麻帆良学園で、教師として生活しはじめて、一年半。
いろいろな事があったと思う。
目を瞑れば、思い出す……。
あんなことや〜……。
こんなこと〜……。
ほ〜ら、あれだってこれだって、それだって、い〜思い出じゃないか〜。
高等部に遊びに行っても、大学部に遊びに行っても!
いつもいつも、何かしら邪魔が……っ!
一回くらい大学生のおねーさん達とお茶したかった……っ!
この世界も、俺と言う人間の幸せを拒むのかっ!!
良く枕を血の涙で濡らしたものである。
それも、まあ、良い思い出。
気が付けば、おっかなびっくりやっていた教師って仕事も、それなりに楽しくやっていけている。
実は、天職だったのではなかろうか?
日々成長していく、青い果実達…、じゃなかった……。
次世代を担う若者達!! ああ! 教育って何て素晴らしい!!
そういえば、一年半って、美神さんとこでバイトしてた期間よりも長いよな……。
何故だろう、八年間くらい美神さんの所で働いていた気がするのは。
2−A副担任、体育教師、横島忠夫。
それが、今の俺の肩書きだ。
ガラガラガラ〜。
「横島せんせ〜」
「はいは〜い、如何した?」
「3−D何ですけど、今日は何をやるんですか?」
「ん、3−Dだな、……ん〜」
そう言って、手帳を捲る。
二学期も残り少なく、各教師、二時間ずつは好きなように使っていい事になっている。
他の教師達は、生徒に自由時間を上げたり、色々やっているようだが、横島は、別の理由でカリキュラムを組む。
3−D、3−D……。
85、82、79、83、75、87……。
アベレージ83・9……。
横島の目が、一瞬光る。
「うん、今日は体育館が空いてるから、バレーボールをしよう、体操着で体育館に集まってくれ」
「はい、わっかりました〜」
「それじゃ、三時間目に、な」
「しつれいしま〜す!」
よっしゃ! 目の保養時間GET!!
……、後は……!
「大山先生! すみませんが、三時間目何ですけど、体育館使っても良いですか?」
「ああ、横島先生! 大丈夫ですよ! 三時間目は一年生ですからな! 体力をつけてやらんと!! がははははははっ!!」
「ありがとうございます、大山先生、いつ見ても良い筋肉してますねー」
「がはははは! わかりますか? ボーナスでラットプルダウンマシンを買いましてな! やっと効果が出てきたところなんですよ!!」
あ〜、三時間目が待ち遠しいなぁ、っと!
魔装生徒!
ユキま!
第四話
昼休み 麻帆良学園 中等部 屋上
ふは〜、今日も良い具合に揺れとったな〜、眼福眼福。
あいつらも、後、半年で高等部……、今が勝負時じゃ〜!!
例えばっ!
『……、如何した、○○……、こんなところに呼び出して?」
伝説の……、じゃなかった、世界樹の下で、俺と○○は……。
『先生っ! 私、先生のことがっ!』
いきなり胸に飛び込んでくる、○○……、俺は優しく受け止める。 「おいっ! ちょ、ちょっ、馬鹿!」
『……、○○』 「こら、○○って誰だ、こら! 横島!」
『……、すきっ』
顔を見られたくないのか、胸に顔を埋めて、○○は呟いた。
ぽふっ……。 「わ」
○○の頭を撫ぜる、優しく、慈しむ様に。 「わわわっ! いきなり何をするっ!」
『○○……、俺は……』 「だから、○○って誰だっ!」
『いいの、わかってる……、先生は、先生だもん』
瞳に涙を溜めた○○が、顔を上げて、俺の顔を覗き込む。
真剣な顔で、見詰め返す、俺。 「ちょ、いきなりそんな真剣な顔されたら……!」
『……恋人、だなんて、欲張りなこと言わないっ』
『だから! だからっ!!』
『……、私に……っ、思い出を、くだ、さい……!』
○○の瞳から、涙がひとしずく、零れ落ちた……!!
