雪之丞が、何を考えたのか、『家を建てる!』と、宣言して、三日。
横島は、頭を抱えていた。
「……、むぅ……、はぁ……」
生徒の成績を付けながら、うーうー、と、唸っている、その様子は、傍から見て真面目に仕事をやっているかのように見える。
「横島君」
そこに声が掛けられる。
「……、あ、高畑先生、お疲れ様です」
声を掛けてきたのは、高畑・T・タカミチ先生、煙草と無精髭の似合うダンディだ。 ちなみに、2−Aの担任で、よく飲みに連れて行ってもらったりする。
此処だけの話、学園に降って来た、俺と雪之丞を見つけてくれたのは、高畑先生だったらしい。
「お疲れ様、横島君」
と、缶コーヒーを差し出してくる。
「ありがとうございます」
それをありがたく受け取り、プルトップを空け、コーヒーを口に含む。
「あ、そうそう、家を建てるんだってね?」
ぶはっ!
コーヒー噴いた。
「あはは、やっぱりさっきから唸ってるのはそれかい?」
ピンポイントに悩みを突かれる。
「げほっ、げほっ、……あ〜、学園長に聞いたんですか?」
まったく、あの後頭部は……。
そう言いながら、また一口、
「いや、雪乃君だよ」
ぶはっ!?
また噴いた。
「あっはっは! 彼女、結構調べて回ってるみたいだね、パソコンルームで、相場を調べていたみたいだよ」
「……、あー、あいつ、本当に……?」
本当に一緒に暮らすつもりなのだろうか?
それはかなり問題が……、無い……、訳でも無く、否、ちょっと待て、在る……、って認めてしまうと、雪之丞を女と認めてしまうような気がして……!
いや、先生と生徒がどうせ……、同居というのは幾ら、同性同士でも……! 否、しかしっ、断ってしまうと意識してるように勘違いされたりとかしないか……!?
べ、別にいいのか? 奴は男だ、うん、男だしなっ! うんうん、この間だって俺の息子は反応せんかったし!! だ、大丈夫! だよ、な?
ガラガラガラ……。
「ちわー、伊達っすけどー、横島……、先生います?」
いや待て、そもそも俺は家を建てるつもりは無い!
そもそも、金は、如何するっ! ……って、頭金は折半で大丈夫って言ってたな……。
土地もなんか知らんが、学園長からもう既に借りたって……。
「横島先生ー」
……、もしかして、かなりヤバイ?
あいつ、一度決めたら止まらないしなぁ。
「横島先生?」
高畑先生が言うには、相場を調べていたって……。
……、まさか、な?
「横島?」
「まさか、もう手続き済ませた、とか……」
まさっかぁ〜! 流石に無いだろそれはぁ〜〜!
何言ってんだろうな、俺ぇ!
と、笑おうと思ったときだった。
「おう、勿論済ませてきたぜ!」
そんな声が聞こえてきたのは。
魔装生徒!
ユキま!
第五話
赤提灯が、夜を照らす。
屋台から、沸き出す湯気が、おでんの香りと共に、空を昇り、消えていく。
横島とタカミチは、赤い暖簾の向こう側に居た。
「…………」
「あ、あはは、かんぱ〜い」
チンッ
グラスが音を鳴らす。
「いやぁ、雪乃君の行動力を甘く見ていたね」
ぐい、と、酒を呷る。
「……、まあ、最初に了承とも取れる返事をした俺も悪いんですけどね」
横島も、負けじと、酒を呷る。
「流石に、三日で、施工日まで決めるとは……!」
ぐぅの音も出ない、とは、この事だった。
「ま、まあ、間取りとかは横島君の意見も取り入れてくれるって言ってたし、ね」
「……別に、そんなんはいいんすよ……、あいつのしたいようにしていいって、もう言ってあります」
二杯目の酒を呷る。
グビグビと酒を飲み干していく。
―― 一時間後
「何か最近あいつ、料理するようになったんですよ」 呷る。
「エプロンとか買っちゃって……」 呷る。
「卵焼きがふんわり出来たって大喜びで……」 呷る。
「食べろ食べろって……」 呷る。
「それがね、美味しいんですよ……」 呷る。
「美味いって言うと、それがもう、喜んじゃって喜んじゃって……」 呷る。
「ん、んふふははっ! あいつ、最近体に精神引っ張られてませんかねぇ〜?」 呷る。
「よ、横島君?」
タカミチが横島を止めようとするが、
「この際、家も建てましょう!」 呷る。
「同居も、構いません!」 呷る。
止まらない。 止められない。
「でもねっ! タカミチさん! ぼかぁ! ぼかぁねぇっ!」
呷る、呷る、呷る!
