麻帆良学園 三学期末試験 二日前
放課後の屋上に話し声がする。
夕日を眩しそうに眺めながら、横島は困った様に笑い、
「ネギ達は、如何やら問題ないらしい、期末までには帰すってよ」
溜息混じりに、そう言った。
横島の隣で、屋上のフェンスに寄り掛かりながら、雪乃は横島の報告を聞いていた。
「問題ない、期末までに返す……、って事は……」
「まあ、これもネギの課題の一部なんだろ? 『ネギ君のためじゃよ……』 とか言ってたぞ」
まったく……、と、もう一つ溜息。
「でも、あいつらが図書館島に行ったのは偶然なんだろ? 仕込むにしても時間が……」
疑問を口にする、雪乃。
「……、ゆえちゃんに、読めば頭が良くなる本、とか言う情報を掴ませたんだと、大学部とか高等部の図書館島探検部連中に噂を流して……」
「……、あんの狸爺……、性質わりぃな……、と、言う事はかなり前から仕込が……?」
「まあ、そう考えるのが妥当だろうなぁ……、と、まあ、そう言う事らしいから、せつなちゃんも、いいね?」
と、横島は後ろを振り返る。
そこには、スカートの裾を握ったまま項垂れる、桜咲刹那がいた。
「でもこのちゃ……、お嬢様がっ!」
「まあまあ、心配ないって、学園長だって自分の孫を危険に晒す事なんてしないだろうし」
「…………」
唇を噛み締める。
――このちゃんがいなくなった事に気が付かなかったなんて……!
「……、まぁ、期末まではこのかちゃんの事より、テストの事でも考えといてよ……、最近成績落ちてるぞ〜?」
刹那が俯いてるのを見た横島が、おどけてみせる。
「ですがっ!」
「いいから、このかが戻ってくるまで、護衛の事は考えねぇで休めよ」
時々は息抜きしねぇと、護れるものも護れなくなるぞ?
と、雪乃。
ぶっきらぼうな物言いだったが、言葉の底には優しさが滲んでいる。
「…………、はい……」
しぶしぶ、と、言った様子だったが、刹那は頷いた。
「はいっ! じゃあ、この話はおしまい! 何処かで何か食べてから帰るか? 五百円までなら奢らんでもないぞ?」
「おっ! いいねぇ、その話、乗ったぜ!」
「……、私は……、お気持ちは嬉しいのですが……、帰ります……」
刹那はそう言って、踵を返す。
「そうか〜、残念やな〜……」
「んだよ、来りゃぁ良いのに」
横島と雪乃は、刹那の背中に声を掛ける。
と、刹那が振り返る。
「……先生の言う通り成績が下がってますので、帰って勉強します」
ぎこちなく笑う刹那。
それでは、と、屋上を後にする。
ぎぃ……、ばたん……!
「……、はぁ……」
重い扉が音をたてて閉まると、横島は溜息を吐いた。
「なあ」
「んぁ?」
「如何思う?」
「間違いないと思うぜ、俺は」
「やっぱりそう思うか?」
「そう思わん方が不自然だろ? あの様子じゃあよ」
「……勿体無い」
「……ん?」
「だって! 間違いないんだろう!? 『百合』にっ!」
「……は?」
「あと五年! 否、四年!! もう一声! 三年!!」
「……、はぁ……」
「そう! 後三年経てば、せつなちゃんは誰もが振り返るような美人になっているだろうに……!」
「…………」
「だのに!!「うるせぇ」ぷぎょっ!?」
雪乃の『何故か赤い拳』が、横島の顔面を捉えた。
「阿呆か……、俺が間違いないって言ったのは、せつなが図書館島に向かうだろう、って事だよ……」
なんでそんな話になるんだよ? と、雪乃は肩を竦める。
「……つまり……、せつなちゃんは『百合』ではな「殴るぞ」ぐぴょっ!?」
再度、雪乃の『何故か赤い拳』が、顔面に突き刺さる。
「も、もう殴っとる……」
「今のは宣言だから良いんだ」
雪乃はしれっと、そう言ってのける。
「いてて、ったく、何でいちいち魔装術を使って殴るんだよ……」
しかも、局所的に展開なんて高度テク使いやがって……。
「うるせえよ、普通に殴ったらこっちが拳、痛めるんだよ……、無意識でサイキックソーサなんかだすなっ」
なんでそんなに防御だけ上手くなってんだてめぇは、と、雪乃は吐き捨てるように言う。
「本当に無意識だかんなぁ、俺も今じゃ、『危なくなったらサイキックソーサをだそう!』 とか、自己暗示してるわけじゃねぇし……」
「性質わりぃ……」
なんと! 横島は、僅かな霊力にも反応して、サイキックソーサを無意識に展開することが出来るのだ。
ちなみに、日に日に酷くなる美神の霊的折檻に対応策を! と、小竜姫に相談した結果、体得したものである事は、秘密である。
しかし、霊力に反応するように修行をして来た為、この世界の魔力に反応しない。
そう、実は雪乃にしか効果は無かったりする。 しかも貫通力の高い雪乃のパンチにはあまり効果を発揮しない。
つまり、この世界では、ほぼ無駄能力である。
「……、まあ、せつなちゃんの気持ちも解るけどな……」
夕日が落ちる様子を見て、横島は表情を変える。
普段絶対に見せないような、そんな横島の表情。
遠くを見据え、届かないものを見るような……、悲しそうに、しかし、嬉しそうに夕日を眺め続ける。
ドキッ!