…………。
『いいとも〜〜!!』 「よ、よこしまっ!?」
○○は、目を瞑り、顔を上げる。
俺は、そんな○○の頬に触れ、顎に触れ、唇に触れ……。 「〜〜〜〜〜〜っ!」
そして、その唇に……。 「よ、よこしま……っ!?」
「何をやっとるか〜!!!」
「どわぁっ!!?」
「ひゃぁん!!?」
いま少し、と、言うところで、現実に引き戻された。
「横島、お前、とうとう幼女趣味に目覚めたのか?」
現実に引き戻したのは、伊達雪乃、俺の親友であり、教え子でもある。
その雪乃が購買部のビニール袋を片手に、こちらを睨んでいる。
ちなみに、こいつは男だ。
今は、女の姿形をしているが、れっきとした男、否、漢だ。
いくらものすっごい可愛らしい外見で、生物学的に女であっても。
時々見せる、ちょっとした仕草にときめいても。
向かい合って喋る時に、唇の動きに目が奪われることが多々あっても。
こいつ、伊達雪乃、否、伊達雪之丞は『漢』なのだ。
三度の飯より修行好きで、ただの正拳突きで熊を十数メートル吹っ飛ばす戦闘狂。
それが、性別がちょっと変わったくらいで、変わるものか、否、変わらない。 反語。
……、最近、一日一回それを思い出さねば、ソレを言い聞かせねば、俺はこいつが漢であることを忘れてしまいそうで、正直、怖いのだ。
その位、今の雪之丞は…………。
って、いかんいかん、今の俺はあらぬ嫌疑を掛けられた身だった、ソレをまず否定せねば。
「それはそうと、雪、俺はロリコンじゃない!」
「いや、説得力皆無だ、お前」
如何言うことだ?
「……む?」
と、俺は何かを抱えているらしい。
やーらかくて、ふにふにしてて、いーにおい、金色の……、何、か。
横島の腕の中には、金髪の美幼女。
「あ、エヴァちゃん、如何したんだ? そんなところで」
「〜〜〜〜〜! このっ!」
金髪の少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは一瞬で、横島の懐から、飛び退り、
「変態教師がぁ〜〜っ!!!」
やくざキック。
「ぶぽうっ!!?」
風を切り裂くような蹴りは、横島の鳩尾に、足跡を穿った。
「ぐふぅっ」
崩れ落ちる、横島。
「こいつめっ! こいつめぇっ! もう少しでっ! もう少しでえっ!!」
げしっ、げしっ、と、横島を踏みつける。
「危なかったな、エヴァ」
と、サンドイッチを頬張りながら、ケタケタと笑う伊達雪乃。
「〜〜〜っ!」
−お前が邪魔しなければっ−
等と、声に出しかけ、口篭る。
――それじゃ、私がソレを望んでいたみたいじゃないかっ!!
「ふ、ふんっ! もういい」
ぐり、と、最後に横島を踏みつけ、足を離す。
「それと雪乃、貴様、待っててやったのに先に食べるとは、何事か!」
「……うるへぇ、俺をパシリにしやがったくせに何言ってやがる」
焼きそばパンを頬張りながら、悪態を吐く。
ここ一年で俺達は良く行動を共にする様になっていた。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは、少々、否、かなり特殊な生徒である。
吸血鬼、それも、真祖だ。 と言われても正直なところ、ピンとこない、俺の知る真祖って言ったら、ピートの親父だしなぁ……。
なんでも、彼女は15年前に強力な魔法で呪いを掛けられてしまい、魔力を封じられ且つ、麻帆良学園に括られている、らしい、……、良く解らないが。
それで今は一介の女子中学生兼警備員として生活している、俺も雪之丞も警備の仕事をしているから、同僚でもあるって訳。
それに、彼女は俺が副担任をしているクラスの、生徒でもあったりする。
まあ、一年半の間に色々あって、この三人と、エヴァちゃんの従者の茶々丸ちゃんを含めての、四人で過ごすことが多くなったって訳だ。
「……、ほら、横島も、何時までもねっころがってんじゃねぇよ、汚れるぞ」
雪乃が横島に向かって、ビニール袋を投げる。
「……ててっ、死ぬかと思った」
