<< 前の記事 | アーカイブス トップへ | 次の記事 >>
時論公論 「原発事故3年 廃炉への遠い道のり」2014年03月12日 (水) 午前0時~
水野 倫之 解説委員
福島第一原発で増え続ける汚染水の管理の心臓部、「水処理制御室」。先月、モニター画面からタンク満水を知らせる警報音が鳴り響いた。しかし、生かされることなく100tもの汚染水が漏えい。
原発事故から3年、現場では作業ミスが続き、汚染水の漏えいも止まらず、福島の人たちに不安を与え続けている。
私は廃炉に向けた取り組みを見るため、福島第一原発を取材。現場で何が問題になっているのか、今夜の時論公論は廃炉への課題について。
事故直後は激しく壊れた福島第一原発、3年がたち、ガレキもかなり撤去された。カバーが掛けられた4号機では、使用済み燃料の取り出しがほぼ計画通り。しかし順調なのはこれくらい、40年かかるとされる廃炉全体の工程からみれば、まだまだ入り口に立ったにすぎず、なかなか先に進めない。
最大の支障となっているのが大量の汚染水。
福島第一原発では地下水が建屋に入り込み、汚染水が毎日400tずつ増え、タンクも1000基超。
そのうちの1基から先月、100tの汚染水が土壌に漏れる事故。
汚染水はストロンチウム90の海への排出基準の300万倍と極めて高濃度で、この日は現場に近付けなかった。
東電によると、汚染水をタンクに入れる際に、同じ配管につながる予定外のタンクに流れて、蓋からあふれた。本来開いているはずの目的のタンクの弁が閉められていた上に、閉まっているはずの別のタンクの弁が開けられていたことが原因、誰が開けたのか、ミスなのか故意なのかもいまだに分かっていない。
それよりも問題なのは、異常が検知されていたのに漏えいを防げなかったこと。
去年タンクからの漏えいが相次ぎ、東電は見回りを増やしたり全てのタンクに水位計をとりつけるなど監視体制を強化、今回、満杯を知らせる警報も鳴った。
にもかかわらずなぜ漏れたのか。
背景にあるのはトラブルの教訓が生かしきれていない東電の甘い作業管理体制。
当日警報が鳴った汚染水の制御、監視を「水処理制御室」を取材。
トラックのコンテナを改造した設備、長時間作業ができるよう壁を鉛で遮蔽して空調で放射性物質も除去し、マスクなしで作業可。
タンクを監視する制御盤は奥に。
事故当日、まず画面で満水警報が鳴り、連絡を受けた東電社員は作業員を現場に向かわせた。
しかし作業員が確認したのは漏えいの有無だけ、実際にタンクの水位は確認せず。東電は水位計の故障と判断、水位上昇が見逃された。
もう1点、画面には、目的のタンクの水位が上昇していない、つまり汚染水が入っておらず別のところに流れている可能性を示すグラフも表示。しかし作業員は継続して見ておらず、異常が見逃された。
画面やタンクの監視は協力企業の作業員、規則違反があったわけではない。
警報が鳴った際、作業員が何を確認すべきなのか、東電は明確に決めていなかった。
また制御室での汚染水のデータの採り方や監視方法についても作業員に明確に指示しておらず、対応は作業員任せ。
東電はトラブルを受けて様々な機器やシステムは整備したが、それで安心してしまい、異常に対して鈍感に。システムを有効に使いこなすために人がどう対応すべきかという点が完全に抜け落ち、作業管理が極めて甘くなっていた。
事故によって作業員は汚染した土を除去するなど余計な作業が増えて、疲弊。
放射線を出す危険なものと向き合っているんだということを再認識し、心構えも考え方も変えなければ。
まず警報が出た際に何を確認すべきなのか、また制御室でどんなデータをどう監視するのかをマニュアルなどで明確にし、監視の体制についても再検討する必要。
取材に訪れた時、1000基に上るタンクの制御室での監視は作業員2人だけで行われていた。
警報は誤報も含めて頻繁に鳴るほか、監視すべき項目はたくさんあり、今後もしばらくタンクは増える。
監視にあたる作業員を増やし、監視方法をしっかり教育して、異常の兆候を見逃さない体制を作っていかなければ。
そしてもう1点重要なのは、タンク以外の作業管理体制も、この際あらためてチェックすること。
というのもこの1か月、現場では作業ミスが相次いで。
先月、2号機の原子炉の温度計の点検で、作業員が電圧をかけすぎて故障。マニュアルに電圧の記載なし。温度計は残り一つとなった。
また4号機の使用済み燃料プールの冷却が一時止まるトラブルも。地面に何が埋まっているのかよく確認しないまま掘削を行い、電源ケーブルを誤って傷つけたことが原因。
現場ではちょっとしたミスが重大な事故に発展しかねない。東電はタンクだけでなくすべての作業について事前に何を確認すべきなのかあらためて点検しなければ。
また政府も汚染水対策で前面に立つことを約束したわけだから、技術的な支援にとどまるのではなく、東電が作業管理体制をきちんと改善したかどうか厳しくチェックすることが求められる。
次に向かったのはメルトダウンを免れた5号機。廃止が決まったが今後の廃炉作業に向けて重要な役割。
これまで見てきた汚染水対策は、廃炉の入り口。最大の難関は1号機から3号機の格納容器に溶け落ちた燃料の取り出し。しかし依然として強い放射線と汚染水に阻まれ建屋に入るのも困難、どこにあるのか全くわかってない。
東電は今後ロボットを入れて調査する予定、ほぼ同じ構造の5号機で、開発や作業員の訓練を進めることに。
この丸い入り口から先が格納容器。原子炉はさらにこの狭い入口の先。見えているのは原子炉の下に伸びる制御棒を動かす装置。燃料はここから溶け落ちたと見られるが、このあたりは様々な機器や配管が入り組んで非常に狭く、ロボットの活用も簡単ではないと感じた。
そこで全く新しい方法で建屋の外から溶けた燃料の位置を把握する研究も。宇宙から降り注ぐ、物質の最小単位の素粒子の一種、ミュー粒子を使う方法。ミュー粒子は燃料のウランのように密度が高い物質ほど吸収されやすく、建屋の外に測定器で、エックス線のように内部を見ることができる。
日本の研究グループが去年、試験的に東海第二原発の建屋で計測したところ、燃料がプールに置かれている事が確認できた、グループでは福島第一原発にも応用できると。
政府と東電は溶けた燃料の回収を2020年から始める計画。しかし世界でも初めてのことが多く、具体的な方法にメドが立っているわけではない。
まずは現場の作業管理体制を見直した上で汚染水対策を進め、こうした最新の研究成果も積極的に取り入れるなど国内外から知見を集め、廃炉に向けた作業方法の確立を急いでほしい。
(水野倫之 解説委員)