「自分を抑えきる自信がないんやぁ〜!!」
呷る呷る呷る呷る!!
横島が潰れるのに、時間は掛からなかった。
PM 10:47
高畑・T・タカミチは、横島を背負って歩いていた。
「複雑なんだろうなぁ」
彼の心境としては、と、苦笑いする。
笑っているうちに、横島の部屋の前まで着いていた。
横島のポケットから鍵を出そうとして、気が付いた。
「鍵、開いてるね」
如何やら、雪乃はまだ部屋に居るようだ。
タカミチは、横島を背負い直し、インターホンを押した。
ピーンポーン!
小気味良い音が響く。
どたどた、と、音がして、ドアが開く。
「はーい、横島なら留守……、って高畑先生? あ、横島」
「こんばんは、横島君、潰しちゃってね……」
と、タカミチは申し訳なさそうに笑う。
「あ、そうなんですか、ありがとうございます、運んでもらっちゃって」
そこに置いておいてください、と、玄関口を指差す。
「よいしょ、っと」
横島を玄関口に、寝かせる。
「本当にすいません、こいつ結構飲んでますね、コレ」
横島の口元に鼻を近づけて、匂いを嗅ぐ雪乃。
酒くっせー、と、困ったように笑う。
「結構すごいペースでね、止められなかったんだよ」
ははは、と、タカミチ。
「たいして強くねぇのに、無理すっから……、この馬鹿」
と、横島の、頭をコツン、と叩く。
「……それじゃ、僕はこれで、後はよろしく頼むよ」
「あ、ありがとうございました」
「……、ああ、明日から一ヶ月くらい、僕は出張が入ってるから、HRとか……」
「あ、はい、横島に伝えておきます」
タカミチは、若干の苦笑いを残して去っていった。
「……横島君、あれじゃあ、苦労するよなぁ……」
その言葉の意味とは?
雪乃が横島を引きずっている。
横島の首根っこを掴み、ズリズリと。
問題なのは、今の雪乃の格好だった。
横島の白いYシャツ一枚、である。
横島のYシャツが膝元まで隠している為、解らないが、ショーツも何も着けていない状態、いわゆるノーパン、なのだ。
雪乃曰く、
「安心できる場所でだけは、男であることを忘れたくねぇ」
との事。
つまり、女性物のショーツなどは、女であることを思い出してしまうから、嫌、なのだそうな。
その為雪乃は、横島の部屋に居るときは、横島のYシャツとトランクスを着用していることが多いのだ。
ちなみに、今現在、何故ノーパンなのかというと……。
「あー、早く乾かねぇかな、パンツ……」
とまあ、そういうことである。
「ったく! 潰れるまで飲むなら家で飲めってアレほど言ったのにっ! このっ!」
ぼふっ!
横島をベッドに投げ捨てる。
ごそごそ……。
「…………、よし」
横島に布団を掛けてやる。
「……ん、うぅ……ん……」
横島が寝返りをうつ。
「……、ふふっ、馬鹿面だな……」
横島の寝顔を眺める、雪乃。
横島の、頭に手を乗せ、髪を撫ぜる。
そして雪乃は……、横島の額に……。
「っ……、俺も、寝るか」
と、部屋を後にする雪乃。
「…………、おやすみ、横島」
バタン……
――翌日
「ぅあー、頭いてぇ……」
朝の麻帆良学園を、のそのそと歩く、横島。
昨日の酒がまだ残っているのだ、正直、今日は仕事に成りそうも無い。
今日から高畑先生も居なくて大変だって言うのに……、前途多難である。
そこに、
「おや、横島先生……」
と、声を掛けてくる女生徒が居た。
「ああ、真名ちゃんか……、おはよう、今日はいつもより早いね」
横島のに声を掛けたのは、龍宮真名、2−Aの生徒である。
中学生と思えない長身に、素晴らしいB・W・H……、何を食べたらこんなスタイルになるのだろうか?
長身のピッチャーから投げられた、角度のあるチェンジアップ。
ど真ん中ストレート、絶好球に見せかけての、沈み込む低めの球、すくい上げて好打したいが、ああっ、手が出ない!