ビニール袋を空中でキャッチしながら横島が、起き上がる。
ビニール袋の中身は、焼きそばパンとカツサンド、それと、たこ焼きパン(だし醤油味)だった。
「……、むぅ、茶々丸がメンテナンスの日でなかったら、こんなもの……」
グチグチと文句を言いながら、カツサンドに嚙齧り付くエヴァ、モクモクハムハム、カツサンドと格闘している。
「人に買いに行かせといて、文句ばっかり言うんじゃねぇよっ、このチビがっ! そうだ横島、これ借りた、サンキュ」
「何をぉ!? 貴様だってチビだろうが!! 人よりちょっと身長が高いからっていい気になるなぁっ!!」
「へっ! 10cmはちょっとじゃねぇだろーがっ!!」
「130cmも139cmも変わらんと思うがなぁ。 って、雪! お前また俺のカード使いやがったな!?」
「差は9cmだろうっ! サバを読むな!」
「だまれっ! 139.53だっ! 四捨五入だ、四捨五入!! 財布を忘れたんだ、仕方ないだろ?」
「……、ふん! 私はどうせ吸血鬼だからなぁ、年をとっても身長は変わらん……、この体は当時10歳のままだ……」
「仕方ないって、お前なぁ……、お前いつ、持ってったんだよ……」
「けっ! 何が言いたい! いつって、三時間目休みに体育教官室に行ってロッカーの中から……」
「ふっ、私が言いたいのはだ「お前、それは駄目だろ、普通」
「私が言いた「いいじゃねぇか、俺とお前の仲だしよ、……、そうだ、お前、ロッカー汚すぎるぞ、少しは片付けろ」
「私が「別に、ロッカーの中に納まってるから問題無いだろ」
「わた「周囲三メートル、据えた匂いがしたぞ、ファブれ」
「げ、そろそろ洗濯しねぇと「黙れっ!」」
「んあ??」
「エヴァちゃん?」
「そして聞けっ! このエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル! 本当だったら、私にはまだ、成長する余地があった筈だ!」
「つまり! 実年齢二十歳で、成長の終わったお前とは、違うってことだっ!!」
どどーん……!
「ははははははははははははは!!」
…………。
………。
……。
沈黙が痛い。
「……何の話だ?」
「……? さあ?」
「ふざけるなぁっ!! さっきまでこの話をしてただろうがっ!?」
「あ……、胸?」
「身長だぁっーーーー!!」
吼え、暴れだすエヴァンジェリン。
抑え役の茶々丸が居ないため、当社比1.8倍の大暴れである。
屋上で始まる、追いかけっこ。
「待てっ! 貴様ら! 今日と言う今日は泣かしてやるっ!」
「ふははははは! この体育教師を捕まえることが出来るか〜!」
「殺す! 殺す! 殺す〜!!」
混沌と化した屋上……。
実は、これが彼らの日常だったりする。
「……、吸血鬼って成長しねぇんだから、成長する余地も何も……、つーか実年齢ってエヴァこそ終わってるじゃねぇか」
屋上の給水塔の上に避難していた雪乃は、二人の追いかけっこを見ながら、溜息を吐く。
「……、ああ、だから『本当だったら』で『余地があった筈』なのか……、ぷふっ、不憫なやつ」
負け惜しみじゃねーか、と、苦笑する雪乃。
そこに……、
「不憫……? くくく、良い度胸だ……!」
ぐわし、雪乃の肩にもの凄い力がかかる。
「げっ、エヴァ! いつの間に!?」
給水塔の下ではピンク色をした何かが、横たわっている。
「伊達雪乃……! 覚悟は、いいな……?」
ミシミシッ、と、肩が悲鳴を上げる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
屋上に響き渡る声に成らない叫び、もとい、断末魔。
それから昼休み終了まで、二人がエヴァンジェリンに謝り続けたのは、言うまでも無い。
夜
伊達雪乃は、教職員用の寮に来ていた。
麻帆良学園の教師、用務員、その他諸々の独身男性の寮である。
何故、彼女はこんなところに居るのか?
それは……。
「ふろっふろ〜♪ お風呂〜♪」
入浴の為である。
色々と、解らないことがあるだろうから、説明しよう!