「……行き成り真顔になるなよ……」
吃驚するじゃねぇか……、そう言って、雪乃は顔を逸らす。
どれだけそうしていたのだろうか? 一時間だったのか、数分だったのか、二人は並んで夕日を眺めていた。
「……、沈んじまった」
「…………ああ」
真っ赤な夕日が沈み、空は、星が瞬く、夜空に成った。
雪乃は終始無言で横島の隣に居るだけ、それだけだった。
「よし、じゃ、いくか? この時間じゃ夕飯になっちまうけど」
「そうだな、横島の奢りだしな、……千円分」
ぼそっと、聞き捨ての成らない事を呟く雪乃。
「なんでじゃ! 一人五百円までって言ったろーが!」
「いいじゃねーか、せつなの分だよ、せつなの分! 俺がせつなの分、食ってやるんだよ」
「おまっ! ありえんぞ、それ!?」
…………
………
……
ぎゃぁぎゃぁと、言い争いながら屋上を後にする、二人。
横島の憂いを帯びた笑顔は、まるで幻だったかのように、消えていた。
ちなみに、その後横島は、夕飯に入ったファミレスで『DX! チョコレートサンデー』(980円)を、含む、1780円を、雪乃に奢らされたのであった。
魔装生徒!
ユキま!
第九話
――麻帆良学園 三学期末試験 当日
横島は、試験監督を任された教室の窓から、外を眺めていた。
「あー、あいつら、寝坊かぁ?」
今から、十五時間前。
〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜♪
横島の胸ポケットで携帯が鳴る。
「お、わりぃ、携帯……、コレ持って? ……時を越〜えて、君を愛せるか♪ 本当〜に君を、守れ〜るか♪ っと、何だ、早乙女か」
隣を、歩いていた雪乃に詫びを入れ、右手に持っていたスーパーの袋を渡し、着メロを口ずさみながら、横島は胸ポケットに入れたあった携帯を取り出し、通話ボタンを押す。
「はい、横島です、只今ちょっと手が放せません、御用の方は『先生! 今、ゆえから電話があって!』何だって!? 戻ってきたのか!?」
『はい、皆、一緒だそうです……、でもっ!』
「でも?」
『でも! ゆえが! ゆえが!?』
「綾瀬が如何したんだ!?」
『…………』
「おい! 早乙女! 早乙女ぇっ!?」
『あ、足を……』
「足を……?」
……、数秒の沈黙。
受話器越しに、ハルナの吐息が乱れる……。
『くじいたって……!!』
更に数秒の沈黙。
「な、なんだってぇ〜〜〜!!」
どど〜〜ん!!
