「お、おま、ゆ、雪!」
酸素を求める金魚のように口をパクパクさせながら、俺を指差す横島。
「ど、どうなってんだ? こりゃ!?」
ペタペタムニムニ自分の体を触って確かめる。
明らかに視線が低い、声が高い、髪が長い。
ここまで鍛えてきたはずの体がムニムニフニフニ、柔らかい。
……、まさか、な?
嫌な汗が、頬を伝った。
かちゃかちゃ……、ずり落ちているスラックスのベルトを外す。
「ちょ! おまっ!?」
横島の叫びが聞こえたが、無視だ。
がばっ……!
中身を覗き込む。
…………。
考えること数秒。
ずぼっ!
「んなっ! ゆ、ゆきっ!?」
手を突っ込んでみる。
…………。
手は虚空を掴む。
馴れ親しんだモノは何処にも無く。
つるつるすべすべ、肌を手が滑る。
「……、な……、ない」
毛すら、無い。
まだだ! まだあきらめちゃ居ない!
俺はジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイに手を掛ける。
シュルッ! ネクタイを投げ捨てる。
「ちょ、まじかっ!? や、やめっ!」
横島が何か喚いているが、無視だ。
ぷち、ぷち、ぷち。
ボタンを上から三段目まで外す。
「う、うおっ!? チラッと何か見えたっ!?」
「すぅ〜! はぁ〜!」
深呼吸。
がばぁっ!!
「げばぁっ!?」
Yシャツを大きく開き、覗き込む。
なだらかながらもしょうしょうのきふくじょせいとくゆうのにゅうせんをふくむしぼうきゅうふたつならんださくらんぼ、ちぇりーぱい。
???
…………。
………。
……。
なだらかながらも、少々の起伏。 女性特有の乳腺を含む、脂肪球。 二つ並んださくらんぼ、チェリーパイ。
「……無くて」
パンパン。
「……ある」
むにむに。
「あ」
何かの結論に至ったかのような、そんな声。
「あは」
ソレはやがて。
「あは、ははははははははははははははははは…………」
笑いに変わる。
彼、否、彼女は後にこう語る。
「人間ってよ、笑うしか無くなる時ってあるよな……」
はははははははははははは!!
「ゆ、雪之丞!? だ、大丈夫か……?」
鼻に手を当てた横島が、恐る恐る笑い続ける雪之丞に声を掛ける。
ちなみに、鼻に当てた手からは、赤い何かが滴り落ちている。
ははは……!
ピタ。
笑いが止まる。
ギ、ギギギ……、ギギギギギギ…………。
雪之丞の首が、ゆっくり音を立てて、動く。
ギギギギギギギギギギギ……。
「……よこしま?」
雪之丞の目が、横島を捉えた。
「……ふ、ふぇ!?」
横島 → 文珠 → 便利道具 → 俺、復活
「……も、もんじゅ……!」
雪之丞の動きは、はっきり言って人智を超えていた。
雪之丞の姿が、掻き消えたと思った瞬間、雪之丞は横島を押し倒していた。
「のぁっ!? な、なんだ!?」
横島に馬乗りになる雪之丞。
「……、だせ」
一言、雪之丞。
「何をでせう?」
「文珠、出せ」
「あ、やっぱり?」
ギリ……、ギリギリギリッ……!
「あのさ、雪之丞? 首、絞まってるんだけど、な、ぁっ!?」
「いいからっ! だせっ! だせっ! だせっ!」
ガクン! ガクン! ガクン!!
首を絞めつつ、揺らす。
「もうっ! さっきのでっ! うちどめだっ!」
「……、何だとぅ!?」
「げほっ! げほっ! だから言ったろ、さっき、後二個だって、俺の怪我を治したのと、あれ? あと何に使ったっけ?」
「今すぐ作れ! さっさと作れ! 頼むから作れ〜〜っ!!」
ガクン! ガクン! ガクン!!
「んなことっ! いってもっ! 霊力がぁっ!?」
そうなのだ、文珠を作るにしても霊力がいる。
戦闘直後の枯渇した今の霊力では、霊波刀を維持するのも難しい。
「だからっ! 無理っ! だってばっ!」
上下しながら答える横島。
霊力を瞬時に回復させる方法が、あるにはあるのだが……。
「ならばっ!」
ばさぁっ!?