彼女は今、麻帆良学園の寮に住んでいる。 女子寮だ。
そして伊達雪乃、彼女は元々、伊達雪之丞、男なのだ。
いくら肉体が女だとしても、心は未だ、男である、男でありたいと願っている。
入寮前、雪乃は他生徒との相部屋を当たり前のことながら拒否。
「ば、馬鹿か!? 俺は男だって言ってるじゃねえか!!」
「しかし、それじゃあ、空いてる部屋なんか物置部屋しかないぞい?」
そんな近右衛門の言葉に、
「じゃあ、物置部屋でいいじゃねえか!」
と、言うことで、物置部屋に若干の手を加え、雪乃の部屋にすることになった。
さて、此処からが問題である。
スペースの関係で、この部屋にユニットバスは設置されなかった。
つまり、雪乃は寮で風呂に入る場合、必然的に大浴場を使わなくてはいけない事になる。
「俺は男だっ! 男だぞ〜っ!!」
と、相部屋ですら断った人間が、大浴場を使用することが可能であろうか?
答えは勿論、否、である。
雪乃は安心して入浴できる場所を探した。
探して探して、まさに灯台下暗し。
近場に、事情を知っていて、風呂付の物件に住むことになった人間を見つけたのだ!
つまり……。
「あれ? 鍵掛かってら、アイツまだ帰ってねえのか……、大変だな」
雪乃はゴソゴソとポケットに手を突っ込み。
「あ、あった」
鍵を取り出し。
ガチャ。
「ただいまー」
横島の部屋に侵入し……。
「さってと、風呂風呂……」
制服を脱ぎだした。
つまり彼女は入浴のたびに、横島の部屋を訪れるのであった。
「しかし、毎日来るのだりいなぁ……」
でも、毎日風呂入らねぇと、何か気持ちわりぃんだよなぁ……、と、愚痴る。
手早く、且つ、丁寧に体や髪を洗い終え、湯船に浸かる。
浴槽の淵に顎を乗せ、一息。
「……そうだ、横島、家とか買ったりしねぇかな?」
そしたら、一緒に住んで……、そうすりゃ、風呂にこまんねぇのにな……。
溜息を吐く。
…………。
「……、ローンで何とかなんねぇ、かな……?」
横島の収入と、貯金……、あと俺の収入と、貯金……。
指折り数える雪乃。
「…………、頭金くらいは出るよなぁ」
「残高、確認してみるか……?」
思い立ったが吉日。
雪乃は浴槽から一息に飛び出し、バスタオルを体に巻きつけただけの状態で、部屋に戻る。
「たしか通帳は……、箪笥の……、あー、あったあった」
そのままの格好で、ぺたん、と腰を下ろし、横島の通帳と睨みあう。
「……、頭金は折半で……、となると、共有財産って事になるのか……?」
「……、爺さんに郊外の土地を借りて……、そう言えば、エヴァの家って幾ら位したんだろう……?」
そう言いながら、携帯電話を手に取る。
「…………、あ、茶々丸か? ちょっとエヴァに聞きてぇ事があってよ、エヴァは起きてるか? ああ、代わってくれ…………」
「あ、エヴァか? 俺俺、いや、詐欺じゃなくってな……、お前んち建てた時、幾ら位した、とかって解るか? ……、知らない?」
「あー、あの家ってやっぱり全部爺さん持ちだったのか、じゃあいいや。」
「ん? ああ、ちょっとな、ところでさ、一軒家建てるのって、幾ら位掛かるか解るか?」
…………。
………。
……。
その日、帰ってきた横島が、雪乃の格好と、発言に、腰を抜かすほど驚いたのは、仕方の無いことでは無いだろうか。
「……、あ、爺さん? ちょっと頼みたいことがあってよ……、時間良いか? ちょっと土地を貸して欲しいんだけどよ……」
あとがき
只今、二年生の二学期終盤です。
次回辺りで、ネギが出てくるかと。
エヴァが壊れ風味ですが、一年以上横島達と一緒にいたらこんな感じだろう、と言う妄想の暴走です。
横島達が関わらなければ、ネギま本編とほぼ変わらないエヴァなので、心配無用です。
※ラットプルダウンマシン 主に広背筋、副次的に上腕二頭筋に効果がある、トレーニングマシンの一種。
紅蓮さん、Februaryさん、wataさん、ふらっぺさん、DOMさん、箒柄さん、asaさん、アイクさん、梅2号さん、Tシローさん、弟子二十二号さん。
感想、つっこみ、誤字報告、etc,etc,ありがとうございました。
此れを糧に、精進しようと思います。