ハイドライド誕生秘話


山下:
内藤さんがT&Eで作られたのって、『ハイドライド』の前になると……『パラノイア88』?
内藤:いや、あれは僕じゃないです。『コスモミューター』。
山下:あ、『コスモミューター』だ。そうそう。
内藤:『パラノイア』はデバッグしただけなんで。よく覚えてますね、『パラノイア』。
山下:『パラノイア』、覚えてますよ〜。
内藤:幻の名作。T&E何とかアクションゲームシリーズ第一弾とかいって。
山下:あれ、そんなの付いてましたっけ?
内藤:で、『パラノイア』、『コスモミューター』と出てその後続かなかったという……。最初にやった仕事は『暗黒星雲』(スターアーサー伝説II)のお手伝いです、PC-8801版の。
山下:あぁ〜、はいはい。
内藤:その後『コスモミューター』を三ヶ月で作って、「好きにやれや」って(上司に)言われて、実質プログラムは三ヶ月位で『ハイドライド』作っちゃったんです。
−:“構想一年・制作三ヶ月”、でしたっけ?
内藤:いや、確か“構想一年・制作六ヶ月”って言ってたかな? でも本当は全然構想なんて無かったんですよ。
山下:(笑)
内藤:だって、私が入って一年経たずに出来てるんですもん。
−:本当は、構想?
内藤:三日位ですか(笑)。
山下:三日(笑)。でも、どういうところから発想されたんですか、『ハイドライド』は。
内藤:ねぇ。不思議ですよね。
山下:不思議です。
内藤:何故でしょうねぇ、今から考えると(笑)。
山下:実際に“アクティブ・ロールプレイングゲーム”っていうそれまでに無かったジャンルを確立しましたよね。
内藤:そうですね。当時、(ロールプレイングの)コマンド入力が嫌いで、アクションとかシューティングゲームが好きだったんですね。
山下:はいはい。内藤さんはシューティングゲームの腕前もかなりのものでしたもんね(笑)。
内藤:で、ある日ナムコさんの『ドルアーガの塔』をやって、もっとリアルタイム性を持たせられるハズだ、と思ったのと、あと『ブラックオニキス』っていうゲームをやって。(『ハイドライド』の)メーターあたりに影響受けてるんですけど。
山下:なるほどねぇ〜! あ〜、今語られる真実(笑)。
内藤:で、ああ、イイなぁとか感じて。ロールプレイングってこんな感じなのかと思って。でもあの当時、実は『ブラックオニキス』ってちょっと方向性の違う、正統派からズレたロールプレイングだったと思うんですけど……ますます正統派からズレちゃって。気が付くとこんなゲームに。
山下:『ブラックオニキス』って『ウィザードリィ』の流れを受けたタイプだと思うんですけど、『ハイドライド』って見た目は『ウルティマ』っぽい画面で、でもアクションやらせちゃって。…っていうところで全然違う、新鮮な感覚を当時受けた覚えがありますね。

ゲーム雑誌黎明期


山下:
この頃は、今みたいにもちろんインターネットなんてなかったですし、ゲーム雑誌もほとんどなかった……『ハイドライド』の1の頃なんて、『ベーマガ』と『I/O(アイ・オー)』、『ログイン』……それに『Beep』くらいしかなかったじゃないですか。
内藤:あと『テクノポリス』?
山下:ほとんど無かった。そう考えると、(ゲームに)ものすごく詰まったコ達が行き場を無くしてしまって、「どうしたら進めるんだろう」っていうので、当時僕がやってた“レスキュー”っていうコーナーに、すごい量の『ハイドライド』のハガキが来たのを覚えてるんですけど。T&Eさんの……内藤さんのところもすごかったんじゃないですか? 質問とか問い合わせとか。
内藤:いや、問い合わせとか来ない様になってたんで。
山下:T&Eさんのところには行かなかったんですか?
内藤:いや、それはわからない。当時、開発の場所と営業の場所が違ってたんですよ。それでまったく分からなかった。
山下:そうだったんですか。でもすごかったと思いますよ〜。
内藤:そうでしょうねぇ。私は一人ノホホンとしてましたねぇ(笑)。
−:そういえば、当時はマニュアルの最後に「わからない時は」っていうのがついてましたよね。
内藤:あぁ、ヒント集。あれも応募すごかったですね〜。あのヒント集、どうしようかと思った挙げ句、小説にしちゃったんですよ、すごく長い。ジム君の冒険のスタートから終わりまでを小説にドォ〜っと書き連ねて。なんかデカイ紙一枚に。どこがヒント集やねん、って(笑)。

