
AutomaticスペアナCD比較

どちらの音源も記録された周波数帯域は20kHz留まりであり、ハイレゾ音源のサンプリング周波数96kHzというスペックは有効に活用されておらず、CD音源と同等であるといえます。


ハイレゾ音源の記録帯域が十分に伸びていない理由については、このような原因が考えられます。

音源の売り文句としてはアナログハーフインチテープからリマスタリングといわれています。アナログテープには減衰しつつも100kHzくらいまでの信号記録ができるのですが、マスターテープ以前の段階の問題が考えられます。
この楽曲が作られた当時のレコーディング環境はハイレゾではなく、サンプリング周波数48kHz程度のものが主流でした。よって、20kHzを超える高域に関してはレコーディングの段階ですでに切り落とされて無くなってしまっていると考えるのが妥当です。

ハイレゾ音源の形式である96kHz 24bitに対し、最初の段階でそれに満たない48kHz 24bit程度の形式で録音された経緯のある音源、果たしてこれをハイレゾ音源と呼んでいいのでしょうか?

リマスタリングの作業としては、元の音源に20kHz以上の信号が含まれていなくとも、音質面で96kHz以上のサンプルレートで完成させる意味があるという意見もあります。

一方で、購入側としては48kHzの成分まで録音できる形式で販売するにも関わらず、一旦、それに満たない形式で録音されて高域成分が失われたのでは詐欺まがいじゃないかという意見も。


例えばCDのデータを単純にアップサンプリングしただけの音源は「ニセレゾ」と呼んで異論はないと思いますが、こういったように販売する形式(96kHz 24bit)を十分に活かすことなく48kHz 24bit相当のデータしか記録されていないような音源は正当なハイレゾ音源なのか、それともニセレゾなのだろうか? これは意見が分かれると思います。

MP3ファイルからCD作って売るなよ。というのと一緒でことわりがない限りNGだと考えているのですが、いかがでしょうか。


私の場合は色々なツールで確認や検証をすることが出来ますが、一般のプレーヤで再生する限りは、超高域成分まで含まれたハイレゾ音源であるかどうかを確かめる方法がありません。

現状ではサンプリング周波数が高いからといって、高い周波数まで記録されている保証は無いということです。

今後、販売される音源について、どのような機器を使い、どんな方式で作られたハイレゾ音源なのか、明示していくことが必要だと考えます。


ちなみにですが、今回の宇多田ヒカルの音源についてはハーフインチのアナログテープから一旦192kHzサンプリングで取り込み、最終的に96kHzサンプリングにしているとのことです。しかしながら周波数分布を見ると、これに関しても疑問が残ります。


最初のスペアナ波形では、曲全体の平均を表示していましたが、部分的に拡大してみると20kHz以上の成分は微小ながらも信号が存在します。しかしそれは音楽成分ではなく、途切れ途切れのノイズのような波形です。
おそらくこれは、コンプレッサーの動作や、記録や伝送段階での信号路の非直線性によって生まれた成分だと思われ、音の大きな部分に発生しているようです。
Automatic高域スペクトル


そこで、First Loveの最後のフェードアウトの部分に注目してみます。
Firstloveフェードアウト

無音に近い部分において、可聴内には少なからず信号があるにもかかわらず、20kHz以上では-140dBFSと、全くもって信号が存在しないような状態にあります。

アナログテープの再生では無音部分でもサーというヒスノイズが少なからず発生するものです。いくらハーフインチの高性能なテープレコーダーと優秀なADコンバータを用いたとしても、ここまでノイズが少ないというのは違和感があり、しかも20kHz程度を境に一気に落ちる理由が考えられません。

以下は、1/4インチアナログのフルトラックで15ipsで無音部分を再生したときのノイズ分布です。
NAGRAヒスノイズ


低域はハムノイズ駆動系のノイズ? および、テープの再生イコライザによるカーブとみられます。
高域に関しては20kHzを超えるにつれて減衰しつつもなだらかに続いていることがわかります。
※高域のツノは測定環境に依るものなので無視してください。

実際のレコーディングで用いられたレコーダはもっと高性能なものですが、いくらそうとはいえ、いきなりガツンと落ちきるのはやはりおかしい感じがします。いくらなんでもヒスノイズが少なすぎます。

何がいいたいかというと、アナログマスターを再生した以降にも、サンプリング周波数48kHz程度のデジタル変換が行われているんじゃないかということです。


制作段階でアナログテープを使用しているという点については、おそらく間違いないといえるでしょう。理由は低域にアナログテープのようなノイズ成分があることや、First Loveの曲頭にテープの転写によって残ってしまったと思われる1kHzの基準信号がうっすらと残っていることからです。
Firstlove1kHz.png

ここでも20kHzを超える部分でノイズレベルがガクンと落ちています。やはりアナログマスターテープ再生をハイレゾで録音した結果とは思えません。


いったいどんな経路で制作されたハイレゾ音源なのか、謎は深まるばかりです。
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