気が付けば。
地表より、約三百メートル。
「「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
落ちる人影、二つ。
数秒後、轟音。
生い茂った森に、クレーターが二つ、中心地には犬神家を彷彿とさせるかのごとく突き刺さる、人間らしきもの。
それらは、数秒痙攣した後。
「あー、死ぬかと思った……」
「ちっ、コブになってやがる……」
何事も無かったかのように、地面から頭を引っこ抜き、
そして、
「「で、此処は何処だ?」」
どちらからとも無く同じ疑問を口にした。
「って、おまえ、なんだそれっ!?」
「あ? って、なんだこりゃあっ〜〜〜!!?」
魔装生徒! ユキま!
第一話
その依頼は、まさに天からの恵みであった。
低賃金で過酷な労働を強いられている身としては、それはもう甘い甘い誘い。
この依頼を無事にこなせば、なんと一千万なのだ!
その話を持ち込んできた戦闘民族の親友と折半しても五百万!
その話に食いついてきた、小心虎男を入れても三百三十三万三千三百三十三円三十三銭……!
そして頭の儚い師の食生活の為に、と立ち上がった半吸血鬼を入れても二百五十万!
二百五十万もの大金、何が出来るであろうか!?
牛丼は何杯食べられるのか?
豚丼は? 買い置きにカップラーメンをケースで買っておこう。
借りたかったビデオは何本借りられるだろうか?
否、この際だ、テレビを買い換えようか?
それともダビング用にビデオデッキをもう一つ?
……、サクランボを捨てに行くとかは如何だろうか……?
夢と『何処か』が膨らむ二百五十万!!
昔の時給に換算すると……!
……、やめよう、悲しくなるから。
……その時は、こんな事になるだなんて、まったく思っていなかったのでした。
正規のルートの依頼じゃなかった。
その時点で止めとけば良かったのだ。
宛名の無い一通の手紙、封を開けた、手紙を読んだ。
本当に、そこで止めとけば良かったのだ、そこまでだったら、まだ引き返せたのだ。
手紙の内容は殆ど覚えていない。
依頼内容をまったく確認もせず、同封してあった小切手に心を奪われた。
いっせんまん……!
俺、伊達雪之丞は空腹だった。
三日、何も食ってなかった。
正直、何も考える気には成らなかった。
何で、橋の下のテントに俺宛の手紙が届いたのか、とか、そんなのは本当に如何でも良かった。
まさか。
……まさか。
まさか、その手紙に、エンゲージの呪いがかかっていようとは……!!
戦闘に対する実力、それは申し分なかった。
その三人は戦闘力であれば、日本でも屈指の実力者であったからだ。 虎? それは、置いといて。
しかし、いかんせん、霊能ド素人、猪突猛進戦闘狂、お坊ちゃま半吸血鬼……、戦闘力はAクラスでも、頭は三人寄ってBクラスである。 虎? ああ、彼は資格とって無いでしょ、そう言えば。
ザッ……。
肩越しに後ろを見る、そこに足場は無い、見えるのは暗い谷底のみ。
「うおっ! やべえぞ! 雪之丞!」
「うるせえ、わかってる」
横で喚くバンダナの男、横島を、ちら、と見る。
ジャケットは所々破れ、血が滲んでいる、右腕は先程の敵の攻撃で折れて使い物にならない。
今のところは。
「おい、横島」
「……、文珠は後二個だ、骨を接いだら勝ち目がなくなる、俺の右腕が動いても、正直戦況は変わらんだろ」
荒くなった息でそう告げる。
「ちっ」
思わず舌打ちする。
文珠、それはこの男、横島忠夫の必殺技みたいなものだ。
霊力を圧縮、凝固させ、キーワードを籠めて、解凍させる。
それはキーワードをそのまま実現させると言う、とんでも能力である。
それを使えば、今、横島の怪我を治すことは容易い。
しかし、文珠のストック数が絶対的に足りない今、下手に使うことは出来ない。
「くそっ、気配すら感じられん!」
横島が、右腕を押さえたまま、呻く様に呟く。
霊団を隠れ蓑に、死角から霊波砲を放つ敵。
霊団の霊波に同調しているのか、それとも何かのアイテムの効果か、横島と雪之丞に、敵の気配はまったく感じられなかった。
「ちっ、ピートの奴が行き成り潰れなければっ!」
ピートは霊団が何処からとも無く、ぶちまけた、すりおろしにんにくに埋もれて戦闘不能。
この事から霊団を操っている存在がいることに気付けたが、まったく役に立たん奴である。
タイガーは……、いつからか居ない。
何処かで霊団に轢かれたのだろう。
「くそっ!」
雪之丞は、手負いの横島に狙いを定め始めた霊団を、薙ぎ払う様に霊波砲を放つ。
ぐぎゃがガガがぎゃぎゃぎゃががガガが!!!