こんなスタイルの良い娘、同年代でもそうそう居ないだろう。 反則だ。
「ふむ、横島先生、いくら前日に深酒をしたとしても、シャワーくらい浴びたほうが良いと思うぞ、私は」
「あ、ああ、良く解ったね、真名ちゃん、実はさっき目が覚めてさ……、急いで来たんだ」
こっちでシャワー浴びようと思って、と、頭を掻く。
「ふっ」
真名がすすっ、と、横島との距離を縮め。
横島の前髪を掻き揚げる。
「ま、真名ちゃん?」
至近距離で見詰められ、ドギマギする横島。
――うおぁっ! 吐息が額にぃっ!?
「……、昨日は日本酒かい?」
ニヤリ、と、真名が笑う。
「に、匂うかな? 俺、酒臭い?」
「いや、酒臭いわけじゃないよ」
「それじゃ、横島先生、HRまでにはシャワーを浴びたほうが良い」
そう言い残して、真名は校舎へ入っていった。
「……??」
なんのこっちゃ、わけわからん、と。
額に『米』と書かれた横島が、首を傾げた。
「あ! 横島君に、三学期から担任が代わるって、言い忘れてたよ……」
出張先に向かう高畑が、一人呟いた。
「まあ、学園長が言うだろうし」
そして……。
「―うわぁー、ニッポンは本当に人が多いなー」
ネギ・スプリングフィールド、来日。
あとがき
ネギの出番、少しだけでした。
ちなみに、横島のトレードマークであるバンダナですが、スーツにバンダナは明らかに可笑しいので、外しております。
休日、普段着の時はバンダナを締める、という設定です。
ライダーさん
>とても面白い文章でした。また次回が楽しみです
ありがとうございます、これが続くよう、精進します。
Februaryさん
>なんか、「結婚してることを周囲には隠してる教師と生徒」にみえるんですがwwww
そういう漫画って結構ありますよね、そう言えば。
スカサハさん
>男である事を諦めるTS物も良いですけど男である事に固執するTS物も又違った趣があって良いですなぁ。
雪之丞らしさを忘れずに、ちょっぴりラヴコメテイストをトッピングしたいですな。 寿司の横っちょについてくるガリ程度で。
ふらっぺさん
>お体等気をつけて頑張って下さい。
その言葉、身にしみます……、頑張ります。
wataさん
>ユッキーの背140弱か……スリーサイズは?
身長にしては、ちょっと出てる、かな? くらいです。
Bはあります。
すささん
>中学生は横島の守備範囲外ということが通説になってますが
>本編を最初から読み返したときに、本編ではそんなこと書かれてなかったらしい。
そうなんですよね、ちなみにうちの横島は中学校三年には手を出します。
教師という立場上、あと、雪之丞が怖いので、ストライクコース低めは見逃しています。
でも流石に、十歳で成長が止まっているエヴァンジェリンは、ロリかなぁ、と。
一二三さん
>同僚の体育教師?との会話で少しクレバーに成長したな〜と感心w
一年半の教師生活で、この程度はやってのけるようになりました。
弟子二十二号さん
>ネギは次回から出るとのことなので、wktkしながら待つ次回!!
すいません、台詞一行だけでした、いろいろ挿んだらネギが出てきませんでした。
最後の砦さん
>よこっち、我慢は体に毒だよ?
>だから、さっさとユッキーと・・・
伝えておきます。
Tシローさん
>横島が他の女の子といちゃいちゃしているのを見て、自分は男だと葛藤しながらも嫉妬にくるうユッキー。
それ、頂きです。
DOMさん
>横島の理性防壁が崩れつつあるとふんだ。
今回で本音がポロッとでました、すでに八割方瓦礫です。
aizoさん
>死ぬほど笑ったw
誰か救急車ー!!
アイクさん
>横島みたいな危険人物が教師をやっている!?しかも外面は意外と良いから曲者みたいだし。
外面良くないと社会じゃやっていけないって、気がついたんです、横島君。
血の滲む様な特訓の成果です。
趙孤某さん
>なのでここは男にもどっちゃうユッキー以外のメンバーとフラグを!
横っちは人気者なので誰とでも行けます、既に設定内にはいろんな人のフラグが……!
ARKさん
>そして「俺は男だー」って横島張りに壁に頭をゴンゴンと…き、期待していいですかw
期待してください、と、いうより、GSですからね、何処かでやるでしょう。
確実に。
多くのレス、ありがとうございました!
次回も、頑張って書きますので、お楽しみに!
ばっちこ〜い!