「ぶはぁっ!?」
横島の鼻から飛び出す鮮血! 尋常な量ではない。
それもその筈。
馬乗りになった雪之丞が、いきなりYシャツを脱ぎ捨てたのだ!
雪の様に、透き通るように白い肌、淡く桃色に色付くのは、多少ある羞恥心からか。
女性特有の二つの、山、と言うには低すぎる、大草原、と言うには傾斜がある、丘、と言って良いだろう。
丘に色付く、二つのさくらん……。
「ちっ! まだ文珠を作るにゃあ足りないか!」
「……これでどうだぁっ!」
「ぶしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
先程の鮮血よりも、さらに多く。
如何見ても致死的な量の鼻血が、雪之丞の体に降り注ぐ。
「おおっ! 霊力が上がってきたぜ!」
雪之丞の歓声。
雪之丞は自分が血塗れになるのも構わず、
「こうか! こうか!? こんなのはどうだ!?」
自分の『胸』を、横島の顔に押し付ける。
「どうだ? どうだ横島っ! 文珠だせ! 文珠っ!!」
きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!
横島の手に収縮される、霊力。
ソレは横島の類稀なる、才能によって、凝縮、凝固、固着され、一つの珠になる。
コロコロコロ……。
横島の、手のひらから転がり落ちる、文珠、三つ。
「おおっ! 三つも! 横島っ! お前は最高にいい奴だぜっ!!」
自分で脅して、搾り取っておきながら、何を言うのか。
と、言うつっこみは後にして。
喜んだ雪之丞は横島と、熱く抱擁を交した。 一方的にだが。
それがとどめになった。
……がくっ。
横島の意識が落ちる。
無理も無い。
……、合掌。
「文字は……、やっぱり男か? これは……、押し当てたほうがいいのか? の、飲んだほうがいいのか?」
結論から言おう。
雪之丞の体が元に戻ることは無かった。
魔装生徒! ユキま!
第二話
「…………」
麻帆良学園郊外の森は、夜になると危険が増す。
元々樹海のような広い森の中には、獰猛な野生動物が生息している。
それに加えて、関東魔法協会における中心拠点でもある、麻帆良学園は、他勢力に常に監視され、襲撃を受けることも少なくないのだ。
「隕石、と、言う報告だったな」
その為、自分のような人間は、何かあった時に駆り出されるのだ。
広域指導員、とは、よく言ったものだね。
ザッ……。
「これはこれは……」
報告通り、隕石が落下したかのようなクレーター。
木々は薙ぎ倒され、土は捲り上がっている。
「っ!」
その中心地に、人影が見えた。
高畑・T・タカミチは、即座に身を隠す。
人影は、二つ。
男と、女。
男は気絶中……、如何やら出血しているようだ、夥しい量、命に関わる危険性がある。
女、少女と言ったほうが良さそうか、少女は男の頭を膝に置き、呆然としている。
男の血なのか、彼女も血塗れだ。
「……これは、大丈夫そう、かな?」
戦闘の必要性は感じなかった、しかし、男の方は、要救助の必要性有りである可能性が高い。
タカミチは、右手をズボンのポケットに入れたまま、彼等に向かって歩き始めた。
「……知らない天井だ」
お約束のネタである。
「目が覚めたようじゃのう」
突然掛けられた声に、体が反応する。
ベッドから飛び上がり、距離をとる。
「ふぉっふぉっふぉっ! その様子なら大丈夫そうじゃのう」
好々爺した声が耳に届く。
その声のした方向を見ると……。
「げ、元始天尊?」
妙に頭の長い老人が居た。
「ふむ、元始天尊とは、中々渋いのう」
そう言うと、老人は、ニヤリ、と、笑った。
話を聞いて、愕然とした。
証拠を見て、呆然とした。
異常な光景に、唖然とした。
込み上げるその感情を、止めることは出来なかった。
この世界は、異世界だってことに……。
俺たちの世界の、最高指導者達からの手紙。
……そして。
俺から文珠を搾り取っていった、雪之丞が。
元の体に戻れないって事に……。
指差して大爆笑したら、怒られた。
あとがき
二話です。
まだ触り部分です。
さて、問題は、ネギま! の時間軸でどこら辺なのか、ですな。
……まだ、考えてないです。
カイさん、Wataさん、Februaryさん、弟子二十二号さん。
感想ありがとうございます!
頑張って書きますよ! たとえ仕事でボロボロになろうとも!!
では、また次回お会いしましょう!
ばっちこ〜い!