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 東京電力福島第一原発事故の被曝(ひばく)で、福島県の子どもに甲状腺がんが増えるのか。結論はまだ出ず、不安は続く。

 ■がん検査、前例なく手探り

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 福島県喜多方市の喜多方プラザ文化センターに2月下旬、就学前の子どもを連れた男女や、高校生が次々とやってきた。福島第一原発事故の影響を調べる甲状腺検査を受けるためだ。
 ついたてで仕切られたブースには、超音波検査器とベッド。枕元にはぬいぐるみが置かれている。母親と一緒に入ってきた4歳の男の子は、自分でベッドに横になった。 福島県立医大の緑川早苗准教授(放射線科)が、温めたジェルを男児の首に塗ると、男児は歯を食いしばった。緑川さんは男児の首に器械を当てて、モニターを見ながら動かした。時間は2分足らず。「よく頑張ったね」と声をかけると、男児は「はぁ~」と息を吐いた。くすぐったくて、噴き出さないようこらえていたのだ。
 子ども1人につき8枚の写真を撮る。画像を県立医大に持ち帰り、複数の医師で診断する。迷う時には、外部の専門委の意見も聞く。検査結果が本人に郵送で届くのは約2カ月後だ。
 「子どもたちの被曝のことを考えると、不安が尽きない」。福島県浪江町から避難し、二本松市内の仮設住宅で暮らす女性(48)は打ち明ける。
 3人の子どもが初めて甲状腺検査を受けたのは2011年秋。全員、しこりなどがない「A1」判定だった。翌年、県立医大の協力で浪江町が独自に実施した検査では、次女(11)は5ミリ以下のしこりなどがある「A2」に変わった。
 県は「A2も健康上問題ない」と説明しているが、女性は「心の底からは安心できない」と話す。次女を不安にさせたくないので、平静を装っている。
 原発事故直後、女性は子どもを連れて山あいの浪江町津島地区に避難した。原発から放射性ヨウ素などが風に乗って流れ、線量が高くなっていた。しかし、政府は放射線の予測データを公表しておらず、多くの町民が避難していた。滞在したのは1日だけだったが、「線量の高いところに避難してしまった」と悔やむ。
 チェルノブイリ原発事故では、被曝の影響として明らかに増えたのが、放射性ヨウ素による子どもの甲状腺がんだった。それをふまえて、福島県は11年秋に甲状腺検査を始めた。
 対象は、事故当時、県内にいた18歳以下すべて。約37万人に上る。原発周辺地域からスタートし、今年3月末で全域を1巡する。4月以降は2巡目とともに、事故当時に胎児だった子どもの検査が始まる。
 昨年末時点で約27万人が検査を受けた。5割近い子どもに2センチ以下ののう胞(液体の入った袋)や、5ミリ以下の結節(しこり)があった。もっと大きなのう胞や結節があったのは約1800人。詳細な超音波検査などをして、75人ががんの疑いと診断された。
 34人が手術を終え、1人は良性と確認され、33人はがんだった。やや悪性度の高い可能性が1人にあるが、32人は悪性度の低いタイプだった。疑いがあるとされた残り41人のうち、経過観察の2人を除く39人は、いずれ手術を受ける見通しだ。
 症状のない子どもの甲状腺を精度の高い超音波機器で網羅的に調べたことがなかったため、いま見つかっているがんが多いのか少ないのかはわからない。
 県は1巡目のデータを基本にして、今後、がん発生が増えるのか調べていく。だが、放射性ヨウ素は半減期が8日と短いため、子どもの甲状腺被曝量はほとんど調べられなかった。県の検討部会では「がんが増えても被曝の影響だと結論づけられないのでは」(渋谷健司東大教授)との指摘も出ている。
 チェルノブイリ原発事故に比べて被曝線量が低いとみられる福島では、影響が出るとしても何十年も先になる可能性もある。

 ■比較のため、県外検査検討を

 福島県の子どもの甲状腺検査は、受診率が8割に達する。福島第一原発事故の被曝による我が子の健康への影響に、保護者が大きな不安を抱いていることを示している。
 県は1巡目の結果を被曝の影響ではなく、子どもに自然に発生する甲状腺がんのデータととらえている。個人のがん細胞を調べても、放射線が原因なのかはわからない。2巡目以降、甲状腺がんの発生率の変化をみて放射線の影響の有無を判断する計画だ。しかし、それだけでは被曝の影響と科学的に証明できない。 チェルノブイリ原発事故では、甲状腺被曝線量のわかっている住民が子どもを含め31万人近くおり、線量とがん発生率を比較して被曝の影響を確定できた。一方、福島では甲状腺被曝線量がほとんど不明だ。
 「被曝していない福島県外の子どもで大規模な調査をして比較すべきだ」と指摘する海外の専門家もいる。だが、甲状腺がん検査は過剰診療につながるリスクがあり、環境省や県は難色を示す。県は、県内で外部被曝線量の低い地域の子どもと比較して判断できるか探ると言うが、国連科学委員会はチェルノブイリ原発事故で「外部被曝と甲状腺被曝線量には相関関係はない」と指摘している。
 福島の子どもたちが将来にわたって、被曝の影響があるのかわからないままにしてしまうのは適切でない。県や環境省は、県外での検査も検討すべきだ。
 (大岩ゆり)

 ■行政と住民、1ミリシーベルト巡る綱引き

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 福島県内では、除染目標の年1ミリシーベルトの達成を求める声が根強い。
 しかし、除染でそこまで下げるのが難しい場所も少なくない。政府が帰還条件を20ミリシーベルトのまま据え置き、「1ミリ」を長期目標とするのはそのためだ。
 政府は昨年12月には、空間線量から推計していた被曝の把握を、帰還した住民一人ひとりに線量計を持ってもらい、自ら測定する方式に転換した。個人線量計で測った方が推計値より低い傾向があり、実質的に目標達成が容易になるからだ。
 自治体には、目標値を緩和せざるを得ないとして、独自の動きを見せるところもある。全村避難が続く飯舘村は、年5ミリシーベルト以下を当面の帰還の条件とした。年1ミリ以下を条件にすれば、希望してもなかなか帰ることができなくなってしまう。伊達市も、年5ミリシーベルトを超える住宅地だけを除染する計画だった。
 しかし、国や自治体の対応は必ずしも住民に受け入れられているわけではない。伊達市長は今年1月の市長選を前に、線量にかかわらず希望する全世帯を除染する方針に切り替えた。住民の1ミリへの強い要求に動かされた形だ。
 (野瀬輝彦)

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