『ハイドライド』、プログラマ内藤という存在


山下:
でもこのゲームに感化されて、ゲーム作りをしよう、と思った人は多いんじゃないでしょうか。
内藤:だと嬉しいですけどね。
山下:このゲーム、ていうより内藤さんという存在ですよね。“内藤時浩”っていう存在に憧れて、プログラマになろうと思った人も多いと思いますよ。
内藤:で、本人に会うとバカヤロウ、って人も多いですけどね(笑)。
山下:いやいや(笑)。
内藤:実際、T&E SOFTの開発部にも何人かいましたからね、そういう人が。
山下:内藤信者。
内藤:ええ、だいたい三ヶ月で現実像にぶつかって、ガラガラと崩れ落ちては去っていくんですが(笑)。
−:でも今もウチの会社にいますよ、内藤さんに憧れて、っていう人は。
山下:やっぱりプログラマって真面目で、物静かな人が多いじゃないですか。ですから、ぜひ内藤さんのキャラクタも受け継いで欲しいですね。
内藤:不真面目で……。
山下:いやいや、楽しくて、という意味で(笑)。
内藤:楽しくて。難しい言葉ですね(笑)。
山下:一緒にいて楽しいですよね、すごく。内藤さんって。
内藤:そうですか?
山下:そういう人間性の部分を真似して欲しいですね。一部真似しちゃいけないところもありますけどね(笑)。
内藤:山下先生はですね、私の弱みを結構握っていますからね。
山下:そうですか?
内藤:あ、忘れてます?よかった。
山下:でもちょっと心当たりありますケド。
内藤:私も一個か二個握ってる気がします。
山下:そういえばちょっと関係ない話で面白いのがありまして。昔、福岡の流通業者さんで、若い方二人が私と内藤さんを飲みに連れて行ってくれたんです。それで、スナックかなんかで一人がベロベロに酔っちゃって、木刀を取り出して「内藤さん、受けてください!」って言って振り出したんですよ。内藤さんも酔ってて、「真剣白羽取り!」とかやってたんですけど、だんだんエスカレートして「じゃあこれは出来る?」って速くなってきて、最後は本気でガーン!と額に当たったんですよ。スゴイ事件でした。
内藤:ちょっと痛かったです(笑)。
山下:問題ですよね、呼んだお客様を木刀で殴ったという(笑)。
内藤:飲むとアブナイ事件は多かったですけどね〜。

シューティングを作りたい?


山下:
今回これ、『ハイドライド』だけですけど、『II』とか『3』とかもやる計画あるんですか?
内藤:実は今、www.tes.co.jp(T&E SOFTのホームページ)に行くとですね、「次の作品をキミが決めるんだぁ〜っ!」ってコーナーがあってですね。
−:投票してもらってるんです、ユーザーさんに。
山下:へぇ〜、どれが多いですか?
−:基本的には『ハイドライド3』が多いですが……この間、組織票が来たんですよ、家族の名前で。スゴイのがありまして、10歳の子供が「昔やりました」とかいって『レイドック』なんですね。嘘つけ!生まれてないじゃねーか!って(笑)。
内藤:私も『レイドック』に投票しようかなぁ〜。『レイドック』いいなぁ、オープニンググラフィックのままで動いて欲しいですねぇ〜。今なら余裕で動きますよね。
山下:内藤さんにもう一回シューティング作って欲しいですね。
内藤:実は作ったんですよ、サターンで。
山下:作ってるんですか?
内藤:作ったんです、発売されませんでしたけど。
山下:へぇ〜、見たかったですね。
内藤:ヘンなゲームですけどね。BASICで作ってあるんです。
山下:内藤さん、でも『グラディウス』上手かったですよね。
−:ビデオゲーム版ですか?
内藤:X68000版です。一度彼の家に遊びにいってですね、「ぜひ100インチのモニターでやりたい」って盛り上がったんですよね。
山下:僕も結婚する前は一人で気楽だったんで、広い部屋の100インチ・プロジェクターに、X68000が写る様になってたんですよ。それで『グラディウス』とか、スーファミの『F-ZERO』とかやって一人悦に入ってたんです。だけど、結婚するとそんな贅沢は出来なくなっちゃって。
内藤:今でも120インチのモニターがあります。
山下:うぅ〜贅沢です、あなたは(笑)。