…………。
………。
……。
「じゃ、俺も、今から図書館島、行くから」
『は〜い、じゃ、図書館島で!』
携帯を胸ポケットにしまい、溜息を吐く。
「如何でも良いけど、お前とハルナって異様に仲良くねぇか?」
何の打ち合わせもなしに、電話越しでコントするなよ、と、雪乃。
「あー? 普通じゃねえかな? お前とだってこんな感じだと思うけど?」
と、首を傾げる横島。
「……、図書館島、こっから近いし、このまま行くか?」
横島が、ビニール袋を持ち上げて、図書館島の方向を指差す。
「そうだな、じゃ、行くか」
雪乃はそう言って、歩き始めた。
と、早乙女ハルナから連絡を受け、横島と雪乃はネギ達を迎えに図書館島へと向かったのだった。
そう、それが今から十五時間前。
何故か半裸状態の生徒達が、横島の姿を見つけ、頬を染めたり、石を投げたり、苦無を投げたり……、大変な目にあったのだった。
「……、雪之丞まで寝坊するとはなぁ……、あいつらがテスト受けられなかったら、本当にネギはピンチだな……」
あーあ、と、溜息を吐く。
雪乃はネギと一緒に、アスナ達の勉強を見るために、泊り込み勉強会へと赴いたのだ。
その結果、十時間以上の勉強に、ついに力尽き、爆睡。
先程ようやく目を覚まし、全員で学園に向かい走っている最中なのだった。
が、それを知る由は、横島に無い。
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん♪ き〜んこ〜んか〜んこ〜ん♪
「あ、鳴っちまった……」
予鈴が鳴り響く。
「はーい、席について、教科書しまえよー、カンペの準備は万全かー?」
「席に着きましたー!」「教科書しまったよー!」「カンペもばっちしー!!」
「よーし、田島悠と花井梓、三橋恋はカンペ没収なー」
「「「しまったー!! 嵌められたかっ!!」」」
教室内が笑いで溢れかえる。
「よーし、笑って緊張も取れただろ、問題用紙と解答用紙配るぞ、問題用紙は二枚、解答用紙は一枚だ」
一枚目の問題用紙は両面印刷だから気をつけろよ? と、いいながら、配り始める。
「消しゴムとか落としたら、先生が気付くように、静かに元気良く手を上げるようにー」
「「「「「「は〜い♪」」」」」」
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん♪ き〜んこ〜んか〜んこ〜ん♪
「はじめっ!!」
本鈴が鳴ると同時に、一斉に紙をまくる音が教室内に響く。
遂に期末試験が始まったのだった。
「さて……、雪之丞達は間に合ったのか……?」
横島の呟きは、集中している生徒達の耳に入る事無く、虚空に消えた。
そして……。
クラス別成績発表のお祭り騒ぎ。
ネギの正教員に成る為の試験も、2−Aの逆転優勝という、正直在り得ない形で決着を向かえた。
個人の成績も、その後、各々、手渡された……!
「…………、平均点、72.9……、ふっ! ミッションコンプリート!」
唇の端を軽くあげ、ニヤリと笑う龍宮真名。 ニヒルだ。
「でもよ、お前平均点下げてるぜ、龍宮」
平均点80点以上だぞ? と、雪乃が、ボソッと呟いた。
手には成績表、平均点は96.6、と書いてある。
「……、言うな」
「確かに、平均17上げたのは凄いけどな」
「依頼は達成した……」
「まー、そうだな……、ところでよ、見たい映画ってなんなんだ?」
お前も映画とか見るんだな……、と、雪乃は感心する。
「私だって偶にはな」
「で? 何を見に行くんだ?」
「ああ、『なかなか死なない……4.0』だ」
「あ、俺も見てぇ「来るなよ?」」
「……、何も言ってねぇ「来るなよ?」」
ジリ、ジリ、と、雪乃ににじり寄る。
周囲の温度が2℃程下がった気がする。
「……いかねーよ、DVDでたら買って、ホームシアターで見るし」
「……そうか」
真名は安堵した。
……が、
「しかし、ホームシアターも付けるのか……、一人暮らしなのに豪気なものだな……」
次の瞬間、衝撃の一言が真名を襲うのだった。
「あ? 言ってなかったか? 横島も一緒だぞ?」
「……なん、だ、と……?」
真名は、その場に崩れ落ちた……。
しかし、龍宮真名、デート権獲得!
あとがき
今から一寸、会社のスキルアップ研修の為、お出かけしてきます。
時間が一寸厳しいので、レス返し出来ません、申し訳ないです。
Tシローさん、kouさん、xinnさん、wooさん、ARKさん、スカサハさん、怒羅さん、テラさん、東西南北さん、緑茶さん、黒野鈴さん、一二三さん、最後の砦さん、wataさん、アイクさん、トトロさん、紅蓮さん、Cynosさん、DOMさん、無貌の仮面さん、HAPPYEND至上主義者さん、リ−さん、九頭竜さん。
感想を頂きまして、本当に有難うございました。
レスの多さに驚愕し、喜び悶え、目から水が出そうになりました。
これからも、応援していただけると嬉しいです。
では、次回の魔装生徒! ユキま! に!
ばっちこ〜い!!