普通の霊団なら四散させるだけの力を持つ霊波砲も、その霊団には余り効かない。
「ち!」
何処だ! 何処に居やがる!
霊団を霊波砲で牽制しながら、敵を探す。
その時、横島の視界に、微かに何かが引っかかる。
「雪! 左だ!!」
横島が叫ぶ。
「ちぃっ!」
間一髪で避ける、否、避けたつもりだったソレは雪之丞の顎を掠めた。
「雪之丞っ!」
「ぐっ!」
視界がぶれる、足に力が入らない。
「ち、くしょ……、こ、ここまで、か」
い、意識が、う、すれ……。
雪之丞の体は、ぐらり、と傾き、谷底へ落ちていった。
「ゆ、雪之丞! って、ここで雪之丞の手を掴んだら俺も……、って落ちてるぅ〜〜!!」
雪之丞を助けようとして、左腕を伸ばした横島と、共に。
「わー! わー! わー! あかんあかんあかん!! 文珠文珠文珠ー!!」
取り合えず文珠を一つ取り出し、『癒』で自身の怪我を治す。
左手で掴んでいた雪之丞の手を引き寄せ、もう一つの文珠を取り出し……、
「これが雪之丞じゃなくて、色っぽいねーちゃんだったら……、ああ! お姉げぶっ」
文字を籠める途中で、谷の途中の岩に頭をぶつけて気絶した。
キィィィィィィンッ!
否、文珠は出来ていた。
『女 』
文字が若干、寄った文珠だった。
横島、雪之丞、共に気絶。
このまま行けば地面に叩き付けられて、絶体絶命!
とは、行かないのが、お約束である。
それは何の前触れも無く現れた。
てけてんてんてん、てけてんてんてん♪
『キーやんでーす!』
『サッちゃんやでー!』
『『二人は!』』
『『鰤灸亜!』』
突然、横島と雪之丞の落下が止まる。
二つの人影の『黒い方』が、まるで空間を掴むかのように、腕を伸ばしていた。
『さて、掴みはOKですね』
『そっちの掴みちゃうでー?』
『……キーやん。 やっぱワイ、黒が良かったわー』
『私は白より黒のほうが好きなのです』
『ワイだってそーやで、キーやんずっこいで、じゃんけんや言うたやないか』
『まあ、それは良いとして』
『いきなり話変えるなや……、まあ、ええけど』
『彼らにも困りましたね、そんなに怖いですかね、世界にたった一人の文珠使いが……』
『あー、困った困った、こーも直球で勝負にこられるとなー、やっぱり雪っちも狙われとるわな、この様子だと』
『気に食わないんじゃないですか? このまま行くと死後は魔界軍に尉官待遇で引き抜かれますからね。 何せ彼は、ワルキューレのお気に入りですし』
『出世レースの障害を消したいってか? あー、情けな』
『軍の見直しもせなあかんなぁ』
『急務ですね』
『さて、彼等ですが……』
『まあ、兼ねてからの計画通り、この御二方には別世界に避難していただいて』
『その合い間に、デタント反対の過激派を一つずつ潰してこか』
『ほんじゃま、何処に送ろかー』
『適当で良いですよ、適当で』
『適当って、酷いなキーやん』
『この二人なら何処でも生きていけるでしょう、適当に放り投げときなさい』
『早くしないと、弟子に甘々な竜神さんが来ちゃいますよ』
『せやな、自分も行くって駄々捏ねられても困るわな』
『面倒な説明は、斉天大聖に擦り付け、もとい、任せましょう』
『キーやん本当に神様かいな?』
『おお! せや、取り合えず状況が解る様に、手紙でも括り付けといてやろかー』
『お優しいことで、本当に魔族ですか?』
『では』
『んじゃ』
『『いってらっしゃい』』
『そういやキーやん、雪っちはあのままで良かったんかいな?』
『面白そうじゃないですか』
『しかもキーやん、アレ固定化したやろ? ものごっついガチガチに』
『面白いじゃないですか』
『あれじゃ、かなり横っちも本人もとまど』
『面白いですよ』
『キーやん鬼やな〜』
『神です』
『悪魔かも知れんなぁ』
『悪魔はあなたですよ、サッちゃん。 私は、神です』
そして冒頭へつながる。
あとがき
何をやっとるのでしょうか、私は。
早く『極楽トンボ』書けばいいのに、別のを書き始めちゃいましたよ?
ネギま! とのクロスですって。
誰かが大変なことにぃ! ってタイトルを見りゃ解るか。
『極楽トンボ』を書いていて、いつか書きたいなーと、温めていたのが爆発しました。
楽しく逝きましょう!
ばっちこーい!!