IT断食で増益の企業、なぜ増加?スマホやPC導入がもたらす“甚大な”経営的損失
「昭和な会社」を再評価する動きが高まっている。「Thinkstock」より
スマートフォン(スマホ)をやめたら月額5000円の「反スマホ報奨金」を出すのは、岐阜県の機械部品メーカー、岩田製作所。社員に対する新聞購読補助制度もあり、月1回、新聞記事の感想文を提出すれば、月額2000円が給料に上乗せされる。
「朝9時30分まで会社のパソコンの電源が入らない」というのは、埼玉県の電機メーカー、キヤノン電子。朝6時45分に出社した部長はパソコンに頼らずに、社長、部下との対話を行う。
東京都渋谷区のIT企業、ドリーム・アーツでは「社内向けのCC(同報送信)メールやパワーポイントの資料作成」を禁止している。
「日経ビジネス」(日経BP社/2月17日号)では、『昭和な会社が強い スマホ・パソコンを捨てる』という画期的な特集企画を組んでいる。「社員の机にパソコンはなく、業務連絡にメールは使わない。携帯端末の支給もなく、取引先とはファックスでやりとりする」……こうした昭和的な社内の仕組みは、平成に入ってから「業務効率」や「社員の意欲向上」などの理由により職場環境の改善がなされ、ほぼ絶滅した。
しかし、本当に日本の職場は「あの頃」より効率的に、働きやすくなったのだろうか? IT化で社内の対話がなくなり、知(ナレッジ)の共有ができなくなる恐れが高まっているのが今の日本の職場だ。
●反ITで高収益
一方で、時代遅れにも見られがちな反IT経営に乗り出した企業は、収益性が高い傾向にあるとの報告がある。
例えば岩田製作所では、かつては休憩時間の工場脇のベンチはくつろぎの場所であるとともに、製品開発のアイデアの源というべき場所だった。ところがスマホ時代を迎え、ベンチはゲーム、メールというスマホのための場所になってしまった。営業マンの成功事例の共有も減少、コミュニケーション力も思考力も低下し、このままではスマホに会社が潰されてしまうと考えた社長は反スマホ経営を打ち出したのだ。
キヤノン電子の社長は「ITに関しては厳しいルールをつくらないと、社員は必ず易きに流れてしまう。(パソコンの)電源が入れば部長は私の指示をメールで部下に送ってしまう」とITには厳格な規制を打ち出し、1999年度に1.5%だった売上高経常利益率が、2013年度には12.9%まで改善したのだという。
同社にはIT化の弊害に悩む企業からの視察が相次ぐが、「ある中堅会社では、友人とのメール交換やネットサーフィンなどで時間を潰し、わずか3分しか働いていない女性がいた。またあるサービス系企業では1日50通以上のラブメールを交換しているカップルもいた」と社長は明かす。パソコンの業務外利用によって、年間1億100万円の損失が発生した中堅商社もあるのだという。
ドリーム・アーツでは、パソコンを導入すればするほど、「新規のプロジェクトや新しい受注があるわけでもないのに、社員がなぜか忙しそうに働いている」ことに気がついた社長は徹底的にIT断食に乗り出した。会って話せば1分で完了するコミュニケーションが、メールでは何倍も時間がかかる。しかも、部下はCCメールを送っただけで責任回避のツールとなり得るが、幹部クラスになれば、大量のCCメールの中から重要なメールを探すだけでも余計な時間がかかってしまう。また社内向けにパワーポイントで凝った資料を作成する時間は、顧客訪問に充てるべきとして、パワポによる資料作成を禁止した。こうしたIT断食の結果、競争激化の業界にあって13年12月期は前期比3割増を達成したという。社長は「安易なITの導入こそが業務効率を悪化させている」という結論にたどり着いた。
●「IT化=効率化」ではない
特集記事は「平成に入って以降、効率化の旗印の下、急速に進んだ『昭和』の排除。だが、一部の大企業で部分的昭和回帰が始まっているように、その中には、今の日本の閉塞を打ち破るような知恵も少なからず含まれている。『新しいものは良いもの』と盲信し、そのすべてを捨ててしまうのは、もったいない」とまとめている。
今年に入って経営者サイドの視点が多かったはずの「日経ビジネス」が面白い。経営者サイドの視点は変わらないが、労働者の立場にも配慮した特集を組んでいるのだ。
同誌2月10日号の特集『働き方革命 「“超”時間労働」が日本を救う』では、「長時間労働こそが美徳」という日本社会の労働意識に疑問を投げかけ、同誌2月24日号の特集『賃上げ余力 格付け500社 あなたの会社はもっと払える』では、「ベア1%では足りない。厚生年金保険料の引き上げに消費増税といった環境を考えれば、数年間3%の賃上げが必要だ」と提言しているほどだ。
たしかに、労働者にとって働きやすい環境は、企業にとっても理想だ。そのために必要な効率化とは、IT化一辺倒ではないはず。ブラック企業、モンスター消費者などの現在の問題を解決するキーワードの1つが「昭和な会社」なのかもしれない。
(文=松井克明/CFP)
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